皆さんはご存知だろうが、
魔法の森に住む二人の魔法使いは犬猿の仲である。
彼女らの知り合いの人妖は、顔を合わせるたんびにいがみ合う二人をこう形容したが、誰もどちらがどちらだとは言いやしなかった。
しかしある日の事だ。
いつもの如く始まった弾幕ごっこ。
人形の出すレーザーや星屑の弾幕を互いにヒラヒラとかわし、一度の弾幕ごっこにしてはあまりに長い時間をかけた二人が、心理戦に持ち込もうとしたのだろう。
大声で会話を始めたのだ。
相手の集中力を乱そうという魂胆がみえみえの会話。
いつもより少しピリピリしているのは、多分疲れと苛立ちからか。
それでもそれは、傍から聞いているとよくわからない、彼女ら特有のいつもの会話だ。
そして二人のカードもそろそろ尽きる、そんな時だった。
アリスを守り、レーザーで白黒の簡易使い魔(本人は奴隷と言った)を薙いでいた上海の耳に、アリスの言葉が飛び込んだ。
「本当にちょこまかと、あんた、猿じゃないの!」
上海はアリスをふり返った。
そう、白黒が猿だったらしい。
ということはアリスが犬なのだ。
いきなりふり返った上海に驚いたアリスは、白黒の星屑弾に当たり、負けた。
人形の操作を誤るなんてどうも疲れているみたいね、アリスは少し悲しそうにそう言うと、その弾を食べた。
甘いものは疲れにいいのだ。
白黒は少し困った顔をした。
全ての人形たちのお手本はアリスである。
アリスが犬のようだというのならば、私も犬のようにならなければ。
上海は秘密裏に行動を開始した。
イマドキのデキル人形は無言実行なのである。
上海はいぬになりたい
しかし、犬のようになるにはどうすればいいだろうか。
そも、アリスには犬のような耳もしっぽもありはしない。
皆はアリスのどこを見て彼女を犬に例えているのだろう。
上海は考えた。
考えに考えて、もうもの凄く考えた。
しかし悲しいかな、球体関節人形である上海の頭の中はからっぽだったのだ。
これではいけないと、上海は頭の良さそうな仲間に尋ねる事にした。
彼女の名前はゴリアテ人形。
アリスに、「これで森は私のものだ」と言わしめた期待の新人だった。
体の大きい彼女の事だ、頭の中身もたっぷり詰まっているに違いない。
彼女はごつい名前とは裏腹に、品行方正、お淑やかで素敵な人形である。
上海は簡単な経緯を説明した後、こう訊ねた。
私はアリスのようになりたい、アリスのようになるにはまず犬のようにならなければならない。
どうすれば犬のようになれるだろう。
すると、空を眺めストリンギーガム、ストリンギーガムと呟いていた彼女はこう答えた。
そんなこと、犬にお聞きよ。
上海は唸った。犬に聞く。確かにそれが一番かもしれない。
けれど、生憎と森に犬はいないのだ。
犬どころか、瘴気に覆われているこの森では普通の生き物は暮らせないのである。
上海は目の前の…正確には目の上の彼女に再び尋ねた。
それじゃあその犬はどこにいるだろう。
すると、彼女はにべもなくこう答えた。
ほとりの紅いお屋敷に人型の犬がいるって聞いたことがあるわ。
そういうのもいるのか!
名案と、有益な情報に上海は歎息した。
上海の見込みは確かだったのだ。
もう用はないでしょう、私も暇じゃないの。
彼女は上海にあまり興味がないようで、再びどんより暗い空を見上げて、ハイペリオン、ハイペリオン、と呟き始めた。
ゴリアテの夢は何よりも大きくなる事だった。
とりあえずの目標は木よりも大きくなる事らしい。
アルボル・デル・トゥーレはどうかと聞くと、物凄い顔で睨まれた。
乙女心は複雑なのだ。
しかし、そうと決まれば行動は迅速でなければならない。
上海はアリスのいる部屋のドアにぺこり、白黒を守り星になった仲間にぺこりとお辞儀をすると、吸血鬼の館を目指し、黄昏た空に飛び出した。
* * *
森を出る頃には辺りは真っ暗になっていた。
いつも湖の上で遊んでいるいたずら好きの妖精達はおやすみの時間だ。
上海は迷う事も邪魔をされる事もなく、紅魔館に辿りついた。
紅魔館は神々しさすら感じさせる紅い光を放ち、暗い夜に佇んでいた。
ここは夜行性の生き物の住む館だ。
しかしどうやら門番は昼行性のようで、上海は、寝ている門番を横目に、門の格子をすり抜け中へと入っていった。
「あら?お前、アリスの人形じゃないの」
ふらふらと人型犬を探して紅い廊下を飛んでいると、お屋敷の主である幼い吸血鬼、レミリア・スカーレットと出くわした。
畏怖とともに避けられがちな吸血鬼ではあるが、上海には血がないのでなんら怖いものでもない。
犬の居所を尋ねようと近寄っていくと、目にも留まらぬ速さで体をつかまれ、拘束された。
「まったく、門番やメイドは一体何をしているのかしら。こんな非力なネズミ一匹も仕留められないなんて!」
ネズミだと。
冗談じゃない。
私は犬になるためにここにやってきたというのに、よりにもよってネズミだなんて。
「シャンハイ、イヌ!」
抗議のためにも、上海はいつもより少し大きな声でそう宣言した。
すると、どうだ。
レミリアは笑い出した。
「まぁ犬といえば犬ね。アリスの犬。自分から犬を名乗るなんてよく躾けられていること!」
そう、上海は既に犬だったのだ!
いつの間にかレミリアの後ろに控えていたメイドの、何か言いたげな視線がちくちくと痛かったが、歓喜に打ち震えている上海にはどうでもいいことであった。
そんな事ならこの館に用はない。
ばたばたとレミリアの手を逃れた上海は、アリスに仕込まれた優雅なお辞儀をして、シャンハーイと手ごろな窓から飛び出した。
「なんだあれは」
「さあ、なんでしょう」
残された1妖と1人はぽかんとするばかりであった。
* * *
マーガトロイド邸の居間ではなぜか白黒が食事中だった。
聞けばどうやら明日の朝一番に一緒に採取に行く約束があるらしい。
弾幕ごっこで賭けていた夕飯と、打ち合わせついでに泊まって行くという。
そんなことはどうでもいい上海は、アリスは何処だと尋ねた。
アリスはとなりの部屋らしい。
上海は逸る気持ちを抑え切れず、最高速度でアリスのもとへと飛んで行った。
「アリスー」
「あら、どうしたの上海」
「シャンハイ、イヌー」
「なあに、上海はここにいるじゃない」
「……ウン?」
「あ、もしかして魔理沙とかくれんぼでもしてるの?そうねえ、ほら、おいで」
「シャ、シャンハーイ」
「ふふふ、これで上海の勝ちね」
「……」
「あ、動いちゃだめよ、見つかっちゃう」
居るのに犬とは、なんだか哲学だなぁ、と
アリスのスカートの中で、上海は思った。
ぺこりする上海いい子で和む。
構成もいいしギャグもうまい、黒のあさんは文章書かせても一級品だ……。
萌えますなw
私は出来ることならシャンハイになりたい…。
その為に俺は仕方なくアリスの犬にもなる覚悟だ。あぁ、残念だ。
まさかまた「ねこになりたい」の作者さんの上海を拝めるとは…!
笑わせてもらいつつ、和みませて頂きました。
アリスが小さくなったら藁人形打ちつけたりと忙しいですね。しかし可愛い。
黒のあさんの絵で挿絵想像余裕でした。
やっぱりあの弾幕は金平糖だったのかww
俺は生まれ変わったら上海になりたい……。
貴方の書くマリアリも貴方の描くマリアリも可愛い。
上海かわいいぜ、スカートの中はいりたい。
相変わらずこの上海は可愛いなぁ。
ボノボノ
●2さん
マッコリ
●あたりめさん
誰かがきっと言ってくれると信じてました…!
上海「ダガコトワル」
●4
段を目指してがんばります(キリッ)
●奇声さん
上海「ユズラナイ」
●ずわいがにさん
ということはずわいがにさんは蟹の幽霊…!?
●7さん
一年以上前の作品を覚えていてくださったなんて!ありがとうございます!
●8
前作まで戻っていただいたのですか!ありがとうございます。
●9
アリスが作ったからねえ。
●10
原作で性格がキャラはどうも暴走させてしまいがちです。
さ、挿絵…だと…!
●ぺ・四潤さん
ありがとうございます!両方もっと上手く慣れたらいいなぁ。
魔理沙の弾幕は甘いって依姫が言ってた!
●12さん
上海「シシュスル」
●13さん
異国情緒…!? があるはよくわかりませんがありがとうございます!
●14さん
アリスの犬、上海です。シャンハーイ