雨が降っているのである。
しとしと、しとしと。傘がなければ、外に出られない雨だ。
否、別に傘がなくても外に出られる筈だ。唯、濡れたくないのだと思う。
今、昔につけたランプは、その周りだけを照らし、店全体を照らすまでに至らない。
はらり、本の頁を捲った。
雨粒が枝や葉を叩く音が耳に心地良い。
「うらめしや~」
カウベルが鳴る。開いたドアの向うから聞こえる雨音が轟々と、大きい音に思えた。
「ふはっ」
「あーんもうっ。下品な驚き方は嫌~」
漸く少女の存在に気付いた。
大きな、悪そうな紫色の傘を両手でしっかりと握っている。
ぎょろりとした一つ目玉と長い舌も気味の良いものとは云えない。
「いらっしゃいませ」
とだけ云った。再び本の頁を捲る。はらり…。
「驚け~、驚けよ~」
「絡み付くな。本が読めん」
少女は椅子越しに、背中に絡み付いた。
実に鬱陶しいと思った。傘を持ったままなので、服は濡れるし、商品に水が掛かる。
更に、驚けと喚き立てるのでのも鬱陶しかった。
その所為で雨音が碌に聞こえなくなってしまった。
「ふはっ」
「それは嫌~!」
余計に駄駄を捏ねた。幼少の頃の魔理沙と張り合える程だと思う。
誰かこの少女を如何にかしてくれないだろうか。
放っておいたままにしていると、漸く落ち着いた。
背中に絡み付いたまま離れてはくれなかったが、本を読むことは出来た。
はらり、静寂が再び訪れた。
「ねぇ、貴方に恐いものはないの?」
妖怪が尋くことではない、僕は思ったことを云った。
「そう、どうして皆、わちきのこと恐がらないのかな」
古典も読んだのに、と少女は云う。
僕は、今の幻想郷で古典的な遣り方では通用し難いと応えた。
「噫、そうなのね」
少女は寂しそうに呟く。表情は窺えないが、声音は沈んでいた。
現実である。
虚構、虚言を吐き連ねた処で何れは真実を知り、大いに落胆するだけである。
それでは空しさしか残るものはない。
「雨晴れて笠を忘れる」
少女の言葉だった。
その声には矢張り重さがあった。
「貴方なら、この言葉の意味、解るよね」
勿論、解る。
「晴れた日に傘の有難みは解らないのだろう」
「うん…」
少女の声の重さが、乗っ掛かるような気分だ。
「わちき、捨てられたの。人間に」
唐傘お化けなの、と少女は云った。
新しいものが出てくれば、古いものは淘汰される。
懐古を主義とする者は居るのであろうが、唯懐かしむだけである。
所詮、新しいものに手を出す都合の良い口実にしか成らない。
「ねぇ、もし貴方さえ好ければ、此処に居ても良いのかな」
少女は、何だかとっても落ち着くの、と云った。
「ずっとは駄目だが、偶に遊びに来る程度なら、認可しよう」
「良いの?」
少女の声に重さはもうなかった。
「じゃあ、わちきの定位置は此処ね」
少女の小柄な躰は、香霖堂の傘立てにすっぽりと納まった。
勿論、あの配色の悪い唐傘もである。
「雨の日は、わちきを使ってね!」
目の前の少女に、翳りは全くなかった。
髪の色と相俟って、晴天の青空を連想させる、屈託のない笑顔を浮かべている。
しとしと、しとしと。
雨は今日中に止むことはないのだろう。
僕は、腰を上げ、紫色の傘の柄を掴んだ。
散歩に行こうか。
少女の表情はより一層、明るいものとなった。
しとしと、しとしと。傘がなければ、外に出られない雨だ。
否、別に傘がなくても外に出られる筈だ。唯、濡れたくないのだと思う。
今、昔につけたランプは、その周りだけを照らし、店全体を照らすまでに至らない。
はらり、本の頁を捲った。
雨粒が枝や葉を叩く音が耳に心地良い。
「うらめしや~」
カウベルが鳴る。開いたドアの向うから聞こえる雨音が轟々と、大きい音に思えた。
「ふはっ」
「あーんもうっ。下品な驚き方は嫌~」
漸く少女の存在に気付いた。
大きな、悪そうな紫色の傘を両手でしっかりと握っている。
ぎょろりとした一つ目玉と長い舌も気味の良いものとは云えない。
「いらっしゃいませ」
とだけ云った。再び本の頁を捲る。はらり…。
「驚け~、驚けよ~」
「絡み付くな。本が読めん」
少女は椅子越しに、背中に絡み付いた。
実に鬱陶しいと思った。傘を持ったままなので、服は濡れるし、商品に水が掛かる。
更に、驚けと喚き立てるのでのも鬱陶しかった。
その所為で雨音が碌に聞こえなくなってしまった。
「ふはっ」
「それは嫌~!」
余計に駄駄を捏ねた。幼少の頃の魔理沙と張り合える程だと思う。
誰かこの少女を如何にかしてくれないだろうか。
放っておいたままにしていると、漸く落ち着いた。
背中に絡み付いたまま離れてはくれなかったが、本を読むことは出来た。
はらり、静寂が再び訪れた。
「ねぇ、貴方に恐いものはないの?」
妖怪が尋くことではない、僕は思ったことを云った。
「そう、どうして皆、わちきのこと恐がらないのかな」
古典も読んだのに、と少女は云う。
僕は、今の幻想郷で古典的な遣り方では通用し難いと応えた。
「噫、そうなのね」
少女は寂しそうに呟く。表情は窺えないが、声音は沈んでいた。
現実である。
虚構、虚言を吐き連ねた処で何れは真実を知り、大いに落胆するだけである。
それでは空しさしか残るものはない。
「雨晴れて笠を忘れる」
少女の言葉だった。
その声には矢張り重さがあった。
「貴方なら、この言葉の意味、解るよね」
勿論、解る。
「晴れた日に傘の有難みは解らないのだろう」
「うん…」
少女の声の重さが、乗っ掛かるような気分だ。
「わちき、捨てられたの。人間に」
唐傘お化けなの、と少女は云った。
新しいものが出てくれば、古いものは淘汰される。
懐古を主義とする者は居るのであろうが、唯懐かしむだけである。
所詮、新しいものに手を出す都合の良い口実にしか成らない。
「ねぇ、もし貴方さえ好ければ、此処に居ても良いのかな」
少女は、何だかとっても落ち着くの、と云った。
「ずっとは駄目だが、偶に遊びに来る程度なら、認可しよう」
「良いの?」
少女の声に重さはもうなかった。
「じゃあ、わちきの定位置は此処ね」
少女の小柄な躰は、香霖堂の傘立てにすっぽりと納まった。
勿論、あの配色の悪い唐傘もである。
「雨の日は、わちきを使ってね!」
目の前の少女に、翳りは全くなかった。
髪の色と相俟って、晴天の青空を連想させる、屈託のない笑顔を浮かべている。
しとしと、しとしと。
雨は今日中に止むことはないのだろう。
僕は、腰を上げ、紫色の傘の柄を掴んだ。
散歩に行こうか。
少女の表情はより一層、明るいものとなった。
どうしよう…想像が出来んorz
私も、雨の日に小傘使いたいです。
いい雰囲気でした!
小傘ちゃんと手を繋いで相傘で雨の日に散歩なんかしたらどんなに楽しいことでしょう。
でも相傘だとお互い肩が濡れちゃうから、小傘ちゃんを肩車して傘を持ってもらえば二人とも濡れなくて済みますね。うん、そうしよう。