ルナサ・プリズムリバーは月下一人音を生む。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。己の能力を生かし、弦楽を独奏する。手にもつヴァイオリンのほかにも辺りにさまざまな弦楽器が浮遊している。
弦は音を生み、音と音は重なり合い騒音となる。
弦楽の騒音は、大気に乗り風に乗り、あたりへと響き渡る。
聴衆は無言で彼女の音を聴く。
殴り合いのような事をしていた大きめな幽霊も、先ほどまであたりを駆け巡っていた小さな幽霊も、その場の聴衆は耳をすませ、彼女の生み出す音色に聴き入っている。
響き渡るその騒音は聴く者の精神に作用する。或いは月と同じようにその音色は聴く者を狂わせているのかもしれない。
騒がしい幽霊達もこのときばかりはおとなしくなる。ただ、彼女の音が含有する能力によって落ち着かされているだけではなく、その演奏に聞き入っているのだ。
聴衆は物言わぬ、だが騒がしい幽霊達。そして演奏者はただ一人。
その小さな独奏会は、だがそれ故に荘厳に行われていた。
独奏会は続いている。
月下音は生まれ、重なり、風に乗り拡散し、やがて消え行く。
現世にとどまり、現し世を謳歌せんとする霊魂達はその演奏に聴き入っている。
生み出されるその音は低く、高く、激しく、優しく、奏でられる。
音は聴衆の精神に作用する。
生み出される音にあわせ、霊達は生者の如く感情豊かに動き、棺に収められるが如く止まる。
聴衆は彼女の周りに円をなし、その演奏は風に乗り響き渡っている。
独奏会は続いていた。
ルナサは月下音を生み続けた。
死者のなれの果て達は葬送の如く厳粛に演奏を聴いていた。
生者のなり損ない達は無邪気に演奏を楽しんでいた。
生み出された音は風に乗り、大気を震わせ、精神に響いていた。
独奏会は終わろうとしていた。
音は生み出されず、大気を震わせるのはただ風のみとなった。
聴衆は独奏会の余韻に浸るように静粛としていた。
ルナサは、芝居がかった動きで一礼し、聴衆達へと閉会の辞を告げた。
「今宵の演奏会はこれにて御開き。プリズムリバーのライブにまたのお越しを。そう言いたいのも山々ではありますが、皆様方とのご縁はこれにて御仕舞いとなりましょう」
聴衆は粛々とルナサの言葉を聴いていた。
その様子に満足したルナサは言葉を続けた。
「今宵の独奏会を聴かれた事を楽しんでいただけたら光栄に思います」
聴衆だった幽霊達は寄り集まり列を組み、彼方へと歩もうとしていた。
「願わくば。皆様方が彼岸の世界を満喫していただければ。そのように思っております」
葬列は歩みを始めた。
「それでは。皆様方。ごきげんようさようなら。願わくば」
葬列の歩みは鈍く、その先頭でもルナサの周辺に止まっていた。
「よい来世を。これにて私のライブは終了とさせて頂きます」
葬列はノロノロと進み、やがてその後尾すら遠ざかっていった。
ルナサはその様子をずっと見つめていた。
やがて、最後の一人までもが視界から消え去った。
全ての幽霊が見えなくなるのを待ち、ルナサは帰り支度をはじめた。
帰り支度が終わり、ルナサはもう一度だけその場を振り返った。
月下人影は無く、ただ風だけがそよいでいる。
ルナサは向き直り死者達とは別方向へ歩み始めた。
そうして独奏会は終わりを告げた。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。己の能力を生かし、弦楽を独奏する。手にもつヴァイオリンのほかにも辺りにさまざまな弦楽器が浮遊している。
弦は音を生み、音と音は重なり合い騒音となる。
弦楽の騒音は、大気に乗り風に乗り、あたりへと響き渡る。
聴衆は無言で彼女の音を聴く。
殴り合いのような事をしていた大きめな幽霊も、先ほどまであたりを駆け巡っていた小さな幽霊も、その場の聴衆は耳をすませ、彼女の生み出す音色に聴き入っている。
響き渡るその騒音は聴く者の精神に作用する。或いは月と同じようにその音色は聴く者を狂わせているのかもしれない。
騒がしい幽霊達もこのときばかりはおとなしくなる。ただ、彼女の音が含有する能力によって落ち着かされているだけではなく、その演奏に聞き入っているのだ。
聴衆は物言わぬ、だが騒がしい幽霊達。そして演奏者はただ一人。
その小さな独奏会は、だがそれ故に荘厳に行われていた。
独奏会は続いている。
月下音は生まれ、重なり、風に乗り拡散し、やがて消え行く。
現世にとどまり、現し世を謳歌せんとする霊魂達はその演奏に聴き入っている。
生み出されるその音は低く、高く、激しく、優しく、奏でられる。
音は聴衆の精神に作用する。
生み出される音にあわせ、霊達は生者の如く感情豊かに動き、棺に収められるが如く止まる。
聴衆は彼女の周りに円をなし、その演奏は風に乗り響き渡っている。
独奏会は続いていた。
ルナサは月下音を生み続けた。
死者のなれの果て達は葬送の如く厳粛に演奏を聴いていた。
生者のなり損ない達は無邪気に演奏を楽しんでいた。
生み出された音は風に乗り、大気を震わせ、精神に響いていた。
独奏会は終わろうとしていた。
音は生み出されず、大気を震わせるのはただ風のみとなった。
聴衆は独奏会の余韻に浸るように静粛としていた。
ルナサは、芝居がかった動きで一礼し、聴衆達へと閉会の辞を告げた。
「今宵の演奏会はこれにて御開き。プリズムリバーのライブにまたのお越しを。そう言いたいのも山々ではありますが、皆様方とのご縁はこれにて御仕舞いとなりましょう」
聴衆は粛々とルナサの言葉を聴いていた。
その様子に満足したルナサは言葉を続けた。
「今宵の独奏会を聴かれた事を楽しんでいただけたら光栄に思います」
聴衆だった幽霊達は寄り集まり列を組み、彼方へと歩もうとしていた。
「願わくば。皆様方が彼岸の世界を満喫していただければ。そのように思っております」
葬列は歩みを始めた。
「それでは。皆様方。ごきげんようさようなら。願わくば」
葬列の歩みは鈍く、その先頭でもルナサの周辺に止まっていた。
「よい来世を。これにて私のライブは終了とさせて頂きます」
葬列はノロノロと進み、やがてその後尾すら遠ざかっていった。
ルナサはその様子をずっと見つめていた。
やがて、最後の一人までもが視界から消え去った。
全ての幽霊が見えなくなるのを待ち、ルナサは帰り支度をはじめた。
帰り支度が終わり、ルナサはもう一度だけその場を振り返った。
月下人影は無く、ただ風だけがそよいでいる。
ルナサは向き直り死者達とは別方向へ歩み始めた。
そうして独奏会は終わりを告げた。
あとがきの一字一句隅々まで共感してみる