「「ごめんくださーい」
カランカランと甲高い音を立ててドアに取り付けたベルが来客を知らせる。
もっとも、来客とは私のことで、その上実際は買い物に来たわけではないので客ではなかった。
ここは魔法の森の外れ。この隔離された幻想郷において外の世界の道具を取り扱う数少ない道具屋、香霖堂だ。
乱雑に置かれた商品の群、用途も使い方もよくわからない道具の数々。あまり掃除をしていないのか、それらにはうっすらと埃が被っている。古道具屋っぽくはあるが、あまり好ましいとは思えない。
しかし、そんな店内から私を迎える店主の声はいつまでたっても聞こえてこない。
別に店主が本に夢中で気づいていないとか奥の台所でお茶でも淹れているのなら仕方が無い。
前者なら近くに寄ってって適当に座って気づくまで一緒に本を読むし、後者なら彼の座っていたであろうカウンターの席に陣取って持ってきたお茶を一番に頂くのだが。
生憎、店内にも姿は見えないし、どうも奥で何かしているという風でもなさそうだった。人の気配は無い。
もっとも、実はドアを開ける前から何となくそんな気はしていたのだ。
何故なら普段は店の脇に置いてあるはずの拾得物運搬用の猫車が、今日に限って見当たらなかった。
勿論、決して几帳面とは言いがたい店主の事だ、絶対にそこに置かなければならない、なんて取り決めをしているわけではないので一応確認してみようと思い中へ入ったわけである。
それにしても彼は、鍵の一つもかけずに店を空けるなんて店主としての自覚あるのだろうか。あると言っても、きっと私は脊髄反射で「嘘こけ」と言える自信はあるが。
まあ、彼に自覚があろうと無かろうと今現在において、彼の経営する道具屋はこそ泥上等空き巣ウェルカムな状態であるのは確かだ。
このまま放置すれば紅白と黒白の鼠に商品から生活用品に至るまで根こそぎコンプリートされてしまう事だろう。
そこを行くと店主はまだ天に見放されたわけでは無いのかもしれない。
何故なら、今日この店が無人になってから私が訪れるまでの間に無法者に踏み荒らされたということは無いらしい。
見れば、乱雑ながら並べられている商品は、多少のズレはあれど数日前にここを訪れた際に見たものと何ら変わりない。
それはそれで道具屋としてあってはならない事だとは思うが、今日のところはプラスに働いてくれた。
「もう…仕方が無いなあ、霖之助さんは」
私は眉を八の字にしながら息を吐く。肩だってガックリと下がっている。全く、折角ここまで会いに来たのにこの仕打ちはあんまりだと思う。
約束があったわけでも予定を伝えていたわけでもないが、普段ならカウンターの席で本でも読みふけっているであろう日を選んで胸をときめかせて来たというのに拍子抜けもいい所だ。
大方、朝起きたら何となく今日はいいものが落ちていそうな気がしたのだろう。そんな理由で店を臨時休業出来るのだ、あの森近霖之助という男は。
正直なところ、今日は出直して後日改めて会いに来るのも悪くは無いのだが、どうしても後ろ髪を引かれる。
理由は私の中のちっぽけな罪悪感と正義感。
あっぱっぱーの開けっ広げな香霖堂をほったらかしにする罪悪感と、この店を店主に代わって悪の手から守らなければという正義感。
このまま私が香霖堂を後にして、彼が帰って来た際に店が引っくり返されていたとなれば私も流石に寝覚めが悪い。
ならば、私の取るべき行動は一つだ。
「この稗田阿求、霖之助さんに代わって今日一日店を守りきって見せましょう!」
一日店主、稗田阿求の誕生だった。
と、意気込んで見せたはいいものの、はっきり言って暇だった。暇で仕方が無かった。
だって、誰も来ないのだ。
私がここへ来たのは昼前。そして今は日は中天を過ぎて大分傾いてきた。ほぼ半日が経過しているのである。
にも拘らず。にも拘らず! 人っ子一人鼠一匹、お客の一人も来はしない。
幻想郷縁起において宣伝しておいたと言うのに、これでは全く意味が無かったみたいじゃないか。
もしかしたらあれの発表後は多少客は増えたけど、店主の無愛想さや不真面目さ、無礼さに呆れに呆れてほとんどの客は離れてしまったのかもしれない。きっとそうだ、私の所為じゃない。
しかし、これだけ暇では霖之助さんが毎日毎日読書に精を出しているのも必然だろう。仕事をしようにも客が来ないのだ。
まあ、魔法の森なんて危険区域に普通の人はわざわざ近づこうとも思わない。私だって、この店がなければ積極的に来ようとは思わない。
退屈を示す溜息と共にカウンターに読み終えた外の世界の本を積んだ。これで10冊目。
いつも霖之助さんはこんな退屈の中に身を置いているのだろうか、だとしたらもっと来る頻度を多くした方がいいのかもしれない。兎じゃないが、私なら寂しくて死にそうだ。
数刻もすれば日も沈む。
そうすれば、きっとお客なんて来ないだろう。まあ、日が昇ってようが客は来てないけど。
「それにしても、遅いなあ…霖之助さん」
カウンターに頬杖をつき、何気なく入り口を見やると外で人の気配がするのに気づく。
ようやく帰って来たのか、と思い椅子から腰を浮かせた瞬間、外から小さな声が聞こえた。それは、成人男性の声ではない、少女の声だった。それも二つ。
どこか聞き覚えのある声色に嫌な予感を憶える。その予感に従い咄嗟に私はカウンターの下に身を滑り込ませたその時、ベルの音と共に壊れそうな勢いで扉が開いた。
「邪魔するわよ」
「邪魔するぜ!」
店内に二つの少女の声が響き渡る。
私はカウンターに開いた節の穴から店内の様子を覗き見る。
扉の向こうから現れたのはやはり店主である森近霖之助ではなかった。
店へ入ってきた人物は二人、片方は年のころは私とさして変わらないくらいの赤と白を貴重とした巫女服を着た少女。そしてもう一人も同年代ぐらいの黒と白のエプロンドレスを着た魔法使いのような出で立ちの少女。
私は二人を知っている。
博麗の巫女である博麗霊夢と普通の魔法使いと名乗る霧雨魔理沙だ。
二人は我が物顔でずかずかと香霖堂へと入ってくる。当たり前のように、まるで我が家であるかのように。
「なんだ? 香霖はいないのか」
「別にいいじゃない、霖之助さんがいてもいなくてもやることはかわらないわ」
「まあ、そうだけどな。おっ、あいついいもん持ってるじゃねーか。香霖の癖に生意気だぜ!」
早速並べられた商品へと手を伸ばす霧雨魔理沙。流石、手癖の悪さは幻想郷一だ。人の技も盗むが物だって盗む。
ガシャガシャと連続で音が響くと思っていたら、棚の下に袋を据えて次々と商品を落としていっている。何処の宝石店泥棒かと叫びたいが隠れている身では難しい。
大変な事になってしまった…私は、香霖堂を守るために今日ここに残ったはずなのに。
カウンターの下で頭を抱えていると、博麗霊夢がこっちの方へと向かってきた。
彼女の狙いは恐らく食べ物、そして茶葉や酒などだろう。
何とかしたいと思う反面、彼女達が怖くてカウンターから出ることも出来ない。我が事ながら、不甲斐ない限りである。
どうすれば…。
だが、いつまでも隠れてはいられない。
博麗霊夢がこちらへ歩いてきている以上、ここはすぐにばれてしまう。いや、もうすでにお得意の「勘」でここに私がいることに気づいているかもしれない。稗田阿求に逃げ場なし、だ。
腹を、決めるしかないのかもしれない。
私は何のために、店主のいないこの店に留まったのだ。このような事態から、霖之助さんの大事な店を守るためじゃなかったのか。
そう思えば、勇気が湧いてきた。
私は意を決してカウンターから立ち上「あぎぅっ」ろうとして盛大に頭をぶつけた。
だが、不幸中の幸いか、大きな音を立てたこともあって驚いた魔理沙さんは盗みを働く手を止めているようだ。
霊夢さんはというと、予想していたかのように落ち着いている。やはり誰かいるであろう事に気づいていたようだ。
店内が静寂に包まれる。
「…誰?」
その静寂を破って、霊夢さんが問う。
頭頂部をさすり少しでも痛みを和らげた後、今度は頭上に気をつけつつ立ち上がる。
「そ、そこまでです!」
私は背筋を伸ばし、香霖堂を荒らす悪党二人に向かって言い放つ。
彼女らの悪行を止めるため、この香霖堂を守るため。
「なんだ、阿求か。ビックリさせやがって」
霧雨魔理沙が息を吐き盗難作業へと戻る。
「ちょっとそこどいてくれる? その奥に茶葉が置いてあるのよ」
博麗霊夢が手を払って私の横をすり抜ける。
二人とも、私の存在を全く意に介さない。
稗田阿求は、彼女らの盗難行為の前には何の障害にもなっていなかった。
「ふ、二人とも止めてください! それは、霖之助さんの…」
私の声は届かない。
香霖堂の棚から、商品が消えてゆく。お茶も、お酒も、お菓子も、どんどん消えてゆく。
「止めて…もう止めてください…っ!」
次々と袋に商品を詰め込む魔理沙さんへ縋りつく。
少しでも、彼女に霖之助さんへの親愛の情が残っていれば、きっとこの行為の愚かさに気づいてくれるはずだ。
だが、そんな願いも虚しく、私に向けられた視線は苛立ちと嫌悪で満たされていた。
「うるさいんだぜ!」
「きゃあっ!」
霧雨魔理沙はいつの間にか手にしていた箒で私を跳ね飛ばした。
そのままカウンターまで転がって強かに頭をぶつけてうずくまる私。
「…ぅぅ…」
「そこで大人しくしてろよな、次はマスパだぜ」
箒でびしりと差されて威嚇される。
もう一方の手には霧雨魔理沙の代名詞とも言うべき魔法アイテム、ミニ八卦炉が握られている。
あれだって、霖之助さんに作ってもらった物のはずだ。恩を仇にするにもほどがある。猫だって、もう少しマシな仇で恩を返してくれると思う。
私は、カウンターにもたれながら身を丸めた。
怖いわけじゃない。
とても、悔しかった。
霖之助さんの大事な香霖堂の商品や、茶葉や酒などの数少ない彼の嗜好品を守ることが出来なかったことが、堪らなく悔しくて情けなかった。
だが、どうしようもない。
私は、見たもの聞いたものを忘れずに記憶し続ける事が出来る程度の、ただの小娘なのだから。
どうやったって、異変解決のスペシャリスト。妖怪変化と対等に戦う二人に、勝てるはずも無い。
仕方が、ない。
仕方がなくて、どうしようもない事のはずなのに、涙が止まらなかった。
どうして私はこんなに無力なんだろう。
せめて、少しでも彼女達を止める力があれば…!
力さえ、あれば!!
『その願い、私が聞き入れて差し上げましょう』
声は突然聞こえた。
私にしか聞こえないような、小さな声だった。
振り返ると、私とカウンターの間に隠れるようにして小さな小さな空間の亀裂が存在していた。
リボンで両端を装飾したそれから、確かに声が聞こえた。
ていうか…
「何やってるんですか、紫さん」
『ちちちっ、違うわ! 私は八雲紫なんて美少女じゃないわ!』
この人、自ら「美」をつけやがった。その上「少女」だなんて、おこがましいにもほどがある。
『オホン…我は力の求道者なり』
「何の本に影響されたのか知りませんけど、助けてくれるんですか…?」
『助けませんわ。私はただ力を貸すだけ』
胡散臭い。台詞の内容も相まって胡散臭さは相乗効果で倍の倍だ。
『どうするのです、稗田阿求? この香霖堂の存亡は、あなたの双肩に預けられているのですよ』
「紫さんが出てきて止めてくれれば手っ取り早いのではないでしょうか? きっと霖之助さんの紫株も鰻登りですよ」
『それはそれで魅力的な提案だけれども面白くはありませんわ』
ばっさりと切られた。本当に力を貸すだけのようだ。
でも、もしこの状況を打破できるなら。
霖之助さんの香霖堂を、守る事が出来るのなら。
「…お願いします。力を、貸してください」
振り絞るように、私は声を出した。
私がそう言うことがわかっていたのか、スキマの向こうで僅かに笑んだような息が漏れる。
そして宙に浮いたスキマが僅かばかり広がった。
『では、このスキマに手を差し込みなさい』
前言撤回したくなってきた。
「はっはー、大量だぜー!」
「そうね、霖之助さんったらこんな上等のお酒や茶葉を隠してたなんて」
店の目ぼしい物を粗方奪いつくした略奪者たちは満足げに笑った。
彼女らが荒らしまわった店内はガランとしており、ここが本当に道具屋であったかすらわからないほどだ。
「さてと、神社に戻ってこのお酒で一杯やっていかない?」
「お、いいな。こいつらの研究は明日に回すとするか」
サンタクロースかと言うほどに道具の詰め込まれた大きな袋を揺らしして歩き出す二人。
ドアに手をかけようとして、折角だからこれも貰っていくかとベルに手を伸ばす。
だが、それを私は許さない。
「待ちなさい…っ!!」
背を向けたまま止まる霊夢さんと魔理沙さん。
「おい霊夢、何か聞こえたか?」
「気のせいじゃない? ここにいるのは私達と、あとは何も出来ない子供だけよ」
「だよなあ、空耳か」
私を無視したままに再びベルへと手を伸ばす。
「それ以上の横暴は、この稗田阿求が許しません! その荷物を置いてここから立ち去りなさい!」
私の声に、ようやくこちらを振り向く二人。
「ただの人間であるあんたが、何をどう許さないって言うの?」
「言ったよな? 次はマスパだ、って」
実に凶悪な面構えだ。
まさに強盗犯そのもの。
だが、その二人を私はにらみ返す。
「もう一度言います、その荷物を置いてここから立ち去りなさい!!」
私は、手に持った物を二人に突きつけて言い放つ。
「……ぶっ、あははははははっははははっ!!」
魔理沙さんがそれを見て盛大に噴出した。
「あんた…それで一体何をするつもりなのよ」
霊夢さんが頭に手を当てて、呆れたように言う。
そう、私が持っているのは身の丈にも届きそうな巨大な筆だった。
不思議と重さは感じない、まるで普段使っている小筆のようだ。恐らく八雲紫が境界を操ってどうにかこうにかしてくれたのだろう、気は進まないが感謝はしておく。
「まさか、巨大書初めでも始める気?」
そう聞きたくなる気持ちは大いにわかる。
なんせ私自身、スキマに手を突っ込んで引きずり出した瞬間真っ先に聞いたからだ。
だが、この道具はそんな生易しいものではない。
「へっ、そんな馬鹿な道具で何が出来るっていうんだぜーっ!!」
大きな盗品袋をその場において、箒を振りかぶり襲い掛かってくる魔理沙さん。
しかし、今の彼女は慢心の塊。私をただの一般人と侮り、馬鹿にしている。
本当に私を敵と認識して攻撃を仕掛けるなら、脅し文句で言っていたようにマスタースパークでも放てばいいのだ。なのにそれをしなかった。
それこそが、彼女の敗因!
力一杯箒を振り下ろす魔理沙さんの横を私はするりと抜ける。
「くっ、阿求! 今度は外さ…っ!」
振り返りながら叫ぶ魔理沙さんの言葉は、最後まで紡がれない。
「魔理沙…? ど、どうしたの!?」
振り返るまでも無い。彼女は今、身動きを取れないはずだ。取ろうとも、思わないはずだ。
事実、彼女は微動だにしない。
何故なら彼女は、すでに「霧雨魔理沙」ではないのだから!
「さあ、霊夢さん。最後の警告です。その荷物を置いて立ち去ってください」
一歩、また一歩と私は霊夢さんに近づく。
状況を把握できない彼女は、少しずつ後ろへと下がる。
「どうなってるの…あの魔理沙が阿求なんかにやられるなんて…!」
チラリと私の後ろで立ったまま動かなくなった魔理沙さんに視線を移す。
そして悔しそうに歯を食いしばる霊夢さん。
わかっているのだ、きっとこのままでは魔理沙さんの二の舞になると。
カラン、とベルが鳴る。霊夢さんの背中がドアに当ったのだ。もう後は無い。
「あ…阿求の癖に生意気よっ!!」
追い詰められてやけになったのか、玉串をかざして突撃してくる霊夢さん。
それを魔理沙さんと同じようにかわし、同じように筆を振るった。
「なっ…これは…!!」
博麗霊夢の平らな胸にはただ一文字。
『木』と書かれていた。
生き字引きの筆。
幻想郷風に言うなら、相手を書いた文字の物に変える程度の能力を秘めた巨大な筆。
八雲紫が貸してくれた力だ。
霊夢さんと魔理沙さんを撃退した後はあっさりと回収されていった。
ついでに二人を回収していってくれと頼んだ所、後始末くらい自分でつけなさいな、とか言ってとっととスキマを消してしまった。実に無責任だ。
とりあえず、二人並べて隅のほうに移動させておいた。二人揃って「木」となって微動だにしないその姿は、実にシュールだ。
その後、彼女らが強奪した商品は、私の色あせない記憶通りに店に並べ直した。きっと霖之助さんが見たところで違いは発見できないだろう。
ようやく全てを元通りにしたところで、ドアが開いてベルが店に響いた。
「おや、阿求。来ていたのか」
店の真ん中に立つ私に気づいて目を丸くする。柔らかな声が、私の名を呼ぶ。
「おかえりなさい、霖之助さん」
私は満面の笑みで彼を出迎える。愛しい名を、呼びかける。
こちらへ歩み寄ってくる際に壁際の二人に気づいたようで、視線で二人はどうしたのかと聞いてくる。
私はくすりと笑って、指を唇にあてる。
「内緒です」
彼女達の悪行は許されることではない。
だが、それを彼に告げるのは酷に思えた。
ずっと目をかけてきた少女達が、悪意を持って自らに牙を剥いたのだ。
だから私はそれを伏せた。
彼女達には、二度とこんな事をしないように水をあげながら言い聞かせておこう。罰も兼ねて、暫くは「木」のままで過ごしてもらう事にする。
「霖之助さん、ちゃんと鍵を閉めて行かなきゃいけませんよ? いつ泥棒に入られるかわからないんですから」
「そうか、鍵を閉め忘れていたのか。それで留守番をしてくれていたんだな」
ありがとう、と頭に手を置かれる。
優しく撫でてくれる手がくすぐったくて、私は目を細めた。
「そうだ、これから食事を作るから食べていくといい。いい材料が手に入ったんだ」
「本当ですか? わぁ、楽しみです」
「日も暮れてきているし、ついでだから泊まっていくかい?」
「はい、お世話になります」
香霖堂の夜は、まだまだこれからだ。
完」
「なんだい、これは」
何十枚もの紙の束を途中でとじて、僕は目の前に座る少女に対して聞いた。
「いえ、あまりに暇だったので…ああっ、なんで屑篭に放り込むんですか! まだ夜の営み編が残ってるじゃないですか!」
「見なくても馬鹿馬鹿しい物だろう事は大体察したよ」
「酷いです…」
すっかり日が落ちて闇が辺りを包んだ頃、香霖堂の店主である僕、森近霖之助は帰宅した。
彼女、稗田阿求の暇潰しで書いた小説の通り、僕は朝の内に素敵な出会いの予感を感じて無縁塚まで無縁仏の埋葬に出かけていた。そしてついでの道具拾いに夢中になってこの時間。
戻ってきてみればどういうわけか無人のはずの香霖堂に明かりが灯っているのだから、驚いたものだ。
勿論、商品も秘蔵の酒や茶葉は盗まれていないし、店内に観葉植物と化した霊夢と魔理沙はいない。
違いを上げれば、カウンターに阿求が読んだのであろう本が積み上げられているだけだ。確か外の世界の本で、南の国の少年と秘密結社を抜け出した青年が出会って展開して行く娯楽本だったはずだ。
「…そりゃあ、鍵を閉め忘れて留守番してもらったのは感謝しているけど…ええと、食事でもご馳走しようか?」
「はい、頂きます。もう遅いのでついでに床も貸してくれれば助かります」
「まったく…今日だけだぞ」
「ついでのついでに、夜の営み編なんかも」
「馬鹿言うな」
花の髪飾りの付いたおかっぱ頭をコツンと叩くと、少し恥ずかしそうにはにかんだ。
いつから待っていたのか、小説通りならば昼前からということになるのだろう。
それだけ待たせて色あせない彼女の笑顔に少し申し訳ない気持ちになりながら、僕は彼女を労う為に台所へ向かった。
今日は少しだけ、料理の腕を振るうのも悪くはない。
完
サクッと楽しませていただきました
さりげなくせまる阿求も中々いいもんですね
ちょっと和みました
半分読めていたわ!ヌハハ
何かと思ったらそういう事だったのねwwwww
最終的に二人は光合成して店内の空気を綺麗にしてくれそうだ
積極的な阿求もいいですね
と思ったらカタツムリな魔理沙と網タイツな霊夢を想像した。
積極的なあきゅんもいいな。
「夜の営み編」詳しくwwww出版したら買う!
コメントの方々がそこに言及してないから確信が持てない……
それともマイナーなのかな?
どっちにしても、楽しめました