Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

やわらかナズーリン

2010/03/04 14:53:08
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 くさッ!って瞬間は誰しもあると思う。
 例えば私なんか、ネズミだけにかなり嗅覚が発達しているせいもあって、寺の外からすでにその気配を感じていた。
 気配というか臭気というか、鼻腔を刺激するあの臭いだ。
 いや、決してそこまでひどい臭いというわけでもないのだが……。
 なんといえばいいかな。
 動物というのは記憶を連関させる生き物だ。もちろんその理は人間であってもネズミであっても変わるところはない。なので、悪い記憶にまつわる臭いはなんとなく忌避したくなるものなのだ。
「くそ。忌々しいことだな。いったい誰なんだ。寺の中にお酒を持ちこんだのは」
 私、ナズーリンはここではっきり宣言しておく。
 酒は呑んでも呑まれるな。
 以上。



 冬の寒さに身を晒していても埒が明かないので、とりあえず寺のなかに入った。
 異様な雰囲気だ。
 いつもの静寂とは少しばかり異なるようなピンク色の空間。
 らめぇん。あぁぁんとかなんとか聞こえてくるような気がするのは気のせいだと思いたい。
 とりあえず本堂に向かう。いつもは聖と私のご主人様がよくいる場所だ。
「あ、主賓の登場らぁ」
「らぁ……って、何語を話しているんだ。船長」
 そこには、命蓮寺の全員がいた。
 船長はうひひうふふとわけのわからないたわごとを繰り返し、顔を真っ赤にそめて、柄杓から真水のような透明な液体を飲んでいる。
 どう考えても酒である。
 主犯はこいつか。
 確かに今年は悲願達成のおめでたい年。少しぐらい羽目をはずすのも悪くはないだろう。
 しかし、船長は大事なことを忘れていた。
 本来、我々は仏の道に携わってきただけに、抑制的な生活を送っており、酒を呑むこともほとんど無かったのだ。なにしろ聖が捕まってるときにお酒を呑んで現在を楽しむ余裕などあるはずもない。そのためお酒に対する耐性は無いに等しい。昔、聖が封印される頃に別れの酒を呑んだことがあったのだが、あのときもひどかった。嫌な記憶はいつまでも忘れないものだな。
 楽しいのはわかるが、これは明らかに――
 絡み酒。
「あー、おい一輪、おまえ手が止まってんじょ……、おら、呑め。もっと呑め」
 柄杓で無理やり口元から注ぎこむ船長。
 それをなすがまま受け入れているのは一輪。
 しかし様子がおかしい。
 船長の隣にいるのは、いつもの明るさが真逆――いや魔逆となったどん底の暗さをたたえた一輪だ。
 なぜかはわからないが、部屋の隅っこに体育座りをしつつ、まばたきを一切しないで、私はダメな子なんだ私はダメな子なんだ、人気が欲しい、妬ましい、妬ましいとしきりに呟いている。無理やり呑まされたお酒がよだれのように口元からだらしなくこぼれて、なにか危ない薬を決めてしまった子のようだ。医者はまだか。もう手遅れか。
 聖はいつものうふふなキャラはさほど変わるところはない。
 しかし、なぜかわからないが服をだらしなく脱ぎさって半裸状態だった。
「なぜか暑いわ……」
 いや冬だぞ。
 どうせつっこんだところで同じだ。
 もしも寺の外の者に見られたら破廉恥寺の烙印を押されてしまうだろうが、私の知ったことではない。
 見ないふり。見ないふり。しかしどこもかしこも異常な状態。私はやるせなく天井を見つめる。
「ん。なんだあれは」
 部屋の上部にはなぜかピンク色のモヤのようなものが……、あれは雲山!
 ピンク色の雲が部屋の上部にたむろっている。
 どうやって呑まされたのかは謎だが、雲山も酒に酔っているらしい。
 臭気。そうか、部屋の中があまりにも酒臭くなっているということは気化したアルコールを吸収してしまったのだろう。
 ここに長居していたら私も危ない。
 正常な判断能力を失ってしまったら、明日の命蓮寺は二日酔いだらけの南無三状態。
 しかし、せめてご主人様だけはこの危ない空間からお助けしなければならないだろう。

 ご主人様は――
 寅丸星様は――、
 見た目は変わることが無かった。
 顔に出ない、面に出ないタイプなのだ。
 しかし、一番お酒に弱いのはご主人様にほかならない。なにしろ仏の化身であらせられるご主人様はお酒など本来呑んではいけない存在なのだ。しかしながら何事にも例外があるということなのだろう。先にも述べたが今年は特別な年はじめなのだ。聖が帰ってきて、初めて迎えるお正月。しかも、虎年である。虎の化身でもあらせられるご主人様にとってはダブルでめでたいお正月だったのだ。
 だから、わかる。
 わかるのだが――
 恐ろしいほどにやわらかな動きで私を手招いているご主人様。
 私は、ゾクっと背筋が凍るのを抑えることができなかった。
「ナズーリン。こっち来てぇ」
 ご、ご主人様が、あま、あまえた声をだしている。
 いつもの生真面目な硬い声はどこへやら、とろろのように柔らかな声色だ。
「ほうら。ここにおさまりなさい」
 ご主人様は酔っ払っても正座を崩すことなく、蓮の形の御台のうえに座っている。そこに手招かれた。
 手招かれてしまった。
 反抗などできるはずもなかった。できることなら逃避したかったが、遠慮の欠片もなさそうな酔っ払った状態のご主人様を前に、ネズミの私ができることはあまりにも限られている。
 私は定まった場所に収まった。
 言うなれば、仏様が本堂の奥まったところに安置されるかのように、ぴったりとフィットした場所だった。
 なぜか心地よさを感じてみたり。
 はっ!?
「うふふ。ナズーリン。わたしはぁ、とても、不思議なことがあるのれす」
「な、なんですか」
「みんな、いっしょに疑問なのです」
「は、はぁ」
「ナズーリンの体はどこが一番やわらかなのでしゅか?」
「な、何を血迷ったことを言っているんだ。ご主人様!」
 定められた場所に固定されており、ご主人様の腕が完全に私の腰まわりをシートベルトのように固定していたから、私は首をまわして、恐れおののきながら問いかけるしかなかった。
「あ、は。私が言ったのよん♪」
 問いかけに答えたのは船長だった。
 柄杓からグビリと酒を呑み呑み言うには
「ナズーリンってやっぱ尻尾がぷにぷにしてそうで柔らかそうなのよねぇ」と船長がなんの話か思いつき
「違う……ネズミは腹いっぱい食べるから、おなか」とダウナーな一輪が答え、
「やっぱり、ほっぺよ。ほっぺ、ぷにぷにしてそうじゃない」と聖が主張したらしい。
 ご主人様はニヤニヤと笑いながら、私のことを見下ろしている。
 いつものダメなところは一切なく、私はこのままでは食べられてしまうのではないかと恐怖した。
「で、わたしはぁ、ナズーリンはやっぱり、お耳が一番柔らかいと思うのです」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!」
 絶叫する私。
 しかし、仏の代理であるご主人様の力に、かよわいネズミの力が敵うわけもない。
 両の腕に力をこめて、脱出を図ろうと試みるも、無理な話だった。
 儚いものだな。
 ネズミの矮小な力では、ご主人様にセクハラされるのも黙って耐えるしかないのだ。
「さーて、まずは尻尾から」
 船長がニヒヒと笑い、私の尻尾をさすりはじめる。
 馬鹿。
 そこは、そこは弱いんだ。
「んちゅう」
「おやおや弱点なんですかね」
「ちがっ……う」
「くくく。言葉では嫌がっていても体は正直だぜ。お嬢さん」
「ひぃ」
 私は恐怖した。
 蹂躙される恐怖というものを存分に味わった。
 もちろん逃げだせるなら逃げ出していただろう。
 けれど、ご主人様の力はいまだ衰えることなく、私の腰まわりをホールドロックしている。ニコニコと笑っているご尊顔が逆に怖い。
「それでどうだったの?」
 聖が聞いた。
「んー。柔らかいというのとはちょっと違いますね。なんといえばいいか。コリコリ?」
「やっぱりそうよね。次は――」
「おなかが一番……一番柔らかいに決まってる」
「酒臭い息でこっちに寄ってくるな!」
「ネズミはネズミらしく……」
「やめるんだ。馬鹿。やめろ。やめてぇぇ!」
 絶叫するもむなしく。
 おもいっきりおなかまわりをツンツンされてしまった。
 これほどの屈辱は初めてだ。
 小柄小柄といわれている私だが、こう見えて立派な成人女性である。その私が、なぜにご主人様の膝のうえに収まった状態で、おなかをさすりさすりされなければならないのだ。あとで勤務外手当を請求したい。
「どうでしたか?」聖が聞いた。「柔らかかった?」
「聖のおっぱいほどでは……」
「ふむふむ」
「思ったよりも、その……、スレンダーでした。妬ましいことに」
「あなた口調が少しばかり地底仕込みされてるわね」
「いいんです。私なんて」
「ほらほら」
 聖はなぜかは謎だが、一輪を抱き寄せて、おっぱいの海に溺れさせた。
 ちなみにいろいろと危ないところは、聖尼公ご用達のエア巻物で覆っている。むしろ裸のほうがマシなんじゃないか。
 実はエア巻物じゃなくて、エロ巻物なんじゃないかと思わせるエピソードだ。
 けれど一輪の顔から邪気が抜け、なにか安心したのか、そのまま寝入ってしまった。
 先に眠った一輪が羨ましい。
「さて、じゃあ次は私が確かめる番ね。むにむに~」
「うわ、わわわわわ」
 私のほっぺたは、柔らかなタッチで聖につつまれ、そのまま左右とも蹂躙されていく。
「なかなかの柔らかさね。これはやはり私が正解かしら」
「ほっぺたが柔らかいのは当たり前だ!」
「でもうらやましいわね。私なんかと違って、子どもの肌みたいにぷにぷにしてるわ」
「びにょーんって伸びてますね」船長が楽しそうに笑う。「これはお餅みたいだ」
「んんんんー!」
 たっぷり三十分は堪能されてしまった……。

 だが……。
 ここからが本当の地獄だ……。
 がくがくぶるぶる。

「ナズぅ。ここからはぁ。わたしの番でしゅ」
「ご、ご主人様は少しお疲れのようだ。眠ったほうがいいんじゃないか」
「何言ってますか。私だけナズーリンの柔らかい場所を堪能させないつもりですか! 仏罰がくだりますよ」
 怒るときだけは、声がはっきりとしていた。
 しかし目が猛烈にすわっていて、明らかに判断能力が欠落している。
 わたしは死を覚悟した。
 貞操の死。
「それにしても、ナズーリンのお耳はまるっこくてふにっとしててかわいいですね」
「どうかしているとしか」
「おや気に入らないんですか。私にお耳をふにふにされるのが」
 いまはホールドされているが、しかしこれはチャンスなのかもしれない。
 ご主人様が私の耳を堪能するとなれば、その間、私の矮躯を縛るご主人様の腕は当然離れる。
 拘束が解けた瞬間に、ネズミらしいとんずらをしてしまえばいい。
 そうだ。そうしよう。
 なんのことはないではないか。
「ふ。ふ。ふ」
「おや、観念したようですね。では、いただきまーす」
「え、ちょ」
 ご主人様はロックを解除することなく、そのまま体を前に倒して――。
 私の耳にがぶり。
 幸いなことにパワーをセーブした甘噛みではあったが、これでは逃げようもなかった。
 観念。無念。南無三宝。
「やっぱりナズーリンはお耳が一番ですね」
「ふにゃ。や、ぁ」
「内側が弱いのかなぁ。外側が弱いのかなぁ」
「どっちも敏感なんだ。や、やめてくだしぁい」
「ふふ。まだまだ終わりませんよ」
「よく考えれば、私たちも触ってみなければ、他の部位との差が明らかにならないわね」
 ムラサ船長が何か言ってる。
 こいつどう見ても怨霊か何かの類だ。いや実際そうだった!
「等価的に調べるべきかもしれない、ネズミには実験がお似合いよ」
「ナズーリンの柔らかいところを全部調べるのね。わかったわ」
 聖が実に楽しそうに私の二の腕あたりをプニプニし始める。ご主人様は乙女の弾力的な場所を容赦なく……。
 ああ……。
 もみくちゃにされていく。
 私は私という儚い存在のことを思った。
 ああ、わが主。
 毘沙門天様、御許しを。
 私はもう長くありません。

 どこからともなく声が聞こえてくる。

 ナズーリン。
 ナズーリンよ。
 よく聞くのだ。
 この世を構成する基礎的な要素を五蘊といい、それらはすべて目に見えないものなのだよ。
 これをすなわち空という。
 おまえが感じている苦しみとは、本来、おまえになんら影響を及ぼさないのだ。
「貴様。もしかすると中ニ病だな」
 私は妄想の毘沙門天様の横っ面に、思いっきりグーでパンチした。







 二十四時間後。
 皆の動きは生まれたての亀のように鈍い。
 目の下にはクマができており、ゾンビのような呻き声をあげている。
 明らかに二日酔いだった。
 幸いなことに私は酒を無理やり呑まされるということはなかったので、二日酔いの苦しさだけは免れることができた。
 その代わりにいろいろと失ったものもあるが、あまり思い出したくはない……。
 ところでわがご主人様であるが――
 あれだけだらしなく酔っ払っていたご主人様は、実のところ肝機能的には丈夫らしく、二日酔いにもなることなく、いつものように冴えない顔をしている。
 ずーんという擬音が響きそうな暗い顔だ。
「ナズーリン」
「はい、なんですか」
「昨日は無礼を働きました。許してください」
「まったく……、ご主人様ときたら酒癖悪いことはご自分でもご存知でしょうに」
「はぁ……、まったくそのとおりなのですが実のところいつ呑んだのかよく覚えていない有様でして……」
 伏せ目がちにこたえるご主人様。
 悪いとは思っているようで、しきりに恐縮している。
 ネズミごときになにをそんなに脅えているのだろう。できることならもっと堂々としていてほしい。
「それで……、あのナズーリン」
「なんです?」
「許していただけますか」
「はぁ……」
 長い長い溜息。
 別に威厳なんかなくてもいい。しかし、部下に向かって潤んだ瞳で許しを請う上司をどうやって敬えというのだろう。私はいつだって困難を強いられている。
「私がご主人様を見限ったことはないでしょう」
「そ、それでは!?]
「昨日のことは全部水に流しますよ。もともとは船長のせいでしょうし……」
 ぱぁぁ、と晴れやかな笑顔になるご主人様。
 まったくこの方ときたらどこまでも単純なのだ。そしてどこまでも甘い。
「ナズーリンの一番柔らかなところは隠忍の心ですね」
 そんなことを言っている。
 ご主人様は知らないのだ。
 本当はもっと抵抗すれば、ご主人様のホールドから抜け出すのは容易かったということを。
 それなのになぜ抜け出せなかったかというと、ご主人様の膝の上が想像以上に柔らかかったからなのだ。
 ときどきは、膝座布団をしてもらうのも悪くない。
 そんなことを私に思わせるご主人様は、本当にネズミをだめにしてしまうタイプである。
 




 
星のうえに小柄なナズーリンが恥ずかしげにのっかる。
これが至高である。

※誤字修正しました。ご報告ありがとうございます。皆様感想ありがとうー。
超空気作家まるきゅー
コメント



1.薬漬削除
ご馳走様でした。
やわらかくて、甘くて美味しいSSでした。
2.名前が無い程度の能力削除
上手いオチだ。
すごい暴言はくけど、宗教って中二病だよね。
3.名前が無い程度の能力削除
あとがきに激しく同意
4.名前が無い程度の能力削除
ぬえぇぇん…
後書きには同意せざるをえない
5.ぺ・四潤削除
エア巻物の微妙な隙間から見えるのは丸見えの10倍エロくなる。
あとがき>これに加えてナズーリンの頭の上に星のあごが自然に乗っかる。これがあってこそ至高と言えるだろう。

いくつか報告します。
「聖が帰ってきて、始めて迎えるお正月。」初めて
「酒臭い息でこっちに酔ってくるな!」寄ってくる
「これほどの屈辱は始めてだ。」初めてだ
6.名前が無い程度の能力削除
膝の上という場所が宗教的、因習的にどう捉えられているのか、二人とも気付いている状態で
不安げなご主人に招かれて、目も合わせることが出来ないままおずおずと体を預けてほしい。
口元や腿の付け根は皮も余って柔らかいはずだが、普段隠れている耳の付け根(首の上あたり)は
毛並みもしなやかでいい匂いがするはず。本当にありがとうございました。
7.奇声を発する程度の能力削除
素晴らしい!後書きにも同意です!
8.名前が無い程度の能力削除
あとがきの説得力は異常
9.名前を忘れた程度の能力削除
あとがきはまさしく真理。
きっと貴方は悟りを開いている。
10.ずわいがに削除
最後ほのぼの良い話っぽくしようとしても俺のエキサイトはもうおさまりません。
11.名前が無い程度の能力削除
後書きが真理すぎる