この話は、作品集プチ58、『鬼と覚りの恋物語-後編- 』の設定を引き継いでおりますので、ご注意ください。
「仕事ですよ? それが何か?」
目をパチクリさせて答えた四季映姫・ヤマザナドゥを前に、それでもさとりは納得のいかない様子で彼女の机を思いっ切り叩いた。
「どうしてですか!?」
「どうしてって……。」
さとりの剣幕に若干尻込みをしながらも、映姫は瞳を逸らさずに逆に質問を浴びせた。
「私には休む理由が有りませんし……。何か問題が有りますか?」
事の発端は、さとりが映姫に対し、休みをくれと言い出したことだった。
別にそれ自体は悪い事ではない。休みをとる権利くらい、彼女にだってあるのだから。
ちなみにこれまで、さとりが自ら休みをくれなどと言い出した事は一度も無かった。
それをどうした事か、さとりはただ休みをくれと言うのではなく、『一緒に休みましょう』と言い出したのだ。これには映姫だって首を傾げる。
(自分だけ休みを貰えば良いものを、どうして私まで……?)
映姫は考えた……そして辿り着いた答えは一つだった。
「ま、まさか貴女……私に──」
「違います! わ、わた、私には心に決めた人が居るんですっ! 決して貴女にそういう類の感情は抱いてません!!」
「それを聞いて安心しました。……それじゃあどうして?」
どうやら心を読まれたらしく、思い付く理由を先回りに否定され、いよいよ聞くしか無くなった映姫は、素直にそう問い掛けた。
するとさとりは何を急に恥ずかしくなったのか、指をもじもじさせるだけで一向に答えようとしない。
先程までの勢いがまるで嘘のようだ……と、映姫は思った。
そんな、いつものジト目を忘れてしまったかのようなさとりに、映姫は戸惑うばかりだった。
それでも待つこと数十分。
勿体無いので、手元にある書類に目を通していた映姫に向かって、漸くさとりが重たい口を開いた。
「だ、だって不自然じゃないですか……急に私だけ宴会に参加するなんて……。」
さとりの蚊の鳴くような声を受け、ふむ。と、映姫は書類から目を離すと、未だもじもじしているさとりを見つめた。
それから壁に立て掛けてあったカレンダーに視線を移すと、確かにその日には赤いペンで丸が。
そしてこれまた同じく赤字で、『四季様! 宴会出ましょうよ! by小町』の文字があった。
「確かにその日は、博霊神社で定期的に行われている飲み会の日ですね……でも貴女も飲めないでしょう?」
“貴女も”、と言うからには、映姫自身もお酒は苦手だ。
お互いそれを承知の上で宴会に誘うとは、一体どんな理由があるというのか?
「だから、です。宴会の場に置いて、素面で居られるであろう貴女だからこそ、一緒に来て欲しいのです。」
「その訳とは……?」
漸く本題に近づいたと、映姫は身を乗り出した。
「その……私が萃香さんとお付き合いを始めた事は……?」
「ええ、知っていますよ。この間こいしちゃんが報告に来てくれました。『お姉ちゃんに大切な人が出来ました』と。ああ、お祝いの言葉がまだでしたね。」
「あ、いえ……そういうのは良いんです。改まって言われると恥ずかしいので。」
「そう言うと思ってました。それで、その伊吹萃香と何の関係が?」
「その萃香さんが飲み会に出るからです……!」
再び勢いを取り戻し始めたさとりに、映姫は困った顔をした。
「それはそうでしょう。彼女は無類の酒好き。宴会に呼ばれて出向かない理由が有りませんから……そろそろ答えを教えて頂けませんか? 全く話が見えてこないのですが……?」
「私と一緒に萃香さんを見張って欲しいのです!」
「見張る……? どうして?」
「だって……だってこいしまで着いて行くって言ってるんですよ!? 私にこの抜け駆けを黙って見過ごせと言うんですか!?」
「ああ……そう言えばこいしちゃんはこうも言っていましたね。『私が二号さんなんだよ♪』と。てっきり冗談かと思いましたが……。」
「冗談なもんですか! いっつも私が忙しいときに限って抜け駆けして……! 今回ばかりはそうはさせませんからね!?」
遂には理不尽な怒りをぶつけられた映姫は、これ以上ない程に迷惑そうな顔をした。
「それだけでは有りません!」
「……伺いましょう。」
それでも先を話すよう促してしまうのは、映姫が単にお人好しなのか……この時、映姫は徹夜での残業も覚悟していた。
「萃香さんに悪い虫が付かないか心配で心配で……萃香さんの包容力はかなりの物です……そこに惚れ込んでしまう女性がいても不思議じゃあ有りませんし……。」
──なるほど、恋は盲目と言う奴ですか。
単なる杞憂だと思うのだが、今のさとりにそれを伝えた所で無駄で有ろう事は、映姫にも容易に想像が付く。
──しかし、それでも私は言わなければなりません。
さとりにとっては酷かもしれない……されど閻魔の身である自分が、間違った認識をしている者をどうして見過ごせようか──。
それが大切な友人なれば尚の事……そう決意し、一人であーでも無い、こーでも無いとぼやくさとりに向き合う映姫。
「さとり……一つだけ白黒はっきりさせて置きますが──」
一拍置いて、さとりがちゃんと聞いているのを確認すると、映姫は思い切って続きを告げた──頬をちょっぴり赤く染めながら。
「包容力のある女性と言うのは、小町のような者を言うのです。」
静かに、しかしはっきりと断言してみせた映姫に対し、さとりは今更思い出したのか、彼女らしいジト目を向けていた。
そんなあからさまに急変したさとりの反応に、映姫は思わず机から身を乗り出して怒った。
「な、なんですかその目は!? まさか信じていませんね!?」
「……いいえ、いいえ。その様な事は決して。そうでしょうとも、そうでしょうとも──」
言いながら第三の目をアピールするように両手で持ち上げるさとり。
映姫はその氷のように冷たいさとりの視線から、はっきりと敵意を感じ取った。
「赤ちゃんプレイって言うんですか? こういうの。一時間以上も抱っこされて、その上頭をナデナデして貰えば、映姫でなくても包容力を感じずにはいられない事でしょうね。」
「なっ!? 貴女……! 私の心を読みましたね!?」
顔を真っ赤にさせて怒る映姫に、されどさとりは嘲る様な笑みを浮かべて返した。
「閻魔様ともあろう者がお忘れですか? 私が心を読んでしまうのは、私の意志だけでは有りません。今のは、私の前で勝手に思い出した貴女が悪いんです。」
「言うに事欠いて貴女は……! ……今のは特別聞かなかった事にしましょう。ですから、情状酌量の余地が有る内に謝っておいた方が身の為ですよ……?」
この場を丸く治めようと、映姫は怒りに引きつる顔を必死に堪えて笑顔を作った。
しかし無情にも、そんな映姫の想いはさとりには届かなかった。
「私を口で丸め込めると思っていたなんて、片腹痛いですね。心にも無い事を言っても、無駄ですから。
それよりも、先程の言葉を撤回して頂けますか? 貴女の部下より私の萃香さんが劣っているような言い草……とても許容できません。
まぁこれ以上に赤裸々なプライベートを暴露されたいと言うのなら話は別ですが。」
余裕綽々といった感じでさり気無く脅しに掛かるさとりに、いよいよ映姫の我慢も限界を迎えた。
「……貴女こそ誰に喧嘩を売っているのか分かっていますか? 私の前ではどんな隠し事も通用しませんよ。そう、この──」
そう言って映姫が取り出した鏡を見て、さとりの顔がサッと青ざめる。
「──浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)の前ではね……!」
「映姫!? それを使うのは公私混同ですよ!?」
「黙りなさい! 私だけが辱められるなんて事、あってたまるもんですか!」
相当恥ずかしかったのだろう。さとりの言うとおり、映姫のこの行為はとても誉められた事ではない……が、映姫には最早そんな余裕など無かったのだ。
「さぁ~て、新婚気分の貴女方は一体どんな恥ずかしい事を……おぉ、初々しいですね。『あーん』ですか。
おや? しかし食べさせて貰ってるのは貴女の方ですか? これは意外ですね……。
ああぁ、成る程。ペット達の気持ちを知りたかった、と。にしてもこれは……あぁ~あ、顎まで撫でて貰っちゃって……ちゃっかり犬耳まで着けて。恥ずかしく無いんですか?」
鏡に映し出された己の痴態に、もちろん恥ずかしくない筈がなく……怒りと屈辱とで、プルプルと震え出すさとり。
しかしこれが、彼女の胸の内で燻っていた怒りの炎に油を注ぐ結果となってしまうのだった。
「……もう、許せません! 貴女の恥ずかしい思い出、余す事なく読みまくってやりますっ!」
「良いでしょう……! その喧嘩買いました! 後で吠え面かいても知りませんよ!?」
売り言葉に、買い言葉……二人は既に自分を見失う程にヒートアップしていた。
「人々に忌み嫌われたさとり妖怪の本懐、とくと見るが良い!」
「真実を見抜くのは、さとりでも天狗でも無い……閻魔に見通せない物は無いことを証明して見せましょう!」
こうして、止める者の居ない、『ドキッ☆ 見た目はロリでもやってることはすごいんだぞ♪』大暴露大会の火蓋は切って落とされたのだった……。
それから数時間後──
小野塚小町は、自分の上司である映姫の執務室の前まで来ていた。
その理由は、問題を起こして呼び出された訳では決して無い。
ただ自分の仕事が終わったから、彼女の様子を見に来たに過ぎない。
そう、大好き彼女の元へ──そう思うと、小町の頬は自然と緩むのだった。
小町は、さて何て声を掛けようか? 等と考えながら遠慮無くドアをノックした。
ゴンゴン。
「…………うん?」
しかし幾ら待っても返事が無い事に、小町は首を傾げた。
普段なら『どうぞ。』の一言が有る筈なのだが……。
何か不吉な予感がした小町は、意を決してドアを開けてみる事に。
「……失礼しま~す…………って、おい! どうした!?」
控えめにドアを開けた小町が最初に見たのは、地面に倒れるさとりの姿だった。
当然小町は慌てて駆け寄ろうとするが、そこではっと思い出す。
(ここは四季様の部屋で、彼女は確か四季様の友人で……!四季様っ! 映姫は……!?)
「映姫……!?」
彼女の定位置は机だ。そちらへ振り向くと、案の定机に突っ伏す映姫の姿が。
「しっかりっ! しっかりして下さい!」
「こま……ち?」
──良かった、意識はあった。
小町は一瞬安堵したが、容体を確認するまで安心できないと直ぐに気を引き締め直した。
「えい……四季様? 一体何が……?」
「小町…………私は…………私はどうやら、背伸びをし過ぎていたようです。」
どこか虚ろな目で、そう弱弱しく呟く映姫。
ええ、知っていますと。貴女の背伸び姿が異常なまでに可愛いのは、あたいが一番知ってます!──と、小町は思ったが、どうやらそういう事ではないらしかった。
「それはどういう──」
「小町…………私には裸エプロンは早過ぎたのです……あれはもう、止めま……しょ…………う。」
ガクッ。
「四季様ぁ!? どうして……どうして、そんな事言うんですかぁ!? …………やって下さいよぉ~! 裸エプロン~!!」
再び気を失ってしまった映姫を腕に抱きながら、しょうもない事を叫ぶ小町。
地獄は今日も、概ね平和だった。
その後、さとり、映姫の両名はこの戦いで受けた傷(主に心)を完治させるのに数日を要してしまうことに。
その為、その間に溜まってしまった仕事を片付けるのに、結局飲み会が終わるまで休まず働く羽目となってしまうのだった。
だが──
「萃香さんっ。次はそっち。そう、それが食べたいです!」
別に両手が使えない訳でも無いのに、萃香に食べさせて貰おうとベッドから甘えた声を出すさとり。
とても病人とは思えない程ほくほくとした笑みを浮かべている。
「はいはい。全く世話の掛かる嫁さんだよ。はい、あーん。」
萃香はそれを受けて、さとりに指されたおかずを箸で取ると、彼女の口元まで運ぶ。
ちなみに今日の献立は、全て萃香の手によって作られたものだったりする。
「あーん。もぐもぐ……ふふふっ。口ではそんなこと言って、しっかり面倒を見てくれるんですね?」
「ん……? まあ、愛する嫁、だからねぇ。」
照れているのか、萃香はさとりから目を逸らしはしたが、ぽりぽりと頬を掻きながらも、ぶっきらぼうにそう言った。
「萃香さんっ……!」
これに辛抱堪らんっ! と言わんばかりに、さとりは勢いよく萃香に飛びついた。
それを危なげも無く受け止めた萃香は、まるでペットのようにじゃれ付いてくるさとりの頭を優しく撫でてやる事に。
「おわっと?……よしよし。こんなさとり、他の連中にはとても見せらんないね。」
食事を一時中断し、抱き合う二人からは幸せが滲み出ていたという。(こいし談)
また──
「すいません……小町。面倒をお掛けしました……。」
映姫は、あぐらを掻いて座る小町を前にして、何やら恐縮した様子で正座していた。
どうやら、執務室で倒れていたところを見られ、あまつさえ助けられた事を恥じているらしかった。
「そんな硬くならないで下さいよ。そんな事よりほら……いつもの、どうぞ。」
しかし、小町がそう言って両手を広げると、ピンと張詰めていた映姫の顔がまるで別人のように見る見るうちにふやけていった。
そして誘われるがままに小町との距離を詰める映姫。
「は、はい…………では…………。」
ボフンッ。
やがて吸い込まれるように、映姫はゆっくりとその豊満な小町の胸へと自身の顔を埋めた。そして──
すりすりすりすり。
「こまちこまちこまちぃぃぃぃぃぃ……!」
──甘えるように何度も顔を擦り付けるのだった。
「はふぅ…………。」
やがて満足がいったのか、感嘆とした吐息を漏らす映姫。
そんな彼女の耳元に小町はそっと口を近づけると──
「…………四季様、あたいの為にまた……“あれ”……やってくれますよね?」
──そんな事を囁いた。
そして背に隠していた一着のエプロンを彼女の手に握らせる。
「………………(こくっ)///」
それを受け取った映姫は小町の言葉に静かに頷くと、彼女が生唾を飲んで見守る中、自身の服に手を掛けるのだった……。
──このように完治までの間、何だかんだでそれぞれしっかりと休養は取れたようであった。
! ゆかに なにか あかい もじで かいてある
\はだかエプロンすげぇ/
一号さんと二号さんが仲良くしていることが円満な三角関係のコツですよね。
私、実は裸エプロンは好きではありません。後ろ姿のあざとさに逆に萎えてしまうので。水着エプロンまたは下着エプロンの正面から見た時の何も着てないような期待感と僅かに最低限が隠された後ろ姿とのバランスが好みなのです。どうでもいいですね。
ところでえーき様の服のままで『若奥様風肩のところにフリルが付いてるエプロン』をつけると萌えませんか?
赤ちゃんプレイにペットプレイ……だんだんいい感じにヘルツさんが壊れてきて今後が楽しみです。
ここには書けない別バージョンも楽しみに待ってますww
可愛いぞもっとやれ