Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

『紫の海と無限の青 ~poison~』

2006/04/15 12:51:38
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「こんぱろこんぱろー 毒よ集まれー」

 紫に染まる鈴蘭畑に少女の歌声が響く。
 
 くるくると回る赤と黒の少女。
 くるくると回るたび紫の霧が舞い、しゃらしゃらと手を振るうたび音のない輪舞が巻き起こる。

 少女は回る。くるくるとくるくると。
 少女は踊る。無垢なるままに心趣くままに。

 踊り踊る紫の霧は、少女を包み込むように渦となり
 時に激しく、時に緩やかに、昇るように、堕ちるように、唄うように、囁くように

 少女の身体へと――吸い込まれていく。

 紫の霧が吸い込まれるたびに、少女の顔は上気したように色づいていく。
 薄紅の朱が、まだ幼い顔つきを妖しく彩り染めていく。

 ほぅ

 少女は瞳を閉じて、吐息を洩らす。
 その息吹は毒に染まりし汚濁。だがそれが故に誘蛾の如く人を誘う魔力を秘めていた。
 
 果てまで広がる鈴蘭畑に浮かび、紫の混沌を纏い、夢見るように瞳を閉じて、誘うように踊る少女。
 誰が知ろう。彼女が偽りの生命を宿す人形だと。
 誰が疑おう。彼女が仮初の生命を宿す人形ではないと。

 人の形を模した、人の理とは異なるルールに生きる存在。
 
 それがこの少女。

 渦を巻く妖しき霧を、少女が全て飲み干した時
 後に残るは紫の大地と遥かな蒼穹。そして何処にも染まらぬ少女の姿だけ。

 この世界にただ一つの存在。世界の理から外れた単独種。
 哀しき孤独は、ただその少女だけが『孤独』という意味を知らなかった。

 だから少女は笑っている。

 夢見るように笑っている。







「さて、こんだけ集めれば十分かな」

 少女は歌うように弾む声で、目の前に翳した小瓶を太陽に透かしてみる。
 ゆらゆらと揺れる紫の波。国一つ滅ぼすことすら可能な毒の結晶。

 彼女はこうして月に一度、それを集める。

 前に誰かからそう頼まれたから。
 お願いされたのは初めての事。
 そうやって他の存在と関わりを持てたのは初めてだったから、嬉しかったから、少女はそれを続けた。
 集めた毒を小瓶に詰めて、少女は並べる。
 並べた小瓶は整然と、幾十、幾百、幾千と並んでいる。
 陽光に照らされキラキラと輝くガラスの海。
 その中でゆらゆらと揺れる紫の露。

 少女は微笑みながら、その淡く輝く海を眺める。
 少女はその眩しさに、目を細めてそれを眺める。

 少女はその輝きが好きだった。

 だからいつまでも飽きる事はなかった。

 いつまでも、いつまでも。


「んふふ、早く取りに来ないかなぁ」

 少女は歌うように、鈴が鳴るような声で、無限の空に語りかける。








 もう誰も取りに来たりしないのに。

 

 

 



 





 世界の全てが紫に染まり、紫以外の全ての色を塗りつぶしてしまっても

 それでも少女は集め続ける。

 遠い遠い過ぎ去りし日に、初めて貰ったお仕事だから。

 傍らにいた人形が腐り落ち、この世界に鈴蘭以外の存在がなくなっても

 少女は『孤毒』を集め続ける。

 後に残るは紫の大地と遥かな蒼穹。そして何処にも染まらぬ少女の姿だけ。

 この世界にただ一つの存在。世界の理から外れた単独種。
 哀しき孤独は、ただその少女だけが『孤独』という意味を知らなかった。






 だから少女は笑っている。

 夢見るように笑っている。

 




 いつまでも





 いつまでも―― 
あはは、今日もいい天気♪
床間たろひ
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コメント



1.名無し妖怪削除
めでぃすんあいしてるよめでぃすん
2.とらねこ削除
 「虚空の門番」に通じるせつなさですね。