「ひー、なっ♪」
にとりの こうげき!
雛は ひらりと身をかわした!
ずべしゃ。
飛びかかった格好のまま、にとりは盛大に草の上を滑った。顔面から。
「に、にとり、大丈夫?」
地面に突っ伏していると、頭上から雛の声。
呻き声をあげてにとりは顔を上げる。鼻を打って涙目だ。鼻血が出ていないのが不幸中の幸い。
光学迷彩はいつの間にか解けていた。髪についた草を払って、にとりは雛を振り返る。
「ひどいよ雛~、避けることないじゃん!」
「ご、ごめんなさい、つい」
回転ドアのように受け流されてしまったのだ。
というか、光学迷彩で姿を隠して、背後から抱きつこうとしたのに、なんで気付かれたのか。
「気付いてた?」
「ええ」
「うぇー。光学迷彩失敗してたのかな」
「ううん」
光学迷彩スーツを見下ろしたにとりに、雛はふるふると首を振る。
「姿は見えなかったけど、にとりだって解ったわ」
「ほへ」
「だって、にとりの気配がしたから」
微笑んだ雛が可愛すぎて抱きつこうとした。また避けられた。ずべしゃ。
グレイズも出来ない。泣きそうだ。
「ひなぁ~、私のこと嫌いなの……?」
「そ、そうじゃなくて……」
「ううー」
「……急に飛びかかられると、びっくりするから、つい。ごめんなさい」
う、いやそんな本気で謝られてもこっちが困るのに。
仕方ないので、立ち上がってゆっくり雛に歩み寄った。
「雛」
「……うん」
手を伸ばした。今度は避けられなかった。雛の手が、にとりの手を握り返す。
雛に身体を預けるようにして、背中に腕を回すと、雛も優しく抱き返してくれた。
胸から伝わる雛の鼓動が、あったかくて心地よい。
「えへへ……」
「ふふっ」
そうしているだけで幸せで、耳元で笑い合うのがくすぐったかった。
やっぱり、雛のことが好きすぎてどうしようもないのである。
* * *
とはいえ。
「作戦を練り直さないと駄目かなぁ……」
その日の夜、にとりは光学迷彩スーツを前に唸っていた。
光学迷彩で雛に気付かれず近付いて、抱きついてびっくりさせる。
要するに、にとりがしたいのはそれだけのことなのだけれども――。
雛はなぜか、いつもにとりに先に気がついてしまうのだ。
「性能に問題があるわけじゃないと思うんだけど」
実際、背後から椛の尻尾をモフモフするのは先日成功したのである。
それなら、どうすれば雛に気付かれずに近づけるだろうか。
「うーん」
いや、雛が自分の気配を解ってくれるというのもそれはそれで嬉しいのだけど。
びっくりする雛の顔が見てみたいのである。
ついでに、「もう、にとり……」とちょっと怒られてもみたいのである。
自分は抱きついたままで、「えへへー」と雛に頬ずりすると、雛は苦笑して、それからゆっくり抱きしめ返してくれて、それから雛と――でへへへへ。
はっ、妄想がだだ漏れてしまった。危ない危ない。
「何かに雛の注意をひきつけておくとかしないと駄目かなぁ」
しかし、何であれば雛の注意をひけるだろうか。
うーん、とにとりはさらに唸り――不意に振り向くと、姿見に自分の姿が映っていた。
――閃いた。
「これだ!」
* * *
――厄神ですが、恋人が悪戯好きでちょっと困ります。
雛は河原で厄を萃めながら、にとりが来るのを待っていた。
今日も、光学迷彩で驚かせにくるかもしれない。そのことを思うと、つい苦笑が漏れる。
ついつい避けてしまうけど、別に抱きつかれるのが嫌なわけではないのだ。
ただ――抱きしめてくれるのなら、普通にそうして欲しいというだけで。
「にとりったら……」
にとりのことが好きだ。だから、抱きしめられたいし、抱きしめたいとも思う。
別にそこに驚きはいらないのに、にとりはどうして驚かせようとするのだろう。
ただ普通に――好き、と囁いてくれれば、それで幸せなのに。
まあ、でも。
少なくともお互い好き合っていることだけは確かなわけで。
それで充分に幸せなのかもしれなかったが。
「……あら?」
と、雛は顔を上げ、それに気付いた。
河の向こう岸、草むらの中に、見覚えのある帽子が覗いている。
あの緑の帽子、それから茂みの中からはみ出る青いワンピース。
間違いない、にとりのものだ。
「にとり?」
河を飛び越えて、雛はその茂みに近付く。そんなところで何をしているのだろう。
隠れてないで出てくればいいのに――。
「何をしてるの、にと――」
茂みに手を掛けた。
ぱさりと帽子とワンピースが、茂みからその場に落ちた。
そこに、にとりの姿は無かった。
「ひーなっ♪」
がばっ。
にとりの こうげき!
雛は だきつかれた!
「にっ、にとり!?」
「えへへ、つかまえたー」
にとりに頬ずりされて、雛は慌てて振り返る。
光学迷彩を解除したにとりが、背中に貼り付いていた。むぎゅうと。
「おとり作戦せいこー♪」
「も、もう、びっくりさせないで、にとり……」
「えへへ、雛、びっくりした顔も可愛いー」
だらしなく緩んだ顔でそんなことを囁かれた。恥ずかしくて死にたい。
「にとり……ひょっとして、それが見たかっただけ?」
「うん」
「……もう、ひどいわ、にとり」
頬を膨らませると、「ごめんごめん、許して雛」とにとりは笑って、
ついばむように、唇と唇が触れた。
――顔が爆発するかと思った。
「好きだよ、雛」
「……もう」
結局、どんな悪戯をされても、それで許してしまう自分が悪いのかもしれない。
そんな自分に苦笑して、雛はにとりを抱きしめ返そうと腕をその背中に回し、
「……にとり?」
「うん?」
「ねえ――その、格好」
雛はにとりの身体を見下ろした。
にとりもつられて視線をさげた。
光学迷彩の解除された、にとりの格好は。
おとり用に、あの作業着風のワンピースを脱いでしまった後で――。
とりあえず、雛はにとりを押し倒すことにした。
厄いので。
2だと信じてる
4だと信じてる
7.リュックの紐だけだった。
にとりなら1をやってくれると信じてる
3-2.白のスク水だった
3-3.緑のスク水だった
3-4.スク水だけど大事な部分に穴が開いていた
3-5.スク水型のボディペイントだった
1しかない!
取り敢えずニップレスを付けているのではないかと。