真っ黒な闇のかたまりがひゅるひゅると飛んでいた。高さは20mくらいで、一番高い木のてっぺんくらい。
そのてっぺんにかたまりがひっかかった。少しがさり、がさりと音を立てたあと、力尽きたように垂直に落ちてくる。
「おなかすいたのだー」
べちりと地面に落ちた後、だんだん闇が薄れて、ルーミアの姿がみえた。
「何をやってるんだ」
上白沢慧音はルーミアを肩に担ぐと、そこからは少し遠かったが、もこたんハウスに連れていった。
* * * * * * * * * * * * * *
「で、何をやっていたんだ」
作りおきのカレーをがばがばとかきこむルーミア。妹紅が調子に乗って寸胴いっぱいに作ったもので、一人で食べれば一週間分以上ありそうだったから、勝手知ったる人の家、主人が不在でも、食わせるには遠慮がない。しかしすでに半分くらいルーミア一人で食べている気がする。口の周りを真っ黄色にしたルーミアは上白沢慧音をして普通に汚いなと思わしめた。
「しばらく食べてなくて、それで」
一皿食べるごとに一杯の水を飲む、そのくりかえし。合間合間にぽつりとしゃべるので、会話をするのにずいぶん時間がかかった。
「夜になるのを待てなかった。暗くなれば人も油断するだろうと思ってひとまず自分の周りを暗くしてみた。すると何も見えなくなって、けれどじっとしていても獲物はやってこないから、匂いと直感を頼りに飛んでいった。それでこうなった。というわけか」
「うん」
15杯目のお代わりを自分でよそいながらこたえる。おいいい加減にしろ。
「まったく、しようがないな。今度からはわたしのところに来い。人はだめだが、今日みたいにカレーくらいならいくらでも食わせてやる」
「ありがとう。でも人が食べたいな」
渋面を作る。
「お前がそういう妖怪だということは知っている。しかし、他のものが食えるのなら、あえて人を食わなくてもいいんじゃないか。そうだ料理を教えてやろう。うまいものがいくらでもあるぞ。こう見えてもわたしの肉じゃがは絶品でな、もこたんの嫁にしてもらおうと思って一生懸命覚えたんだが」
「えー」
でももこたんはマヨネーズかけようとするんだよバカ舌だから、と言い募ろうとしていたところであからさまに嫌な顔をされた。なぜだ。おいしいのに。バッカ、軍隊でいえばそのカレーより二階級はえらいんだぞ!
「お前は勘違いをしている。そもそも肉じゃがとはかの東郷平八郎の無茶ぶりにこたえるため当時の海軍料理長がヤケッパチで編み出した、いってみれば始祖の『シェフのきまぐれディナー』。その味は音速を超え、食べたら口からビームが出るという」
「そーなのかー」
わりと感心して聞いてくれた。でも先生嘘ついちゃった、ごめんな、ビームは出ないよ、とすぐ謝っておいた。
肉じゃがにかぎらず料理を教えてやる、というと、ルーミアはしぶい顔をする。
「材料が人間なら」
「そんな料理はしらん」
「わたしは人間が好きなんだ」
自分がいうのとは同じ言葉でもぜんぜん意味が違うな、と慧音は思う。
「慧音は人間の料理を知らないんだ。教えてあげようか?」
「いらん! というか、そんな料理をするのか、お前は」
ルーミアはこくりと頷き、手間をかけた分だけおいしくなる、という。
「まず、首を落とすの。そのままかじってもいいけど、できれば火をおこした方がいいな。火ができたら首を投げ込んで、毛と皮膚を焼く。じゅうぶん焼けたらとり出して、頭のうしろに穴をあけて、脳髄をかき出して飲むの。
次に股から両脇腹にかけて切れ目をいれて、お腹の皮を胸の上に引きあげて、内臓を引きずり出す。肺、心臓、肝臓、胃腸、膀胱などを取り出しておく。内臓はあとあと食べる用なの。それから肋骨を叩いて折って、切っておいた脇腹から、こんどは腋の下までを切る。そうしておいて、両手と両足を胴体からちぎるの。で、腕の付け根だったところから首までを切ると、胴体が後ろと前のふたつに分かれる。あとはかんたん。胸とお腹を切り分けて、それからまた四つに切り分ける。背中の部分もいっしょ。腕と足はけっこうめんどうで、肘、手首、膝、足首の、関節で切り離さないといけない。
子供だったら何人でも食べられるけど、大人の男が何人も、だったりすると、一度では食べられないから、日持ちするように残しておくの。煙でいぶすんだけど」
「わかったもういい」
さっきまでうまそうだったカレーがとたんに不味そうに見えた。
* * * * * * * * * * * * * *
輝夜との死闘を終えてやたらセクシャルな格好になって帰ってきた妹紅が、カレーのほとんどがなくなってしまったことに憤慨するのを尻目に、慧音は額に手を当てて悩んでいた。どうしたものか……。
「男は不味いのか」
妹紅が訊く。まったくの興味本位だ。
「不味いよ。でも、あそこはおいしいかも」
「あそこ?」
「男だけについてるやつ」
「なっ」
妹紅が鼻白む。
「なんだばれあー!」
慧音が暴発する。何の意味の叫びかわからない。そっそうか、うまいのか、うんうん、と妹紅が腕を組んでしきりに首を前後に動かす。
「それは竿の部分がうまいのか、それとも玉の部分が」
「デベロッパーネットワーク!」
叫んで慧音がちゃぶ台をひっくりかえす。後片付けしたあとで良かった。
「慧音、おちつ慧音」
「両方おいしいけど珍味といえば玉の方が」
「貴様らいい加減にしないと頭突くぞ。ひとりロングホーントレインだぞ」
それはハリケーンミキサーじゃないのか、とはふたりともツッコまなかった。ちょっとツノみえてたから。
さいわいもこたんが「慧音のツノはタケノコみたいでかっこいいな。しゃぶりたくなっちゃう。だからルーミアのいないときに見せてね」というと照れながら「あとでね」と言ってひっこめてくれた。今夜は家出しようともこたんは思った。
しかし、ルーミアはその、男について、いやさ、男についてるものについても、食材としか捉えてないということか。慧音は思った。
「ルーミアは恋をしたことがないのか」
聞いてみた。
「恋……」
ルーミアはぽかんとした。
「みすちーのことが好き」
「そういうんじゃなくて、もっとこう、ぎゅっと抱きしめたくなるような、抱きしめてもらいたくなるような、色恋沙汰のことだよ」
「うん」
ルーミアはうなずいた。
「みすちーが好き」
「そういうんじゃなくてな」
どう説明したものか、と困っていると、そういうことなんだろ、と妹紅がつぶやいた。
「うむ……そうか、ルーミアは男の魅力を知らないんだな。わたしが教えてやろう。この千人斬りの処女といわれたけーね先生が」
「意味がわからん」
「黙れ。ここに秘蔵の『けーね先生・いけない放課後』vol.1がある。最近幻想郷で普及しつつある、ビデオテープというやつだ。これを見れば男の魅力でお前らの娘もだだ濡れだ」
「慧音って人に厳しいわりには自分はものすごくシモいよね……」
もこたんドン引き。
「慧音のエロビデオをみても……わたしみすちーみたいなスモールな、リトルな、世が世なら条例違反な感じじゃないとだめなのだー……」
「安心しろ、わたしが出演しているわけではない。そんなわけあるか。これは男の中の男をあまさず表現した奇跡の映像作品だ。彼が進むところ銃撃・爆発・皆殺しのジェノサイド。ひとり第三次世界大戦と言われた男の勇姿を見て涙しろ」
夜空を見上げる度に思い出せー、と言いつつ慧音はテープをデッキに入れてスイッチオンした。
ウィィィィィィン…………
-----------------------------------------
「無事取り戻したければ俺たちに協力しろ、ok?」
「面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
「筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ」
「最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ」
「第三次大戦だ!」
「こいよベネット!銃なんか捨ててかかって来い!!」
「野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁ!」
「死体だけです」
-----------------------------------------
「………………」
「コマンドーじゃねえか」
「なー、なー、すごいだろー、カッコイイだろー!」
「伴天連のマッチョマンなんかに興味はないが……」
「何を言う、これが男の完成形だぞ」
「うむ、こうまでマキシマムだと、なんというか幸せ回路が大回転してしまうな。脳とはまったく別のところで」
「だろー、だろー、イカスだろー。あの娘みたいに肩の上乗りたくなっちゃうだろ」
「ルーミア、どうだ? ずっと黙ってみてたけど」
「固そう」
「そりゃ固いよ! ガチガチだよ! 鍛えた腹筋は槍も通さないよ! あーあの腹筋さわりたいなー」
「慧音は黙ってろ。どう、抱かれたいとか思う?」
「むしろあの娘のほうが」
「うぉい、黙って聞いてりゃお前、レズビアンかよ!」
お前が言うのか、と妹紅は口には出さずに目を伏せた。
結局ルーミアはそのあと、つづけざまにバトルランナーを見せようとする慧音をふりきって、帰ることになった。
* * * * * * * * * * * * * *
あたりはもう暗かった。からすももう飛んでいないし、風の音だけがやけによく聞こえる。月も出ていない。妖怪は月を好むが、ルーミアはどうなのだろう。真っ暗なほうが好きなのだろうか。けれど、自分でも前が見えなくなって、木にひっかかってしまうような奴ではある。
「また来るといい。今度は肉じゃがを食わす」
「えーと、うん!」
ちょっと考える様子だったが、にっこり笑って両手を広げた。カレーがおいしかったことを思い出したのだろう。妹紅は今更ながらにセクシー洋服を着替えていて、家の中にひっこんでいる。というかたぶん裏口から逃げてる。
「食べられなかったらまた来るね」
「食べられなかったら、か」
慧音は目を伏せてしまった。先生なのによくないな、と思った。
「なあ、お前がそういう妖怪だということは知っている。人を食って、闇を出して、人間から恐れられる妖怪だ。でもな。お前がこの前食べた男は、娘が生まれたばかりだったんだ。二番目の子供で、奥さんはけっこう苦労して産んだ。これから食い扶持が増えるからがんばって稼がなきゃ、って幸せそうに言ってたよ。気の早い奴で、こいつの嫁入りの時には俺は泣くだろうなー、なんて冗談めかしてた。子供のころは太ってて、わたしの寺子屋では眠ってばかりいるような奴だった。起きてると思うと退屈そうに折り紙を折ったりしていてな。釣りが得意で、寺子屋の後は釣竿を持って仲間と川に行くんだ。
そいつをお前が捕まえて、殺して、首を落として、バラバラにして、食ったなんて聞くと、わたしはとても悲しい気持ちになってしまうんだ。肉はまだ、とってあるのか。
だから、お前にはわたしの料理のほうを食べてほしい、と思う」
目を上げると、ルーミアがこちらを見返していた。両腕をまっすぐに横に伸ばした、いつものポーズをしている。何も考えていないのか、と慧音は思った。でもそんなことはないんだと、すぐに心の中で首を振った。
「慧音の料理楽しみだな」
と、ルーミアが言った。そしてつづけた。
「わたし、長く生きてるから」
そうだな、と慧音は言った。歴史喰いの能力でルーミアの歴史をみてみようかと思ったが、やめておいた。
「じゃあ、またね」
「ああ。肉じゃがうまいぞ。ナメるなよ。実はペペロンチーノとかも作れるぞ」
「そーなのかー」
というと、ルーミアは飛んでいった。自分で闇を出さなくても、あたりが暗いのですぐに見えなくなった。
(おしまい)
そのてっぺんにかたまりがひっかかった。少しがさり、がさりと音を立てたあと、力尽きたように垂直に落ちてくる。
「おなかすいたのだー」
べちりと地面に落ちた後、だんだん闇が薄れて、ルーミアの姿がみえた。
「何をやってるんだ」
上白沢慧音はルーミアを肩に担ぐと、そこからは少し遠かったが、もこたんハウスに連れていった。
* * * * * * * * * * * * * *
「で、何をやっていたんだ」
作りおきのカレーをがばがばとかきこむルーミア。妹紅が調子に乗って寸胴いっぱいに作ったもので、一人で食べれば一週間分以上ありそうだったから、勝手知ったる人の家、主人が不在でも、食わせるには遠慮がない。しかしすでに半分くらいルーミア一人で食べている気がする。口の周りを真っ黄色にしたルーミアは上白沢慧音をして普通に汚いなと思わしめた。
「しばらく食べてなくて、それで」
一皿食べるごとに一杯の水を飲む、そのくりかえし。合間合間にぽつりとしゃべるので、会話をするのにずいぶん時間がかかった。
「夜になるのを待てなかった。暗くなれば人も油断するだろうと思ってひとまず自分の周りを暗くしてみた。すると何も見えなくなって、けれどじっとしていても獲物はやってこないから、匂いと直感を頼りに飛んでいった。それでこうなった。というわけか」
「うん」
15杯目のお代わりを自分でよそいながらこたえる。おいいい加減にしろ。
「まったく、しようがないな。今度からはわたしのところに来い。人はだめだが、今日みたいにカレーくらいならいくらでも食わせてやる」
「ありがとう。でも人が食べたいな」
渋面を作る。
「お前がそういう妖怪だということは知っている。しかし、他のものが食えるのなら、あえて人を食わなくてもいいんじゃないか。そうだ料理を教えてやろう。うまいものがいくらでもあるぞ。こう見えてもわたしの肉じゃがは絶品でな、もこたんの嫁にしてもらおうと思って一生懸命覚えたんだが」
「えー」
でももこたんはマヨネーズかけようとするんだよバカ舌だから、と言い募ろうとしていたところであからさまに嫌な顔をされた。なぜだ。おいしいのに。バッカ、軍隊でいえばそのカレーより二階級はえらいんだぞ!
「お前は勘違いをしている。そもそも肉じゃがとはかの東郷平八郎の無茶ぶりにこたえるため当時の海軍料理長がヤケッパチで編み出した、いってみれば始祖の『シェフのきまぐれディナー』。その味は音速を超え、食べたら口からビームが出るという」
「そーなのかー」
わりと感心して聞いてくれた。でも先生嘘ついちゃった、ごめんな、ビームは出ないよ、とすぐ謝っておいた。
肉じゃがにかぎらず料理を教えてやる、というと、ルーミアはしぶい顔をする。
「材料が人間なら」
「そんな料理はしらん」
「わたしは人間が好きなんだ」
自分がいうのとは同じ言葉でもぜんぜん意味が違うな、と慧音は思う。
「慧音は人間の料理を知らないんだ。教えてあげようか?」
「いらん! というか、そんな料理をするのか、お前は」
ルーミアはこくりと頷き、手間をかけた分だけおいしくなる、という。
「まず、首を落とすの。そのままかじってもいいけど、できれば火をおこした方がいいな。火ができたら首を投げ込んで、毛と皮膚を焼く。じゅうぶん焼けたらとり出して、頭のうしろに穴をあけて、脳髄をかき出して飲むの。
次に股から両脇腹にかけて切れ目をいれて、お腹の皮を胸の上に引きあげて、内臓を引きずり出す。肺、心臓、肝臓、胃腸、膀胱などを取り出しておく。内臓はあとあと食べる用なの。それから肋骨を叩いて折って、切っておいた脇腹から、こんどは腋の下までを切る。そうしておいて、両手と両足を胴体からちぎるの。で、腕の付け根だったところから首までを切ると、胴体が後ろと前のふたつに分かれる。あとはかんたん。胸とお腹を切り分けて、それからまた四つに切り分ける。背中の部分もいっしょ。腕と足はけっこうめんどうで、肘、手首、膝、足首の、関節で切り離さないといけない。
子供だったら何人でも食べられるけど、大人の男が何人も、だったりすると、一度では食べられないから、日持ちするように残しておくの。煙でいぶすんだけど」
「わかったもういい」
さっきまでうまそうだったカレーがとたんに不味そうに見えた。
* * * * * * * * * * * * * *
輝夜との死闘を終えてやたらセクシャルな格好になって帰ってきた妹紅が、カレーのほとんどがなくなってしまったことに憤慨するのを尻目に、慧音は額に手を当てて悩んでいた。どうしたものか……。
「男は不味いのか」
妹紅が訊く。まったくの興味本位だ。
「不味いよ。でも、あそこはおいしいかも」
「あそこ?」
「男だけについてるやつ」
「なっ」
妹紅が鼻白む。
「なんだばれあー!」
慧音が暴発する。何の意味の叫びかわからない。そっそうか、うまいのか、うんうん、と妹紅が腕を組んでしきりに首を前後に動かす。
「それは竿の部分がうまいのか、それとも玉の部分が」
「デベロッパーネットワーク!」
叫んで慧音がちゃぶ台をひっくりかえす。後片付けしたあとで良かった。
「慧音、おちつ慧音」
「両方おいしいけど珍味といえば玉の方が」
「貴様らいい加減にしないと頭突くぞ。ひとりロングホーントレインだぞ」
それはハリケーンミキサーじゃないのか、とはふたりともツッコまなかった。ちょっとツノみえてたから。
さいわいもこたんが「慧音のツノはタケノコみたいでかっこいいな。しゃぶりたくなっちゃう。だからルーミアのいないときに見せてね」というと照れながら「あとでね」と言ってひっこめてくれた。今夜は家出しようともこたんは思った。
しかし、ルーミアはその、男について、いやさ、男についてるものについても、食材としか捉えてないということか。慧音は思った。
「ルーミアは恋をしたことがないのか」
聞いてみた。
「恋……」
ルーミアはぽかんとした。
「みすちーのことが好き」
「そういうんじゃなくて、もっとこう、ぎゅっと抱きしめたくなるような、抱きしめてもらいたくなるような、色恋沙汰のことだよ」
「うん」
ルーミアはうなずいた。
「みすちーが好き」
「そういうんじゃなくてな」
どう説明したものか、と困っていると、そういうことなんだろ、と妹紅がつぶやいた。
「うむ……そうか、ルーミアは男の魅力を知らないんだな。わたしが教えてやろう。この千人斬りの処女といわれたけーね先生が」
「意味がわからん」
「黙れ。ここに秘蔵の『けーね先生・いけない放課後』vol.1がある。最近幻想郷で普及しつつある、ビデオテープというやつだ。これを見れば男の魅力でお前らの娘もだだ濡れだ」
「慧音って人に厳しいわりには自分はものすごくシモいよね……」
もこたんドン引き。
「慧音のエロビデオをみても……わたしみすちーみたいなスモールな、リトルな、世が世なら条例違反な感じじゃないとだめなのだー……」
「安心しろ、わたしが出演しているわけではない。そんなわけあるか。これは男の中の男をあまさず表現した奇跡の映像作品だ。彼が進むところ銃撃・爆発・皆殺しのジェノサイド。ひとり第三次世界大戦と言われた男の勇姿を見て涙しろ」
夜空を見上げる度に思い出せー、と言いつつ慧音はテープをデッキに入れてスイッチオンした。
ウィィィィィィン…………
-----------------------------------------
「無事取り戻したければ俺たちに協力しろ、ok?」
「面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
「筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ」
「最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ」
「第三次大戦だ!」
「こいよベネット!銃なんか捨ててかかって来い!!」
「野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁ!」
「死体だけです」
-----------------------------------------
「………………」
「コマンドーじゃねえか」
「なー、なー、すごいだろー、カッコイイだろー!」
「伴天連のマッチョマンなんかに興味はないが……」
「何を言う、これが男の完成形だぞ」
「うむ、こうまでマキシマムだと、なんというか幸せ回路が大回転してしまうな。脳とはまったく別のところで」
「だろー、だろー、イカスだろー。あの娘みたいに肩の上乗りたくなっちゃうだろ」
「ルーミア、どうだ? ずっと黙ってみてたけど」
「固そう」
「そりゃ固いよ! ガチガチだよ! 鍛えた腹筋は槍も通さないよ! あーあの腹筋さわりたいなー」
「慧音は黙ってろ。どう、抱かれたいとか思う?」
「むしろあの娘のほうが」
「うぉい、黙って聞いてりゃお前、レズビアンかよ!」
お前が言うのか、と妹紅は口には出さずに目を伏せた。
結局ルーミアはそのあと、つづけざまにバトルランナーを見せようとする慧音をふりきって、帰ることになった。
* * * * * * * * * * * * * *
あたりはもう暗かった。からすももう飛んでいないし、風の音だけがやけによく聞こえる。月も出ていない。妖怪は月を好むが、ルーミアはどうなのだろう。真っ暗なほうが好きなのだろうか。けれど、自分でも前が見えなくなって、木にひっかかってしまうような奴ではある。
「また来るといい。今度は肉じゃがを食わす」
「えーと、うん!」
ちょっと考える様子だったが、にっこり笑って両手を広げた。カレーがおいしかったことを思い出したのだろう。妹紅は今更ながらにセクシー洋服を着替えていて、家の中にひっこんでいる。というかたぶん裏口から逃げてる。
「食べられなかったらまた来るね」
「食べられなかったら、か」
慧音は目を伏せてしまった。先生なのによくないな、と思った。
「なあ、お前がそういう妖怪だということは知っている。人を食って、闇を出して、人間から恐れられる妖怪だ。でもな。お前がこの前食べた男は、娘が生まれたばかりだったんだ。二番目の子供で、奥さんはけっこう苦労して産んだ。これから食い扶持が増えるからがんばって稼がなきゃ、って幸せそうに言ってたよ。気の早い奴で、こいつの嫁入りの時には俺は泣くだろうなー、なんて冗談めかしてた。子供のころは太ってて、わたしの寺子屋では眠ってばかりいるような奴だった。起きてると思うと退屈そうに折り紙を折ったりしていてな。釣りが得意で、寺子屋の後は釣竿を持って仲間と川に行くんだ。
そいつをお前が捕まえて、殺して、首を落として、バラバラにして、食ったなんて聞くと、わたしはとても悲しい気持ちになってしまうんだ。肉はまだ、とってあるのか。
だから、お前にはわたしの料理のほうを食べてほしい、と思う」
目を上げると、ルーミアがこちらを見返していた。両腕をまっすぐに横に伸ばした、いつものポーズをしている。何も考えていないのか、と慧音は思った。でもそんなことはないんだと、すぐに心の中で首を振った。
「慧音の料理楽しみだな」
と、ルーミアが言った。そしてつづけた。
「わたし、長く生きてるから」
そうだな、と慧音は言った。歴史喰いの能力でルーミアの歴史をみてみようかと思ったが、やめておいた。
「じゃあ、またね」
「ああ。肉じゃがうまいぞ。ナメるなよ。実はペペロンチーノとかも作れるぞ」
「そーなのかー」
というと、ルーミアは飛んでいった。自分で闇を出さなくても、あたりが暗いのですぐに見えなくなった。
(おしまい)
マジでどこについてコメントしていいか悩む;ww
ルーミアの人間調理説明ですが、字面だとこれって普通に豚や牛のそれとあんま変わらないんですね……
色々ツッコミたいが、それやったら本文より長くなるから言わない。
とりあえずるみゃに目の前にしゃがまれて上目遣いで「ねえ、アレ食べさせて……?」って言われても取り出しちゃけないことだけはわかった。
後のツッコミ所は無理ですw
一番気なったのはこの話がアウトなのか、セーフなのか。
一番予想外だったのはコマンドーだったけどw
あぁ、当然だけど、誰にでもその人だけの人生があるんだよなぁ…みたいな。
何言ってるかよくわかりませんね、すみません(^_^;)
ありがとうございます。
>1さん
>ルーミアの人間調理説明ですが、字面だとこれって普通に豚や牛のそれとあんま変わらないんですね……
これは本の中でもつっこまれていたところで、作者は「もしかすると現地人はこちらにサービスするつもりで、こんな作り話をしているのかも」
と書いてましたね。
どうなんでしょうね。
ってことですか?妖怪パネェw