って聞いたら殴られた。
割かし強め。
痛い。
「ぶ、ぶったわね!?」
「阿呆なことを聞くからでしょう」
「もっとぶって頂戴!」
「歯を食いしばりなさい」
「ごめんなさい」
蜜柑が遠ざかり団子が近づいてくる季節。
とは言え、まだまだ肌寒いので炬燵に入りつつ、私とメリーは計画を練っていた。
そう、大学生の私たちは、社会人噴飯ものの長さである春休み真っ只中なのであった。
既に一週間経過しているので、もう一カ月しかない。わーお、大変。
「……で、何処に行きたいって?」
「そーねぇ、蓮覚寺とか」
「悪くないわね」
「あ、諏訪大社も行ってみたい!」
「時間的には余裕よね」
にこやかに頷き賛同するメリーに、私はあれもこれもと追加した。
近くの稲荷大社や朝護孫子寺、弘川寺には日帰りでぷらっと。
先にあげた遠くには宿をとってのんびりと。
夢は広がる。
「時間的には、余裕よねぇ」
「メリー、それ、さっきも聞いた」
「大事なことだから二回言っているの」
「古いわねメリー」
「貴女に言われたくはない」
目を逸らすワタクシ。
すると、ずぃと眼前に突き付けられる。
メリーの手中にある物は、見慣れた私の財布だった。
ぺらいの。
「で、このお財布の中身で、何処に行きたいって?」
つまり、先立つものがない。
視線を逸らし続ける私に、メリーがぺちぺちと財布をあててくる。
悲しいことに、厚みがないためか全く痛くない。
硬貨の音すらしなかった。
……あれ?
「私、一枚は残していたと思うんだけど」
「縁起が悪いから抜いといたわ」
「御縁が!?」
ぺちぺちがべちべちになった。あの、痛い。
冷ややかな瞳を感じつつ、私はため息をついた。
時間はあるけどお金がない。
実に学生らしい状態だ。
「自業自得よ」
レシートやポイントカードだけの財布を炬燵に乗せ、メリーが呆れた声で言ってきた。
「うぅ、そりゃぁ、ちゅっちゅ寝ちゅっちゅ寝しているだけじゃお金さんは来てくれないよね」
「……ことこの件に関しては、完全に貴女だけの所為とは言い切れないけれど」
「そう、そうよ! メリーが魅力的すぎるのがいけないのよ!」
指を向ける私。
曲げるメリー。
いだだだだっ!?
「人を指でささない」
「あぃ、ごめん」
「……ったく」
嘆息を零し、メリーは私に背を向けた。
やば、怒らせたかな……?
向きを此方に戻させるため、メリーの肩に手を置く。
――直前、彼女は小さく呟いた。
「貴女に言われたくはない」
杞憂だったようだ。
そもそも、どうやらメリーは後ろにある箪笥に用がある模様。
腕を伸ばして上段の棚を引き抜く。
下着類が収められていた。
それはともかく、伸ばされた背筋が美しい。
「はい、蓮子」
「舐めちゃいたい!」
「……戻すわよ?」
あわわのわ。
……って、何を戻すんだろう。
下着はきちんと朝に変えている。
そんなことはメリーも承知のはずなのだが。
小首を傾げる私に微苦笑を向け、メリーは下着の奥から何かを取りだした。
「こんな時のために、預かっていたのよ」
封筒だった。
『蓮子さんへ』と書いてある。
私やメリーの字ではない――が、見覚えはある。
「お母様からね」
「母さん!? 実の娘が聞いてないんだけど!」
「『あの子はお金の使い方が下手っぴだから』って。私が聞いていたんだからいいじゃない」
『私』と書いて『義理の娘』と読む。いやいや。
私は封筒をはっしと掴んだ。
両手に伝わる感触は固く、じゃらじゃらと音もした。
……あれ、こういうのって普通、お札じゃないのかな?
「時々、切り崩していたんですもの」
なんで気付かないかな私。
軽く凹んでいると、こほんとメリーが空咳一つ。
「全部を使う訳にはいかないけれど、ある程度ならOKよ。
具体的には、さっきの候補一つくらい。
どうする?」
私は腕を組み、唸る。
突き付けられた問題は、かなりの難題だ。
メリーと一緒なのだから何処に行っても楽しいことは確定している。
だけど、いや、だから、何処が一番楽しくなるだろうかと真剣に考えなくてはいけない。
――案を一つ、閃いた。
「実家に戻って資金を増ぃたい、痛いわメリー!?」
何時の間に取ったのやら、メリーは再び私に財布を押し付けてきた。
開いていたため、カード類の端っこが地味に痛い。
痕ができちゃう!
「後で舐めてあげる」
「どんとこい」
「冗談よ」
きっと、ねぶってくれるに違いない。
財布がひかれる。
するりと、一枚の紙が落ちた。
おでこにくっついていたんだろう。
紙がひらひらと舞う。
「ねぇ、メリー」
少なくとも、此処では使いようのない、紙。
「……そうね、蓮子」
或いは過去なら、紙幣としての価値があったのだろうか。
「二度目だけど」
「……三回目じゃなかったっけ?」
「どうだったかな。まぁいいじゃん――決めたわ」
ともかく、それは、人と妖が共に暮らす世界――幻想郷のお札だった。
そうと決めれば話は早い。
私は、くたびれた鞄に夢と希望を詰め込んだ。
夢とはメリーの服であり、希望とはメリーの下着である。
自分のは、まぁ適当に。
「メリー、準備できたぁ?」
「ええ。夢と希望を詰め込んだわ」
「なるほど。だから箪笥が空っぽなのね」
目を逸らすメリー。おーい。
あ。
そう言えば、と私はメリーにもたれかかる。
持っていくのは夢と希望、だけど、少女の旅にそれだけじゃ味気がない。
「旅費の他に、ちょっとだけ、使っていい?」
「構わないけれど……何に?」
「んふふ」
「お酒かしら?」
「違うわよ。チョコにクッキー、団子に煎餅! そ・れ・と」
不思議そうな顔をするメリーに、にこりと笑みながら、私は二度目の質問をした。
「メリーはおやつに入りますか?」
「あのね。入らないわよ」
「美味しいのに」
膨れる私の額に口付けて、メリーが、囁いた。
――だって、おやつは十時と十五時にしか食べないでしょう?
大学生の春休みは長い。
とは言え、もう一カ月を切ってしまった。
わーお大変だ、急がないとすぐに終わってしまう。
「残すところ三十日!」
「二十九日よ、蓮子」
「ともかく!」
「行きましょう、幻想郷に!」
手を握り、私とメリー、そう、秘封倶楽部は、駆け出すのであった――。
<幕>
割かし強め。
痛い。
「ぶ、ぶったわね!?」
「阿呆なことを聞くからでしょう」
「もっとぶって頂戴!」
「歯を食いしばりなさい」
「ごめんなさい」
蜜柑が遠ざかり団子が近づいてくる季節。
とは言え、まだまだ肌寒いので炬燵に入りつつ、私とメリーは計画を練っていた。
そう、大学生の私たちは、社会人噴飯ものの長さである春休み真っ只中なのであった。
既に一週間経過しているので、もう一カ月しかない。わーお、大変。
「……で、何処に行きたいって?」
「そーねぇ、蓮覚寺とか」
「悪くないわね」
「あ、諏訪大社も行ってみたい!」
「時間的には余裕よね」
にこやかに頷き賛同するメリーに、私はあれもこれもと追加した。
近くの稲荷大社や朝護孫子寺、弘川寺には日帰りでぷらっと。
先にあげた遠くには宿をとってのんびりと。
夢は広がる。
「時間的には、余裕よねぇ」
「メリー、それ、さっきも聞いた」
「大事なことだから二回言っているの」
「古いわねメリー」
「貴女に言われたくはない」
目を逸らすワタクシ。
すると、ずぃと眼前に突き付けられる。
メリーの手中にある物は、見慣れた私の財布だった。
ぺらいの。
「で、このお財布の中身で、何処に行きたいって?」
つまり、先立つものがない。
視線を逸らし続ける私に、メリーがぺちぺちと財布をあててくる。
悲しいことに、厚みがないためか全く痛くない。
硬貨の音すらしなかった。
……あれ?
「私、一枚は残していたと思うんだけど」
「縁起が悪いから抜いといたわ」
「御縁が!?」
ぺちぺちがべちべちになった。あの、痛い。
冷ややかな瞳を感じつつ、私はため息をついた。
時間はあるけどお金がない。
実に学生らしい状態だ。
「自業自得よ」
レシートやポイントカードだけの財布を炬燵に乗せ、メリーが呆れた声で言ってきた。
「うぅ、そりゃぁ、ちゅっちゅ寝ちゅっちゅ寝しているだけじゃお金さんは来てくれないよね」
「……ことこの件に関しては、完全に貴女だけの所為とは言い切れないけれど」
「そう、そうよ! メリーが魅力的すぎるのがいけないのよ!」
指を向ける私。
曲げるメリー。
いだだだだっ!?
「人を指でささない」
「あぃ、ごめん」
「……ったく」
嘆息を零し、メリーは私に背を向けた。
やば、怒らせたかな……?
向きを此方に戻させるため、メリーの肩に手を置く。
――直前、彼女は小さく呟いた。
「貴女に言われたくはない」
杞憂だったようだ。
そもそも、どうやらメリーは後ろにある箪笥に用がある模様。
腕を伸ばして上段の棚を引き抜く。
下着類が収められていた。
それはともかく、伸ばされた背筋が美しい。
「はい、蓮子」
「舐めちゃいたい!」
「……戻すわよ?」
あわわのわ。
……って、何を戻すんだろう。
下着はきちんと朝に変えている。
そんなことはメリーも承知のはずなのだが。
小首を傾げる私に微苦笑を向け、メリーは下着の奥から何かを取りだした。
「こんな時のために、預かっていたのよ」
封筒だった。
『蓮子さんへ』と書いてある。
私やメリーの字ではない――が、見覚えはある。
「お母様からね」
「母さん!? 実の娘が聞いてないんだけど!」
「『あの子はお金の使い方が下手っぴだから』って。私が聞いていたんだからいいじゃない」
『私』と書いて『義理の娘』と読む。いやいや。
私は封筒をはっしと掴んだ。
両手に伝わる感触は固く、じゃらじゃらと音もした。
……あれ、こういうのって普通、お札じゃないのかな?
「時々、切り崩していたんですもの」
なんで気付かないかな私。
軽く凹んでいると、こほんとメリーが空咳一つ。
「全部を使う訳にはいかないけれど、ある程度ならOKよ。
具体的には、さっきの候補一つくらい。
どうする?」
私は腕を組み、唸る。
突き付けられた問題は、かなりの難題だ。
メリーと一緒なのだから何処に行っても楽しいことは確定している。
だけど、いや、だから、何処が一番楽しくなるだろうかと真剣に考えなくてはいけない。
――案を一つ、閃いた。
「実家に戻って資金を増ぃたい、痛いわメリー!?」
何時の間に取ったのやら、メリーは再び私に財布を押し付けてきた。
開いていたため、カード類の端っこが地味に痛い。
痕ができちゃう!
「後で舐めてあげる」
「どんとこい」
「冗談よ」
きっと、ねぶってくれるに違いない。
財布がひかれる。
するりと、一枚の紙が落ちた。
おでこにくっついていたんだろう。
紙がひらひらと舞う。
「ねぇ、メリー」
少なくとも、此処では使いようのない、紙。
「……そうね、蓮子」
或いは過去なら、紙幣としての価値があったのだろうか。
「二度目だけど」
「……三回目じゃなかったっけ?」
「どうだったかな。まぁいいじゃん――決めたわ」
ともかく、それは、人と妖が共に暮らす世界――幻想郷のお札だった。
そうと決めれば話は早い。
私は、くたびれた鞄に夢と希望を詰め込んだ。
夢とはメリーの服であり、希望とはメリーの下着である。
自分のは、まぁ適当に。
「メリー、準備できたぁ?」
「ええ。夢と希望を詰め込んだわ」
「なるほど。だから箪笥が空っぽなのね」
目を逸らすメリー。おーい。
あ。
そう言えば、と私はメリーにもたれかかる。
持っていくのは夢と希望、だけど、少女の旅にそれだけじゃ味気がない。
「旅費の他に、ちょっとだけ、使っていい?」
「構わないけれど……何に?」
「んふふ」
「お酒かしら?」
「違うわよ。チョコにクッキー、団子に煎餅! そ・れ・と」
不思議そうな顔をするメリーに、にこりと笑みながら、私は二度目の質問をした。
「メリーはおやつに入りますか?」
「あのね。入らないわよ」
「美味しいのに」
膨れる私の額に口付けて、メリーが、囁いた。
――だって、おやつは十時と十五時にしか食べないでしょう?
大学生の春休みは長い。
とは言え、もう一カ月を切ってしまった。
わーお大変だ、急がないとすぐに終わってしまう。
「残すところ三十日!」
「二十九日よ、蓮子」
「ともかく!」
「行きましょう、幻想郷に!」
手を握り、私とメリー、そう、秘封倶楽部は、駆け出すのであった――。
<幕>
やった道標さんの秘封だ! 続きが楽しみだ!
……続くんですよね?
僕が子供の頃は…
ちゅっちゅ寝!ちゅっちゅ寝!
ちゅっちゅ寝ちゅっちゅ寝のゴロが良すぎるw
メリーは夜食だと思いまs
甘々な秘封大好きです、お腹いっぱいです
>「舐めちゃいたい!」
という発想は服を着ていると生まれにくいと思うんだぜ。
即ち、劇中で両名は下着オンリーないし全裸であると仮説を立ててみる。
・・・具志堅?