ゾンビフェアリーは、ゾンビとも怨霊とも妖精とも違う、なんとも言いようがない生態系を作っている。
(By ゾンビフェアリー研究家第一人者、お燐)
◇ Chapter1:ゾンビだってお洒落します。 ◇
ゾンビフェアリーは、夜になると頬に何やら透明な液体を塗りたくる。
そこでお燐は聞いてみた。
「あんた達が使ってるその水、何さ?」
「あ、使います?」
ゾンビフェアリーの1人が、それが入った小瓶を差し出した。
とりあえず受け取り、匂いを嗅いでみる。
化粧水でした。
「え? 何、こんなの使ってるの?」
「私達、ゾンビですから」
「いやいや、そういう問題じゃなくて」
「肌の保湿に気を配らないと、腐るんですよねぇ」
「そうなの!?」
「ほら、それに私達も女の子ですし。いつまでもピチピチのプニプニでいたいでしょう?」
「……」
少し、ゾンビフェアリーへの見方が変わったお燐であった。
◇ Chapter2:ゾンビだって美食家なんです。 ◇
お燐がゾンビフェアリー詰所に行くと、現在夕食の打ち合わせ中だった。
「えー、今日の夕ご飯はワカメパンです」
ゾンビ隊長からの発表を受け、部下達は愕然とした。
ちなみに、ワカメパンとはコッペパンにワカメがでろんと乗っただけのもの。容易に分離可能。
「隊長! 私はそろそろ動物性たんぱく質が食べたいであります!」
「私も!」
「あたいも!」
「拙者も!」
「おいどんも!」
湧きおこるゾンビフェアリー達。
「やかましい! ワカメは保湿効果が高い理想的な食品なのよ! 」
隊長が一喝するも、騒ぎは収まらない。
「隊長、私はワカメアレルギーなのでワカメは勘弁してもらいたいです!」
「大丈夫、私達はゾンビだ。最悪、死んでもまた劇的カムバックが可能よ」
「隊長、私はワカメの怪物ににゃんにゃんされたトラウマがあるので勘弁してもらいたいです!」
「大丈夫、私達はゾンビだ。グロで年齢制限かけられることはあっても、エロ役はもう回ってこないはず」
「隊長、私、大河ドラマ『東方地霊殿』で『主役の背後で無意味に脱ぐ』って役回りだったんですけど」
「え、何、聞こえない」
いてもたってもいられなくなり、お燐が飛び込んだ。
「大丈夫、あたいの煮干しが余ってるから皆に御馳走するよ!」
それを聞いて全員がお燐の方へ向きかえる。
『いや、私達、乾燥食品は嫌いなんで、はい』
◇ Chapter3:ゾンビにも名前はあるのさ。 ◇
「そう言えばあんた達って名前とかあるの?」
お燐が尋ねると、ゾンビフェアリー達が一斉に、紙詰まりを起こしたコピー機を見るような目でお燐を見た。
「旦那、今更それは酷いと思います」
「そうですよ、私達にだって立派な名前がありますよ」
その反論の勢いにたじろぐお燐。
「およ、そうだったのかい、ゴメンゴメン。で、どんな名前なのさ」
「私は田吾作です」
「私は与平」
「征四郎」
「文次郎」
「新之助」
「権兵衛」
「五衛門」
「ゴンザレス」
「マエストロ」
「シシカバブ」
「ザビエル」
「ムッソリーニ」
「アームストロング」
「○@×☆▽#◇〒Σ(地球人には発音できない)」
「手鳥巣・棒我越知手来内(てとりす・ぼうがおちてこない)」
ちなみに全員女の子である。
「他にも非番の子にはもっと長い子がいます。名前だけで20kbくらいある子とかも」
隊長の手鳥巣・棒我越知手来内(てとりす・ぼうがおちてこない)がそう言って紹介は終わり。
お燐はせめて1人の名前を覚えようと思ったが、どいつもこいつも個性がない癖に名前ばかり面倒だったので諦めた。
◇ Chapter4:福祉はゾンビに微笑まない。 ◇
橋の近くにある水橋雑貨店。
温泉卵から鬼のパンツまで幅広い物産を扱う雑貨屋である(店主は病んでいる)。
「あのー、保険に入りたいんですけど」
と、ゾンビフェアリー。
「いや、うちはゾンビ用保険は扱ってないから」
と、パルスィ。
「第一、ゾンビに保険なんて聞いたことないし」
「えー」
「"えー"じゃない。大体、もう死んでるじゃないの」
「もしかしたら、病気になるかもしれない」
「死んで治せ」
「もしかしたら、お空さん撥ねられて怪我するかもしれない」
「死んで治せ」
「もしかしたら、酔っ払いにファーストキスを持ってかれるかもしれない」
「死んで治せ」
「もしかしたら、気になるあの子に捨てられるかもしれない」
「死んで治せ」
「もしかしたら、ありもしない噂で社会的に抹殺されるかもしれない」
「死んで……も治らないわね、それは」
「でしょう?」
「でも、そうなったら私に何をしろと?」
「私と結婚してほしいです」
パルスィは黙ってゾンビフェアリーを近くの川に投げ捨てた。
◇ Chapter5:ゾンビの先輩は知りすぎた霊魂。 ◇
「やっほー、久しぶりぃ!」
ゾンビフェアリー達のところに、1人の霊が遊びに来た。
「あ、レイラ先輩だ」
「レイラ先輩だー」
本名、レイラ・プリズムリバー。
愉快な旧地獄に住みついた霊で、時にこうしてゾンビフェアリーのところに遊びに来る。
だが、その詳細は謎が多い。
そこであるゾンビフェアリー、今回はちょっと聞いてみることにした。
「あの、レイラ先輩。前から聞いてみたかったんですけど」
「ふみゅ?」
「先輩はどうして地獄に来たんですか?」
「ああ、それはね……」
レイラは、どこを眺めるでもなく遠い目で語りだした。
「私が河を渡った日は風が強くてね」
「うんうん」
「閻魔様のパンツ、見ちゃったのよ」
「あー」
「それで誰にも言わないって約束したんだけどね、もう誰かに話したくて話したくて」
「それで誰かにこっそり話ちゃった、と」
「冥界でラジオ放送しちゃった」
「……流石先輩、格が違うわ」
「だって鬼も悪魔も恐れると言われる閻魔さまが、ピンクの毛糸のパンツにクマちゃんのアップリケだったなんて見ちゃったら、そりゃもう──」
どこからか飛んできた卒塔婆が、その場にいた全員にプスッと刺さった。
◇ Chapter6:ゾンビだけが得をした。 ◇
地霊殿では、今日は鍋。
「お姉ちゃん、ただいまー」
「おかえり、こいし。これから夕ご飯よ」
「む、このにおいはすき焼きか!?」
「あら、鼻が効くのね。その通りよ」
「やったー!」
そこにお燐が土鍋を抱えてやってきた。
「お二人とも、できましたよー」
椅子に座り、箸を持って卵を混ぜるさとり。
こいしのお腹がぐーっと鳴った。
「さあ、お燐特製すき焼きなべ、オープン!」
蓋を開けると、部屋中に舞い上がる湯気。
湯気がおさまると、そこにあったのは──
普通のお湯に全裸のゾンビフェアリーが1人。
「地獄だったら黙ってゾンビ鍋!」
姉妹が凍った。
お燐は土鍋を閉じると粘着テープで開かないように固定し、そのまま灼熱地獄に投げこんだ。
◇ Chapter7:ゾンビだって遊びたい。 ◇
ゾンビだって遊びたい。
その希望を胸に、仕事を抜け出して地上に遊びに来たゾンビフェアリー達。
「地上だー!」
「太陽だー!」
「青空だー!」
直射日光は腐敗の元、強いてはゾンビの敵。
全員サングラスをかけ、日焼けクリームを塗り、化粧水片手に、日光対策は完璧。
そして1人がガイドマップを見る。
「じゃあ最初はどこ行こうか」
「私人形の森に行きたい」
「私もー」
「じゃあ人形の森で決定!」
しばらくして、アリス邸に着いた一向。
そこに並ぶのは無数の人形。しかも主は不在と来た。
これは勿論
「憑依のチャンス!」
人形があるのならば乗り移りたくなるのがゾンビフェアリー。
そこで、煙突からこっそり侵入。それでその辺に置いてあった人形にとり憑いた。
「ニューボディ、ゲットぉ!」
「私もぉ!」
1人は上海、1人は蓬莱、複数のゾンビフェアリーでゴリアテ人形。
それはもう自由自在に家の中を暴れまわった。
そのうち1人が、棚の上に置かれた人形に気づく
「じゃあ、私はあの人形にしよう」
そういってとりついたのが、大江戸爆薬からくり人形。
そしてそのまま飛び下りた。
だがしかし、着地失敗。
こうしてマーガトロイド邸は吹き飛んだのであった。
◇ Chapter8:ゾンビのスポーツ祭典、お燐ピック。 ◇
ゾンビフェアリーの仕事は基本的にお燐のサポート。
でも、灼熱地獄のお仕事がないときは地霊殿の床をモップがけするのがお仕事。
特に、元紅魔館メイドが混ざっていたりすると、仕事が結構速くて丁寧。
「よーし、今日のお掃除終わりー!」
つるつるになった床のタイルを見て、全員がメイド服を脱いだ。
その下にはユニフォーム。そして手にはカーリングストーン(漬物石に取っ手をつけた物)。
そう、今日は4世紀に1度のスポーツ祭典の日である。
なお地霊殿の主はこのことを知らない。つまりモグリイベントである。
「第1投、手鳥巣(てとりす)、行きまーす!」
「いぇー」
隊長が最初のカーリングストーンを投げる。
だが、誰も床をこすらない。彼女たちのルールに、床をこする概念はないのだ。
ストーンは壁にぶつかって方向を変え、ドアにぶつかって方向を変え、中庭の穴の中に落ちていった。
「あ……」
ストーンは1個しか用意していなかった。それがダイブ・イン・マントル。
誰もが祭典は終わりかと思ったその時
「大丈夫、まだ予備はあるわ!」
数人のゾンビフェアリーがキスメを連れてやってきた。
「え? あの、何か、やるんですか?」
「貴方はスポーツの祭典の主役に選ばれたのよ」
明らかに"帰りたいムード"を漂わせるキスメの意向をくみ取ることなく、ゾンビフェアリー達はキスメを床にセット。
「第2投、○@×☆▽#◇〒Σ(地球人には発音できない)、行きまーす!」
凄い速度で床を滑り始めるキスメ桶。
既に速度酔いを起こしたキスメ。その行き先を見守るゾンビフェアリー達。
桶は壁にぶつかって方向を変え、ドアに向かって進んでいく。そしてちょうどぶつかるかという時、
ガチャ
「さっきから騒がs──」
さとりがドアを開けた。心までは読めても空気が読めなかった。
猛スピードでキスメの桶がさとりの脛に激突。
つうこんのいちげき!
「いっとわぁ!」
直撃した脛を押さえ、さとりは片足でぴょんぴょんしながら激痛をアピール。
だが跳んで着地したところがカーリング会場。
磨かれた床にスリッパではどうしようもなく、さとりはすてーんと転んだ。
しかもそのまま床を滑って、向こう側の壁に激突。
「ヤバい、さとり様に見つかったー!」
「三十六計逃げるにしかず、それー!」
散り散りに逃げてしまったゾンビフェアリー。
同じく面倒な事が起きる前におうちに帰ってしまったキスメ。
残されたのは、クラッシュし、パンツ丸見え体勢のまま微動だにしないさとりのみ。
そこへ
「何やら楽しいことやってるって聞いて遊びにきたよー!」
1足遅く参上、レイラ・プリズムリバー。
だが先述の通り、会場はもぬけの空。
「あららぁ、一足遅かったかなぁ。終わっちゃったのかなぁ」
だが会場をよくよく見渡すと、なんだか壁に激突しちゃった系な方が1人。
幽霊なので歩かないで浮いて移動、その人のところまで行ってみる。
すると彼女の目に入ってきたのは、その丸見えのパンツ。
それを見て、レイラは思わず呟いた。
「あら、閻魔様と同じクマちゃん」
◇ Chapter9:不束ゾンビですが、優しくしてね。 ◇
地霊殿では、今日はチーズフォンデュ。
「お姉ちゃん、ただいまー」
「おかえり、こいし。これから夕ご飯よ」
「む、このにおいはチェダーチーズか!?」
「あら、鼻が効くのね。その通りよ」
「やったー!」
そこにお燐が土鍋を抱えてやってきた。
「いやー、初めて作ってみたんですけどどうですかねぇ」
チーズフォンデュ、それは溶けたチーズに食べ物を絡めて食べる西洋風の鍋である。
こいしのお腹がぐーっと鳴った。
「さあ、お燐特製とろけチーズ、オープン!」
蓋を開けると、部屋中に舞い上がる湯気。
湯気がおさまると、そこには黄金色に輝くチーズ源郷。
「お燐、具は?」
こいしが急かすと、お燐は西洋風に銀のドームを皿に被せて持ってきた。
「持ってきましたよー、新鮮なお肉と産地直送の山の幸、どうぞご賞味ください!」
蓋がオープンされると、そこにはゾンビフェアリーが数人、全裸にレタス1枚。
「優しくしてね」
姉妹が凍った。
お燐は皿ごとつかむと、灼熱地獄に投げ込んだ。
◇ Chapter9.5:それも1つのグルメの形。 ◇
レタス装備ゾンビフェアリーをマントルの中に葬ったあと、お燐は再び台所に戻った。
そして大急ぎで再び鍋の具を作り、カートに乗せて主人たちの下にお届け参上したところ、人が1人増えていた。
「レイラちゃん、これってこんな感じでいいの?」
「あ、はい、それくらいでオッケーです」
一人増えて始まっていたチーズフォンデュ、だがその具として鍋の中にあるのはクマちゃんパンツ。
「あら、お燐も食べてみる? 見かけはアレだけど意外と美味しいわよ」
半信半疑でパンツを食べてみるお燐。そして声にならない衝撃を覚えた。
何だろう、この口の中いっぱいに広がるドリームワールドは。
今まで食べてきたどの食品とも違う、新たな味であった。
「私のお母様がよく作ってくれたんですよ」
レイラがそう言う。
そこでお燐は二重の衝撃を受けた。
これは、世に広めねばならない。その使命感を背負わせるほど、衝撃の味覚だった。
その日から、お燐のチーズフォンデュ攻略が始まった。
使うチーズの種類やパンツ、アップリケの種類、加熱する時間や条件を徹底研究。
クマパンの伝道師という新たな二つ名を得たレイラも、研究に加わった。
やがてこの料理の話題は各地に広まり、地獄各地、さらには冥界でも食べられるようになった。
研究の過程で分かったのは3つ。
ドロワーズとパンツならパンツの方が美味しい。
火を通す時間は23秒がベスト。短いととろけるような味が出せず、長いとパンツの風味がチーズにかき消されてしまう。
そして最も大切なこと、それはアップリケはクマちゃんに限るということ。これだけは覆しようのない事実だった。
◇ Chapter10:ゾンビ終了のお知らせ。 ◇
そしてとうとう、運命の日がやってきた。
地獄の裁判長、映姫がチーズパンツを試食に地霊殿を訪れると言う。
レイラにとっては冥界カムバックという、またとないチャンスであった。
「あぅ、今までで一番緊張してるかも」
「大丈夫さ、あたい達の努力の結晶が破られるはずないよ」
「閻魔様、喜んでくれるかなぁ」
「喜んでくれるよ、きっと」
そして映姫がテーブルについた。
その向こう側にさとりが座る。
多くの霊や地底の住人たちが見守る中、運命のチーズフォンデュが始まった。
「このパンツを、チーズに通すわけですね」
「その通りです」
ガイドを務めるのはさとり。
その指示通り、映姫はパンツを箸でつまむと、チーズの中に入れた。
「23秒ですよ」
「ええ、説明は1度受けたので分かっています」
それからが緊張と焦燥の23秒であった。
皆が固唾を飲んで見守る。特にレイラにとっては今にも倒れそうな時間帯であった。
誰もひと言も話さない。沈黙が渦巻く地霊殿の中央で、映姫がパンツを泳がせる。
そして、今、運命の23秒間が終了した。
「そろそろですか」
「ええ、もういい頃合いでしょう」
映姫がゆっくり箸をあげる。
いや、実際は普通の速度だったのかもしれないが、その1秒が10秒、100秒のように思えた。
そして、チーズの中からゆっくりとパンツが姿を──
「さあ、美味しく召し上がりやがれ、こん畜生!」
現わさなかった。
チーズの中で、パンツはゾンビフェアリーとすり変わっていたのだ。
地霊殿が凍った。
1人ハイなゾンビフェアリー。
どうしたらいいか分からず固まる映姫。
同じくどう対応したらいいのか分からないさとり。
予想外の事態に、口が開いてふさがらないお燐。
その隣で、レイラが言った。
「ゾンビちゃん、ちょっと外に出ようか。話したいことがあるから」
その後、そのゾンビフェアリーの姿を見た者はいない。
まさかの再登場で二度噴いたwww
ちょっと地霊殿に行って元紅魔館メイドのゾンビフェアリースカウトしてくる。
>名前だけで20kbくらいある子
爆発オチに代わって名前オチが流行る予感(ソレハナイ
レイラがナチュラルすぎてヘクトパスカル
それにしてもいいセンスをお持ちでいらっしゃる
レイラが知ってるという事は他の3姉妹もチーズパンツを…
飼いたくなっちゃうwwwww
レイラが元気そうで何よりです。
ゾンビフェアリーもっとかわいい
猪カバブ生臭そう
このレス返しは、私の隣に座っているゾンビと一緒にお送りします。
>01
地獄ですからね。
気をつけて行ってらっしゃいませ。
>02
果たして、頭の弱いゾンビ妖精は漢字までばっちり覚えられるのだろうか。
……謎である。
>03
身近にゾンビがいる生活。
むしろゾンビを飼いならす生活。
私には想像もできません。
>04
伝説の四女ここにありぃぃぃぃぃ!
>05
ぶっちゃけそれで行こうかと思っていたのですが、絶対落ちを悟られると思ってやめました。
>06
ヘクトパスカル?w
よく分からないのですが、私まで吹きましたw
>07
プリズムリバー家の名物です。
何百年も前から変わらない伝統のお味。
>08
憑かれても知りませんよ?w
>09
この子はどんな異世界でもやっていけると思います。
「故郷→幻想郷」のトンデモお引越しを1度経験していますしw
>10
元気していますw
>11
どちらかといえば、美味しそうな匂いであってほしいものですw
>12
ありがとうございます。
これからも適度にぶっ飛んで逝きたいものです。