宵闇とは日が落ちて月が出る間までのことで、電灯もない幻想郷はかなり暗い。暗ければ灯りを求めたい。時間が時間だからお腹もすく。というわけで本日、わたしたち八雲一家はミスティアの屋台に来ていた。
「雨は夜更けすーぎーに、雪へとかわるだーろー♪」
ぜんぜん時期がちがう。ちがうがもともと幻想郷にクリスマスはない。ミスティアはほんとうに歌がうまくて、聞いているとごはんはうまいしお酒もすすむ。橙がキャッキャキャッキャ笑っている。藍が橙を見て笑っている。いいわね、とわたしは思った。おちょこにそそいだお酒もきりりとした辛口でおいしいし、屋台の灯りがお酒に反射してキラキラとてもきれいだ。覗き込むと自分の瞳が映り、花火のように熱を持っているように見える。
さてヤツメウナギである。夜目がきくようになるらしい。とはいえここにいるのは全員妖怪で、もともと昼間より夜のほうが得意な部類である。効果は二の次、まずは味をみるべし。
かぶりつく。
たいへんおいしかった。長年生きている自分でも、夢中になってしまうくらいに。
「あむあむあむあむはぐはぐはぐはぐ」
「ああもう紫さま、そんなにがっつかないでください。口の周りがタレでべたべたじゃないですか。三つも四つもいっしょに食べなくても、逃げやしませんよ」
といいつつ呆れたような、あきらめたような表情をする藍に口をふいてもらう。主の世話をするのが式のつとめなので、良いのだが、ふくときに手ぬぐいに唾をつけて湿らすのはいかがなものか。間接キッスではないか。いやさ、赤子扱いか。この妖怪スキマババアこと八雲紫が。
「妖怪スキマババアこと八雲紫が!」
「人から言われたら怒るくせに、自分で言わないでください」
「紫さまアンジェリーナジョリーみたいでセクシーです」
「ふふふ……」
なぜジョリ姐にたとえられたかはわからないが、とりあえずセクシーと言われたので妖艶に微笑んでみた。
「タラコクチビルになってる、と橙は言ってるんです」
「セクシークチビルです。それはもうパメラアンダーソンのように」
ぬう。オッパイで稼げと申すか。
期待にこたえて脱ごうとすると藍が力づくで止めに来た。「それは自分の役まわりだ!」と目で訴えていたのを忘れない。あとミスティアが(二時間ほどずっと歌ってる)ちらちらこっちをみつつ顔を赤らめていたのを確認。可愛い奴。
「日本をインドに、しーてしまえ!」
「何故」
「遠まわしですが、紫さまは辛いものを食べた、とミスティアは言っています」
「辛いもの?」
そういえば今日のヤツメウナギはいつもより多少刺激が強かったように思う。お酒のせいかと思ったが、ちょっと唇と舌がひりひりする。
「あ、わかります? 隠し味にこれを使ってみたんです」
そういって店主が出してきたのは、どん! ひとかかえもあるような大きな壷だった。蓋を取ってみると、赤かったり黄色かったりするような不思議な粉末が入っている。
「唐辛子です」
「唐辛子?」
「Red pepper」
「なんで英語なのよ。それと日本印度化計画なのになんでカレー粉じゃないのよ」
「知ってるんじゃないですか」
ツッコんだつもりが藍からツッコミ返された。
なにはともあれ唐辛子である。古くは麻雀放浪記で坊や哲が中毒になって死にかけたという、魅惑の香辛料。新しくは……しらね。
「まるでRubyのような赤さですね。あの刑事コロンボも、チリの料理が好物だったと覚えています」
「橙はほんとうに賢い子だな」
猫をその手に抱いて猫かわいがりする藍。むむう。
「勝ったと思うなよ、レモン食えないくせに!」
「皮が苦手なだけで食べられます! 紫さまだって砂糖かけないとグレープフルーツ食べられないじゃないですか!」
「ばーか、かけたほうがおいしいだけだもん!」
「むーっ!」
「しゃーっ!」
「はいはい喧嘩しない」
なでくりまわされる大妖怪。ときどき藍がきわどいところをさわってこようとしてきたり、ちょっと息遣いが荒くなったりするのが怖いが、接触は気持ちよいので良しとしよう。店主をみると顔を赤らめて混ざりたそうにしていた。淫乱スズメめ。
「さて……それで店主、あなたはこのヤツメウナギの味付けに、唐辛子を使ったと?」
「あっそうです。まだまだ試作品で、常連さんだけに食べてもらうつもりだったんですけど」
言われてみればタレがこころなしか赤いような。
「どうりでいつもより食べすぎてしまうわけだわ」
「紫さまはいつもあんなふうですよ」
藍はツッコまないと死ぬ病にでもかかっているのだろうか。
壷をとくりとながめてみる。頑丈そうで、色つやもいい良い壷だ。中を見る。唐辛子が口のすれすれまでどん! と入っている。手に入れたばかりのようだ。おおかた里の業務用食材店で大安売りでもしていたのだろう。容赦ないな。
赤だったり黄色だったりする香辛料をみているとふしぎに心が安らぐ。
まるで原初はわたしのすべてが唐辛子だったような……。
ふと、指にツバつけて、壷のなかの唐辛子を舐めてみた。
「あっだめですよ」
店主が非難する。指についた少量の唐辛子を舌にのせると、ぴりぴりした刺激とちょっぴり鼻に抜けるような匂いが広がった。おいしい。
「ふふふ……」
「だめです、紫さま」
「くっくっく……」
「だめですったらあ」
式がなにやらほざいているが、大妖怪には聞こえないのだ。両手をがばちょと壷のなかにいれ、山盛りの唐辛子をさっきまで食べていたヤツメウナギの上に豪快に盛る。すげえ一面真っ赤でウナギ見えない。
「イッツ!」
「なにがit'sだ!」
藍が立ち上がっておさえこもうとするが手が届く前にスキマパワーであられもない格好にしてやる。目をバチバチしばたいたのち食い入るように見つめるミスティア。橙はいつものことなので、スキマに手を突っ込んで何か使えそうな器具はないかな?と探している。ほんとエロいなお前ら。ゆかりん引き気味。
「で、イッツ! ショウタイム!」
「やーめーれー!」
たいへんなことになりながらも主を止めようとする藍を無視し、わたしは真っ赤なそれを(もはやヤツメウナギとは言うまい)口のなかに突っ込んだ。
噛んだ。
舌に大量の赤い粉末が浴びせかけられた。
喉の奥に落ちていった……大半は口のなかの粘液に拒否られて一ミリ秒で吐き出した。
「……………………ふっ………………」
こちらをみつめる三人をにらみかえし、カッチョイク口元をゆがめて笑うわたし(タラコクチビル)。
限界だ。
「かーーーらーーーーいーーーーー! かーーーらーーーいーーー! 辛い辛いかーーーらーーーーーーいーーーーーーーー!!!」
まずは屋台のカウンターにヘッドバッド。跳ね返る勢いを利用してのけぞり、後方の地面に頭頂部を接点としたアクロバティックな後転をキメる。そのまま何回か回った後、足から着地したタイミングで前方にダッシュをかけ、ニマニマしながら藍をいじくっていた橙にタックル、マウントを奪った。後頭部を打ちつけてくらくらしていた橙だが、のっかっているわたしを見るととたんに主のまた主の怖さを思い出したようだ。
「紫さま……ミックジャガーみたいになってます……」
「辛いのよう……サティスファクション辛いのよう……」
涙目で訴えるわたし。もうなんていうかデビル辛い。口から下半分が焼け落ちてリザレクらない感じ。
「藍、藍、水を」
「こうなってはいたしかたない」
神妙な顔で服を着る藍。あっスキマ消えてる。
「お願い、水を」
「紫さまの役に立つのがわたしです」
と言ったが早いか、藍は橙に乗ったままのわたしにがばりと覆いかぶさり、強引に唇を奪った。
「むーっ! むーっ! むーっ!」
「れろれろねちゃねちゃぺろぺろくちょくちょ」
「ままままままままま」
「んーちゅ、んーちゅ、んーちゅ、れろれろれろれろ…………」
抵抗もできず、口のなかを余すところなく舌で蹂躙されるわたし。歯の一本一本まで丁寧に舐めていくんじゃないかっていう執拗さだ。舌の付け根から喉の奥まで、左の奥歯から右の奥歯まで……。藍、舌長いな。
たっぷり5分間はベロベロされた後、ちゅぽん、と音を立てて藍が離れ、わたしたちははあはあ息継ぎした。
「ちゅー」
「またっ?」
店主があわあわしながら叫んだ。刺激が強すぎるだろう。わたしにも。
その後「お前の知らない言語の発音を教えてやる!」といわんばかりの勢いの舌技をいかんなく発揮しつつ藍はわたしの口のなかを残さず舐めとり、最後は唇と口のまわりに残った唐辛子をちゅっちゅとついばむようにしてきれいにした。その後店主に水をもらって飲んでた。最初からしろよ。
「ふう……まるで公然猥褻ね」
「そのとおりだと思いますよ」
うっさい化け猫。
「これにこりたら、すこしはショーマンシップを抑えてください」
「唐辛子も食えずして何が妖怪の賢者か!」
「基準がくだらないです」
藍はもう少し主にたいしてデレていいと思う。だってほら、今日のノルマ完了、みたいなやり遂げた顔してるじゃない。
式の期待にこたえるのもつらいものよ。よよよよよ。
「では店主、わたしたち帰るわ。ごちそうさま、ありがとさん」
「あっはい、じゃあ最後にGive it away歌います」
「いやいいから」
わたしたちは早々に引き上げた……辛すぎたので家に帰って甘いものでも食べたかったし、ミスティアの後ろに広がるやたらアグレッシブな妖気にも気づいていたからだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
「ふう、あそこん家はいつも全力だな」
屋台を片付けはじめるミスティア。ふだんならもう少しおそくまでやっているのだが、今夜はここらが限界だと思ったのだ。
「罠、罠、わなーにおーちーそーうー、っと」
キッスは目にしてー、しゃばだー、と歌いながら手早く店じまいをしていく。唐辛子は屋台の底部によっこらせとしまう。紫が残した食べかけの串を捨てようか食べようか迷っていたとき、ふと、あたりが暗くなった。
「あるぇー?」
火が消えるようなことはなかったはずだし、灯りが消えたとしても、妖怪である自分は夜目が効く。まさか鳥目? このわたしが? されば、ヤツメウナギを食わねばなるまい。そうよ、これは治療のためなのよ。とおずおずと紫の残した串に舌を近づけていくミスティア。その瞬間、後ろからがっちりと抱きすくめられた。
「唐辛子なのかー」
「………………」
だらだらと汗が流れる。昼間はよくいっしょに遊んでいる声だが、このシチュエーションで聞かされると恐怖でしかない。
「新しい味付けをためすのだー」
「いやぁぁぁぁぁ…………」
その後、朝までちゅっちゅされたミスティアは捕食の連鎖に真っ向から挑むため、八雲家に弟子入りしたという。
が、八雲紫に「あきらめなさい。あなたはナチュラルボーン誘い受けよ」と言われて泣いて帰ったという。
(おしまい)
「雨は夜更けすーぎーに、雪へとかわるだーろー♪」
ぜんぜん時期がちがう。ちがうがもともと幻想郷にクリスマスはない。ミスティアはほんとうに歌がうまくて、聞いているとごはんはうまいしお酒もすすむ。橙がキャッキャキャッキャ笑っている。藍が橙を見て笑っている。いいわね、とわたしは思った。おちょこにそそいだお酒もきりりとした辛口でおいしいし、屋台の灯りがお酒に反射してキラキラとてもきれいだ。覗き込むと自分の瞳が映り、花火のように熱を持っているように見える。
さてヤツメウナギである。夜目がきくようになるらしい。とはいえここにいるのは全員妖怪で、もともと昼間より夜のほうが得意な部類である。効果は二の次、まずは味をみるべし。
かぶりつく。
たいへんおいしかった。長年生きている自分でも、夢中になってしまうくらいに。
「あむあむあむあむはぐはぐはぐはぐ」
「ああもう紫さま、そんなにがっつかないでください。口の周りがタレでべたべたじゃないですか。三つも四つもいっしょに食べなくても、逃げやしませんよ」
といいつつ呆れたような、あきらめたような表情をする藍に口をふいてもらう。主の世話をするのが式のつとめなので、良いのだが、ふくときに手ぬぐいに唾をつけて湿らすのはいかがなものか。間接キッスではないか。いやさ、赤子扱いか。この妖怪スキマババアこと八雲紫が。
「妖怪スキマババアこと八雲紫が!」
「人から言われたら怒るくせに、自分で言わないでください」
「紫さまアンジェリーナジョリーみたいでセクシーです」
「ふふふ……」
なぜジョリ姐にたとえられたかはわからないが、とりあえずセクシーと言われたので妖艶に微笑んでみた。
「タラコクチビルになってる、と橙は言ってるんです」
「セクシークチビルです。それはもうパメラアンダーソンのように」
ぬう。オッパイで稼げと申すか。
期待にこたえて脱ごうとすると藍が力づくで止めに来た。「それは自分の役まわりだ!」と目で訴えていたのを忘れない。あとミスティアが(二時間ほどずっと歌ってる)ちらちらこっちをみつつ顔を赤らめていたのを確認。可愛い奴。
「日本をインドに、しーてしまえ!」
「何故」
「遠まわしですが、紫さまは辛いものを食べた、とミスティアは言っています」
「辛いもの?」
そういえば今日のヤツメウナギはいつもより多少刺激が強かったように思う。お酒のせいかと思ったが、ちょっと唇と舌がひりひりする。
「あ、わかります? 隠し味にこれを使ってみたんです」
そういって店主が出してきたのは、どん! ひとかかえもあるような大きな壷だった。蓋を取ってみると、赤かったり黄色かったりするような不思議な粉末が入っている。
「唐辛子です」
「唐辛子?」
「Red pepper」
「なんで英語なのよ。それと日本印度化計画なのになんでカレー粉じゃないのよ」
「知ってるんじゃないですか」
ツッコんだつもりが藍からツッコミ返された。
なにはともあれ唐辛子である。古くは麻雀放浪記で坊や哲が中毒になって死にかけたという、魅惑の香辛料。新しくは……しらね。
「まるでRubyのような赤さですね。あの刑事コロンボも、チリの料理が好物だったと覚えています」
「橙はほんとうに賢い子だな」
猫をその手に抱いて猫かわいがりする藍。むむう。
「勝ったと思うなよ、レモン食えないくせに!」
「皮が苦手なだけで食べられます! 紫さまだって砂糖かけないとグレープフルーツ食べられないじゃないですか!」
「ばーか、かけたほうがおいしいだけだもん!」
「むーっ!」
「しゃーっ!」
「はいはい喧嘩しない」
なでくりまわされる大妖怪。ときどき藍がきわどいところをさわってこようとしてきたり、ちょっと息遣いが荒くなったりするのが怖いが、接触は気持ちよいので良しとしよう。店主をみると顔を赤らめて混ざりたそうにしていた。淫乱スズメめ。
「さて……それで店主、あなたはこのヤツメウナギの味付けに、唐辛子を使ったと?」
「あっそうです。まだまだ試作品で、常連さんだけに食べてもらうつもりだったんですけど」
言われてみればタレがこころなしか赤いような。
「どうりでいつもより食べすぎてしまうわけだわ」
「紫さまはいつもあんなふうですよ」
藍はツッコまないと死ぬ病にでもかかっているのだろうか。
壷をとくりとながめてみる。頑丈そうで、色つやもいい良い壷だ。中を見る。唐辛子が口のすれすれまでどん! と入っている。手に入れたばかりのようだ。おおかた里の業務用食材店で大安売りでもしていたのだろう。容赦ないな。
赤だったり黄色だったりする香辛料をみているとふしぎに心が安らぐ。
まるで原初はわたしのすべてが唐辛子だったような……。
ふと、指にツバつけて、壷のなかの唐辛子を舐めてみた。
「あっだめですよ」
店主が非難する。指についた少量の唐辛子を舌にのせると、ぴりぴりした刺激とちょっぴり鼻に抜けるような匂いが広がった。おいしい。
「ふふふ……」
「だめです、紫さま」
「くっくっく……」
「だめですったらあ」
式がなにやらほざいているが、大妖怪には聞こえないのだ。両手をがばちょと壷のなかにいれ、山盛りの唐辛子をさっきまで食べていたヤツメウナギの上に豪快に盛る。すげえ一面真っ赤でウナギ見えない。
「イッツ!」
「なにがit'sだ!」
藍が立ち上がっておさえこもうとするが手が届く前にスキマパワーであられもない格好にしてやる。目をバチバチしばたいたのち食い入るように見つめるミスティア。橙はいつものことなので、スキマに手を突っ込んで何か使えそうな器具はないかな?と探している。ほんとエロいなお前ら。ゆかりん引き気味。
「で、イッツ! ショウタイム!」
「やーめーれー!」
たいへんなことになりながらも主を止めようとする藍を無視し、わたしは真っ赤なそれを(もはやヤツメウナギとは言うまい)口のなかに突っ込んだ。
噛んだ。
舌に大量の赤い粉末が浴びせかけられた。
喉の奥に落ちていった……大半は口のなかの粘液に拒否られて一ミリ秒で吐き出した。
「……………………ふっ………………」
こちらをみつめる三人をにらみかえし、カッチョイク口元をゆがめて笑うわたし(タラコクチビル)。
限界だ。
「かーーーらーーーーいーーーーー! かーーーらーーーいーーー! 辛い辛いかーーーらーーーーーーいーーーーーーーー!!!」
まずは屋台のカウンターにヘッドバッド。跳ね返る勢いを利用してのけぞり、後方の地面に頭頂部を接点としたアクロバティックな後転をキメる。そのまま何回か回った後、足から着地したタイミングで前方にダッシュをかけ、ニマニマしながら藍をいじくっていた橙にタックル、マウントを奪った。後頭部を打ちつけてくらくらしていた橙だが、のっかっているわたしを見るととたんに主のまた主の怖さを思い出したようだ。
「紫さま……ミックジャガーみたいになってます……」
「辛いのよう……サティスファクション辛いのよう……」
涙目で訴えるわたし。もうなんていうかデビル辛い。口から下半分が焼け落ちてリザレクらない感じ。
「藍、藍、水を」
「こうなってはいたしかたない」
神妙な顔で服を着る藍。あっスキマ消えてる。
「お願い、水を」
「紫さまの役に立つのがわたしです」
と言ったが早いか、藍は橙に乗ったままのわたしにがばりと覆いかぶさり、強引に唇を奪った。
「むーっ! むーっ! むーっ!」
「れろれろねちゃねちゃぺろぺろくちょくちょ」
「ままままままままま」
「んーちゅ、んーちゅ、んーちゅ、れろれろれろれろ…………」
抵抗もできず、口のなかを余すところなく舌で蹂躙されるわたし。歯の一本一本まで丁寧に舐めていくんじゃないかっていう執拗さだ。舌の付け根から喉の奥まで、左の奥歯から右の奥歯まで……。藍、舌長いな。
たっぷり5分間はベロベロされた後、ちゅぽん、と音を立てて藍が離れ、わたしたちははあはあ息継ぎした。
「ちゅー」
「またっ?」
店主があわあわしながら叫んだ。刺激が強すぎるだろう。わたしにも。
その後「お前の知らない言語の発音を教えてやる!」といわんばかりの勢いの舌技をいかんなく発揮しつつ藍はわたしの口のなかを残さず舐めとり、最後は唇と口のまわりに残った唐辛子をちゅっちゅとついばむようにしてきれいにした。その後店主に水をもらって飲んでた。最初からしろよ。
「ふう……まるで公然猥褻ね」
「そのとおりだと思いますよ」
うっさい化け猫。
「これにこりたら、すこしはショーマンシップを抑えてください」
「唐辛子も食えずして何が妖怪の賢者か!」
「基準がくだらないです」
藍はもう少し主にたいしてデレていいと思う。だってほら、今日のノルマ完了、みたいなやり遂げた顔してるじゃない。
式の期待にこたえるのもつらいものよ。よよよよよ。
「では店主、わたしたち帰るわ。ごちそうさま、ありがとさん」
「あっはい、じゃあ最後にGive it away歌います」
「いやいいから」
わたしたちは早々に引き上げた……辛すぎたので家に帰って甘いものでも食べたかったし、ミスティアの後ろに広がるやたらアグレッシブな妖気にも気づいていたからだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
「ふう、あそこん家はいつも全力だな」
屋台を片付けはじめるミスティア。ふだんならもう少しおそくまでやっているのだが、今夜はここらが限界だと思ったのだ。
「罠、罠、わなーにおーちーそーうー、っと」
キッスは目にしてー、しゃばだー、と歌いながら手早く店じまいをしていく。唐辛子は屋台の底部によっこらせとしまう。紫が残した食べかけの串を捨てようか食べようか迷っていたとき、ふと、あたりが暗くなった。
「あるぇー?」
火が消えるようなことはなかったはずだし、灯りが消えたとしても、妖怪である自分は夜目が効く。まさか鳥目? このわたしが? されば、ヤツメウナギを食わねばなるまい。そうよ、これは治療のためなのよ。とおずおずと紫の残した串に舌を近づけていくミスティア。その瞬間、後ろからがっちりと抱きすくめられた。
「唐辛子なのかー」
「………………」
だらだらと汗が流れる。昼間はよくいっしょに遊んでいる声だが、このシチュエーションで聞かされると恐怖でしかない。
「新しい味付けをためすのだー」
「いやぁぁぁぁぁ…………」
その後、朝までちゅっちゅされたミスティアは捕食の連鎖に真っ向から挑むため、八雲家に弟子入りしたという。
が、八雲紫に「あきらめなさい。あなたはナチュラルボーン誘い受けよ」と言われて泣いて帰ったという。
(おしまい)
……だがそれがいい!!
どこからツッコミを入れたらいいんだ………?
これは反応するしかあるまい(・3・)~♪
これが初投稿って……インパクトやば過ぎでしょ(良い意味でも悪い意味でも;ww
ありがとうございます。
次を書く勇気がわきました!