Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

吸い込まれる話

2010/03/07 16:33:51
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― 吸い込まれる話 ―

秋の色が周りに溢れ始めた頃、
早苗は放課後の三階にある誰もいない高校の教室の窓辺にじっとしていた。
開いている窓が風を通し白いカーテンを揺らしていた。同時に部活をしている生徒の掛け声が寂しく響く。差し込む夕陽はそれを助長した。
明日は幻想郷に渡る日であった。
ただ準備はすでにすんでおり明日を待つだけである。
秋空を眺める。広かった。本当に広かった。澄んでいる空は何でも飲み込んでくれそうであった。

早苗はフッと視線を自分の鞄に向けた。
そしてゆっくりと鞄を開け、白い紙と筆記用具を取り出した。
早苗はあることを信じていた。それは今ある平坦で繰り返しばかりの生活にしがらみなどないと。
だから幻想郷へ渡る決心はすぐについた。第一印象は大事であるから初対面の相手には弱みは見せないなど勝手なことすら考えていた。
しかし、今はそうはいかなかった。心が落ち着いていないのがよく分かる。チラホラと幸せの形が頭に浮かぶ。
とにかくそれを叩き出したかった。腕を使い、手首を使い、指を使い、ペンをサッサッサッと揺らし、早苗は白い紙に叩きだした。
そこには風祝として忙しい日々を送っていた自分のうちにある幸福がありありと存在していた。
早苗はその紙を折り、ツバメ飛行機を作った。小学校のころ誰も作れなかったが自分だけが作れたのをよく覚えている。あれは嬉しかったなと思いだした。
早苗は窓辺に立ち、ツバメ飛行機を飛ばした。そして指をくいっとまわし風を起こした。能力は使うなと厳しく神奈子に言われており、この世界では一度も使っていなかった。初めて使った。ツバメ飛行機は風に乗りぐんぐんと舞上り、早苗の幸せと共に秋空に吸い込まれていった。

夜、学校からの帰り、この世界の幸せをどこかへ追いやった早苗は本当の決心を手に入れ、誰もいない通りでは鼻歌を歌うほど気分が良かった。
しかし止まった。ふと思い出したのだ。ツバメ飛行機が作れた時の喜びは自分の中にあると。
……紙飛行機くらい向こうでも作れるだろう。
そう考え鼻歌はまた始まった。
読了感謝します。

今朝も投稿したんですが早いうちに投稿しようと思いまして投稿しました。
まぁ早いのには僅かながら理由があるんですけどね。
これまた楽しんでもらえたら幸いです。
ワジンコ
コメント



1.奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
何だか言葉にできない良さが伝わって来ました!

言葉で言い表せない自分が悔しい…orz
2.ずわいがに削除
早苗さんにしがらみがあるわけでもなく、思い詰めてるわけでもない。
明日からの新しい日々に向けての自信すら感じました。
こういう話、好きですねぇ。