春告精が間もなく春を告げるような時期なのに、今日は一段と寒かった。
この頃は集まりが悪く、宴も催していない。だから、もともと人が来ない神社にはさらに人が集まらなくなり、もう一週間は誰とも会っていない。
だから、この日はあることをすると決めていた。
勘で、まず来るのは
「おいーっす、霊夢~。今日はさみぃなぁ~」
勘通りに魔理沙が来た。私はすぐさま行動を開始する。
「ところで用ってなんだぁ!?」
魔理沙は私に引っ張られて奇妙な声を出したが、そんなのは気にしない。
私は魔理沙をギュッと抱きしめた。
「……おい、霊夢」
「何かしら?」
「……これは何だ?」
「何って、今日は寒いから」
「寒いとこうなるのか?」
「こうなるのよ」
「ちなみに用は?」
「これ」
私が言うと、魔理沙は嘆息して、身を任してくれた。
「全く。今日だけだぜ?」
「……うん」
きっと、その言葉は守れそうもないけど。
勘で、人が来たことを悟り、私はお札を取り出す。
そして足元に叩きつければ、件の人物が煙を上げて現れた。
「けほっ! けほっ! 全く何なの、って魔理沙。あなた何してるの?」
「見れば分かるだろ、アリス。霊夢に湯たんぽにされてるんだ」
「どういうことってキャッ!」
私は魔理沙と話していたのを承知でアリスを手元に寄せてギュッとした。
「……霊夢? 私はあなたに頼まれて服を縫いに来たのだけれど?」
「そんなの後でいい」
「ちょっと! れい…………はぁ~……」
アリスは私の名前を言いかけて、途中ため息に変えた。
「……全く。今日だけだからね」
「……うん」
守れる保証はないけど。
次に来た人物も予測済みだ。私は再びお札を足元に叩きつけ、手元に抱き寄せる。
「きゃっ! ちょ、ちょっと霊夢さん!? あと、魔理沙さんにアリスさん、何してるんですか!?」
「見れば分かるでしょ? 霊夢に暖かさを奪われてるの」
「早苗も諦めたほうが懸命だぜ」
魔理沙が笑って、早苗は困惑する。
「あの~……今日は霊夢さんに神社運営のテクを教えに来たんですけど」
「そんなの後でいい」
「後でいいって……私は神奈子様や諏訪子様のお夕飯を作らなきゃいけないんですけど……」
「早苗……だめ?」
私が小首を傾げると、早苗はしばらく私を見て、諦めたようにため息を吐いた。
「全く。今日だけですよ」
「……うん」
やっぱり、守れる保証はなかった。
あらかじめ張ってあった結界に反応があり、予想通りの場所にアイツは現れた。
「痛たたた……って、霊夢?」
「よう、紫。お前もか」
「魔理沙? それと人形使いに風祝……どういうことかしら? 私は藍にわざわざ起こされてここに来たのだけれど」
「見ての通りよ。私は頼まれて服を縫いに来たらこうなったの」
「私は神社運営のテクを……霊夢さんに懇願されてしまいまして」
「あら。そうなの霊夢?」
「……うん」
私は小さく肯定した。分かってはいたけど、何か恥ずかしい……。
「そうなの。で、霊夢は私に何をして欲しいのかしら?」
「……紫のいじわるぅ」
「そんな顔したってダメよ。ちゃんと妖怪に頼み込む時には言わないと」
うぅ~……。紫は分かって言ってる。そんな妖怪であることは前々から分かっていたのに。
それでも、背に腹は変えられないから、私は言うことにする。
「紫……ギュッてしていい?」
「……ふふっ。はい、どうぞ」
すんなりと紫は我が身を差し出してくれた。私はギュッとして、そのあったかさを分けてもらう。
私を取り囲むのはこれで四人。
四方が埋まって、私はポカポカだ。
「霊夢、一つ聞いていいか?」
魔理沙が聞いてきた。私は温もりに浸りながら、頷く。
「お前、寂しかったんだろ?」
「う……」
私が身じろぐと、魔理沙はニヤリと笑い、アリスは嘆息し、早苗は苦笑し、紫は胡散臭い笑みを浮かべた。
「やっぱりな」
「やっぱりね」
「そうだとは思ってました」
「あらあら。みんな分かっていたのね」
私が恥ずかしさで赤くなる中、みんなは私を抱きしめてくれた。その暖かさの中に、私は溺れていく。
だってしょうがないじゃない。
一週間も誰とも会ってないと、恋しくなって仕方ないんだから。
読んでる最中凄く暖かくなりました!
四つ混ぜると最強の布陣の出来上がり。
うん、いいお話をありがとう!