Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

See You Again ~ 妖々夢裏話

2010/03/08 22:49:18
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 春が来て、夏が訪れ、秋が来て、冬を迎える。そして冬が終われば、また新たな春がやってくる。
 四季。その理は一人の神が全てを生み出したこの魔界にももちろんあてはまっていた。
 春になればお酒を片手に桜を愛で、夏になれば虫達の鳴き声を背景にお祭りを楽しみ、秋になれば色づく紅葉をよそに食は進み、冬になれば白銀の大地の美しさに心を奪われる。
 魔界の人々の誰もが四季を楽しんでいた。冬には今目の前にある冬を楽しみながらも、やがてやってくる春に思いを寄せるのだ。
 だからこそ。
 春なのに、春がやってこない。それは皆にとって一大事だったのだ。

 * * *

「寒いわ」
 魔界の中心にあるパンデモニウム。その中をなんとも威厳のない気の抜けた声が響き渡った。
 その声がこの世界を作った創造神・神綺のものであるということは、魔界人なら誰も疑わない。
「これもアリスちゃんが最近手紙をくれないからだわ」
「いや、さすがにそれは関係ないと思うのですが」
 黒い服を身に纏った少女、ユキが即座に突っ込む。
「…………」
 その横では白い服を身に纏った少女、マイが何も言わずに二人のやり取りを見つめていた。
「でも人々の間では、神綺様が傷心のあまりに心を閉ざしているから春がやってこない、なんて噂がありますよ」
 どこかの国の神話でありそうな話だ。
「それもアリスちゃんが」
「だからそれはいいですから」
 アリスが幻想郷という名の異世界に飛び立ったのはいったいいつのことだったであろうか。
 親元を巣立っていった娘を思う母心は美しい。が、残念ながら春がやってこない原因とは全く関係がなかった。
「神綺様、お茶をお持ちしました」
 会話の無限ループをどうやって断ち切ろうかとユキが思案していたところで、神綺付きのメイドである夢子が人数分の紅茶を運んできた。
「夢子ちゃん、ありがとう」
 身体も心も冷え切っている神綺はすぐさまカップを手に取る。
「あちっ」
「もう神綺さまったら。慌てないでくださいよ」
 微笑ましいが、この世界の統治者としては若干見ているものを不安にさせるような光景を見守りつつ、ユキも紅茶に口をつける。
「……あぁ。おいしい」
 ふぅ、とユキは一つ息を吐く。
「夢子さんの入れてくれるアップルティーはいつも美味しいよ」
「ありがとう。誉めてもお小遣いは出さないわよ」
「ひどいわ。心から言ってるのに」
 ユキにとって夢子の紅茶は昔から変わらない、心から落ち着くことのできる味わいなのだ。
「それで神綺様。先程の話なのですが」
「なに? アリスちゃんがまだ帰ってこない件」
「違います。冬が終わらないことについてです」
 夢子は眉間を手で押さえている。
「神綺様はもしかして原因に心当たりがあるのですか」
 全員が神綺の方を見つめる。
 真剣な眼差しで。
 もうアリスのせいにはさせないよ、というメッセージつきだ。
「あるわ」
 魔界神の言葉を皆で待つ。
「春がどこへ向かっているかを考えたらわかるの」
「春が向かう?」
 ユキには神綺の言葉の意味がわからなかった。きっと魔界の神だからこそわかる感覚なのかもしれない。
「おそらくはこの世界とは別の、でも繋がりあってる世界で、何かが起こってるんだと思うわ」
「それは――幻想郷のことですか」
 夢子がきっぱりと尋ねた。
 幻想郷。それは魔界と繋がっている別の世界のこと。
「そうよ」
 誰もがピクリと反応する。
 かつて幻想郷には魔界から大量の魔界人が観光に押し寄せた。そのため、それに業を煮やした巫女が魔界を蹂躙した。
 ユキもマイも、夢子も、神綺ですらも、あの紅白の巫女を追い返すことはできなかった。
「だから――」
 神綺の次の言葉は皆予想できていた。
「私、ちょっと幻想郷に行ってくるわ!」
 神綺本体と、頭の上の特徴的な髪の毛が同時に立ち上がる。
「そんなこと私が認めると思ってるんですか!」
 それと同時に夢子も立ち上がる。
「思ってないけど行く!」
「ダメです!」
「嫌だ、行く! アリスちゃんに会いたいわ!」
「今さらっと本音が出ましたね!」
 カリスマのない魔界神と堅物なメイドの行く!行かせない!問答がいつものように始まった。ちなみにこれまで魔界神が勝ったことは一度もない。
 今日も夢子がどこからともかく書類の束を持ってきたところをみると、魔界神の敗戦はほぼ確実だ。遊びにいくのは宿題をちゃんとしてから、と娘達に言っていたのは当の本人なのである。

「じゃぁ私達が様子見にいってくるよ」
 神綺が駄々をこねて今にも泣き出しそうになっているところでユキが参戦した。
「ちょっと、ユキ。そんなこと……」
「あ、じゃぁよろしくね。ユキちゃん」
 夢子を遮ぎるように神綺がユキの目の前に立った。
「まずアリスちゃんに会ったらちゃんとご飯を三食食べてるかと、十二時までには寝てるか聞いてね。それで」
「しーんきーさまー!」
 畏れ多くも夢子は神綺のほっぺたをぎゅっと摘む。やわらかくて気持ちよさそうだ。
「いひゃい。いひゃいよゆめこひゃん」
「まぁ夢子さん。そのあたりにしといてあげてよ」
 夢子も別に神綺が嫌いなわけではない。魔界を治める神としてそれ相応の行動を部下としてしてほしいだけなのだ。神綺を敬愛するからこそ。娘のためだけに、そうほいほいと神が異世界へ足を運ぶわけにもいかないのだ。
 それはわかるのだけれども。アリスと同じように神綺に愛されてきたユキにとって、娘を想う気持ちがこのまま全く報われないのもかわいそうだった。
「ちょっと見に行くだけだから。ねぇいいでしょ、マイ」
 ユキにとって双子のような存在で、ずっと一緒に行動しているマイ。そのマイは喧騒の中で何も言わずにちびちびとミルクティーを嗜んでいた。
「……別にかまわないけど」
「じゃ決まり決まり。これで三対一」
「三対一!」
 ユキの言葉に神綺も乗っかる。これには夢子も。
「……仕方ないですね」
 と言わざるをえなかった。
「くれぐれも無理だけはしちゃだめよ。もし不幸にも外道な巫女に遭遇したら戦わずに逃げること。いいわね?」
 夢子は大真面目にそう忠告した。あれから力は伸びているはずだし、今度こそあの巫女を倒してやりたいという気持ちがユキにはなかったわけではなかったが、外出許可を取り付けるにはうんと頷くしかなかった。
「夢子ちゃんの話終わった? それでアリスちゃんに言っておいてほしいことなんだけど……あ、多いから今から手紙書く」
「神綺様は早急に仕事に手をつけてください!」
 またカリスマのない魔界神と堅物なメイドの手紙書く!仕事してください!問答がいつものように始まったところで。
「……ねぇ、ユキ」
 マイが口を開いた。
「どうしたの」
「いや、どうしていきなり幻想郷へ行こうと言い出したの?」
 待ってましたとばかりにユキは慎ましやかな胸をはった。
「だってアリスに会いたいじゃん」
 なんだかんだユキも「神綺のアリスに会いたい病」に感染しているのかもしれない。言った本人ですら少しそう思った。
 神綺がかわいそうだから。それに自分も会いたいと思ったら。だから即、行動に移す。なんともユキらしかった。
「あと」
「……あと?」
「やっぱり外の世界って面白そうだもん」
 ぎゅっとマイの手を握ってユキはパンデモニウムを飛び出した。
「行こっ。幻想郷へ」

 * * *

 魔界の扉を超え、洞窟を抜けると、そこが幻想郷であった。
「おぉ、潮の香りがする!」
「……どこにも海はないはずだけど」
「うん。勢いで言ってみたかっただけよ」
 ユキとマイにとっては記念すべき幻想郷初上陸ではあったものの、それ以上の感慨は特になかった。だいいち、こんな寒い夜にまっとうな者が出歩いているはずもない。時折妖精の集団だとか、冬好きな妖怪だとか、得体の知れない化け猫に会ったりはしたものの、彼女達の敵になるような存在ではなかった。二人の小旅行は順調そのもの。
「……ねぇユキ。あなたは今どこへ向かおうとしているの?」
「さぁ?」
「……さぁ、って」
 ただ一点。どこへ行くべきか全くわかっていないという点を除いて。
 マイはじろっとユキの方を見つめたが、そんなマイに気づくこともなくユキはすいすいと森の方へと向かっていった。
「……馬鹿じゃないの」
 マイの悪態は幸か不幸かユキには届いていなかった。
「なんとなくここっぽい気がするわ」
 鬱蒼と木が茂っている森の中を二人は進んでいく。
「……気味が悪い」
 率直な感想をマイは漏らす。
「そう? なんだかここ、居心地がいいわ」
 じめじめとしたこの森には普通の人間を寄せ付けない瘴気が満ちている。そこにどこか魔界と近い雰囲気をユキは感じたのであろうか。
「こんな殺伐とした夜がいいのかしら?」
 いいのよ、と言おうとしたところでユキは固まった。
 その声は後ろを着いてきていたマイからではなく、二人の前に立ちはだかっていた存在から聞こえたからだ。
「え」
「……え」
「あ」
 ユキが、マイが、そして目の前の存在が、口をぽかんとさせながらお互いを見つめている。
 忘れるはずがなかった。たとえ時間が経っていようと。そのせいで姿形が変わっていたとしても。
「アリス!」
 ユキはぱーっと両手を広げ、全身で喜びを表している。が、一方のアリスはまだ今の状況を理解できていないようであった。
「え、え。なんであなた達がここに居るの?」
「そんな細かいことどうでもいいじゃん」
 ぎゅっとユキはアリスに抱きついた。
「しばらくぶりね、アリス」
「……しばらく巨人」
「何それ」
「いや、なんでもない」
「…………?」
 アリスはこんなボケをかます子だっけなぁとユキは過去の記憶をたどっていたところで。
「ユキ、苦しい」
「あ、ごめん」
 思ったよりも腕に力を入れてしまっていたようだ。ユキの腕の中から逃れると、こほん、とアリスは咳を一つ。
「久しぶりね。ユキ、マイ。ほんと変わらないわね」
「アリスは大分変わったわね。ずいぶん大人っぽくなっちゃって」
 魔界と幻想郷の時間が流れる速さが違うのかと思いたくなるくらい、アリスの外見は変わっていた。
「こんな寒いところで立ち話もなんだからうちに寄っていったらどうかしら。すぐそばだから」
「そうだね。もう寒くて仕方なかったの」
「……ちょっとユキ。春が来ない件は」
「いいじゃん後で」
「…………」
 絶対にこの話はなかったことにされるなとマイは悟った。
 幻想郷に春が来ない――後に春雪異変と言われたこの大騒動も、魔界人(少なくとも神綺とユキ)にとっては懐かしい家族と会うための口実に過ぎなかった。

 アリスの家はそこそこの大きさの洋館だった。
 一人で住むにはずいぶん広い家だなと外見を見た時のユキは思ったが、家の扉を開けて納得した。
「なるほどね」
「……すごい」
 たくさんの人形達が主とその旧友を出迎えた。
「紅茶を入れてくるわね。ユキはアップルティーで、マイはミルクティーだっけ?」
「覚えていてくれたのね」
「忘れるわけないじゃない。さ、上がって」
 二人が案内された部屋にも随分と多くの人形が置かれていた。
「これ全部あいつが作ったなんてすごいわね」
「……手先が器用ね」
 人形達を見ながら二人が思い思いに呟いていると。
「お待ちどうさま」
 アリスが人数分の紅茶を運んできた。
「ありがとう」
「…………」
 それぞれがカップを手に取る。
「慌てて飲まないでね」
「そんな。神綺様じゃあるまいし」
「そこは変わってないのね」
「あはは」
 今頃魔界でくしゃみをしているかもしれない魔界神のことを思い浮かべながらユキは紅茶に口をつける。
「あ、おいしい」
 魔界で飲む夢子手製の紅茶に匹敵するほどの味わいだった。
「夢子さんの紅茶も美味しいけど、アリスの紅茶もおいしいわ。いつ教わったの?」
「いや、ちょっとメイドまがいのことをさせられたことが昔あってね」
「へ?」
「あ、ごめん、なんでもないわ」
 トラウマスイッチだったのかアリスはぶんぶんと首を振った。
「それよりも。どうしてユキ達がここに居るの?」
「いや、話せば長くなるんだけど、順を追って話すとね」
 どこから話せばいいものやらとユキが悩む。
「そんなに長い話なの?」
「ええっとね」
「……神綺様の気まぐれ」
 マイが一言で片付けてしまった。
「やっぱりね。もういいわ」
 聞いた私が馬鹿だったとでも言いたげな表情をアリスは浮かべた。
「いや、それはそうだけど……そう。魔界もここのところ春が来なくっておかしいなって話になったの。それで」
「まさか、『アリスちゃんが最近お手紙をくれなくてお母さん心が寒いから、ずっと冬なの』って?」
 アリスの物真似を見ることなんて、よっぽどの幸運に恵まれない限りできないであろう。その当のアリスはどこかしてやったり、といった表情を浮かべたが。
「……あまり似ていない」
 本人に聞こえないように呟いたマイの突っ込みは手厳しかった。
「要するにどさくさ紛れで私に会いにこようとしたわけね。で、なんでか知らないけど、代わりにあなた達が来たと」
「まぁ、そんな感じになるのかな。……あ、そうだ。あれ聞いとかなくちゃ」
 あまりユキは気が進まなかったが、一応聞いておくほかなかった。
「なによ?」
「神綺様が聞いてたから一応聞いておくわ。えっと、十二時までにちゃんと寝てるかって」
「時計を見なさいよ」
 ゆうに超えていた。
「あと三食ちゃんと」
「食べてる! あぁもう、いつまでも過保護な母親ね」
 三人の脳裏に豪快にくしゃみをしながら寒いわーと泣き言を言っている魔界神の姿が思い浮かんだ。
「あといくらか質問があるのですが……」
「正直インタビュアーさんも面倒だと思ってるでしょ?」
「うん。思ってる」
 魔界神の教えてアリスちゃん!のコーナーは残念ながらここで打ち切りとなった。

「だからもう本題にいくわ。春のこと」
「……忘れてなかったんだ」
 少しだけマイは相方のことを見直した。ほんの少しだけ。
「あぁ、やっぱり、その話になるのね」
 アリスは苦笑いを浮かべた。
「じきに解決するわよ」
「どうしてそう言いきれるの?」
「れい……博麗の巫女が動いたからよ」
 博麗の巫女。幻想郷の異変を解決すべき存在。
「さっきから気になってたんだけど」
「やっぱりわかってた?」
「うん。あえて突っ込まなかったわ」
 ユキもそして無言で頷いているマイも気づいていたがあえて言わなかったこと。それはアリスの服装が少し汚れていたことだった。
「戦ったのね。あの巫女と」
 嫌がおうにも魔界に乗り込んできたときの話をユキは思い出してしまう。
 ユキとマイは二人ががりで巫女の行く手を阻もうとした。先にマイが倒れたときは、はらわたが煮えくり返って全力を出して戦った。それでも、自慢にしていた炎の黒魔法を見せつけても、真紅の少女は勝てなかった。
 きっとアリスだってそうに違いない。魔界を荒らす巫女を許さないと彼女は人形を駆使して戦った。魔界神たる神綺が敗れた後には、グリモワールを手に最後の勝負を挑んだ。それでも、究極の五色の魔法を見せ付けても、死の少女は勝てなかった。
 だが。
「そうね。あっさりと負けたわ」
 アリスは微塵の悔しさも見せなかった。
「なによそれ……」
 あれほど本気で怒って、本気でぶつかって、本気で悔しがっていた子なのに。
「アリスらしくないわ」
「そうね。でもあの私は昔の話なの」
 今のアリスはもう、あの日のアリスではない。
「私はね。もう本気を出すのはやめたわ」
「どうして」
「だって……本気出して負けたらもう後がないもの」
 それは本気を出し尽くして負けたアリスだからこそ言える、重みのある言葉だった。
 禁断の魔法書を手にしても負けてしまったあの日。その後のアリスは惨めとしか言いようがなかった。別に巫女の神社の手伝いをさせられたり、どさくさ紛れで神社の憑き神のメイドをさせられたことが問題なのではない。究極の、最高の、至高の魔法をもってしても勝てないという事実。そのことがたまらなく悔しくて惨めだった。
 それからアリスは強くなることをやめた。いや、上を目指すことをやめた。
 何のために魔法を覚えるの? 一番強い魔法を覚えても勝てない奴がいるのに。そう思ってしまった瞬間から、彼女は生きる目的すら失ってしまいかけた。
 幻想郷へ旅立つまでは。
「私はね、ユキ」
 だが、今のアリスは違う。
「今はね。すごく楽しいのよ」
 強さだけが、力だけが全てじゃない。自分らしく生きればそれでいいじゃない。そう思えたとき、ようやくアリスはあの惨めさから解放された。彼女は幻想郷へと渡って、精緻な、彼女しか操れないような人形魔法を完成させようとしているのだ。アリスだけの、とっておきの魔法を。
「そっか」
 アリスはもう昔のことは昔のこと、と割り切って話すことができる。それは彼女が変わったから。
 一方のユキはどうだろう。彼女は今でもまっすぐに生きている。もっと強くなりたいと思っている。そんな彼女にとっては過去の敗戦は今なお痛々しいものだった。
 アリスは外見だけでなく中身も随分と大人になったのかな、とユキは思った。自分はまだまだ今のアリスのようにはなれなさそうだな、とも。
「なんだかちょっと寂しいけど」
 今のアリスを見たらきっと神綺だって同じように思うだろう。わが娘の成長を喜ぶと共に、どこか言いようのない寂しさを感じずにはいられないだろう。
 でも。
「アリスがそう思うのなら、私はいいと思うわ」
 ユキに迷いはない。アリスがそれで幸せなら。昔のアリスの思い出も大事だけど、今のアリスもちゃんと受け入れてあげよう。きっと他の魔界のみんなだってそう思うに違いないから。
 それが、時が経つ、ということなのかもしれなかった。

「私はまだアリスみたいな良い大人にはなれなさそうだわ」
 時が経つ。
「いいと思うわ。それはそれで」
 変わるものも、変わらないものも。
「なによ。なんだか子供を馬鹿にしている感じね」
 全てはその時を生きる本人次第。
「違う違う。ユキはいつまでも真っ直ぐでいてほしいって思うわ。愚直なくらいに」
 ただ、それでも。
「なんだか上から目線なのがむかつく」
 本人にとってその変化、あるいは不変化が。
「『本気だしちゃうんだから』」
 幸せなことだったらいいのにな、と。
「あ、ちょっとだけ似てるわ」
 目の前で楽しげに笑うアリスを見つめながら、ユキはそう思った。

 それから三人でのおしゃべりをほんの少し。アリスの幻想郷での交友関係の話、とか、どうやったらマイがデレてくれるのか、とか。とにかく無駄話で盛り上がっていたところで。
「そろそろね」
 アリスは二人を窓際へと案内した。
「異変はもうじき終わるわ」
 窓を開ける。
 外からはこの時季相応の暖かい風が吹き込み、この時季相応の花々が咲き誇っていた。
「そう――」
 桜の花びらが風上の方から舞い戻る。
「あの子が――幻想郷の春を取り戻したのよ」
 アリスのその言葉と同時に。
 春が、やってきたのだ。

 * * *

「アリスちゃーん!」
 魔界へ戻るなり、ユキ達は幻想郷でのこと――といってもほとんどはアリス絡みのこと、を神綺に報告した。そうしたらさっきからずっとこの調子である。
「大きくなったんだねアリスちゃん。お母さん嬉しい。でも、ちょっと寂しいわ」
「娘の成長を祝ってあげましょうよ」
 夢子が神綺を宥めているが、涙はまだまだ止まりそうにない。
 その涙は悲しい涙じゃない。きっと……きっと、嬉し涙。
「アリスちゃんに会いたいわ!」
「さりげなく書類を放り出さないでください!」
「じゃぁせめてアリスちゃんにお手紙だけ書かせて」
「はいはい。わかりましたよ……」

 春が来て、夏が訪れ、秋が来て、冬を迎える。そして冬が終われば、また新たな春がやってくる。
 同じ時間の上でも、歩くスピードは人それぞれ。
 ねぇ、アリス。魔界のみんなは昔とほとんど変わっていないわ。あなたが今だに私達の大切な家族だってことも。
 だから、近いうちにまた帰省しにきてよ。今の私達ならきっと変わったアリスも受け入れて、また笑顔で送り出すこともできるから。
 だって――約束したもんね。
「ユキ、マイ、元気でね。また会おうね」
 って。

 泣きながら手紙を書いている神綺と、呆れながらも優しげな眼差しを向けている夢子とマイを見守りながら、ユキは次の再会の日を今からもう心待ちにしていた。
皆様はじめまして、九紫楓と申します。二次創作に挑戦したのはこれが初めてなのですが、ほんと難しいです。皆さん尊敬します、普通に。

神綺様とアリスのネタは多いですが、ユキだってたまにはアリスと絡みたいんだよってことで、まぁその……。だってユキかわいいじゃん! 弾幕もかっこいいし。
とまぁ、まとまりのないお話ですが、少しでもほのぼのとした気分を提供できたら嬉しいです。
九紫楓
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
うおおお!!!すげえ感動しました!!
やばい、これは凄く良いお話だ!!
特に最後の辺りで鳥肌が立ちました(もちろん良い意味で
2.名前が無い程度の能力削除
しかし私はマイが好きだ。デレなくともマイが大好きだ。
3.名前がにゃい程度の能力削除
アリスがいいキャラしてんなー

GJb
4.名前が無い程度の能力削除
やっぱり家族ネタはたまらん!
5.名前が無い程度の能力削除
ユキ可愛い!原作でも思ったけど、やはりユキはいい子ですね~
原作の台詞や設定の使い方が上手いなぁ。
処女作と信じられないくらい読みやすかったです。素敵なSSでした。
6.かえで削除
皆様コメントありがとうございます! すごく嬉しかったです。
ユキは良い子ですよー! マイもアリスも神綺様も夢子もみんな魅力的。
魔界家族の幸せを祈りつつ、それでは私も……しーゆーあげいん。