あたいが考えた、もしもの話。
もしも、あたいが文と同じ天狗で、妖精じゃなかったら、あたいはきっと文よりも背が高くて格好良くてもっとさいきょーだって思う。
文にして貰っているみたいに、あたいは自分の黒くて文みたいな綺麗な羽をつかって、文をすっぽり覆って、雨風から守ったりして、ちゅーする時だけ無理して羽を曲げて、誰にも内緒って隠したりして、文にだけ見えるみたいに、あたいは優しくて素敵に笑ってみせるんだ。
いつもの文みたいに。
それから、抱っこしたり、守ったり、頬ずりしたり、肩車をしたりするんだ。
きっと、それならあたいは飛ばなくても、文とキスできる。
きっと、そしたらあたいが背伸びしても、文は届かない所にいない。
きっと、そうだったなら、文はあたいに赤い顔でお礼を言ったりして、見上げてくれるんだ。
こんな風に、文の背中を見上げて、きゅうってなったりしなくて。
白黒と弾幕ごっこしながら、風と踊る文を盗られたみたいに苦しくなくて、天狗のあたいなら、そんな文と一緒に風のダンスだって出来るんだ。
写真を捨てろーって叫ぶ白黒に、絶対ヤですと舌を出して弾幕ごっこしてる文。
そうだったら、きっといいのになぁって残念だった。
他にも、あたいが天狗だったら、してあげたい事がある。
文の記事のお手伝いをして、文が三日寝てなくて辛そうな時に、抱っこをしてお布団で眠らせる事だってできる。今みたいに、文を運べなくて、せめて文が冷えないようにって、自分の体温を抑えて布団と一緒に抱きついて、悲しい思いをしなくていい。
きっと、おいしいお料理だって作ってあげられる。おいしいって言って貰える。
いつもと全部逆の事ができるのだ。
そんなもしもの話。
でも、あたいは妖精で、文が天狗なのは変わらないから、それだけで。
だからあたいはそれならって考える。
文が妖精だったらどうだろう? きっと文なら妖精でも強いし可愛いに決まっている。
あたいと同じぐらいの背で、でもあたいの方が強いのだ。あたいはさいきょーだもん。だから文の手を引いて一杯遊ぶのだ。
文はきっと、今の文よりもふにふにのほっぺたで、伸ばしたら気持ちよくて、つんつんするのも幸せになれるお餅肌ってヤツだ、きっと。
文は風を起こせて、あたいは氷で、相性だってばっちりで、あたいは文が妖精でも文が大好きで、文だってあたいを好きって言ってくれるんだ。そして大ちゃんやレティと一緒に暮らすんだ。
告白は頑張ってあたいからする。文にたくさん愛を伝えて、きっと文は妖精だと性格が悪そうだから、最初は断って逃げると思う。でも、そんなの関係ないぐらい告白していけば、いつか文は振り向いてくれる。
それから、文にちゅーするのも最初はあたいで、文に負けないようにするのだ。文は油断するとすぐにあたいの頭を撫でるから、逆にいつも頭を撫でてあげて、ぐりぐりしてくしゃくしゃしておでこにチュッてする。
文はたくさん、あたいに赤い顔を見せてくれるのだ。
そういうもしもの話。
でも、文は妖精じゃなくて天狗だから、告白もちゅーも文に最初にして貰ったのは変わらなくて、そこがちょっと残念。
あたいが最初に文を好きなら、あたいから出来たのだ。
少しもったいない、もしもの話。
じゃあじゃあ、あたいと文が人間だったら?
きっとあたいは文より背が高いのだ! そして白黒みたいに魔法使いになって、文を箒に乗せて一緒にデートするんだ。
文はきっと人間でも記者をしてて、あたいの後ろでカメラを使って、メモを取って、次はあっちに行きましょうって指示を出すんだ。
あたいは好きに飛びたいけど、文の我侭が好きだから、しょうがないなーって文の言うとおりに飛び回って、楽しいのだ。
文はきっと走るのがはやくて、ジャンプするのも高くて、いつもひょいひょいとどこかに勝手に行っちゃう。あたいはまたかーってぼやいて、文を追いかけて、文の発見を一緒に喜ぶんだ。
文に魔法を見せて、文はきっと褒めちぎってくれて、それでそれで。
ここだって、あたいが文に好きって言うんだ。文に大きな花束を贈って一生懸命に考えた告白をして、文にちゅーして、文と結婚するんだ。
文は「あややややや?」って、真っ赤で「馬鹿じゃないの?!」とか言われるかもしれないけど、文だから、そんな酷い事を言われても怒らないで、何度も好きって言うんだ。
文はきっととても可愛い。もてもてで、だからあたいは焦ると思う。
それで急いで告白して最初は失敗しちゃいそうで、でも最後はちゃんと好きになって貰う。
あたいは立派な魔法使いで、文は一流の記者になって、二人でずっと仲良く暮らすんだ。
そうだったならって、素敵なもしもの話。
でも、あたいも文も人間じゃなくて、妖精と天狗のままだから、そういうのはない。
残念だけど、しょうがなかった。
ぶわあって、風が強くおでこにあたって、見上げると文がピースして飛んでいる。
もしもの妄想は終わりだった。
あたいの目の前に文は下りて、しゃがんで座って、ぽふんと頭に手を置いてくれた。
「勝ってきました」
「うん」
「退屈させちゃいましたか?」
乱れた髪の毛を指でなでつけながら、文がにこりとして言う。
だからあたいは首を振って「ううん」とその指を爪でちょっとだけ押した。
「文の事をずっと考えてたの」
「あややや?」
「だから、退屈じゃなかった」
「えへー」って笑って、でも何を考えていたのかは恥ずかしいから教えない。
文が不思議そうにしているけど、あたいが両手を広げて「ん!」って命令すると、すぐに「はいはい」と抱き寄せて、ぽふんと腕の中に閉じ込めてくれる。
文は天狗で、あたいは妖精。
もしもの話じゃなくて、これがあたいたちの現実ってヤツだ。
「……」
じいっと見上げると、文が「?」とあたいの背中を撫でる。文の呼吸が前髪を揺らして、きゅうってする。
「文はさ」
「はいはい」
何か内側がドキドキしてきて、あたいは急かされるみたいに文の服を掴む。
声がドキドキのせいで擦れて、かっこわるいと思った。
「…あ、あたいより背が高くて、速くて、ちゅーして、好きって言って、抱きしめてくれて、あたいに全部してくれるから」
それは、もしもの話じゃない。全部本当の事で。
でも、もしもの中では、あたいがそれを文にしていて、全部逆で、あたいが文にしたい事で。
でも文はどうだろう? 本当はどうしたかったのだろう?
あたいにされたくなんてない? それともされたい?
「……文は、それ、嫌じゃない?」
訊いた。
頭の中の事を言葉にするのはもどかしくて難しくて、文の身体をよじ登って、首に足をかけて、上から見下ろすみたいに文を見る。
文はきょとんとしていた。
「いえ、嫌じゃないですよ」
あたいが落ちないようにって、足と背中をそっと支えて、あたいが何を聞いているのか分からないのに、うんって頷いてもう一度「嫌じゃないです」って言ってくれた。
「そうですねぇ。では、もしものお話をしましょう」
「…え?」
ドキン、とした。
でも、文にはあたいが驚いたのは分からなくて、文は目を瞑って楽しげに話す。
「例えば、チルノさんが先に私に告白をしたりキスをしたりしたとしましょう。チルノさんの背が私より高く、私より足も速く、私を抱きしめられる器量を持っているとします」
「……うん」
「そして、私は貴方にそういう事を全部されたとします」
「……うん」
頷く。
文は不安がるあたいの顔を、目を瞑っているから気付かずに、くすりと楽しげに口元をむずがらせる。
「分かりませんか?」
片目がぱちりと開く、その目は笑ってた。
「なーんにも、今と変わらないじゃないですか」
ふにっと、唇に文の指が当たる。
あたいは「え?」って文の言葉が分からなくて文の目を見る。
文はやっぱり楽しそうだった。
「だってまったく変わりません。私が貴方に、貴方が私になっただけです。そんなのちっとも同じです。相手が貴方で、私が私という、絶対的に大事なものは同じです」
「う? うう?」
つまりです。
と、文はあたいの背中を押して、文があたいのお腹に頬ずりする。
「つまり、私の結論は、貴方になら、されるのもするのも構わない。貴方を愛していますと、そういう訳です」
「ぎゃぅ?!」
「分かりました? 通じました?」
「!!」
こくこくと頷く。
びっくり悲鳴がでたし、実は少し分からないけど、文があたいを愛してるってのはとっても分かった。
だから全然良かった。
「あっ、あたいも!」
「はい」
「文が大好き!」
「当然ですね」
「文が、妖精になっても人間になっても大好きなのよ!」
「? ええ、ありがとうございます」
ぎゅーって文の顔を抱きしめて、いますっごくちゅーがしたいのに、離れるのも嫌で、あたいはもやもやした。でもそれ以上にドキドキした。
「文!」
「何ですチルノさん?」
「―――あたいってば、今すっごくさいきょーよ!」
こんなに無敵なのは初めてで、文が「知っていますよ」って優しく笑ってくれて、あたいはもういいやって、文にちゅーをした。
おでこだったけど、触れたかったから良かった。
そうしたら、文が「っ!?」ってびくんってしたから、それがあんまりに可愛くて、文はあたいよりさいきょーだって、くらくらしながら思った。
もしも、あたいと文が天狗と妖精じゃなかったら、こうじゃなかったんだって。
あたいはもしもは素敵だけど、でも、もしもがなくて良かったって、心から思った。
今がとってもさいきょーだって、分かったから、あたいはもっとさいきょーなのだ。
どんな二人でもラブラブなのは変わらないんだろうな……
このチルノ間違いなく最強ですね
文はこう言ってくれたけど、妖精と天狗の恋愛って色々大変なんだろなぁ、とか。
一ヶ所『あたい』が『あいた』になっていました
・・・・・・おい?
し、死んでる・・・・・・!
いつまでも抱きしめられてたらいいんだ!
あまりのツボに意味不明なセリフを……いいぞもっとやれ
最近の文チル供給には感謝の嵐です
甘くて最高です、最強ですb
これがナチュラルに出て来るチルノさんは、もうそれだけで佳い女だと思う。
うん、さいきょーだ。
やっべぇぇ!極上すぎてこれから三日はスイーツ食っても味なんてしねぇぜ!
口ン中が甘ったるくなっていけねぇや。
…ああっ、ちっきしょう、かわいいなぁもうっ!
この台詞が見事に決まってました。いいなぁ。間違いなく最強です。
チルノというキャラは頭が良いのか悪いのか分からないところがありますが、この作品のチルノはそのあたりをうまく表現していたと感じます。