Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

華人小娘。

2006/04/17 01:21:34
最終更新
サイズ
4.49KB
ページ数
1
 今日の夕暮れはどこか物悲しく見える。それが自分の気持ちを表しているようで、門に背を預け見上げる美鈴は、知らず自嘲の笑みを浮かべていた。
 魔理沙は今日も図書館に侵入したらしい。しかも、いつもとは違い、館の窓からこっそりとである。「たまにはネズミらしくやってみた」と言っていたが、美鈴には何のことだかさっぱり分からない。分かったのは、同じく魔理沙を見逃した咲夜とともに受けた、パチュリーの眼差しの冷たさだけ。
 気分が鬱々とするのが分かる。純粋な侵入者ではない魔理沙を見逃しても、レミリアから何を言われることもないのだが、問題は美鈴のプライドである。
 美鈴とて、ただ毎回指をくわえて魔理沙を待っているわけではない。一度負けたら特訓を、二度負けたら猛特訓をと頑張っているのに、二人の差は決して埋まらない。
 門番たる自分が、同じ人間に何度も侵入を許していいものか。美鈴のプライドは、もはや風前の灯に近くなっている。
「たそがれているわね」
 通用門から、咲夜が出てきていた。咲夜は美鈴の側まで来ると、美鈴と同じように門に背を預けて夕焼けを見る。
「別にたそがれるのは勝手だけど、明日まで引きずることはないようにね」
「それは分かってますよ。……でも、やっぱり同じ人間に何度もってなると、落ち込まざるをえないというか」
 ならいいけど、と咲夜は門から身を離し、通用門へと戻っていく。
「気分転換とかしてるかしら? 服でもなんでも、少し変えれば大分気分が変わるものよ」
 そう言い残して、咲夜の姿は通用門の奥に消えた。それを見送りなお通用門を見つめていた美鈴は、ややあってからぽつりと呟いた。
「――気分転換かぁ」
 やってみようかという気になって、美鈴は咲夜の助言に従い、何か変えるものがないか考え始めた。








「みんなー! 今日は集まってくれてありがとー!!」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 紅魔館の門の前で、魂魄たちの唱和がこだまする。それを妖夢は呆然として見ていた。
 そもそも妖夢がやってきたのは、大量に現世に逃げ出した魂魄たちを連れ戻すためだ。こういうことは時折あるので、妖夢は実に気楽な気持ちで迎えに来た。
 そして固まった。
「今日は華人小娘。の初めてのライブを、楽しんでいってねー!」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 探しに来た魂魄たちは目の前にいた。全員そろって、整列していた。これが妖夢を待っている為のものだったなら、妖夢は感激して思わず涙したかもしれない。
 でも違う。魂魄たちの視線は、妖夢から180°逆を向いている。
「それじゃあ聞いてください! 『あなたに会えて』」
 魂魄たちの視線の先には、紅美鈴がいた。いつもより赤が鮮明なチャイナドレスで、体に巻きつくように螺旋を描いて一匹の龍が刺繍されている。
 美鈴の後ろでは、騒霊三姉妹が各々の楽器を持って伴奏を始めていた。
「その出会いは きっと 運命だった」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 美鈴の涼やかで透明な歌声が妖夢の耳に入る。ついでに熱狂している魂魄たちの叫びも耳に入る。
「ねえ あなたには 見えている? 赤い赤い ふたりをつなぐ糸」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 普段歌など聞かない妖夢でも、美鈴の歌唱力が素晴らしいものだと分かる。思わず聞き入ってしまいそうになる心を叱咤するも、完全にタイミングを見失ってしまい、割って入ることができない。
「あなたに会えて 私の世界は 色鮮やかに」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 歌が最高潮に達したのだろう、魂魄たちの中からは「めいりんちゃーん!!」「かじ娘。サイコー!!」などといった熱のこもった絶叫が聞こえてくる。気が昂りすぎて失神したのか、その場に倒れる魂魄がひとつ、ふたつ。
「あなたは どう? わたしに会えて――」
 たっぷりと余韻を響かせて歌が終わる。その一瞬の沈黙をはさんで、
「ほん めい りーん!! ほん めい りーん!!」
 会場を今まで以上の大喝采が覆いつくした。満面の笑みを浮かべて、美鈴がそれに応え手を振っている。鳴り止まない声、拍手。
「ここで今日の為にきてくれたバンドのみんなの紹介でーす!」
「ほん めい りーん! ほん めい りーん!」
 そして美鈴はバックで楽器を演奏していた騒霊三姉妹を順に紹介していった。美鈴の説明によれば、なにやら音楽な空気を感じてやってきたらしい。いい加減許容量を越えた妖夢は、ぼんやりとして遠い目でそれをただ眺めている。
「次はこの盛り上がりにぴったりのこの曲です! 『I Love Only You!』」
 軽快でアップテンポな伴奏が始まった。曲に合わせて魂魄たちがその場でリズムを取るように体を動かしている。
 思考が9割方放棄された妖夢は、その誘うような動きにつられ、ふらふらと魂魄たちの列に並んでいた。




 日が暮れるころにライブは終わった。
「みんなー! 今日は本当にありがとー! 次のライブも、絶対見に来てねー!!」
 美鈴が舞台袖(通用門)へと消えていく。拍手や喝采でそれを見送った魂魄たちは、いまだ意識が定かでない妖夢に連れられて、ふらりふらりと冥界へ帰っていった。








「あ、咲夜さん! この間はありがとうございました」
「? 何の話かしら?」
「気分転換の話ですよー。本当に、ちょっと変えるだけでも随分変わるんですね! あ~、またやりたいなぁ」
(……チケット代とろうかしら)
華人小/娘
こう区切った瞬間、こんな情景が頭に浮かんで離れませんでした。

ほん めい りーん!
櫻井孔一
コメント



1.名無し妖怪削除
ほん めい りーん!
2.木製削除
ほん めい りーん! ほん めい りーん!
3.どっかの牛っぽいの削除
ほん めい りーん!
次のライブ予定はいつ!?
4.名無し妖怪削除
次の美鈴のライブは誰が目撃するんでしょうか? できればライブをお嬢様が目撃するのも見たいかも
5.明日の空色削除
ツッコミ不在?