「こら、さっちゃん。ちゃんとお野菜も食べなきゃ駄目でしょう」
「うー、だっておやさいきらいだもん」
夕食時、いつものようにぐずる咲夜を美鈴が窘めていた。
美鈴を教育係に任命してはみたものの、どうにも威厳が足りないのか、事ある毎に舐められているような感じがする。
また近いうちに、人事考課をし直す必要があるかもしれない。
「お野菜もちゃんと食べないと、私みたいに強くなれないよ?」
「さくや、べつにつよくならなくてもいいもん」
「えー……」
ぶーと唇を尖らす咲夜を前に、たじたじ顔を浮かべる美鈴。
困ったように此方に視線を送ってきたので、強い目線で睨み返してやった。
それくらい自分で何とかしろ、という思念を込めて。
「弱ったなあ……」
困り顔で、ぽりぽりと頬を掻く美鈴。
するとそのとき、私の隣席にいたパチェが椅子から立ち上がり、二人の方へと歩み寄った。
何をするつもりだろうか。
「ねぇ、咲夜」
「はい」
「野菜をちゃんと食べたら、今日一日、レミィが一緒に遊んでくれるそうよ」
「えっ」
「なっ!?」
途端、咲夜が爛々とした視線を私の方へと向けてくる。
「おじょうさま、ほんとうですか」
「え、いや、それは……」
咲夜の無垢な視線が痛い。
つーかパチェ、そこは自分が遊んでやると言うべきじゃないのか。
「でも、咲夜が一番懐いてるのってレミィだし」
「確かにさっちゃん、しょっちゅうお嬢様にくっついて後ろ歩いてますもんね」
ま、まあそれは否定しないけど……。
「で、どうなの? レミィ」
なぜか妙に高圧的に言ってくるパチェ。
くそ、こうなったらこう言うしかないじゃないか。
「……わかったよ」
「! ほんとうですか」
私の言葉を聞いて、一気に明るくなる咲夜の表情。
「……ああ。でもそれは、お前がそこに残っている野菜を全部食べたら、の話だ」
「わかりました」
咲夜はいつになく真剣な面持ちで頷くと、一度は投げ出していたフォークを手に取った。
そして、皿の上に残っていた野菜を一まとめに串刺しにすると、えいや、とばかりに、一気に口の中に放り込んだ。
「おお」
「やればできるじゃない」
感嘆の声を上げる美鈴とパチェ。
「…………!」
咲夜は咲夜で、必死の形相を浮かべながら、頬一杯に入れた野菜をもぐもぐと咀嚼している。
そして、牛乳の入ったコップを手に取ると、勢いよく飲みだした。
どうやら最後は強引に流し込む作戦らしい。
「……ごちそうさまでした!」
咲夜が大きく口を開けて宣言する。
白く染まった口内には、確かに野菜はひとかけらも残ってはいなかった。
「えらい! よく頑張ったね、さっちゃん!」
「えへへ」
美鈴が我が事のように喜びながら、咲夜の頭をわしわしと撫でる。
これで私から小言を言われずに済むと思っているに違いない。
続いてパチェが私の方に歩み寄りながら、不敵に微笑んで言う。
「……約束は守ってあげなさいよ、レミィ」
「……わかってるわよ」
悪魔に二言は無い。
まあ、どうせ人間の子供の体力なんてたかが知れている。
すぐに疲れて眠くなるに決まっている―――。
……と、思っていたのだけど。
「おじょうさま、おじょうさま」
「はいはい……今度は何なの」
私が咲夜と遊び始めてから、かれこれ五時間半が経過している。
最初はおとなしくおままごとやらお人形遊びやらに興じていたのだが、次第に飽きてきたらしく、そのうち鬼ごっこ、あやとび、だるまさんがころんだと、それなりに身体を動かす遊びまでするはめになった。
流石にもうへばってくる頃合だろうという私の読みも見事に外れ、咲夜は未だに高いテンションを維持したまま。
どうやら人間の子供というのは、遊びのときは無尽蔵な体力を発揮する生き物らしい。
咲夜が溌剌とした表情で言う。
「かくれんぼしましょう。かくれんぼ」
「あー、かくれんぼね。うん。でもその前に、ちょっと休憩を……」
「………………」
「わかった。やる。やるから、そうやってすぐ目をうるうるさせるのはやめなさい」
「じゃあさくやがかくれます」
「……ああ、ってことはまた私が鬼なのね。それはもう決まっているのね。ええ、いいわよ別に。だって私吸血鬼だし……」
私が自嘲気味に呟いている間に、咲夜は既にとてててーと駆け出していた。
「……やれやれ」
溜め息一つ、私は壁に凭れ掛かり、顔を腕に押し当てる。
そして半ばやけくそ気味に大声を出す。
「もーいーかーい!」
するとすぐに、咲夜の声が返ってくる。
「まーだだよー!」
私と咲夜の二人遊びは、まだまだ終わりそうにない。
了
「うー、だっておやさいきらいだもん」
夕食時、いつものようにぐずる咲夜を美鈴が窘めていた。
美鈴を教育係に任命してはみたものの、どうにも威厳が足りないのか、事ある毎に舐められているような感じがする。
また近いうちに、人事考課をし直す必要があるかもしれない。
「お野菜もちゃんと食べないと、私みたいに強くなれないよ?」
「さくや、べつにつよくならなくてもいいもん」
「えー……」
ぶーと唇を尖らす咲夜を前に、たじたじ顔を浮かべる美鈴。
困ったように此方に視線を送ってきたので、強い目線で睨み返してやった。
それくらい自分で何とかしろ、という思念を込めて。
「弱ったなあ……」
困り顔で、ぽりぽりと頬を掻く美鈴。
するとそのとき、私の隣席にいたパチェが椅子から立ち上がり、二人の方へと歩み寄った。
何をするつもりだろうか。
「ねぇ、咲夜」
「はい」
「野菜をちゃんと食べたら、今日一日、レミィが一緒に遊んでくれるそうよ」
「えっ」
「なっ!?」
途端、咲夜が爛々とした視線を私の方へと向けてくる。
「おじょうさま、ほんとうですか」
「え、いや、それは……」
咲夜の無垢な視線が痛い。
つーかパチェ、そこは自分が遊んでやると言うべきじゃないのか。
「でも、咲夜が一番懐いてるのってレミィだし」
「確かにさっちゃん、しょっちゅうお嬢様にくっついて後ろ歩いてますもんね」
ま、まあそれは否定しないけど……。
「で、どうなの? レミィ」
なぜか妙に高圧的に言ってくるパチェ。
くそ、こうなったらこう言うしかないじゃないか。
「……わかったよ」
「! ほんとうですか」
私の言葉を聞いて、一気に明るくなる咲夜の表情。
「……ああ。でもそれは、お前がそこに残っている野菜を全部食べたら、の話だ」
「わかりました」
咲夜はいつになく真剣な面持ちで頷くと、一度は投げ出していたフォークを手に取った。
そして、皿の上に残っていた野菜を一まとめに串刺しにすると、えいや、とばかりに、一気に口の中に放り込んだ。
「おお」
「やればできるじゃない」
感嘆の声を上げる美鈴とパチェ。
「…………!」
咲夜は咲夜で、必死の形相を浮かべながら、頬一杯に入れた野菜をもぐもぐと咀嚼している。
そして、牛乳の入ったコップを手に取ると、勢いよく飲みだした。
どうやら最後は強引に流し込む作戦らしい。
「……ごちそうさまでした!」
咲夜が大きく口を開けて宣言する。
白く染まった口内には、確かに野菜はひとかけらも残ってはいなかった。
「えらい! よく頑張ったね、さっちゃん!」
「えへへ」
美鈴が我が事のように喜びながら、咲夜の頭をわしわしと撫でる。
これで私から小言を言われずに済むと思っているに違いない。
続いてパチェが私の方に歩み寄りながら、不敵に微笑んで言う。
「……約束は守ってあげなさいよ、レミィ」
「……わかってるわよ」
悪魔に二言は無い。
まあ、どうせ人間の子供の体力なんてたかが知れている。
すぐに疲れて眠くなるに決まっている―――。
……と、思っていたのだけど。
「おじょうさま、おじょうさま」
「はいはい……今度は何なの」
私が咲夜と遊び始めてから、かれこれ五時間半が経過している。
最初はおとなしくおままごとやらお人形遊びやらに興じていたのだが、次第に飽きてきたらしく、そのうち鬼ごっこ、あやとび、だるまさんがころんだと、それなりに身体を動かす遊びまでするはめになった。
流石にもうへばってくる頃合だろうという私の読みも見事に外れ、咲夜は未だに高いテンションを維持したまま。
どうやら人間の子供というのは、遊びのときは無尽蔵な体力を発揮する生き物らしい。
咲夜が溌剌とした表情で言う。
「かくれんぼしましょう。かくれんぼ」
「あー、かくれんぼね。うん。でもその前に、ちょっと休憩を……」
「………………」
「わかった。やる。やるから、そうやってすぐ目をうるうるさせるのはやめなさい」
「じゃあさくやがかくれます」
「……ああ、ってことはまた私が鬼なのね。それはもう決まっているのね。ええ、いいわよ別に。だって私吸血鬼だし……」
私が自嘲気味に呟いている間に、咲夜は既にとてててーと駆け出していた。
「……やれやれ」
溜め息一つ、私は壁に凭れ掛かり、顔を腕に押し当てる。
そして半ばやけくそ気味に大声を出す。
「もーいーかーい!」
するとすぐに、咲夜の声が返ってくる。
「まーだだよー!」
私と咲夜の二人遊びは、まだまだ終わりそうにない。
了
さくやがとんでもなく幼くて、でも一生懸命で。
レミさんも本当に面倒見良すぎてニヤけますねぇv
こんなちっちゃい娘に対しても「お前」とか高圧的に言ってるくせに面倒見がよくて微笑ましいww
俺、いつか女の子が生まれたらさくやって名づけよう……
しかし良い家族構成ジャマイカ。
突然お嬢様が咲夜に「さっちゃん」って呼んで
咲夜がボフーまっかっかになるのだ
なんてあたたかいレミ咲!