いらっしゃい! 三途の河へようこそ~
一応確認するけど、お金は……あぁ、はいはい、大丈夫だね
それじゃあお客さん、早く乗った乗った
さ、舟が動き出せばその瞬間からお前さんは彼岸を目指す幽霊だ! 覚悟は良いかい?
そいじゃ、落ちないように気ぃつけて
ぃよし。いざ、素敵な遊覧船小町号、発進!
って言っても霧のせいで何にも見えないんだけどね、はっはっは!
それでは……
よ~そろ~
――ぎぃ…こ ぎぃ……こ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ――
お前さん、確か吸血鬼んとこのメイドだったっけ。どうしてまた自殺なんか……
あぁ、ごめんごめん、冗談だって。はいはい、寿命ね、寿命
しっかし、お前さんがいなくなったら、ご主人様はさぞ悲しんでるんじゃないかい?
そんなことないって? いやいや、自分を軽く見るもんじゃない
あの吸血鬼は随分とお前さんのことを大事にしてるって聞いたよ
あんな自尊心の高い種族に信頼されるんだから、それは相当なもんさ
でもちょっと働き過ぎたんじゃないかい?
尽くすことに専念し過ぎて、自分の寿命を縮めるようなことはしてなかったかい?
今さらどうこう言ってもしょうがないかもだけど、反省の気持ちは四季様の判決をちょっとだけ良くしてくれるかもよ
ま、もしかすると、ひょっとしたら、ほんのちょびっとだけね
そうそう、善処しておくれ
そうすれば私の評価も上がる。なんてね
ありゃ、いつの間にかもう岸が見えてきたね
まぁお前さんならこんなもんかな。うん、妥当妥当
それじゃあお疲れさん
最後に、処世術に長けたお前さんにこの言葉を送ろう
良い休暇を
――ぎぃ…こ ぎぃ……こ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ――
お前さん、確か迷いの竹林の兎だったっけ。どうしてまた自殺なんか……
あぁ、ごめんごめん、冗談だって。はいはい、他殺ね他殺…………えっ
しっかしお前さんがいなくなったら、お姫さんやお師匠さんはさぞ悲しんでるんじゃないかい?
そんなことないって? いやいや、照れなくたっていいじゃないか
お前さんには何か深い事情があるらしいけど、恩があったんだろ? ちゃんと返せたかい?
自信は無い、か
前に会った時は迷いなんて無さそうだったのに、そういうことははっきりしないんだね
まぁいいじゃないか。精一杯やったんなら、それを知っている人は認めてくれるさ
特に身近な人ならなおさら、ね
何? 昔仲間を見捨てて逃げてきた、そんな自分が認めてもらえるかって?
あちゃあ、そいつぁとんでもないね。へぇ~、自分の命惜しさにねぇ
まぁ怖いのはわかるけどさ、やっぱり情けないかなぁ
……ぷっ、はははッ、冗談冗談! はぁ~、いや、大丈夫だと思うよ、本当のところ
お前さんは波長が見えるんだろ? だったら実際に見たまわりの人たちのことを思い出してみな
どうだい、みんなお前さんのことを情けないやつだなんて思ってなかっただろ?
幻想郷はもっと伸び伸びと過ごせる場所な筈だ。そうだろう、外来人……外来兎? ま、なんでもいっか
要は細かいことは気にするな、ってこと。だからもう安心しな、な!
ありゃ、いつの間にかもう岸が見えてきたね
まぁお前さんならこんなもんかな。うん、妥当妥当
それじゃあお疲れさん
最後に、仕事に励む勤勉な死神さんからお前さんにこの言葉を送ろう
よく頑張ったね
――ぎぃ…こ ぎぃ……こ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ――
お前さん、確か氷の妖精だったっけ。どうしてまた自殺なんか……
あぁ、ごめんごめん、冗談だって。はいはい、お前さんを象徴する自然が壊されて……うわぁ
しっかしお前さんがいなくなったら、他の妖精たちはさぞ悲しんでるんじゃないかい?
そんなことないって? なんだ、お前さん厄介者扱いされてたのか
そっかぁ。確かに妖精にしてはお前さんの力はちょっと強過ぎたかもね
最強、ときたか。自信満々だね
まぁどうしようもないことで落ち込むよりは遥かに良いね。うん、気に入ったよ
でもたまに寂しくなったりはしなかったのかい?
文がいてくれたから?
文……あぁ、あいつか。なんだ、妖精のくせに鴉天狗と仲良いのかい、意外だねぇ
……なんでそこで顔を赤くする。まさかッ、まさかなのかい!?
ちょ、そんなムキになんなくても
いやぁしかし珍しい。妖精が妖怪、それも鴉天狗に、ねぇ
あ、いやいや、決して馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。ただ純粋に驚いたんだ
そうか、お前さんもいっちょまえに少女だったんだね
そうやって想える相手がいるってのは良いもんさ、うん。へへッ
ありゃ、いつの間にかもう岸が見えてきたね
まぁお前さんならこんなもんかな。うん、妥当妥当
……お? ありゃあお前さんの大事な大事な鴉天狗じゃあないのかい?
良かったじゃないか。ずっとあそこでお前さんを待っててくれたんだよ。妬けるねぇ
それじゃあお疲れさん
最後に、ちょっかい好きなあたいからお前さんらにこの言葉を送ろう
いつまでも仲良くな
――ぎぃ…こ ぎぃ……こ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ――
――ぎぃ…こ ぎぃ……こ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ――
霧が辺りを覆う中、水面にぷかぷか浮かぶ小さな舟。舟の上には死神小町。
一仕事終えた彼女は大きく、大きく伸びをして、ぷはぁと息を吐き出した。
何度も何度も同じ場所を、何人も何人も異なる者を乗せ、ただひたすらに舟を漕いだ。それが彼女の仕事であり、誇りである。
しばらくするとまた新しいお客がやってきた。またも小町は笑顔で対応する。
「いらっしゃい。ようこそ三途の河へ」
今日も繁盛しにがみクルーズ。
遠くない未来のお話かと思いきや、オチがあって面白かったです。
俺こういうの大好きだぁぁx(ry
いい雰囲気でしんみりしてしまいました。……後書きを見るまでは。畜生。
あと三途の河と千曲川はどっちの方が長いのかも
そしてなんでそんな自殺にこだわるんだ、小町。
そしてしっかり落ちに笑わされましたw
オチがあって安心しました。
安心できるオチでよかったw
でもあとがき読んでからもう一回読んだら、シリアスじゃなくてコメディだった
完全にコントじゃないかこれ
“良い休暇を”になんかキュンときた。三途の川は小町に送ってもらいたいな~