「諸君、偉大なる実験をご披露しよう」と森近霖之助が誇らしげに二人の少女に告げた。「もっとも、君たちにはこの実験の持つ意味は理解出来ないだろう。だがそれでも良い、今だけはただ僕の好奇心の行き着く先を共に見詰めていて欲しいんだ」
霖之助の言葉を受け二人の少女、博麗霊夢と霧雨魔理沙はウンザリしたような表情を浮かべるが、しかし腰を上げてこの場を離れるようなことはしない。どうやら二人とも霖之助の酔狂に付き合ってやる事に決めたようだ。大方内心では、ここで霖之助の頼みを聞いておく事で、後々霖之助から来るツケの催促をやり過ごす為の手札を増やしておこうとでも思っているのだろう。幻想郷の少女達は何時だってしたたかだ。
何はともあれ、霖之助の言う所の「偉大なる実験」が始まる事となった。まず実験前の準備として、霖之助は店の隅に積まれていた箱を机の上に置いた。
「さて、この道具は名称を『パーソナルコンピュータ』と言う。用途は『情報収集・処理をする道具』だ。元々は外の世界の道具だが、僕の能力に掛かれば何の事はない、たちまちその正体が判明する」
「判明するのは名前と用途だけだけどな」思わず魔理沙はそう呟こうとした所で、何とかその言葉を押しとどめた。ここで無粋な突っ込みを入れて霖之助の機嫌を損ねた所で、自分が得することは何一つ無いと判りきっているからだ。
「だがしかし昨今、この僕の能力とまるで対を為すような力を持つ人物が現れた。君たちもご存じだろう? そう、『正体を判らなくする程度の能力』を持つ妖怪、封獣ぬえ」霖之助はどこか芝居がかった口調で言葉を続ける。そして霖之助の言葉に合わせて何ものかが香霖堂の奥より姿を現した。今し方の弁に挙がった未確認幻想飛行少女、封獣ぬえだ。「彼女の能力を知った時、僕は名状しがたい感覚に襲われた。僕の能力は言うなれば『正体を判るようにする程度の能力』、そして彼女はと言えば『正体を判らなくする程度の能力』だ。この互いに相反する能力、多種多様な能力を持つ者達が跋扈するこの幻想郷において、ここまでの見事な鏡写しになっている能力が他にあっただろうか?」
この時、霊夢の脳内には騒霊姉妹の事が浮かんでいたが、それを言葉にする事はしなかった。霊夢は先程勝手に煎れたお茶と一緒に、口まで出掛かった余計な言葉を飲み込む。ここでの横槍は却って面倒な事態を招く。霖之助が持論を展開させている時は、彼の好きにさせておくのが一番手っ取り早いと言う事を経験上良く理解しているからだ。
「さあここからが本題だ。この互いをパラドックスとして持つ能力、それを僕と彼女、二人で『同時に』使うと果たしてどのような結果をもたらすか。魔理沙、君はどう思う?」
「あー、そうだな」突然質問を振られ、内心焦る魔理沙。流石に「話半分に聞いてたから気の利いた答えなんて返せないぜ」とは言えず、どう返すべきか、その答えを逡巡する。ややあって魔理沙は返答を決めたのか口を開く。「香霖かぬえ、能力が強い方が優先されるんじゃないか? 能力が強いってのは自分で言っておいて良く判らんが」
「フムン、面白い考えだ」と霖之助は言った。「まぁ千の論より一つの証拠。長々と付き合わせて悪かったね。前置きはここまでだ。果たして盾と矛の激突はどのような結果をもたらすのか。偉大なる実験の始まりだ」そう言うと霖之助は机の上にあるパーソナルコンピュータへと手を伸ばす。それを受けてぬえも能力を行使する為、その手を道具へと伸ばした。そして二人は互いに能力を使い……
別にパラドックスはなにもなかった。道具はそのままだった。
ところが、それを除く「幻想郷」の全部が、霖之助達もなにもかも、消えてしまった。
:REPLACED:
もっと勉強しなくちゃ…orz
霖之助とぬえの能力を対極と考えた事は無かったので、面白いお話でした
個人的には同時に能力を使うという実験自体が難しそうな気はしますね。
ぬえが先に能力を使った後霖之助が使ったら一瞬よくわからないものに見えてまたパソコンが見えるようになったりとかしそう。
でもこういう解釈も面白いですね。