「幻想郷を壊しましょう」
場の雰囲気は一瞬で氷点下まで冷え切った。誰も彼もが何を言っているのかわからなかった。発言したのは八雲紫。幻想郷を一番に愛している彼女が、なぜそんなことを言うのか。
「お酒に酔っているのかしら?」
余裕の素振りを見せる永琳。月から逃げてきた月の民。ただ、それは虚勢だった。幻想郷がなくなるということは逃亡の日々がまた続くからだ。たった一言で楽しいはずの宴会は終わりを告げた。
「壊すの。疲れてしまったから」
何者も映らない虚空を見上げる。その先にある衛星をも見つめる。
「ふざ……けるなっ!」
月の民が手を出す前に、血が滲むほど握り締めた手が曲線を描き、八雲紫の右頬を叩きつけた。その衝撃で左足が折れる彼女。それを見下すように吸血鬼が睨む。
だが、殴られたはずの彼女は笑っていて、怒りをぶつけたレミリアは息を切らしていた。
「そんなに息を切らしてどうしたのかしら?」
彼女の口元が釣り上がる。殴られた頬は薄黒くなっていて、唇からは一筋の血が流れていた。
息を切らしているのは吸血鬼だけではなかった。辺りを見ると多数の生物がもうすでに立てなくなっていた。
「なぜこんなことを?」
一人の人間。博麗霊夢が彼女に尋ねる。
「理由はたくさんあるわ」
今まで幻想郷の全てを担ってきたのは私だった。どんな時でも、どんな異変が起きても苦労するのは私だけだった。それなのに異変は収まるどころか、次々と振りかかるじゃない。もう、耐えられないわ。独白するように彼女は言葉を並べた。もう、この言の葉は舞い散るだけだった。ただ一人の人間を除いて。
「一度リセットするのよ」
虚空だった場所に亀裂が走る。支えていた結界に綻びができた。全てがなかったことになる。全てが最初からになる。出会いも、経験も、絆すらも。ガラスのように紡いでいた幻想が欠け落ちる。
「月の民が消えた理由は?元は幻想郷のものではない」
「貴方こそ、月が本物と思って?」
月そのものが幻想。月に人がいたという幻想が一つ消えた。
「そう。仕方ないわね」
一つ一つ零れていくカケラを見つめながら、霊夢は空を見た。空の一点を眉一つ動かさず見ている霊夢に対して、八雲紫は言葉をかけた。
「幻想郷は人の夢で成り立つの」
人類が現実を解明し始めている。夢すらも見なくなっている。何よりも幻想郷が現実に近づいている。そのうち、貴方は知らない海までもがここにきてしまうかもしれない。それじゃあ現実とは変わらないのよ。そう彼女は言った。
今まで支えられていたのは夢のかけら。零れ落ちていくそれを掌に掬う。解明されることのない謎を救うことはできない。全ては夢から醒めていることが原因だった。
――――ならばこの 出 会 い も幻想なのか。
自問する。その間は須臾。次には行動を起こしていた。
「出会いまでも、思いまでも幻想じゃない!」
必死に印を、夢を、幻想を紡ぐ。それは無謀。それがわかっていながらも霊夢はもがいた。
現実は無情である。幻想郷の中の現実。それは矛盾した真理である。
「博麗の巫女よ。貴方はあまりにも境界が曖昧すぎる」
霊夢には光が見えた。希望の光なのか、それとも現実に続く光なのか。
「隔たりのないことは差別をしないこと。それは誰にも感情を抱かないこと」
生きる希望を見つけなさい。その言葉が身体中の小さな細胞にまで沁み込んだ。
「……ろ…………」
何か霊夢の頭上から声がする。
「……お…………ろ………………」
私は今寝ているんだから静かにしてよ。彼女は煩わしいと思った。
「起きろ! 霊夢!」
「うるさいわね!」
誰もがすくむような声を出していて、霊夢は少し小さくなった。
「どうしたんだ? 霊夢?」
魔理沙が熱でもあるのか。と言ったように手をおでこに密着させる。また彼女は紅くなった。
冬が過ぎ去り春が来た。春の花は起き上がり、冬の間に溜めていたエネルギーを放出する。押さえつけられていると、その芽は決して育たない。それと同じように博麗の巫女の感情も『博麗』という文字が抑えつけていた。それを夢とはいえ八雲紫が取っ払ったのである。この幻想郷で霊夢は何がしたいか。それを自身に考えさせるチャンスを渡したのだった。
「今日もいい天気ね。私たちの幻想郷……」
空は太陽以外を残して、何もなかった。後ろを振り向くと、夢を渡された霊夢がいた。
「あら、霊夢。こんにちは」
「問答無用! 絶対あれはあんただろ!」
八雲紫は針で打ち抜かれた。感情を持ってほしいと願った八雲紫の作戦は成功した。
ただ、生まれた感情は「怒」という一文字だった。女の心を弄ると言うのは良くないということだ。
場の雰囲気は一瞬で氷点下まで冷え切った。誰も彼もが何を言っているのかわからなかった。発言したのは八雲紫。幻想郷を一番に愛している彼女が、なぜそんなことを言うのか。
「お酒に酔っているのかしら?」
余裕の素振りを見せる永琳。月から逃げてきた月の民。ただ、それは虚勢だった。幻想郷がなくなるということは逃亡の日々がまた続くからだ。たった一言で楽しいはずの宴会は終わりを告げた。
「壊すの。疲れてしまったから」
何者も映らない虚空を見上げる。その先にある衛星をも見つめる。
「ふざ……けるなっ!」
月の民が手を出す前に、血が滲むほど握り締めた手が曲線を描き、八雲紫の右頬を叩きつけた。その衝撃で左足が折れる彼女。それを見下すように吸血鬼が睨む。
だが、殴られたはずの彼女は笑っていて、怒りをぶつけたレミリアは息を切らしていた。
「そんなに息を切らしてどうしたのかしら?」
彼女の口元が釣り上がる。殴られた頬は薄黒くなっていて、唇からは一筋の血が流れていた。
息を切らしているのは吸血鬼だけではなかった。辺りを見ると多数の生物がもうすでに立てなくなっていた。
「なぜこんなことを?」
一人の人間。博麗霊夢が彼女に尋ねる。
「理由はたくさんあるわ」
今まで幻想郷の全てを担ってきたのは私だった。どんな時でも、どんな異変が起きても苦労するのは私だけだった。それなのに異変は収まるどころか、次々と振りかかるじゃない。もう、耐えられないわ。独白するように彼女は言葉を並べた。もう、この言の葉は舞い散るだけだった。ただ一人の人間を除いて。
「一度リセットするのよ」
虚空だった場所に亀裂が走る。支えていた結界に綻びができた。全てがなかったことになる。全てが最初からになる。出会いも、経験も、絆すらも。ガラスのように紡いでいた幻想が欠け落ちる。
「月の民が消えた理由は?元は幻想郷のものではない」
「貴方こそ、月が本物と思って?」
月そのものが幻想。月に人がいたという幻想が一つ消えた。
「そう。仕方ないわね」
一つ一つ零れていくカケラを見つめながら、霊夢は空を見た。空の一点を眉一つ動かさず見ている霊夢に対して、八雲紫は言葉をかけた。
「幻想郷は人の夢で成り立つの」
人類が現実を解明し始めている。夢すらも見なくなっている。何よりも幻想郷が現実に近づいている。そのうち、貴方は知らない海までもがここにきてしまうかもしれない。それじゃあ現実とは変わらないのよ。そう彼女は言った。
今まで支えられていたのは夢のかけら。零れ落ちていくそれを掌に掬う。解明されることのない謎を救うことはできない。全ては夢から醒めていることが原因だった。
――――ならばこの 出 会 い も幻想なのか。
自問する。その間は須臾。次には行動を起こしていた。
「出会いまでも、思いまでも幻想じゃない!」
必死に印を、夢を、幻想を紡ぐ。それは無謀。それがわかっていながらも霊夢はもがいた。
現実は無情である。幻想郷の中の現実。それは矛盾した真理である。
「博麗の巫女よ。貴方はあまりにも境界が曖昧すぎる」
霊夢には光が見えた。希望の光なのか、それとも現実に続く光なのか。
「隔たりのないことは差別をしないこと。それは誰にも感情を抱かないこと」
生きる希望を見つけなさい。その言葉が身体中の小さな細胞にまで沁み込んだ。
「……ろ…………」
何か霊夢の頭上から声がする。
「……お…………ろ………………」
私は今寝ているんだから静かにしてよ。彼女は煩わしいと思った。
「起きろ! 霊夢!」
「うるさいわね!」
誰もがすくむような声を出していて、霊夢は少し小さくなった。
「どうしたんだ? 霊夢?」
魔理沙が熱でもあるのか。と言ったように手をおでこに密着させる。また彼女は紅くなった。
冬が過ぎ去り春が来た。春の花は起き上がり、冬の間に溜めていたエネルギーを放出する。押さえつけられていると、その芽は決して育たない。それと同じように博麗の巫女の感情も『博麗』という文字が抑えつけていた。それを夢とはいえ八雲紫が取っ払ったのである。この幻想郷で霊夢は何がしたいか。それを自身に考えさせるチャンスを渡したのだった。
「今日もいい天気ね。私たちの幻想郷……」
空は太陽以外を残して、何もなかった。後ろを振り向くと、夢を渡された霊夢がいた。
「あら、霊夢。こんにちは」
「問答無用! 絶対あれはあんただろ!」
八雲紫は針で打ち抜かれた。感情を持ってほしいと願った八雲紫の作戦は成功した。
ただ、生まれた感情は「怒」という一文字だった。女の心を弄ると言うのは良くないということだ。
じゃあ、次はハートフルでお願いします。
奇声を発する程度の能力さん>ハートフル書いてみたよ!アリマリだけどねw