彼女と始めて出会ったのは、お嬢様が幻想郷を紅霧で覆った時だった。
次の満月の夜に博麗の巫女がここに来るので、適当に相手するようとのお嬢様の命令。
お嬢様の言葉ながら疑ってしまった。
わざわざ人間が満月の夜に吸血鬼と戦いに来ることなどあるのだろうか?
来たとしても、巫女とは言え人間。美鈴を倒すことすら敵わないだろう。
やがて、お嬢様の言ったとおり、巫女の来訪を告げられた。
同伴者として絵に描いたような魔法使いもいるとのこと。
窓から門を見ると、確かにそれらしい人影が見える。
2対1とは言え、美鈴が人間如きに負けるとは思えない。
そして、弾幕ごっこが始まった。
魔法使いはどうやら、弾幕ごっこには加わらないようだ。時々、野次を飛ばしているように見える。
巫女は美鈴の放つ弾幕を軽々と避けていく。そして、美鈴が負けた。
信じられなかった。今では、私の方が強くなったが、私に弾幕ごっこを教えてくれた美鈴を退けたのだ。
伝令のメイドからパチュリー様は、巫女と共に来た魔法使いと遊び始め、巫女は先に進んだとの報告が来た。
直ぐに、私の前に巫女がやって来た。小柄な身体からは、殺気のようなものは感じられない。
そして弾幕ごっこが始まった。
美鈴に勝ったとは言え人間。私が負ける筈がない。
ナイフを投げる。かわされる。投げたナイフを涼しい顔をして次々にかわす巫女。
確かに少しはやるようだ。本気を出すことにした。
時を止め、ナイフを投げた。それをも巫女はかわした。
苛立ちでお嬢様から適当に相手せよとの命令が頭から消えた。
殺すつもりで、時を止め、空間を操り、ナイフを投げたが、それでも巫女は確実にナイフをかわしていく。
巫女と目が合った。何故か悲しい瞳をしている気がした。
いきなり抱きしめられた。抗うようにナイフを振うが振りほどく事ができなかった。
そして霊力を使い果たし、私は意識を失った。
目が覚めると、そこはベットの上だった。
霊力を使い過ぎた為、軽い疲労は感じるが、身体にも何も異常もないようだ。
「気が付いたようね。」
「お嬢様!」
あわててベットから降りようとする私をお嬢様は制した。
「申し訳ありません。負けてしまいました。」
取り合えず今回の不始末を詫びた。
「私も負けたから気にしなくていいわ。私だけじゃない。地下室から抜け出したフランすら歯が立たなかったわ。」
(負けた?お嬢様が?それも妹様も?誰に?あの巫女に?パチュリー様と遊んでいた魔法使いが加勢したのか?)
「1対1の勝負で負けたのは、私もフランも始めて。強いわね。博麗の巫女は・・・。幻想郷の守護者とは、よく言ったものね。」
最強の種族とも言える吸血鬼、その中においても、デーモンロードと恐れらたお嬢様が1対1の戦いで、それも人間に敗れたことが信じられなかった。
「・・・幻想郷の守護者・・・」
「えぇ。幻想郷を守護する存在。それが博麗の巫女。」
苛立ちを感じる。以前、図書館で読んだ物語を思い出した。
[英雄が悪魔を倒し、平和が訪れる。]
今回の事件と同じだ。さしずめ私は英雄を苦しめた悪魔の手先といったところだろう。
いや、苦しめることすらできなかったのだから、ただの雑魚だ。
暗い気持ちが沸いてくる。
かたや悪魔の狗となった私、かたや人々を守る英雄。
力の差こそあれ、同じ異能を持つ存在。
いったい私とあの巫女と何が違うのか。どれほどの差があるのか?
私もあの巫女と同じだけの力があれば良かったのか?
「明日、あの巫女の所に行く。」
「えっ?」
「咲夜も一緒に来なさい。それと、今日はこのまま寝ていていいわ。今から働かれて倒れでもしたらたまらないからね。」
お嬢様はそう言うと部屋から出て行った。
ベッドに横たわり、改めて考える。
博麗の巫女。幻想郷の守護者。さぞ、人々に愛されている存在なのだろう。
暗い気持ちを抱えたまま、眠りについた。
日が変わり、私は日傘をさすお嬢様と一緒に、博麗神社にやって来た。
歴史を感じる古い神社はそこそこ立派だった。
しかし、裏に回ると廃屋のような建屋しかなかった。
そして、その縁側で巫女がお茶を飲んでいた。
こんなところに住んでいるのか?これなら、紅魔館の門番の詰め所の方が100倍マシだろう。
私達に気付いたのか、巫女がこちらを見た。
「何しに来たの?」
「昨日のことで話をしに来たのよ。」
歩み寄る私達にめんどくさそうに話しかける巫女に笑って答えるお嬢様。
「日向じゃつらいでしょ。お茶ぐらい出すから中に入りなさい。」
あっさりと部屋に入る事を許可する巫女に私は驚いた。
居間に通され、卓袱台に付く。屋内は思った以上に綺麗だった。
そう言えば、境内も綺麗だった事を思い出す。掃除はきちんとしているのだろう。
「で、何?」
私達にお茶を出しながら、巫女が来訪の理由を尋ねてきた。
「それにしても、ボロいわね。こんなとこに住んでるの?」
「喧嘩売りに来たの?」
「ごめんなさい。根が正直だから、つい本音がでちゃったの。」
「直ぐ帰れ。」
「冗談よ。本当は昨夜の再戦に来たのよ。」
「日向に出れんの?」
「再戦は、また今度にしましょう。」
「出れないなら来んな。」
「お嬢様、やはり夜に来た方が良かったのではないでしょうか?」
「だって、寝てるかもしれないじゃない。」
「で、本当は何しに来たの?」
「昨日の事を謝りに来たのよ。」
「あら、割と殊勝な心がけね。もうあんな面倒なことしないでよ。」
巫女はあっけらかんと笑っていった。あれだけの異変をその程度で片付けていいのだろうか?と疑問になる。
「で、改めて、自己紹介だけど、私は現スカーレット家頭首のレミリア・スカーレットよ。」
「博麗霊夢。」
お嬢様と霊夢がこちらを見ている。どうやら私が名乗るのを待っているようだ。
「紅魔館のメイド長をしております十六夜咲夜です。」
「時々寄らせてもらうから。」
「来ない参拝客がもっと来なくなるからやめろ。」
「何?人間が来ないの?」
「母さ・・・先代の博麗の巫女の時には、1日に何人かは来てたんだけど、私になってからは、さっぱり。おかげでお賽銭が全く入らない状態よ。」
「人間が来ないなら、別に遊びに来ても問題ないじゃない。それとも今回の異変を解決したから、また人間が来るようになるの?」
「関係ないんじゃない?空気に感謝する人間がいないのと同じ。博麗の巫女は、異変を解決するのが当たり前のことだから。」
そう言って笑う霊夢の言葉にはかなり驚いた。英雄として崇められているものと思っていた。
それが、こんな廃屋の様な場所に住んでいる。
「人を恨んだりしないの?」
「なんで?」
心底不思議そうに霊夢は問い返してきた。
「いくら異変の解決をしても、誰も評価してくれないから。」
「別に誉めて貰いたくて、やってるわけじゃないし……それに、先代の巫女が命がけで守ってきたのに、私の代で幻想郷が滅んだら困るじゃない。」
少し悲しげな顔をして霊夢が答えた。
「それで良いんですか?]
「良いんじゃない?」
先ほどの顔がから一転、明るく事も無げに答える霊夢に興味を持った。
そんな私を見て、何故かお嬢様は満足気な表情をしている。
「取り合えず挨拶もしたから、今日は帰るわ。咲夜、帰るわよ。」
靴を履き日傘を広げ、お嬢様が出てくるのを待つ。
お嬢様は霊夢に何か囁き、霊夢も頷いていた。その答えを確認した後にお嬢さまが日傘に入り、帰途についた。
「博麗の巫女に会ってみてどうだった?」
「不思議な存在ですね。」
途中、お嬢様からの問いかけ、素直に答えた。
それから、頻繁にお嬢様のお供として博麗神社を訪れるようになった。
神社に行っても、魔理沙が門番を倒して本を持って行ったとか、妹様がまた我侭を言って屋敷を壊したとか、パチュリー様がまた変な魔法実験を始めた程度の世間話をするだけであった。
お嬢様が愚痴を言い、霊夢がそれを嫌味で返し、私がお嬢様の機嫌を取る。
そんな日々を楽しいと感じている私自身がいることに驚いた。
いつまでも続く冬の異変
お嬢様から春を見つけてくるように命令を受けた。
空を飛んでいると魔理沙が人形遣いと弾幕ごっこをしていた。
魔理沙は人形遣いと因縁があるので、先に進んだ霊夢フォローを頼まれた。
先に進むと幽冥界で霊夢が剣士と戦っていた。
体術も苦手でない霊夢も剣士の鋭い斬激に術を使う事ができず苦戦しているようだ。
剣士にナイフを投げるが、あっさり落された。しかし、加勢に警戒をした剣士が間合をとる。
その隙に霊夢の傍に移動する。
霊夢は驚いた顔をしていたが、状況を簡単に説明し、剣士を私に任せて先に進むように言う。
霊夢は心配そうな顔をしたが、私を信じて先に進んでくれた。
なんとか、剣士を後退させると、魔理沙が先ほどの人形遣いと一緒に現れた。
皆で先に進むと先ほどの剣士が亡霊の女性の手当てをしている。
そして、霊夢は妖怪と弾幕ごっこをしていた。
お嬢様をも超える妖気を出す妖怪に一瞬恐怖を感じた。
その妖怪と対峙する霊夢も苦戦をしているようだった。
その妖怪は私達を見るといきなり、弾幕を消した。
「霊夢、友達ができたの?」
「まぁね。」
「そう、良かったわね。」
それだけ言うと妖怪は空間を開き、姿を消した。
「先程の妖怪は知り合いのなの?」
私達の傍に来た霊夢に問いかけた。
「えぇ、ちょっとした昔馴染みよ。今回の異変には関係ないわ。ありがとう、咲夜、魔理沙。これでこの異変も終わりよ。」
霊夢が私の事を友人と思ってくれていること、友達と言ってくれた霊夢を助けることができたことに嬉しかった。
その日から私はお嬢様の共以外にも時間を作っては、神社に行くようになった。
永き夜の異変
霊夢も異変を解決する為に、この夜空のどこかを飛んでいる。傍に居なくても同じ目的の為に行動している。そう思うと心が自然と高揚する。
「咲夜も不老不死になってみない?」
それは、お嬢様からの眷族への誘い。お嬢様に忠誠を誓った日から、いつかはその言葉を受け入れ、従うものと私自身思っていた。
霊夢の顔が浮かぶ。
「私は一生死ぬ人間です。」
私は霊夢と同じ人間でありたい。霊夢と同じように年老いて死ぬことを願っている自分がいることに気付かされた。
だから、私はお嬢様の誘いを断った。
「そう。残念。」
まるでその答えを予想していたのか、お嬢様は笑って、それ以上何も言わなかった。
私は霊夢に他の人には感じない感情を抱いていることに気付いてしまった。
それと同時に、自分の過去を霊夢に知られることが怖くなった。
紅魔館に来る前、自分の意思ではなかったといえ、ただの人間や妖怪をを殺す道具として育てられ、そして多くの人間や妖怪を手にかけてきた過去を。
霊夢は決して、妖怪も人間も殺さない。弾幕すら最低限にしか張らない。相手が飽きるまで弾幕ごっこに付合う。
きっと霊夢は私を軽蔑するだろう。そう思うと霊夢の顔を見ることが怖くなった。
神社に行く回数も減らし、宴会の席で何度か霊夢と話すことはあったが、極力避けるようにした。
妖怪の山に神社が出現し、その巫女が博霊神社を明け渡す要求をしたと聞いた。
霊夢を助けに行きたいと思う気持ちと、会うこと恐れている気持ちの板挟みになり、動けなかった。
その異変も直に霊夢が弾幕ごっこで話し合い、解決したらしい。
その後に行なわれた宴会にお嬢様と一緒に呼ばれた。そこには霊夢と同じような格好をした娘がいた。
妖怪の山の神社の巫女-風祝の東風谷早苗と言うらしい-が霊夢に親しげに話しをしていた。
霊夢と話す早苗の明るい笑顔が羨ましかった。
時々、霊夢が私を見ている事に気付いたが、私は気付かない振りをし続けた。
その日から、仕事の忙しさを理由に私は博麗神社に行くのを止めた。
神社に行かなくなってから2週間は経っただろうか、パチュリー様に呼ばれ、図書館に行くと魔理沙がいた。
「なんだ、元気そうじゃないか。」
「元気よ。どうして、そんな事を聞くのかしら。」
「お前が神社にぜんぜん来なくなったから霊夢のやつ、結構まじめに心配していたからな。」
「ちょっと、仕事が忙しくて時間が取れなかっただけですわ。」
「まぁ忙しいなら仕方ないけど、たまには神社にでも行って、霊夢に顔を見せてやってくれ。あいつ、あぁ見えて、結構寂しがり屋だからな。」
魔理沙は猫が笑ったような表情をしてそう言った。
「時間ができましたら考えますわ。」
不謹慎にも霊夢が心配してくれている事を嬉しく思う反面、霊夢に心配させてしまった事に罪悪感を感じる。
やはり全てを霊夢に打ち明けるよう。それで霊夢に嫌われるのならば仕方がない。そう思い博麗神社を訪れた。
一時は毎日のように来た境内を通り、母屋に向かう。
二人で談笑しながら掃除をしている霊夢と早苗が見えた。
あの笑顔の中に私が入れない。入ってはいけない。そう思った瞬間、私は来た道を戻ってしまった。
それから、毎日仕事のことだけを考え、ひたすら身体を動かした。
少しでも気を抜くと霊夢と早苗の笑顔が頭に浮かんでしまうので、ひたすら仕事に没頭した。
美鈴から働き過ぎと言われたが、気にしなかった。
些細なミスをするようになったが、時間を操作し誤魔化していた。
その内、時間の操作も巧くできなくなり、誤魔化す事ができなくなり始めた。
お嬢様に呼び出され、ミスの原因を問いただされている最中、私は意識を失った。
気が付くと私はベットに寝かされていた。
「良かった。気が付いたんだ。」
声のする方を見ると霊夢がいた。会いたいけれど、会ってはいけない人。そして多分、今迄で一番好きになった人。
「なぜここのいるの?」
「美鈴が教えてくれたの。咲夜が倒れたって。」
「そう。」
「ねぇ、咲夜。私、何か酷いことした?」
「どうして?」
「だって、ぜんぜん神社に来なくなったから、知らないうちに咲夜の気に触るような事をしたかもしれないから。もしそうなら謝らないと。」
よく見ると霊夢の顔に泣いた痕がある。
「違うの、霊夢……全部私がいけないの……」
「咲夜は何も悪い事してないじゃない。」
私なんかの事を真剣に心配してくれた霊夢の為に、私は全てを話す事に決めた。
「……霊夢。聞いて欲しい話があるの。」
「なに?」
「昔ね。一人の女の子がいたの。その子は幼い頃に両親を失って、全く知らない人に引き取られたの。
引き取られた所には、その子と同じくらいの子供が100人ぐらいいて、そこでは、その子達は名前でなく番号で呼ばれていたの。
そして、そこで、ただひたすら人や魔物を殺す訓練を受けさせられたの。過酷な訓練のせいでの子供達が次々死んでいったの。
その子は何とか生き延び続けて、5年くらい経つと、新しい番号をつけられて、魔物も狩ることができる商品としてに売られたの。
その子を買ったのは、お金の為に魔物退治や暗殺を請け負う組織だったの。最初は暗殺や力の弱い魔物を退治していたのだけど、何度も成功が続いて、いい気になったのでしょうね。
吸血鬼に手を出してしまったの。でも、そんな組織が吸血鬼に勝てるわけもなく、組織は壊滅、唯一生き残ったその子は、吸血鬼に気に入られて、今度は吸血鬼に忠誠を誓い、働く事になったの。
こんな生き方をさせてきた人々を憎んでね。そして、その子が私なの。軽蔑するでしょ?こんな薄汚い人間は霊夢に心配してもらう価値なんてないのよ!」
そんな私を霊夢は優しく抱きしめてくれた。
「霊夢?」
「咲夜……私も咲夜に聞いて貰いたい話があるの。」
「昔、一人の子供が居たの。その子には両親がいなかった代わりに10人くらいの子供がいたの。その子供達はそれぞれ特殊な能力を持っていたの。
時々、何人かの大人が妖怪を連れて来て、その妖怪を殺すと食べ物を貰える。他に頼れる存在がいない子供達は、力を合わせて妖怪と戦ったの。
大人達は最初は殆ど無害な妖怪しか連れて来なかったけど、徐々に力の強い妖怪を連れて来る様になったの。
子供達は日々の空腹に耐えながらも生きる残る為に、支えあいながら能力を高めていったの。大人達は子供達の状態などお構いなしで、妖怪を連れて来て戦わせる。
でも、そんな生活を子供が耐えられるわけがない。子供達は一人また一人と死んでいったの。そんな状態で生き残った為か、最後に一人残ったその女の子はとてつもなく強い能力を身につけたの。
でも、生死を共にしてきた子供達を失ってしまったので精神的に疲れ果ててしまって、死ぬ事ばかり考え始めたの。でも、ただ死ねない。
死んでいった子供達の仇を討つ為、と殺してしまった妖怪達への供養の為、あの大人達を殺そうと考えていたの。そして、いつも大人達がやってくる日に大人達の代わりに一人の妖怪がやってきたの。
その妖怪の発する妖気は今迄の妖怪とは比べられない程強いと直に気付いたの。死ぬ気で戦っても相討ちに持ち込めるかどうかも怪しい。
でも、その妖怪はね、『もうあの狂った人間達は死んだから、もうここには来ないわ。だから、これから貴方は今から自由にいきていいわよ。』そう言ったの。
その子はもう何も考えられなくなって、呆然としていたら、今度は『良かったら、私と一緒に来ない?多分貴方の願いをかなえる事ができるかもしれないわよ。』って言ったの。
その子には願いなんてないと思ってたし、今まで妖怪を殺してきたのだから、妖怪に殺されるのも仕方ないと思って、その妖怪について行く事にしたの。
妖怪が連れて行った所はね。古ぼけた神社で、そこに住んでいた年老いた女の人がいて、その妖怪はその女の人と何か話しをしたの。
それで理由はよく判らないけど、その女の人がその子を養女として引き取ってくれる事になったの。
その女の人は、娘にした子にいろんな事を教えたの。ここは幻想郷と言って妖怪達と人間が共存する世界であること。そして、この神社は博麗神社で幻想郷の要となっていること。
その子をここに連れて来た妖怪は、八雲紫と言ってこの幻想郷を作った妖怪の賢者であること。そして、その女の人は博麗の巫女と呼ばれる幻想郷を守護する存在であること。
それ以外にも、力の制御の仕方から、儀礼の方法、果ては炊事洗濯の仕方まで。そしてその巫女が亡くなった時、その子が後を継いで博麗の巫女になったの。
もう判るでしょ。その子供が私。……何が博麗の巫女よ。何が幻想郷の守護者よ。私はね、生きる為に妖怪を殺して糧を得ていただけじゃないの。
兄弟のように育った大切な仲間達を死なせて、そんな事なかったような顔して、未だに生き続けているの……軽蔑したでしょ?」
自嘲気味に話す霊夢の声が私には慟哭のように聞こえた。
「……霊夢……」
「咲夜に会ってからね、気が付くと咲夜を探してしまう私がいて、そんな私に仲間を死なせておいてまた仲間を作るのかって、責める私がいるの。
咲夜が神社に来なくなって寂しかったけど、こんな私の傍に居ない方が咲夜の為になると言う私がいるの。だから、紅魔館にも会いに行かないようにしたの。
咲夜が倒れたって聞いて直に会いに行きたかったのに、行かない理由を一所懸命考えて、自分を誤魔化そうとしている薄情な私がいるの。そんな私は軽蔑されて当たり前なのよ。」
霊夢の声が涙声になっている。。
「そんな私の背中を魔理沙が押してくれたの。霊夢として会えないなら博麗の巫女として行けって。紅魔館のパーフェクトメイドが倒れるなんて最大級の異変だろうって。」
私を抱く霊夢の身体が震えているのに気付いた。霊夢はこの事を誰にも告げずに死ぬつもりだったのだろう。
私なんかの為にその辛い過去を話してくれた霊夢を改めて愛おしいと思った。
「霊夢、私は絶対に軽蔑したりしないわ。だから泣かないで。」
そう答え震える霊夢を抱きしめた。
「私だって咲夜のこと軽蔑したりしない。」
霊夢から伝わってくる体温が心地良かった。このまま時を止めてしまいと心から思った。
「話は終わったの?」
「レミリア!」
「お嬢様。」
声の方を向くとお嬢様とパチュリー様が立っていた。
「どうしたの?」
お嬢様が憔悴した顔をしている事に気付いた霊夢が尋ねた。
「雨の中を散歩できるか試してみただけよ。」
「可愛い娘が倒れて原因と思われる守矢神社に母親が特攻しそうだったから、雨を降らせたのだけど、その雨の中に突っ込んだのよ。」
「パチェ、余計な事は言わなくていいわよ。」
「霊夢、もう一人の馬鹿親はどうしているの?」
「美鈴なら神社で寝ていると思うわ。魔理沙が付いていてくれるはずよ。」
「魔理沙にも借りを作ってしまったわね。」
「仕方ないわね。私は調子が悪いし、パチェも魔法を使って疲れている。美鈴もいない。悪いけど霊夢、咲夜の看病お願いするわ。それで、今回の事は水に流してあげる。」
「レミリア、ごめんなさい。……それとありがと。」
「気にしなくていいわよ。じゃぁ、私は寝るわ。後は任せたわよ。」
「私も疲れたから寝ることにするわ。」
お嬢様とパチュリー様を見送り、霊夢と二人きりに戻った。
「咲夜もまだ本調子じゃないんだから、寝ていないと。」
「……早苗には悪い事をしてしまいましたわ。」
「なんで?」
「多分、早苗も霊夢に好意を持っていると……」
「それは大丈夫と思うわ。早苗がよく神社に来ていたのは、幻想郷の勉強をする為ってのもあるみたいだけど、どうも、私と咲夜を見に来ていたみたいだから。」
「どういう意味ですの?」
「宴会の時に咲夜と私がなんかよそよそしい態度で、私達に何かあると思ったみたい。外の世界の言葉で百済とツンドラが株で、なんとか……。咲夜判る?」
「さぁ、判りませんわ。」
「よく判らないけど私と咲夜が仲良くしているとこを見たかっただけらしいの。咲夜の調子がよくなったら、二人で早苗のところに行かない?」
「そうね。そうしましょ。」
今迄で一番可愛いと思える笑顔で話す霊夢に、私も今迄で一番の笑顔で答えることができた。
10/03/26 誤字訂正
私も霊夢視点のお話が読みたくなりましたw
これは霊夢視点も期待!!