曇天で淡い光が降り注ぐ紅魔館の庭で、レミリアとフランは仲良く遊んでいた。
「ふらん! こっちにおいでよ!」
「あーん! 待ってよおねぇたま~」
二人は美鈴が普段手入れしている花畑を駆ける。
その花畑は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色、すなわち虹色の花畑であった。
当然走れば花は幾つか散るが、美鈴は少しも気にしないで、二人が遊んでいるところを眺めている。
「め~りん! いっしょにあそびましょ!」
「め~りん! こっちにきてよ!」
「あ~……私はいいですよ。ここでお嬢様方の様子を見てるだけでお腹いっぱいですよ」
自分が手入れした花畑を自分では散らしたくない。それが美鈴の本音だったが、幼い二人はそんなことはお構いなしだ。
「やーだー! め~りんも一緒にく~る~の~!」
「ほら、め~りんこっちくる!」
「うわわっ!」
美鈴は二人に引っ張られて、花畑へと特攻にする。
幼いとは言え、吸血鬼に二人も引っ張られては、美鈴と言えども抵抗出来ない。
美鈴はそのまま花畑に突っ込んだ。
「め~りんのまけー!」
「まけー!」
きゃっきゃっと騒ぐレミリアとフランに美鈴は苦笑いを隠せない。
美鈴は半ばヤケになって、二人を喜ばせるためにあることをする。
「ほら! お二人とも! 見て下さい! 虹の嵐ですよー!」
「わー!」
「きゃー!」
美鈴は花をかき集め、上空に放り投げた。
投げられる花びらは空気の抵抗を受けながらも、ヒラヒラと、優雅に舞い落ちる。
そして、舞い落ちる七色はまさに虹。まるで虹が結晶となって降ってきているかのような光景に、レミリアとフランは大はしゃぎである。
「め~りん、きれ~い!」
「きれ~い!」
「そうですか~? それでは、もう一丁~!」
「わー!」
「きゃー!」
美鈴はもう一回、花びらを散らせ、レミリアとフランを喜ばせる。
結局、美鈴は目の前の楽しみを優先させてしまった。
気が付いたら、自分が手入れをしていた花畑は全滅していて、自分の主にこっぴどく叱られたのだった。
「なんて、こともありましたよね」
「あったね~。それで、その後私とお姉さまで美鈴の胸を枕にして寝たもんね」
「あぁ。あの時も無理やりに連れ込まれて大変でしたよ」
美鈴が笑って応える中、フランの表情に暗い影が差す。
「あの頃は……いつもお姉さまと一緒だった。けど……今は……」
「妹様……」
「どうしてこうなったんだろうね? やっぱり、私がおかしくなっちゃうからかな」
「それは――」
その時、美鈴は地下室の扉の方へと視線を向けた。
「美鈴?」
「……外が騒がしいですね。妹様、申し訳ありません。ちょっと行ってきます」
「美鈴!」
美鈴はフランのベッドから立ち上がり、そのまま扉の方へと向かう。
扉の前まで歩いた時、美鈴が不意に足を止めた。
「あぁ、妹様。もしかしたら、今起こっている騒動が終わったら、ここから出ることが出来るチャンスがあるかも知れませんよ?」
「? どういうこと? 何でそんなことが分かるの? お姉さまみたいに運命でも見えるの?」
フランの問いかけに、美鈴は振り返って微笑んだ。
「いえ、そんな『気』がするだけです。それでは、行って参ります」
美鈴は扉を勢いよく開けて、そのまま駆け抜けた。
そう――扉を開けたままにして……。
…いやなんでもない。しかしイイハナシダナー
希望はある!