ポン、ポン、ポン―――――――――
(こうやって、楼観剣の手入れをしている時が一番幸せなのかな・・・。)
妖夢は刀身に打粉をかけながら、ふと考えた。
日本刀は元々『斬る』為の存在であり、妖夢も実際に多くの霊や妖怪を斬ってきた。
けれど、少なくとも手入れをしている間は何かを斬ったりする事は無い。
(そっか・・・。これが平和というモノなんだ・・・。)
妖夢の手がピタッと止まる。
なんの感慨も無く、黙々とこなす日課。けれど、それが出来ることの幸せにふと気付く。
妖夢はなんとなく嬉しくなって、また刀身に打粉をテンポ良くかけ始めた。
ポン、ポン、ポン―――――――――
「あら、妖夢。今日はなにやら御機嫌ね~♪」
トテトテと幽々子が廊下の奥から歩いてくる。
その手にある饅頭の入った箱を見て、妖夢はなんでかまた嬉しくなって笑った。
「フフフ。いえ、なんだか幸せだなあ・・・って思っただけです。」
「あらあら。今日はおセンチの日かしら?」
ムグムグと饅頭を頬張りながら幽々子がからかうように言った。
「べ、別に!!センチになってる訳じゃないですよっ・・・。」
「恥ずかしがらなくても良いのよ~。こんなにポカポカした良い日ですもの~♪」
「恥ずかしがってません!それに、そのお饅頭は来客用のお茶請けじゃないですか!!」
「随分と気付くのが遅かったわね~。もう、全部食べちゃった♪」
饅頭の包み紙をヒラヒラさせる幽々子に、ヤレヤレといった感じで妖夢は溜め息を吐いた。
「ハァ・・・。今月も食費だけで幾らになることやら・・・。」
「気苦労が絶えないわねぇ、妖夢も。」
「全くもう、誰の所為だと思ってるんですか?」
妖夢はフンッと鼻を鳴らすと、刀身に付いた打粉を拭い紙でキューッと拭き取った。
そして楼観剣を何度か傾けて刀身で太陽の光を何度かキラキラと反射させると、満足げに鞘にしまった。
「そういえば妖夢って、よく刀のお手入れしてるけれど・・・。」
「ええ、もう殆ど日課ですね。よく使うから、使ってない時にはキチンと手入れしてあげないと。」
「けど、刀って使ってない時はそんなに頻繁に手入れするような物じゃないでしょう?」
「まあ、そうなんですけれど・・・ね。」
妖夢は楼観剣を膝に抱えると、照れくさそうに鼻を掻いた。
「なんか、この楼観剣を只の道具だと思えないんです。」
「よく言う『刀は武士の命』ってヤツかしら?妖夢もなかなか渋いわね~♪」
「違います!武士でもないし渋くもありません。ただ・・・」
「ただ?」
「子供の頃、まだ師匠のところで修行を受けていた頃から、この刀が私の話し相手だったんですよ。」
「あら・・・。妖夢ってそんな娘だったの?友達が居なかったとか・・・。」
「そんなのじゃなくて、修行の時に心の中で話しかけるといつも返事をしてくれたんです。」
妖夢は懐かしげな眼差しでそっと楼観剣を抱きかかえた。
「勿論、今でも返事をしてくれますよ。まるで生きているように・・・。」
楼観剣を優しく抱きしめる妖夢を見ながら、幽々子はハテと首を傾げた。
「いや・・・、楼観剣は生きているでしょ。至って、普通に。」
「はえ?」
幽々子がポツリと言った一言に、妖夢が意味が判らないといった感じの声で反応した。
そして一瞬だけ、楼観剣がギクッといった感じで動いたように見えた。
「あら、妖夢は妖忌から聞いてないのかしら?楼観剣の由来。」
「いえ・・・。師匠は何も。」
「いい?楼観剣の威力は『幽霊十匹分』って言われてるでしょ?」
「はい。それは知ってます。」
「威力を測るのに『匹』って変だな~って思わない?」
「まあ、確かに・・・。言われてみればって感じですね。」
「言ってしまえば、楼観剣っていうのは力の強い幽霊を十匹集めて封じ込めてる刀なのよ。」
「えっ・・・と。つまり、楼観剣はそいつらの檻みたいな感じですか?」
「正確には西行寺家を護る為に、刀に宿ってくれているんだけれど・・・。」
幽々子はウーンと少しの間悩んだ後、ポンと手を叩いた。
「長い年月で十匹も融合しちゃってるでしょうから、楼観剣自体がある意味もう一匹の幽霊ね~♪」
「楼観剣が・・・・・・。」
妖夢が辛い時、苦しい時、命を賭して戦っている時も。常に共に居た一振りの刀。
目頭が熱くなるのを堪えて楼観剣を抱きしめながら、妖夢はハッとした様に目を見開いた。
「あ、あの・・・。幽々子様?」
「なぁに?」
「参考までにお聞きしたいんですが、楼観剣に宿ってたって言う幽霊の方々って男の方ですか・・・?」
「ん~~~~~~~♪」
幽々子はサーッと青ざめていく妖夢を見つめると、悪戯っぽく頷いた。
その瞬間、青ざめていた妖夢の顔がボッと一気に真っ赤に反転した。妖夢の頭が沸騰したやかんの様にカタカタと震えだす。
(ななな、ということは・・・。水浴びをしてた時もあんなことやこんなことをしてた時も更には○○○の時も―――ッ!!)
―――――――――カチャリ
その物音でハッと我に返った妖夢は、予想しうる最悪の光景を目の当たりにした。
自分の膝の上に置いていた筈の楼観剣がいつの間にか、数メートル向こうの庭に独りでに転がっていたのだ。
「や、やっぱり・・・。私の想像は正しかったということかぁっ!!!!」
言うが早いか、妖夢は白楼剣を引っ掴んで楼観剣に飛び掛った。
しかし楼観剣も途端にピョコンッと起き上がると、猛スピードでピョンピョン跳ねて逃げ出した。
「ふふ、ふふふ・・・。やっと解った。白楼剣はおのれの様なバカ刀の迷いを斬るためにあったんじゃあああああ!!!」
猛烈な勢いで庭から飛び出していく妖夢と楼観剣を眺めながら、幽々子はホゥとため息をついた。
「平和ねえ・・・。私にとっての平和ってやっぱりコレよねえ・・・。」
懐から取り出した煎餅をパリポリと齧りながら、幽々子はず~っと笑っていた。
幸せの形は人それぞれ。それぞれの日常を普通に過ごせることが幸せ。そんな事を考える一日があってもいいと思う。
余談だが、この妖夢と楼観剣の鬼ごっこで巻き添えを喰って成仏させられた幽霊の数は三桁にも及んだらしい。
そして後日、それに激怒した映姫に丸一日お説教を喰らう妖夢が目撃されたそうな。
おしまい
(こうやって、楼観剣の手入れをしている時が一番幸せなのかな・・・。)
妖夢は刀身に打粉をかけながら、ふと考えた。
日本刀は元々『斬る』為の存在であり、妖夢も実際に多くの霊や妖怪を斬ってきた。
けれど、少なくとも手入れをしている間は何かを斬ったりする事は無い。
(そっか・・・。これが平和というモノなんだ・・・。)
妖夢の手がピタッと止まる。
なんの感慨も無く、黙々とこなす日課。けれど、それが出来ることの幸せにふと気付く。
妖夢はなんとなく嬉しくなって、また刀身に打粉をテンポ良くかけ始めた。
ポン、ポン、ポン―――――――――
「あら、妖夢。今日はなにやら御機嫌ね~♪」
トテトテと幽々子が廊下の奥から歩いてくる。
その手にある饅頭の入った箱を見て、妖夢はなんでかまた嬉しくなって笑った。
「フフフ。いえ、なんだか幸せだなあ・・・って思っただけです。」
「あらあら。今日はおセンチの日かしら?」
ムグムグと饅頭を頬張りながら幽々子がからかうように言った。
「べ、別に!!センチになってる訳じゃないですよっ・・・。」
「恥ずかしがらなくても良いのよ~。こんなにポカポカした良い日ですもの~♪」
「恥ずかしがってません!それに、そのお饅頭は来客用のお茶請けじゃないですか!!」
「随分と気付くのが遅かったわね~。もう、全部食べちゃった♪」
饅頭の包み紙をヒラヒラさせる幽々子に、ヤレヤレといった感じで妖夢は溜め息を吐いた。
「ハァ・・・。今月も食費だけで幾らになることやら・・・。」
「気苦労が絶えないわねぇ、妖夢も。」
「全くもう、誰の所為だと思ってるんですか?」
妖夢はフンッと鼻を鳴らすと、刀身に付いた打粉を拭い紙でキューッと拭き取った。
そして楼観剣を何度か傾けて刀身で太陽の光を何度かキラキラと反射させると、満足げに鞘にしまった。
「そういえば妖夢って、よく刀のお手入れしてるけれど・・・。」
「ええ、もう殆ど日課ですね。よく使うから、使ってない時にはキチンと手入れしてあげないと。」
「けど、刀って使ってない時はそんなに頻繁に手入れするような物じゃないでしょう?」
「まあ、そうなんですけれど・・・ね。」
妖夢は楼観剣を膝に抱えると、照れくさそうに鼻を掻いた。
「なんか、この楼観剣を只の道具だと思えないんです。」
「よく言う『刀は武士の命』ってヤツかしら?妖夢もなかなか渋いわね~♪」
「違います!武士でもないし渋くもありません。ただ・・・」
「ただ?」
「子供の頃、まだ師匠のところで修行を受けていた頃から、この刀が私の話し相手だったんですよ。」
「あら・・・。妖夢ってそんな娘だったの?友達が居なかったとか・・・。」
「そんなのじゃなくて、修行の時に心の中で話しかけるといつも返事をしてくれたんです。」
妖夢は懐かしげな眼差しでそっと楼観剣を抱きかかえた。
「勿論、今でも返事をしてくれますよ。まるで生きているように・・・。」
楼観剣を優しく抱きしめる妖夢を見ながら、幽々子はハテと首を傾げた。
「いや・・・、楼観剣は生きているでしょ。至って、普通に。」
「はえ?」
幽々子がポツリと言った一言に、妖夢が意味が判らないといった感じの声で反応した。
そして一瞬だけ、楼観剣がギクッといった感じで動いたように見えた。
「あら、妖夢は妖忌から聞いてないのかしら?楼観剣の由来。」
「いえ・・・。師匠は何も。」
「いい?楼観剣の威力は『幽霊十匹分』って言われてるでしょ?」
「はい。それは知ってます。」
「威力を測るのに『匹』って変だな~って思わない?」
「まあ、確かに・・・。言われてみればって感じですね。」
「言ってしまえば、楼観剣っていうのは力の強い幽霊を十匹集めて封じ込めてる刀なのよ。」
「えっ・・・と。つまり、楼観剣はそいつらの檻みたいな感じですか?」
「正確には西行寺家を護る為に、刀に宿ってくれているんだけれど・・・。」
幽々子はウーンと少しの間悩んだ後、ポンと手を叩いた。
「長い年月で十匹も融合しちゃってるでしょうから、楼観剣自体がある意味もう一匹の幽霊ね~♪」
「楼観剣が・・・・・・。」
妖夢が辛い時、苦しい時、命を賭して戦っている時も。常に共に居た一振りの刀。
目頭が熱くなるのを堪えて楼観剣を抱きしめながら、妖夢はハッとした様に目を見開いた。
「あ、あの・・・。幽々子様?」
「なぁに?」
「参考までにお聞きしたいんですが、楼観剣に宿ってたって言う幽霊の方々って男の方ですか・・・?」
「ん~~~~~~~♪」
幽々子はサーッと青ざめていく妖夢を見つめると、悪戯っぽく頷いた。
その瞬間、青ざめていた妖夢の顔がボッと一気に真っ赤に反転した。妖夢の頭が沸騰したやかんの様にカタカタと震えだす。
(ななな、ということは・・・。水浴びをしてた時もあんなことやこんなことをしてた時も更には○○○の時も―――ッ!!)
―――――――――カチャリ
その物音でハッと我に返った妖夢は、予想しうる最悪の光景を目の当たりにした。
自分の膝の上に置いていた筈の楼観剣がいつの間にか、数メートル向こうの庭に独りでに転がっていたのだ。
「や、やっぱり・・・。私の想像は正しかったということかぁっ!!!!」
言うが早いか、妖夢は白楼剣を引っ掴んで楼観剣に飛び掛った。
しかし楼観剣も途端にピョコンッと起き上がると、猛スピードでピョンピョン跳ねて逃げ出した。
「ふふ、ふふふ・・・。やっと解った。白楼剣はおのれの様なバカ刀の迷いを斬るためにあったんじゃあああああ!!!」
猛烈な勢いで庭から飛び出していく妖夢と楼観剣を眺めながら、幽々子はホゥとため息をついた。
「平和ねえ・・・。私にとっての平和ってやっぱりコレよねえ・・・。」
懐から取り出した煎餅をパリポリと齧りながら、幽々子はず~っと笑っていた。
幸せの形は人それぞれ。それぞれの日常を普通に過ごせることが幸せ。そんな事を考える一日があってもいいと思う。
余談だが、この妖夢と楼観剣の鬼ごっこで巻き添えを喰って成仏させられた幽霊の数は三桁にも及んだらしい。
そして後日、それに激怒した映姫に丸一日お説教を喰らう妖夢が目撃されたそうな。
おしまい
煩悩だ!(ぉぃ
乗った!
夫婦漫才みたいな関係でいきましょうっ!!