これは、作品集58にある『咥えるキャプテンが悪い話』の続きになっています。
読んでいるといいと思います。
きっと、私に色気が足りないから、だからムラサは私にキスをしてくれないんだ。
一輪にばかり、あんなに大事そうに口付けるんだ。
「だからムラサ、何も言わないで私の胸を揉めぇ!」
「何が『だから』なのッ?!」
屋根の上で一人寂しく膝を抱えていたムラサに詰め寄り、逃がさない様に肩を掴みながら叫ぶと、ムラサが屋根から落ちそうな勢いで後ずさった。その動作で私まで引っ張られ、まるでムラサを押し倒しているみたいになる。
「どど、どどどどどどうして?! 何でそういう事になっているの?! え、えと、この前、泣かしちゃった仕返しなのっ?!」
「……ッ」
ズキリ、と。
ムラサの言葉で、お風呂場で拒絶された事を思い出して、また涙腺が緩んできた。
無理って、必死な顔で叫んだムラサは、その後泣き出す私に硬直して「ぁ…ぅ…」と逃げ出してしまった。
あのムラサが、私から逃げるくらい、私にキスをしたくなかった。
それが悲しくて惨めで、私はムラサをついきつく睨む。
「……っ」
びくりと身体を震わせて、ムラサは私からそっと目を逸らす。
その弱々しい姿に、苛立ちながらも、絶対にムラサ好みの色気のある女になって、見返してやろうって、改めて思った。
その為には、まずはバストだった。
「……いいから、揉んでよ」
「ぶっ?!」
「っ……も、揉んで、ください!」
ムラサの冷たい手をとって、自分の薄い胸に押し当てた。
服の上からだけど、私より大きなムラサの手を感じて、かあっと頬が熱くなる。
胸を大きくするには、揉んで貰うのが一番なんだって、地底にいた頃、下卑た話題で盛り上がっていた一団が話していたのを覚えている。
そして、なら私はムラサに揉んで欲しい。
ムラサが、色気の無い私の胸を揉むのが嫌だって言うなら、プライドなんてどうでもいい。お願いする。
……小さいままだと、ムラサが好きになってくれないなら、そっちの方が悲しくて、嫌だった。
「ぬ、ぬぬ、ぬえさん?!」
「そっちの手も、ちゃんと置いてよ」
「―――――?!」
声にならない悲鳴、というヤツだろうか? ムラサは汗をだらだらかいて、少しも私の手伝いをしてくれない。
……やっぱり、小さいと揉みたくないのだろうか?
ズキン、と小さく心が痛くて、でも諦めない。
焦れて、私からムラサのもう一方の手もとって、空いた胸にまた押し当てた。
ムラサの顔が「ぎゃーぎゃー?!」って感じに真っ赤になっていく。
「……揉んで」
両手をムラサの手に添えて逃げられない様にしながら、恥ずかしさに耐えてお願いする。
その声に、びくりとムラサの手が反応して、少しだけ、胸を揉んで貰えた。
いきなりだったから、ふぁっと声が漏れて、羽がピンッと伸びた。
「…んっ」
「みぎゃあ?!」
私が小さく震えると、ムラサが真っ赤な顔で変な声をあげて、涙目で固まってしまった。
その、今にも泣きそうな怯えた顔に、私はムッとして、顔を近づける。そうしたら、胸を押すムラサの手が更に押し付けられて、外と内が、同時にほわんと暖かくなる。
その不思議な熱が心地よくて、でもムラサの態度は納得いかなかった。
「もう! ムラサってばどうして快く揉んでくれないのよ?」
「む、無茶を言わないでよっ?!」
「……っ、やっぱり、揉むなら一輪がいいんだ」
「はいっ?!」
誤魔化すムラサに、更に苛立って、私はムラサにもっと密着するように体重をかけて、ムラサの浮いた頭が瓦にくっつくぐらい顔を寄せた。
「いっ?!」
「……ムラサさ、一輪の胸、揉んだ事あるよね?」
「えっ?! …や、そりゃ」
「……あるでしょ?」
「ぅ…。………………あるけども」
「やっぱあるんじゃないッ!」
「らっ、だって、だって今のぬえみたいに問答無用だったもん!」
やっぱりだと怒鳴ると、うるうるともう零れそうな涙で、必死に弁解する男らしくないムラサに、私は情けないと少し思って、でも可愛いとか、キュンとしてしまったり、頼りないからリードしてあげたいとか、泣き顔がもう堪らないとか、強く思ってしまう。
何でこう、ムラサって私のツボを突きまくるんだろう?
どうして、どうやっても嫌いになれないんだろう……?
「……ムラサ」
「あぅ」
「とりあえず、今は一輪の事はいいから、揉んで」
「ひぎゃっ?!」
「……や、やさしくね?」
痛いのは怖いので、そうやって付け足すと、ムラサは「…へぐっ」と息を呑んで、みるみる耳も首筋もどんどん赤くして、ぱくぱくと苦しそうに呼吸をしていた。
耳を澄ますと、混乱しているムラサの独り言が聞こえる。
「…え? これ何? いや、とりあえず女子に恥をかかせるのは船長としてどうだろうって私も女子なんだけど。まずどうしてだからなんで胸を揉む事になっていてあぅぅうぅう?!」
すんごい混乱して、私の胸を押さえたままぷるぷる震えている。
その姿に更にきゅうんとして、さっきまで必死だったから気付かなかったけど、私もかなりドキドキしている事に、やっと気付いた。
わ、いや。
気付いたら、何だか急に恥ずかしいというか、苦しくなってきた。
私の薄い胸を、きゅっと強く抑えるムラサの手を、ことさら意識してしまう。
「……む、ムラサぁ」
「ッ」
ドキドキがおかしいぐらい高くて、ムラサを不安げに呼ぶと、ムラサがハッとして視線を私に当てた。
その弱々しかった視線が、一瞬で硬く、強くなって。その過程を間近で見てしまった私は、その表情だけでくらくらとのぼせそう。
長時間お風呂でゆだっているみたいに、身体が熱くて呼吸が乱れた。頭の中がぼうっとして、まともに機能しない。
「ぬえ」
呼ばれて、その響きにじん、と感動する。
やっぱり、ムラサの声も、大好きだ。
「あの、さ。……胸を揉むって、本当に、私でいいの?」
「んっ」
「……でも、私って下手みだいだよ? 小さい時の一輪が泣きそうだったし」
「今は、一輪の事を、言わないでよ」
「? う、うん」
睨むと、大人しくムラサは口を閉ざし、視線を少しだけ泳がせて、その新緑の瞳を、私の赤いだけの目とあわせる。
ムラサは、真っ赤な顔で、でも覚悟を決めていた。
「じ、じゃあ、あの、揉みます…」
「……っ」
ぎゅうって、締め付けられるみたいな幸福の痛みが、胸に大きく響き、全身に波の様に広がっていく。
ムラサが、ムラサが揉んでくれるって、私の胸を大きくしてくれるって、言ってくれた。
嬉しくて、ぷるぷると羽まで震えてしまう。でも酷く照れ臭くもあって、私は小さく、こっそりと頷いた。
そして、ムラサはごくっと喉を鳴らして、緊張した顔で、私に押し当てられたままの手の平と指に、少しだけ力を加えた。
胸が熱くて、背中に汗をかいていて、きっと私の顔は、赤いんだと思う。
ぴりぴりと何だか物足りない、湧き上がるものを感じながら、ムラサの手をもっとよく感じようと、瞳を閉じる。
「っ」
そうしたら、ムラサの息を呑む音がして、ふわりと、唇に熱い呼気を感じた。
ぁ、って。
不思議なぐらい、高鳴り静かになっていく感覚。
そこにあるのがムラサの唇だと分かる、膨大な幸福感。
少しだけ、私は唇を意識して、ぴくりと尖らせた。
ちゅっ、と。
それは、唇のすぐ真横に、そっと触れられた。
意地悪で、でも、優しい口付けだった。
「って、貴方たちは何をしているのよぉ!!」
ッ!
そして、その時間はあっさりと、でも私の中に大きなものを残して、一瞬で崩れ去った。
「一輪……ッ」
邪魔されて、声が苛立ちで染まった。
ガツン、と瓦を踏みしだく足音。怒り心頭に、でもどこか傷ついた表情で、毛布とお握りを持っている一輪。
きっと、ムラサに差し入れにきたのだろう。
ほら、ムラサが一輪を見て、嬉しそうにしてから「ひぃ?!」と青くなった。
そして言い訳を始めて、情けなく小さくなっている。
「ま、まって一輪ちゃん! これには海より深いかもしれない訳があるっていうか、何が何だか私にも分からないっていうか!?」
「ムラサぁ!」
「うわごめんなさいごめんなさい! そうだよね! 昔に、一輪ちゃん以外にこういうことしないって約束したもんね!? まだ有効だったんだよね?!」
混乱して、どう考えても子供のかんしゃくに慌てふためいているお姉ちゃんみたいな口調になっている。
それが、一輪にとって、堪らなく嫌だって事に、ムラサはいまだに気付いていない。
一輪が酷く辛そうに、一瞬だけ顔をしかめて、すぐにいつもの大人びた表情でそれを覆い隠す。
「そ、そんな昔の事を、今は持ち出していないわよ! だ、大体あれは、私が姐さんみたいになりたいって、私からムラサにお願いしたんだから、気にしないでよ!」
「いや、いやでも、私も誰かの胸を揉むなんて初めてで、一輪をぐったりさせちゃって本当に申し訳なくて、やっぱり顔を見るのが恥ずかしいからって、膝の上に乗せてってのが駄目だったのかなって後悔してて」
「ちょっ?! そ、そんな事までしゃべるな馬鹿!」
一輪が走って、スライディングして私に押し倒されて、私の胸に手を置いたままのムラサの口を手で押さえた。
ムラサが「もごぉ?!」って目を白黒させる。
「………へえ?」
「っ」
私が冷めた、でも実際は嫉妬で燃え盛る瞳で見ると、一輪はぎくりと肩を震わせて、でも、同じくらい強い瞳で、私を睨み返した。
「ぬえ、貴方もわっ『私』のムラサに何をしていたのよ?」
「…! ……一輪こそ『私』のムラサに何をして貰ってたわけ?」
バチバチバチ。見えない電撃が私たちの間に飛び交った。
口を塞がれたムラサはもごもごと、もう混乱しすぎて怯えた表情で、それでも抵抗している。
「……ま、まあ、昔の幼い私にとって、ムラサはお姉ちゃん代わりだったのよ。だから、それはもう、お風呂もお布団も食事も遊びも保健体育(コウノトリやキャベツ畑レベル)もムラサに教わったの」
「っ?! ほけっ?! ……っ、へ、へえ? でも? 地底では、ムラサは私の悪戯にかかりきりだったから、貴方なんて放って置かれるわ聖の事で頭が一杯だわで、いつの間にか妹は卒業してるとか思いこんでいるみたいだけど、ムラサにとって、一輪は今でも可愛い妹みたいよね?」
「……ッ!」
バリバリバリバリッ。
今度は目に見える放電現象だった。ムラサがびびっている。
「……何が、言いたいのかしら?」
「一輪さあ、最近になって、本気になるとか虫が良すぎるんじゃないの? 今まで通り、妹で親友ってポジションで、我慢しなさいよ!」
「っ。わ、私は、もうそれは嫌なのよ! ……諦めきれない、諦めたくないって、貴方の出現で、思うようになったから!」
いつの間にか、一輪はムラサを膝枕して、その口を押さえている。
私は、ムラサの指を胸に食い込ませたまま、一輪を睨む。
知ってた。
地底にいた頃から、この女がムラサを好きだったって事は分かっていた。
でも、この女は最初から諦めていた。
なのに、最近になって、ムラサを見る目が、態度が、変わっていった。
ムラサを、意識して、『女』になっていた。
焦って、苦しかった。
私よりずっと女らしい、私よりムラサを知る、ムラサのトラウマが、不意に、ほんの一瞬だけ表にでる時も、当然の様に受け止めて、その首に、羨ましい青紫の跡をつける、ムラサの特別。
本来、精神的に不安定な幽霊が、ここまで形を持ち、こんなにも理性と常識を持ちあわて、何より優しいのは、一輪の存在がきっと大きい。
私の好きなムラサは、一輪がいるからこそ、ここに在る。
それが悔しい。
「……でも、私は諦めない」
「…………」
一輪を静かに睨んで、私は吐露する様に、呟いた。
「だって―――」
後悔なんて、したくないから。
言葉にならないそれは、一輪にちゃんと通じて、彼女は少し、耳に痛そうに目元を震わせた。
「……ええ、そうね。……私は、後悔したから」
ムラサを、諦めようとして。
それを、一輪が悔やんでいる事が、私に痛いぐらい、通じた。
私と一輪は、睨みあってから、すぐに同時に、ムラサを同時に引き寄せる。
互いの気持ちが理解できるからといって、譲れる問題ではないのだから。
私たちは、愛しい人を引っ張り合う。
「あいたっ!?」
どういう状況なんだろうと、中心にいるのに気付かない絶賛恋愛感情死亡中のムラサを引っ張り合う。
そして、私と一輪に、腕に縋りつかれて、一輪の持ってきていた毛布に上手いぐらいに三人の身体が乗って、
気付いたら、私たちは息を荒げて、揃って丸い月を見上げる事になった。
……。
はあ、って、ムラサの溜息が聞こえた。
私と一輪に挟まれて、きっとよく分からないままに、勝手に勘違いしているのだろう。
「……えっとさ。何だか、私が言うのは場違いな気がするんだけど」
ぽんぽんっと、ムラサが私たちの頭を撫でる。無理な体勢だろうに、自然に撫でる。
「仲良くしようよ」
無理だ馬鹿。
きっとこれは、私と一輪が、心の中で同時に突っ込んだ、正直な言葉。
私たちの船長は、私の薄い胸と、一輪の豊満な胸を腕に押し付けられて、どうにも変な顔で、小首を傾げて、そっと星を見上げる。
そうやって遠くを見るムラサの横顔は、とても素敵だったから、
私と一輪は、示し合わせたみたいに、同時に頬に口付けた。
もう結婚しちゃえよ…二人と……
悪霊すぎるなあしかしw理由なく胸を揉むとか・・・
凶悪な悪霊が居まして…
もうこの船長はいっぺんこっぴどく説教喰らうべき
我もこんな素敵なSSを書きたいのぜ
胸は3人で揉み合えピチューン
どこかの戦艦と艦長とオペレータみたいな関係で。
そうすればキャプテンは悪く…なくはないな、うん。
一村鵺万歳!虎と鼠は早く誤解に気付け。
幻想郷なら受け入れてくれるはず……?
いいぞもっとやれ
はやく聖はこの悪いキャプテンに南無三するべき
でもぬえの最初の動機部分だけは村紗に同感だ