「あ、あの。衣玖。私、こういうの、どうすればいいかわかんなくて。
がちがち、に、なっちゃうかも、しれないけど。その、ね」
「わかりましたから天子、落着いてください」
「おっ、おお、落着けるわけないでしょ?! 衣玖と、こんな……恋人同士がするみたいなこと、してるんだから」
「現に私たちは恋人同士です」
まっ暗い。お互いの、というか私の顔を見られてないのが、何よりもの救いか。
誰もいない、二人だけの六畳間が、私たちの、というか衣玖のお城。
私はそこにおよばれされた、嫁入り初夜のお姫様…なんて、おこがましいのかな。
布団もきゅうきゅうで、そこに私が入ろうと思ったら、衣玖は座れなくなっちゃって。
端に私が座り込んで、二人でなんとか半分こできた。
衣玖のからだ、私より大きいもん。私が我慢するのは、仕方ないよね。
なんて、あたふたしてたら、衣玖が顔を近づけてきた。
整った無表情は、私と目線を合わせて、ゆっくりと迫る。
圧倒されるくらい、きれいだった。
だからつい、口ごもって、止まっちゃいそうになって。
けど止まったからって、衣玖が止まってくれるわけじゃなくて。
「ええ、と。近いよ、衣玖」
沈黙に我慢できなかったから、言葉を無理やり絞り出した。
「キスしようとしたんですけど」
……あ。
もしかして私、やっちゃった?
雰囲気読めないし、テンパっちゃうし、つくづくだめな娘だなあ、私。
衣玖とは大違いで、ちょっと涙出そう。
「あ、ああ。キス、ね。うん、いいよ?」
「全然よくなさそうなんですけど……」
「ぜ、全然。大丈夫。私なら大丈夫だから、キスしよう、衣玖」
「…………」
むっ、と膨れ顔になる。
普段からしかめつらだけど、今回のはとびきりだ。
真一文字の唇が、への字型まで歪んでる。
じとっとした視線が、私を串刺しにして。
ああ、またやっちゃったなぁって、背中に冷や汗が滲んだ。
なんか、目が怖いよ、衣玖。
「無理はいけませんよ。こんなところで我慢しても、誰も喜びませんから」
「私が喜んでほしいの、衣玖だけ、だもん」
「なおさらです。私がそんな強姦めいたこと、すると思ってるんですか?」
「ごっ…?!」
「私は天子『と』したいんです、天子『に』したいんじゃありません。
こんな機会、いつだって作れます。ないなら私が作ります」
……嘘だ。
こんな機会、いつでも作れるなんて、嘘。
私が衣玖の家に泊まれること自体がめったにないことなのに。
「だから……無理とか我慢とか、しないでください。
そんなふうに、あなたと初めてはしたくないです」
それなのに、衣玖は、こんなとりつくろって。
私のせいだっていうのはさすがにわかってる。
申し訳ない気持ちでいっぱいだけど。
でも、やっぱりまだ、心の準備ができてなくって。
「……ごめん、衣玖」
悲しくなって、つい顔を伏せた。
衣玖の顔は、わからなかった。
でも、衣玖はいいんですよ、とだけ言って、優しく抱きしめてくれた。
温かかったけど、同じくらい、足りないって思った。
もっと強く、ぎゅうってしてくれていいんだよって。
ごめんね。
もう一回だけ呟いて、私は抱き返した。
28282828…
すんごいニヤニヤしちゃうwww
それにしても、なんでここまでこの二人には湿気のじめじめしたような畳部屋が似合うんだろうか…