Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そして妖夢が斬ったもの

2006/04/13 09:25:04
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「貴方の剣、どこまで斬れるのかしら?」
 宴会の席で、パチュリーが妖夢にそう問いかけた。妖夢はパチュリーの視線をたどり、その「剣」が楼観剣を指していることを理解する。どうなんだろうかと首を捻っていると、酒を片手に魔理沙が輪に加わってきた。
「なにやら学術的興味をそそる話じゃないか。私も加わらせてもらうぜ」
「好きにしなさいな。――それで、どうなの?」
「どう、と言われても……大抵のものは斬れるけど、そこまでこだわった事もないし」
「曖昧ね」
「曖昧だな」
 困惑気味の妖夢の答えに、魔法使い二人は互いに頷きあう。そこに知識あればそれを飲み、そこに謎あればそれを砕くことを生業とするのが魔法使い。故に、次の二人の言葉は容易に想像できた。
「――実験ね」
「――実験だな」
「――実験ですか」
 空に昇る前二つの言葉に続いて、地に潜る最後の言葉が周囲に響いた。



検証1、博麗霊夢
「さあ、幻想郷の調停装置こと博麗の巫女、博麗霊夢を斬りなさい!」
「――斬る!」
「ちょっと、急になんなのよ? って、やめなさい。こら、やめなさいってば! やめろっていってんでしょうが!!」
「ぐはあ!」
「霊夢はきれる、と」
「意味は違うがきれたな、見事に」



検証2、白楼剣
「さあ、楼観剣の夫婦と言っても差し支えない一刀、白楼剣を斬りなさい!」
「――斬る! ……わけないでしょう! なにやらせてるのよ!」
「楼観剣<白楼剣、と」
「いやそうじゃなくて、なんで大切な剣同士で打ち合わせなきゃいけないのっていう話なんだけど」
「――ふむ、とりあえず白楼剣の方にヒビが入ったな」
「ちょっと何勝手にやってるの!?」
「問題なく斬れる、と」



検証3、話の流れ
「さあ、実験実験と流れてきたこの流れ、見事に斬ってみせなさい!」
「――斬る!」
「ちょっと妖夢~、この間紫にもらったお饅頭どこにあるか知らない?」
「ああ、それなら台所の棚に」
「流れをぶった切る、と」
「腰を折って流れを斬ったな」



検証4、主従の絆
「さあ、素晴らしき輝きを放つ主従の絆、一太刀の下に切り伏せなさい!」
「――斬る!」
「ちょっと妖夢~」
「は? 貴方に妖夢呼ばわりされて命令される覚えはない」
「えぇ? どうしたの妖夢?」
「多分切れたわね」
「自分の意志で切った疑いが捨てきれないところが難だな」



検証5、肩書き
「さあ、レミィの肩書き『永遠に紅い幼い月』から『紅い』部分だけを斬って捨てなさい!」
「――斬る!」
「ん? 何やってるの貴方? 私の頭上に何かいるかしら? それともあの亡霊に振り回されてとうとうおかしくなったの?」
「くっ……き、斬れない……っ」
「……ちっ。斬れない、と」
「ふむ、『永遠に幼い月』ってのも興味があったんだが」



「――駄目ね。最悪の結果だわ」
 パチュリーの沈んだ声が部屋に響く。今三人がいるのはパチュリーの私室。検証を終えた三人は、ここで結果を論じ合っていた。
「最悪って言うほどだったか? 充分斬ってた気がするぜ?」
「ふっ、分かってないわね」
 魔理沙の反論にパチュリーは達観した表情を浮かべる。いい? と前置きをして、
「重要なのは、どれだけ斬れたかじゃないの。どれを斬れたか、なのよ」
「それはつまり?」
 息を飲み、前のめりになる妖夢と魔理沙。つまり、とパチュリーは一度大きく息を吸い込んで、吐き出した。



「貴方はレミィの肩書きを斬れないことで、多くの期待を裏斬ったのよ!」
お後がよろしいようで。
期待を裏切られた人はさすが妖夢と戦慄しましょう。裏切られてない人はやっぱり妖夢と微笑みましょう。
櫻井孔一
コメント



1.名無し妖怪削除
オチがうまいなぁ
普通の小説の短編集を読んだみたいな感じだ
GJ
2.絵描人削除
名無し妖怪さんの言葉通り、ストンと胸に落ちるような読感が良かったです。

……何が、とは言いませんが………見たかったなぁ…(バレバレ