※レティが霊夢の嫁です。「なぜ?」とか言ってはいけない。くろまくみこ!
「それじゃあ、ちょっと出掛けてくるわね~」
「はいはい、行ってらっしゃい」
博麗神社の縁側。庭に降り立って、レティは霊夢を振り返った。
チルノたちの面倒を見に行くのは、今もレティの日課である。
「夕方には戻るから~」
「ん。暗くなる前には帰ってきなさいよ」
今は昼過ぎだが、日が落ちるのが早い季節だ。油断しているとすぐ暗くなる。
「大丈夫よ~。少し暗いぐらいなら」
ほわほわと笑うレティに、霊夢はもごもごと口の中だけで呟く。
――大丈夫じゃないのは、自分の方なのだ。
「霊夢?」
「なんでもない」
ぶっきらぼうにそう言って、「行ってらっしゃい」と手を振りながらそっぽを向く。
「れいむ~」
むぎゅ。
後ろを向いたところで、背後から抱きしめられた。
「……何よ」
「えへへ~」
むぎゅう。レティの腕が強く背中から回される。
押し当てられる、レティの柔らかい感触と、ほのかな身体の熱。
「出掛ける前に、霊夢分の、補充~」
「……馬鹿言ってんじゃないの」
呆れたようにそう言ってみるけれど。
レティに顔を見られたら、自分の頬も緩んでいるのに気付かれてしまう。
振り返って抱きしめ返したいけれど、それを見られるのが恥ずかしいから――。
「霊夢……」
「……行かなくていいの?」
「ん」
横目で視線だけを向けると、レティは目を閉じて、心持ち唇を前に差し出していた。
――目を閉じてくれたのは、ありがたかった。
霊夢はレティの手をほどいて、振り返って、レティの頬に手を添えて、
「い、いひゃいいひゃい~」
むにー、と引っぱった。相変わらずよく伸びた。
「人目のあるところじゃ止めなさいって言ったでしょーが」
半眼で睨みつつ、むにむにとその柔らかいほっぺたを引っぱる。
「やめへ~」と涙目で抗議するレティに、はぁ、とひとつため息。
「誰もいないわよ~」
「どこで誰が出歯亀してるかわかんないでしょ」
「う~」
頬を膨らませて、レティは霊夢を見上げる。
「霊夢」
「なによ」
「……好き」
いきなり耳元で囁かれた。顔が急に熱くなった。
「ばっ――」
「霊夢が、好き」
「や、止め、」
「大好き。えへへ~……霊夢、」
「あーもう止めなさいっての!」
恥ずかしくて耐えられない。叫んだ霊夢に、レティは楽しげに微笑んだ。
「何回でも言うわ~。ね、れいむ、……好きよ~」
「――ああもうっ」
結局、どっちが恥ずかしいのか、という話であって。
どっちも恥ずかしいのだから、何も変わらないという話だった。
霊夢はレティの言葉を遮るように、その頬に手を添えて、
――唇を唇で塞いで、照れくさい言葉を止めさせる。
「……えへへ~」
「ったくもう……」
唇を離すと、レティはだらしなく笑って霊夢にもたれかかった。
――その温もりが、やっぱり幸せだと感じてしまうあたり、自分も処置なしだと霊夢は思う。
全く、レティが好きすぎてどうしようもないのはこっちも同じなのだ。
「それじゃあ、行ってくるわ~」
「……ん、行ってらっしゃい」
身体を離して、レティはひとつ手を振ると、冬の空に飛んでいく。
それを見送って、霊夢は白いため息を盛大に吐き出した。
* * *
で。
「暇ねえ……」
こたつでみかんを頬張りながら、霊夢はぽつりと呟く。答える声は無い。
時計が静かに時間を刻んでいく音だけが、神社の中に響いている。
晩御飯の支度をするにはまだ早い。ひとりでこたつに潜ってぬくぬくとしている、静かな時間。昔は慣れていたはずのその静寂が、今はひどく落ち着かない。
「……レティ」
こたつに突っ伏して、彼女の名前を呟いた。
手を伸ばしても、彼女の柔らかい頬には手が届かない。
「うー……」
禁断症状である。
毎度のこととはいえ、自分のどうしようもない駄目っぷりに、霊夢はため息をつくしかない。
レティを抱きしめたい。むぎゅう、と思いっきり、あの柔らかい身体を強く。
「……やっぱりあれが失策だったわね……」
少し前に、うっかりレティと一日中むぎゅむぎゅしていたのが失敗だった。
何しろレティときたら抱き心地が良すぎるのである。あの柔らかい胸元に顔を埋めて眠るのは至福の心地よさと言う他ない。おかげでレティがいないと眠れなくなってしまった。すっかり専用抱き枕なのである。
いつもはその心地よさを貪るのもほどほどにしておくのだけれど、この前うっかり誘惑に負けて一日中布団の中でレティを抱きしめてごろごろしてしまった。幸せすぎてどうしようもなかった。
で、身体がそれを覚えてしまったわけで。
「うぅ……レティ」
こたつの毛布を握りしめてみるけれど、もちろんそれで満たされるわけもない。
座っていた座布団を抱きしめてみた。やっぱり駄目だった。
もぞもぞとこたつから這い出し、寝室に向かった。ずぼらにも布団は敷きっぱなしだった。その上に倒れ込んでみるけれど、もちろん既にレティの温もりは消えている。
「ん……」
仕方ないので掛け布団を代わりに抱きしめた。
レティの心地よさには遠く及ばないけれど、とりあえず一番マシだった。
「レティ」
『れいむ』
耳元でレティに囁かれたような気がした。もちろんそれは妄想だけれど。
目を閉じる。赤らんだレティの顔が浮かぶ。
――見送ったとき、もうちょっと思いっきりむぎゅむぎゅしておけば良かった。
今さら思っても遅いのである。レティはチルノたちのところで母親役中だ。
本来自分が抱きしめているはずのレティに、今はチルノが抱きついたりしているのかと想像したら、なんだか無性に腹が立ってきた。チルノ相手に嫉妬するとかいよいよ末期であるという自覚ぐらいはあるが、やっぱりどうしようもない。
『もう、霊夢ったら、甘えん坊ね~』
「うっさい、ばか」
『ドキドキしてるの、わかるわ~』
「いちいち言うな」
『……キス、して』
「言われなくてもするわよ――」
唇を押し当てた相手は掛け布団だった。泣きたい。
というか、こんな格好をレティに見られたら死ぬ。
うー、と呻いて霊夢は布団を離して仰向けになった。そろそろレティが帰ってくるかもしれない。とりあえずこの衝動をどうにか押し隠しておかないと、レティの顔を見たらどうなるか――。
「れいむ?」
妄想の中ではなかった。
現実の声がした。
硬直。
「…………レティ?」
「う、うん、ただいま~」
寝転んだまま視線を向けると、襖を開けて、レティがそこにいた。
「……なんでそこにいるのよ」
「ただいま、って言ったんだけど、返事が無かったから~」
「…………見てた?」
「…………うん」
死ぬ。舌噛み切って死んでやる。割と本気でそう思った。
身体を起こし、レティに背を向け、頭を抱えて心の中だけで「ああああああ」と叫んでいると、不意に畳が軋む音がして、レティの気配が背後に近付いた。
「れいむ」
「…………」
「れいむってば~」
「…………あによ」
「ただいま」
むぎゅう。
背後から抱きしめられた。
「…………おかえり」
「えへへ~」
ああもう。
この温もりが欲しかっただけなのに。
どうしてこう、恥ずかしすぎて正面から抱きしめられない状況になってしまうのか。
死んでしまえ自分。霊夢は口の中だけでそう呟く。
「私も、ね~」
「…………」
「私も、霊夢と、むぎゅってしたくて、早く帰ってきたの~」
頬ずりされた。幸せだった。ああもうやっぱり駄目だ自分。
「レティ」
「うん」
「ばーか」
「ひどいわ~」
「……大好き」
「ん」
叫ぶかわりに、思いっきりレティを抱きしめて、そのまま押し倒した。
レティの温もりを布団の中で噛み締めて、額をぶつけて苦笑しあって、やっぱりそれで、世界で一番満たされていた。
「それじゃあ、ちょっと出掛けてくるわね~」
「はいはい、行ってらっしゃい」
博麗神社の縁側。庭に降り立って、レティは霊夢を振り返った。
チルノたちの面倒を見に行くのは、今もレティの日課である。
「夕方には戻るから~」
「ん。暗くなる前には帰ってきなさいよ」
今は昼過ぎだが、日が落ちるのが早い季節だ。油断しているとすぐ暗くなる。
「大丈夫よ~。少し暗いぐらいなら」
ほわほわと笑うレティに、霊夢はもごもごと口の中だけで呟く。
――大丈夫じゃないのは、自分の方なのだ。
「霊夢?」
「なんでもない」
ぶっきらぼうにそう言って、「行ってらっしゃい」と手を振りながらそっぽを向く。
「れいむ~」
むぎゅ。
後ろを向いたところで、背後から抱きしめられた。
「……何よ」
「えへへ~」
むぎゅう。レティの腕が強く背中から回される。
押し当てられる、レティの柔らかい感触と、ほのかな身体の熱。
「出掛ける前に、霊夢分の、補充~」
「……馬鹿言ってんじゃないの」
呆れたようにそう言ってみるけれど。
レティに顔を見られたら、自分の頬も緩んでいるのに気付かれてしまう。
振り返って抱きしめ返したいけれど、それを見られるのが恥ずかしいから――。
「霊夢……」
「……行かなくていいの?」
「ん」
横目で視線だけを向けると、レティは目を閉じて、心持ち唇を前に差し出していた。
――目を閉じてくれたのは、ありがたかった。
霊夢はレティの手をほどいて、振り返って、レティの頬に手を添えて、
「い、いひゃいいひゃい~」
むにー、と引っぱった。相変わらずよく伸びた。
「人目のあるところじゃ止めなさいって言ったでしょーが」
半眼で睨みつつ、むにむにとその柔らかいほっぺたを引っぱる。
「やめへ~」と涙目で抗議するレティに、はぁ、とひとつため息。
「誰もいないわよ~」
「どこで誰が出歯亀してるかわかんないでしょ」
「う~」
頬を膨らませて、レティは霊夢を見上げる。
「霊夢」
「なによ」
「……好き」
いきなり耳元で囁かれた。顔が急に熱くなった。
「ばっ――」
「霊夢が、好き」
「や、止め、」
「大好き。えへへ~……霊夢、」
「あーもう止めなさいっての!」
恥ずかしくて耐えられない。叫んだ霊夢に、レティは楽しげに微笑んだ。
「何回でも言うわ~。ね、れいむ、……好きよ~」
「――ああもうっ」
結局、どっちが恥ずかしいのか、という話であって。
どっちも恥ずかしいのだから、何も変わらないという話だった。
霊夢はレティの言葉を遮るように、その頬に手を添えて、
――唇を唇で塞いで、照れくさい言葉を止めさせる。
「……えへへ~」
「ったくもう……」
唇を離すと、レティはだらしなく笑って霊夢にもたれかかった。
――その温もりが、やっぱり幸せだと感じてしまうあたり、自分も処置なしだと霊夢は思う。
全く、レティが好きすぎてどうしようもないのはこっちも同じなのだ。
「それじゃあ、行ってくるわ~」
「……ん、行ってらっしゃい」
身体を離して、レティはひとつ手を振ると、冬の空に飛んでいく。
それを見送って、霊夢は白いため息を盛大に吐き出した。
* * *
で。
「暇ねえ……」
こたつでみかんを頬張りながら、霊夢はぽつりと呟く。答える声は無い。
時計が静かに時間を刻んでいく音だけが、神社の中に響いている。
晩御飯の支度をするにはまだ早い。ひとりでこたつに潜ってぬくぬくとしている、静かな時間。昔は慣れていたはずのその静寂が、今はひどく落ち着かない。
「……レティ」
こたつに突っ伏して、彼女の名前を呟いた。
手を伸ばしても、彼女の柔らかい頬には手が届かない。
「うー……」
禁断症状である。
毎度のこととはいえ、自分のどうしようもない駄目っぷりに、霊夢はため息をつくしかない。
レティを抱きしめたい。むぎゅう、と思いっきり、あの柔らかい身体を強く。
「……やっぱりあれが失策だったわね……」
少し前に、うっかりレティと一日中むぎゅむぎゅしていたのが失敗だった。
何しろレティときたら抱き心地が良すぎるのである。あの柔らかい胸元に顔を埋めて眠るのは至福の心地よさと言う他ない。おかげでレティがいないと眠れなくなってしまった。すっかり専用抱き枕なのである。
いつもはその心地よさを貪るのもほどほどにしておくのだけれど、この前うっかり誘惑に負けて一日中布団の中でレティを抱きしめてごろごろしてしまった。幸せすぎてどうしようもなかった。
で、身体がそれを覚えてしまったわけで。
「うぅ……レティ」
こたつの毛布を握りしめてみるけれど、もちろんそれで満たされるわけもない。
座っていた座布団を抱きしめてみた。やっぱり駄目だった。
もぞもぞとこたつから這い出し、寝室に向かった。ずぼらにも布団は敷きっぱなしだった。その上に倒れ込んでみるけれど、もちろん既にレティの温もりは消えている。
「ん……」
仕方ないので掛け布団を代わりに抱きしめた。
レティの心地よさには遠く及ばないけれど、とりあえず一番マシだった。
「レティ」
『れいむ』
耳元でレティに囁かれたような気がした。もちろんそれは妄想だけれど。
目を閉じる。赤らんだレティの顔が浮かぶ。
――見送ったとき、もうちょっと思いっきりむぎゅむぎゅしておけば良かった。
今さら思っても遅いのである。レティはチルノたちのところで母親役中だ。
本来自分が抱きしめているはずのレティに、今はチルノが抱きついたりしているのかと想像したら、なんだか無性に腹が立ってきた。チルノ相手に嫉妬するとかいよいよ末期であるという自覚ぐらいはあるが、やっぱりどうしようもない。
『もう、霊夢ったら、甘えん坊ね~』
「うっさい、ばか」
『ドキドキしてるの、わかるわ~』
「いちいち言うな」
『……キス、して』
「言われなくてもするわよ――」
唇を押し当てた相手は掛け布団だった。泣きたい。
というか、こんな格好をレティに見られたら死ぬ。
うー、と呻いて霊夢は布団を離して仰向けになった。そろそろレティが帰ってくるかもしれない。とりあえずこの衝動をどうにか押し隠しておかないと、レティの顔を見たらどうなるか――。
「れいむ?」
妄想の中ではなかった。
現実の声がした。
硬直。
「…………レティ?」
「う、うん、ただいま~」
寝転んだまま視線を向けると、襖を開けて、レティがそこにいた。
「……なんでそこにいるのよ」
「ただいま、って言ったんだけど、返事が無かったから~」
「…………見てた?」
「…………うん」
死ぬ。舌噛み切って死んでやる。割と本気でそう思った。
身体を起こし、レティに背を向け、頭を抱えて心の中だけで「ああああああ」と叫んでいると、不意に畳が軋む音がして、レティの気配が背後に近付いた。
「れいむ」
「…………」
「れいむってば~」
「…………あによ」
「ただいま」
むぎゅう。
背後から抱きしめられた。
「…………おかえり」
「えへへ~」
ああもう。
この温もりが欲しかっただけなのに。
どうしてこう、恥ずかしすぎて正面から抱きしめられない状況になってしまうのか。
死んでしまえ自分。霊夢は口の中だけでそう呟く。
「私も、ね~」
「…………」
「私も、霊夢と、むぎゅってしたくて、早く帰ってきたの~」
頬ずりされた。幸せだった。ああもうやっぱり駄目だ自分。
「レティ」
「うん」
「ばーか」
「ひどいわ~」
「……大好き」
「ん」
叫ぶかわりに、思いっきりレティを抱きしめて、そのまま押し倒した。
レティの温もりを布団の中で噛み締めて、額をぶつけて苦笑しあって、やっぱりそれで、世界で一番満たされていた。
うん、甘い
めっちゃ感激です!!!…くろまくみこに目覚めそう。
しかもどちらも甘ったるくてブラックコーヒー必須じゃないか。
いいお手前です。
なぜなら読んだ私が爆発したからだ!
熱い冬がやってきたな。
レティさん抱き心地よさそうだよな。俺もくろまくみこに目覚めた。
しかし先日結婚したばかりなのに節操ないですよ。浅木原さん。
どれだけイチャイチャしても全くイラつかない。むしろ穏やかな気分になる