クッキー作ったよ作者: 脇役

　三月に入り、外も好い加減に暖かくなってきたこの頃

　個人的な買い物の為に一人で里に向かう事になった

　今の仕事が決まるまでは、自炊の為に里で買い物をしていたので

　里の方々も自分の姿を見て全く気にしない

（まったく……少しは妖怪が居るって事に危機感を持って貰いたいものじゃ）

　ん？買い物籠持って歩かれても危機感がでないじゃと？

　……まったくじゃな、向こうの九尾狐さんも良く似合っておらっしゃる

　買い物の為にお店に入ると、わしの姿に怖がられる事も無い

　むしろ最近姿を見せなかった事を心配そうにして下さって

　買うものもおまけして頂いたくらいじゃ

（ありがたい事じゃな、持つべきは行きつけのお店じゃわい）
　　
　子供達も私の姿を見ると、挨拶をかけてくれる

（……それは良いのだが、乗りかかろうとするのはやめて欲しいのう）
　
　一人乗りかかると、数人は乗りかかって来るから潰れてしまう

　しかし、この姿で受け入れられるって……

　まあ、幻想郷の中だし気にしないでいいのか？

　

　そんな感じで、里の中での買い物をしてから自分が与えられた部屋に戻る

　さあ、此処からが本番である

　里で買って来た物は『小麦粉』『バター』『砂糖』の三つ

　後はこの部屋の中にある道具を使って『クッキー』を作るだけじゃ

　自炊は自分でしていたから、それなりに腕はあるが

　西洋菓子は今まで作った事が無かった

　その為に、一番簡単なクッキーの作り方なる本を用意させて貰っている

（おっと？いかんいかん、時間が無いんじゃったな）

　今日の仕事が始まるまであんまり時間が無いが

　それでも簡単なクッキーを作る時間ぐらいならば十分のはず

（まずは『バターと砂糖を混ぜ合わせる』じゃな？）　

　バターと砂糖をボールに入れて……っと

　後は根性でかき混ぜるべし！うりゃぁ！

　……よしよし、大体混ぜ終わったぞ

　えーと、次は『小麦粉も加えて混ぜ合わせる』か

　小麦粉小麦粉……っと……（パラパラ）
　
　ぬぅ……少し髭についてしまった

　まあ、時間がおしているから気にしない

　では改めて……ド根性じゃぁ！うりゃりゃりゃりゃあ！
　
　……まるで三国志の呂布のような掛け声じゃな

　うむ、静かに混ぜる事にしよう……（まぜまぜ）

　
　
　ふぅ、粘りも出てこんな感じで良いかの？

　さて、次にこれをまな板の上に置いて型を取るとするか

　型……型ねぇ……わかりやすく四角く形を取って行く事にしようかの

　そういえば、あの嬢ちゃんも毎朝『形』の練習をしとったっけ？

　武芸や演舞等はわからんが、無駄の無い動きで随分と綺麗な動きじゃった

　……鼻に提灯をぶら下げなかったらの話じゃがな

（見た目は大人で心が子供か……やれやれ余計に性質が悪い）

　ん、馬鹿な事思い出していたら無事に完成じゃな
　

　さて……無事に型を取って鉄板の上に準備できたのは良いが

　うん……わし、大変な事忘れておった

『鉄板に並べたら綺麗な狐色になるまで大体１５分間焼けば完成』

　……台所に行かんと駄目なんじゃけど

　そんな事してたら、他の人にわしの姿みられてしまうし

　なにより時間が足りなくなる

　それと、火の加減は暖炉だと思っている以上に難しい

　まあ、だからこそ器用な人は料理が上手に出来るんじゃけど

（いかん……このままだと時間が足りん）
　
　ど、どうするべきか……

　待てよ？わしの力があれば……あのガラクタ動いてくれんかな？

　このままだと、時間が足りないし、今台所忙しいし……

　……よし、一か八かじゃ！

　このガラクタの中に……これを入れて……

　此処をこうして……１５分間！

（此処まで来たら後は頑張るしかない！）

　よし、覚悟を決めたぞ！ワシの髭にこれを絡ませて
　
　

『発電だって頑張っちゃうぞ？』

　　　　　　・・・

　紅魔館の門の前、何時もの様に紅美鈴は強大な敵に見舞われていた

　余りにも強大すぎる敵の前に美鈴の精神はガリガリと削られていく

　既に、立つのもやっとの状態にまで追い込まれていた

　その強大な敵の名前は……

「……ふぁ～」

　美鈴はそう呟くと、かみ殺していた欠伸をする

「…くぅ……」

　何時もの様に平和な門の前で耐え難い睡魔に美鈴は襲われていた

　対戦成績はほぼ全戦全敗

　今日もまた、睡魔と言う名の強敵のハイキックで

　意識を刈り取られようとしていた

「おーい、起きんかい」
「ふぁい！？ね、寝てません寝てませんよ！？これは瞑想です！」

　そんな時、いきなり背後から声をかけられて美鈴が飛び上がる
　そしてその姿を呆れるように見つめる者の姿

「お、大ナマズ先生ですか……良かった、咲夜さんじゃなくって」
「全く……お前さんは一体何時に起きてるんじゃ？」
「あ、あはは……」　

　もはや定型分になっている言葉に美鈴が苦笑する

「……まあいいわい、ほれ」
「うわっと？」
「それでも食べていたら目も覚めるじゃろう」

　そんな姿に太歳星君……大ナマズ様がやれやれと言った表情でため息をつくと
　美鈴に向かって、ヒレに持っていた紙袋を放つ
　それを空中でキャッチした美鈴が中を開けて驚く

「クッキーじゃないですか、どうしたんですかこれ？」
「……気分が乗ったから作っただけじゃ」
「手作りなんですか？」

　少しぶっきらぼうに大ナマズ様が告げると
　美鈴が嬉しそうに声を上げてそのクッキーを口に運んだ

「ん、美味しいです」
「そ、そうか……なら良かったわい」

　美鈴の言葉に心なしかホッとした表情になる大ナマズ様
　その表情を見た美鈴がその傍に座り込むと微笑んだ

「ホワイトデーのプレゼント、ありがたく頂きますね」
「……ふ、ふん！お前がそう思うのなら勝手に思えば良いじゃろう」
　
　そっぽを向いた大ナマズ様の隣で、美鈴が笑顔のまま
　何も言わずに貰ったクッキーを口に運ぶ光景が紅魔館の前で見られた

　今日も平和ですね……大ナマズ先生

　暇じゃのう……

　と言う訳で、昼寝しますね？何かあったら起こしてくださいね

　いきなり寝るな！？あっ！？こ、こら！ワシを抱き枕にするんじゃない！