博麗神社の縁側にて。
「そだ、早苗」
「なんです、霊夢さん?」
「魔理沙が鍋やったって話、したっけ?」
ぱっと起き上がり、霊夢が唐突に切り出した。
膝に残る感触を惜しみつつ、けれどそれ以外の理由で固まる早苗。
だって霊夢の瞳がなんだかどうかと思うほどキラキラしているんですもの。
違和感を覚えつつ、それでも早苗は先を促した。
「聞いていませんね。どうかしたんですか?」
頷き、霊夢は語りだす。
「どうってことはない話なんだけど。
醤油ダシの寄せ鍋をちょいと一人でやったんだって。
具材はきのこだけなんでしょって聞いたら、きのこ馬鹿にすんなって怒られたわ」
しめじにえのき、まいたけ、しいたけをふんだんに盛り、エリンギまでも奮発したとのこと。きのこ類大活躍だ。
「あー、エリンギなんかは歯ごたえもありますし、美味しいですよね」
「しいたけもいけるわよ? 食感が苦手な人もいるみたいだけど」
「あはは、そのうちの一人です」
他愛もない話のはずだが、違和感は続いている。
その原因が解消されていないのだから当然のこと。
依然として、霊夢の瞳は無駄に輝いていた。きらきら。
……ぎらぎらかもしれない。
「お鍋と言えば、アリスさんも少し前にされたそうです」
向けられる視線に内心首を捻りつつ、今度は早苗が切り出した。
直後、小首を傾げる。
内に秘めたる疑問を表した訳ではない。
伝え聞いた鍋が、比較的多くの鍋を知っている彼女にして奇異に思えたのだ。
「それが、なんとですね、チーズをもとにしたそうなんです。
白味噌と混ぜたら結構美味しくいただけたって。
具材は普通のものだったらしいんですけどね」
ごってりとしたイメージだが、意外と箸が進むらしい。小食のアリスにして一人前以上をたいらげたと聞く。
「む、むぅ……チーズが邪魔してお鍋のイメージがわかない……!」
「じゃがいもや白菜はまとまりそうですけど。あと、ウィンナー」
「口に唾が溜まるわね」
眉根を寄せていた表情を一転させ、ごくりと喉を鳴らす霊夢。
その様子が可笑しくて、早苗はころころと笑った。
なんてことはない日常の一幕だ。
でもやっぱり霊夢の瞳は変わらない。
「でもまぁ、随分と変わり種ね。鍋って言ったら、水炊きか醤油、塩じゃない? 妖夢もつい最近、塩ちゃんこやったって言ってたし」
食べるよりも、鍋に具材を放りこむ作業に専念していたとのこと。
とは言え、まったく食べていなかったかと言えばそうでもない。
揚げやキャベツなど比較的早く手を出せるものはつまんでいたそうな。
加えて、一応は従者のことを覚えていたらしい主が、他の具材も密かに取り分けていてくれたらしい。
「塩のダシだけでも飲めるけどさ。
飽きてきたら胡麻とかトッピングしてもいけるわ。
あ、あと、七味! バリエーションがあるのはいいわよね」
妖夢も、野菜類は塩ダシのみで、後に食した肉類や海鮮類は胡麻をつけたしたそうだ。
「……って、結局全部食べられているじゃないの!」
「や、それよりも気になることが。海鮮類?」
「海老とか帆立とか。紫経由でしょ」
なるほど、と頷く早苗。
食卓に川で取れない魚が出されるのはそういう訳だったかと悟る。
……偶に市場にも鯛や秋刀魚など海魚が並んでいるのだが。まさか。いやしかし。
だがしかし、あの結界の大妖であれば、或いは。
「んぅ、こほん。変わり種なら、うどんげさんが話していたのもそうですね」
兎鍋? と視線で問うてくる霊夢に、早苗は微苦笑しながら首を横に振る。
鍋として、具材はオーソドックスなものだった。
豚肉に豆腐、春菊、大根、葱。
そして、当然、人参。
「や、さも人参がメインで語られるのはどうかと思いましたが。
ではなくて、おダシにゼリーを使ったらしいんですよ。
出来上がったお鍋のその名は――コラーゲン鍋!」
ぐっと拳を握り、早苗は声高らかに宣言した。女の子ですもの。
「あ、コラーゲンって言うのはお肌を潤わせるものです。頬も胸もお尻も、尻尾までもがぷるぷるでした!」
「触ったんかい。と言うか、食材として摂取して意味あんの、それ?」
「さぁ……? でも、永遠亭の方のことですから。大丈夫です」
なにがどう大丈夫だと言うのか。
尤も、事実はどうあれ鈴仙の肌がぷるっぷるだったことに嘘はない。
永遠亭の薬師がどこからか調達し吟味したSPF豚が原料のコラーゲンゼリー、これで効かなきゃそも鍋の名が過大評価と思われる。
触った描写は? うん、それはまぁいいじゃないか。
話し話されるたび、喉が鳴る。
伝えて伝えられるたび、瞳の輝きが増す。
――その様子が可笑しくて可愛くて、早苗はこそりとくすくす笑った。
そして、駄目押しを語りだす。
「我が家でも色々とやってましたよ。
カレー鍋やキムチ鍋は諏訪子様にご好評でした。
神奈子様にはトマト鍋が合っていたようで。甘酸っぱくて美味しいんです」
ごくごくごくり。
きらきらぎらぎら。
ころころ、くすくす。
「――私は、諏訪子様と好みが一緒のようです。
ぴっと香辛料が効いているモノが好きですね。
発汗作用があって体にもいいんですよ?」
付け足して、早苗は霊夢の顔を覗き込む。
映したかったのは、瞳。
その奥の心。
「……前々から思ってたんだけどさぁ」
けれど、推測していた色は読めず、代わりにうろんげな声が返された。
「そんなに気にするほど、早苗、太ってないって」
ごふっ。
のけ反る早苗。
久々のダメージ。
「な、何故、今、そのような心の臓を抉る一撃を!?」
「大袈裟だっての。発汗作用ってことはダイエット目的でしょ?」
「……前々から言っていますが、着痩せするんです」
「その服でなにをどう着痩せするのか詳しく――じゃない!」
「ゃん、神奈子様諏訪子様、早苗は大人に……霊夢さん?」
言葉を断ち切り、霊夢が止まった。
帯を解きかけていた早苗の手も止まる。
おかしい。この流れなら、ボディコミュニケーションが続くはずなのに。
「そう、例え、一行だけの擬音であったとしても!」
「……早苗?」
「あ、はい」
呼び声に、どうということもなく我に返る早苗。
――と、言うよりは。
解っていた。
霊夢が話題を続ける意味が解っていた。
そして、この巫女からその手の話題を遠ざけるのが至難だということも、解っていた。
彼女の瞳は、今なお、光り輝き続けている。
「今は、お鍋の話!」
つまり――。
「……食べたいんですよね、お鍋?」
「わ、私がいつそんなことを!?」
「食べたくないんですか?」
竦められた肩を材料に、早苗はずぃと顔を寄せ、にこにこと笑いながら問うた。
「……あの。えっと。たべたい」
こくんと素直に頷く霊夢。大打撃。
「ふふ、じゃあ晩御飯はお鍋にしましょうか」
「やたっ! 何鍋にしようっ?」
「ちちち」
指を振り、霊夢の視線を受け止め、早苗は言う。
「折角ですから、皆さんの力も借りて、色々なお鍋を致しましょう」
見開かれる霊夢の瞳。その発想はなかった。
「っきゃー、早苗、いい、凄くいい! どれも美味しそうだもんね!」
「ええ! そんな霊夢さんも美味しそう! 食べちゃいたい!」
「早速話をつけに行きましょう!」
言うが早いか、飛び上がる霊夢。
「……ねぇ、なんか不穏当なこと、言ってなかった?」
「気のせいではないですか? そんなことより」
「ん、今はお鍋だもんね!」
言うに及ばず、早苗も続いた――。
さて、数時間後。
場所は同じく、博麗神社の縁側。
呼びかけに応じて集まったのは、なんてことはなく何時ものメンツの一角であった。
「えぇふ……」
仰向けに転がる‘白黒魔法使い‘。
「……んぅ」
口に両手をあてる‘七色人形遣い‘。
「みょー……ん」
正坐しつつも肩が揺れている‘半人半霊‘。
「うさー……」
その半人半霊にもたれかかり、虚空を仰ぐ‘狂気の月兎‘。
そして、‘博麗の巫女‘と‘守矢の風祝‘――元の二人である。
「けぇ~っぷ」
「霊夢さん……」
「あ、ごめん」
非を諌めつつ、つられそうになった早苗は水を流し込みどうにかやり過ごした。
現状を理解するのはそう難しくはない。
要は、一人ヒトリが作り過ぎたのだ。
全員が一人前半以上を用意してしまった。
早苗にいたっては三つの鍋を駆使して、――えぇぷ。
「し、暫くは、単語を聞いただけで、きつそう……」
「今思うと、残せば、良かったんですけど、ね」
「んなことできるわけ、っぷ!」
色々と限界だ。
数時間後に片づけをしてお開き――誰もが思った、その時。
「はぁい、こんばんは」
妖力が集う。
風景が揺らぐ。
空間が、割れる。
「美味しそうなことをしている……って、聞いてきたん、だけど……」
生じた隙間から現れたのは、その力を持つ唯一の存在‘結界の大妖‘八雲紫だった。
「えぇふ……」
「……ぅん」
「みょ……ん」
「うさー……」
「……んぷ」
五者五様のお出迎え。
「ひどい! 皆酷いわねぇ霊夢!?」
「揺らすな。げっぷ」
「あぁん!?」
霊夢の名誉のために記しておくと、流石に今のはわざとである。
けれど、致し方なかろう。
皆は既に己の限界を超えている。
でなければ、挨拶の一つも返さない彼女たちではない。
解っていたから、紫はふざけた態度を取り、現れた時そのまま隙間に身を投じる。
その直前。
握られる袖口。
かけられる言葉。
動いたのは、巫女と風祝。
「……待ちなさいよ。別に見ているくらいなら、えぇぷ!」
「そうですよ、折角来ていただいたんですし、んぷっ」
「うんまぁ、その、ありがとう」
鼻へと届く様々な匂いがブレンドされた呼気に、紫は苦笑しながら、隙間を閉じた。
「そもそも持ってくる食材を間違えた。
大勢でわいわい食べる時にするもんじゃないもの。
隙間に戻っててきとーに茹でて、のんびり食べるわ。じゃあね」
開いた。
否。開けられた。
誰によってか。無論、巫女祝。
「え、え、え」
「『茹でる』……ですって?」
「え、あ、そうよ霊夢」
「つまり、甲殻類の憎いヤツ?」
「さ、早苗? 早苗さん?」
ギンっ。
眼光に、紫は息を飲む。
霊夢と早苗からだけではない。
「あ、はい、応えます答えます!」
その場の全員が、ゆらりと立ち上がっている。
「持ってきたのは、蟹よ」
隙間から引きずり出された紫は、見た。
「アリス……ここは私に任せておけ。お前は、次の奴を頼む」
「……らしくないわよ、魔理沙。食べ終わったら、ねぇ、私、貴女に言うことがあるの」
「ご自愛を、うどんげさん」
「妖夢が一緒だから。頑張る」
「早苗。あんたは、止めておきなさい。限界よ」
「舐めないで、ください。リミッタァァァ、解除!!」
「帯を解いた!? あんた、そこまで……。――いいわ、行きましょう」
各々に浮かぶ、決意の色を。
「一緒に!」
「ええ、共に!」
「や、あの、何も蟹だけでそこまで……」
ギィィィィィィンっっ。
「ごめんなさいごめんなさい!?」
平身低頭の紫は、けれど、勘違いをしている。
蟹だけではない。
霊夢も早苗も、無論、他の皆も。
その先を見据え、手に箸と小皿を持っている。
「私としたことが、忘れていたぜ」
「そうね、このままじゃ竜頭蛇尾」
「覚悟は――」
「――とうに」
十二の瞳は、一切のぶれもなく、意志を滾らせていた。
「さぁ、終わりの始まりよ!」
「私たちの終焉!」
「それは!!」
そして、六つの声は、重ねられたのだった。
「――雑炊!!」
その先に残るのは何か。
ちょっと想像したくないと思う紫。
だけどまぁ、予想以上に喜んでもらえたし、いっか、とも思った。
ともかくとにかくかのように、霊夢たちは、わいわいと鍋をつつくのであった――。
<了>
「そだ、早苗」
「なんです、霊夢さん?」
「魔理沙が鍋やったって話、したっけ?」
ぱっと起き上がり、霊夢が唐突に切り出した。
膝に残る感触を惜しみつつ、けれどそれ以外の理由で固まる早苗。
だって霊夢の瞳がなんだかどうかと思うほどキラキラしているんですもの。
違和感を覚えつつ、それでも早苗は先を促した。
「聞いていませんね。どうかしたんですか?」
頷き、霊夢は語りだす。
「どうってことはない話なんだけど。
醤油ダシの寄せ鍋をちょいと一人でやったんだって。
具材はきのこだけなんでしょって聞いたら、きのこ馬鹿にすんなって怒られたわ」
しめじにえのき、まいたけ、しいたけをふんだんに盛り、エリンギまでも奮発したとのこと。きのこ類大活躍だ。
「あー、エリンギなんかは歯ごたえもありますし、美味しいですよね」
「しいたけもいけるわよ? 食感が苦手な人もいるみたいだけど」
「あはは、そのうちの一人です」
他愛もない話のはずだが、違和感は続いている。
その原因が解消されていないのだから当然のこと。
依然として、霊夢の瞳は無駄に輝いていた。きらきら。
……ぎらぎらかもしれない。
「お鍋と言えば、アリスさんも少し前にされたそうです」
向けられる視線に内心首を捻りつつ、今度は早苗が切り出した。
直後、小首を傾げる。
内に秘めたる疑問を表した訳ではない。
伝え聞いた鍋が、比較的多くの鍋を知っている彼女にして奇異に思えたのだ。
「それが、なんとですね、チーズをもとにしたそうなんです。
白味噌と混ぜたら結構美味しくいただけたって。
具材は普通のものだったらしいんですけどね」
ごってりとしたイメージだが、意外と箸が進むらしい。小食のアリスにして一人前以上をたいらげたと聞く。
「む、むぅ……チーズが邪魔してお鍋のイメージがわかない……!」
「じゃがいもや白菜はまとまりそうですけど。あと、ウィンナー」
「口に唾が溜まるわね」
眉根を寄せていた表情を一転させ、ごくりと喉を鳴らす霊夢。
その様子が可笑しくて、早苗はころころと笑った。
なんてことはない日常の一幕だ。
でもやっぱり霊夢の瞳は変わらない。
「でもまぁ、随分と変わり種ね。鍋って言ったら、水炊きか醤油、塩じゃない? 妖夢もつい最近、塩ちゃんこやったって言ってたし」
食べるよりも、鍋に具材を放りこむ作業に専念していたとのこと。
とは言え、まったく食べていなかったかと言えばそうでもない。
揚げやキャベツなど比較的早く手を出せるものはつまんでいたそうな。
加えて、一応は従者のことを覚えていたらしい主が、他の具材も密かに取り分けていてくれたらしい。
「塩のダシだけでも飲めるけどさ。
飽きてきたら胡麻とかトッピングしてもいけるわ。
あ、あと、七味! バリエーションがあるのはいいわよね」
妖夢も、野菜類は塩ダシのみで、後に食した肉類や海鮮類は胡麻をつけたしたそうだ。
「……って、結局全部食べられているじゃないの!」
「や、それよりも気になることが。海鮮類?」
「海老とか帆立とか。紫経由でしょ」
なるほど、と頷く早苗。
食卓に川で取れない魚が出されるのはそういう訳だったかと悟る。
……偶に市場にも鯛や秋刀魚など海魚が並んでいるのだが。まさか。いやしかし。
だがしかし、あの結界の大妖であれば、或いは。
「んぅ、こほん。変わり種なら、うどんげさんが話していたのもそうですね」
兎鍋? と視線で問うてくる霊夢に、早苗は微苦笑しながら首を横に振る。
鍋として、具材はオーソドックスなものだった。
豚肉に豆腐、春菊、大根、葱。
そして、当然、人参。
「や、さも人参がメインで語られるのはどうかと思いましたが。
ではなくて、おダシにゼリーを使ったらしいんですよ。
出来上がったお鍋のその名は――コラーゲン鍋!」
ぐっと拳を握り、早苗は声高らかに宣言した。女の子ですもの。
「あ、コラーゲンって言うのはお肌を潤わせるものです。頬も胸もお尻も、尻尾までもがぷるぷるでした!」
「触ったんかい。と言うか、食材として摂取して意味あんの、それ?」
「さぁ……? でも、永遠亭の方のことですから。大丈夫です」
なにがどう大丈夫だと言うのか。
尤も、事実はどうあれ鈴仙の肌がぷるっぷるだったことに嘘はない。
永遠亭の薬師がどこからか調達し吟味したSPF豚が原料のコラーゲンゼリー、これで効かなきゃそも鍋の名が過大評価と思われる。
触った描写は? うん、それはまぁいいじゃないか。
話し話されるたび、喉が鳴る。
伝えて伝えられるたび、瞳の輝きが増す。
――その様子が可笑しくて可愛くて、早苗はこそりとくすくす笑った。
そして、駄目押しを語りだす。
「我が家でも色々とやってましたよ。
カレー鍋やキムチ鍋は諏訪子様にご好評でした。
神奈子様にはトマト鍋が合っていたようで。甘酸っぱくて美味しいんです」
ごくごくごくり。
きらきらぎらぎら。
ころころ、くすくす。
「――私は、諏訪子様と好みが一緒のようです。
ぴっと香辛料が効いているモノが好きですね。
発汗作用があって体にもいいんですよ?」
付け足して、早苗は霊夢の顔を覗き込む。
映したかったのは、瞳。
その奥の心。
「……前々から思ってたんだけどさぁ」
けれど、推測していた色は読めず、代わりにうろんげな声が返された。
「そんなに気にするほど、早苗、太ってないって」
ごふっ。
のけ反る早苗。
久々のダメージ。
「な、何故、今、そのような心の臓を抉る一撃を!?」
「大袈裟だっての。発汗作用ってことはダイエット目的でしょ?」
「……前々から言っていますが、着痩せするんです」
「その服でなにをどう着痩せするのか詳しく――じゃない!」
「ゃん、神奈子様諏訪子様、早苗は大人に……霊夢さん?」
言葉を断ち切り、霊夢が止まった。
帯を解きかけていた早苗の手も止まる。
おかしい。この流れなら、ボディコミュニケーションが続くはずなのに。
「そう、例え、一行だけの擬音であったとしても!」
「……早苗?」
「あ、はい」
呼び声に、どうということもなく我に返る早苗。
――と、言うよりは。
解っていた。
霊夢が話題を続ける意味が解っていた。
そして、この巫女からその手の話題を遠ざけるのが至難だということも、解っていた。
彼女の瞳は、今なお、光り輝き続けている。
「今は、お鍋の話!」
つまり――。
「……食べたいんですよね、お鍋?」
「わ、私がいつそんなことを!?」
「食べたくないんですか?」
竦められた肩を材料に、早苗はずぃと顔を寄せ、にこにこと笑いながら問うた。
「……あの。えっと。たべたい」
こくんと素直に頷く霊夢。大打撃。
「ふふ、じゃあ晩御飯はお鍋にしましょうか」
「やたっ! 何鍋にしようっ?」
「ちちち」
指を振り、霊夢の視線を受け止め、早苗は言う。
「折角ですから、皆さんの力も借りて、色々なお鍋を致しましょう」
見開かれる霊夢の瞳。その発想はなかった。
「っきゃー、早苗、いい、凄くいい! どれも美味しそうだもんね!」
「ええ! そんな霊夢さんも美味しそう! 食べちゃいたい!」
「早速話をつけに行きましょう!」
言うが早いか、飛び上がる霊夢。
「……ねぇ、なんか不穏当なこと、言ってなかった?」
「気のせいではないですか? そんなことより」
「ん、今はお鍋だもんね!」
言うに及ばず、早苗も続いた――。
さて、数時間後。
場所は同じく、博麗神社の縁側。
呼びかけに応じて集まったのは、なんてことはなく何時ものメンツの一角であった。
「えぇふ……」
仰向けに転がる‘白黒魔法使い‘。
「……んぅ」
口に両手をあてる‘七色人形遣い‘。
「みょー……ん」
正坐しつつも肩が揺れている‘半人半霊‘。
「うさー……」
その半人半霊にもたれかかり、虚空を仰ぐ‘狂気の月兎‘。
そして、‘博麗の巫女‘と‘守矢の風祝‘――元の二人である。
「けぇ~っぷ」
「霊夢さん……」
「あ、ごめん」
非を諌めつつ、つられそうになった早苗は水を流し込みどうにかやり過ごした。
現状を理解するのはそう難しくはない。
要は、一人ヒトリが作り過ぎたのだ。
全員が一人前半以上を用意してしまった。
早苗にいたっては三つの鍋を駆使して、――えぇぷ。
「し、暫くは、単語を聞いただけで、きつそう……」
「今思うと、残せば、良かったんですけど、ね」
「んなことできるわけ、っぷ!」
色々と限界だ。
数時間後に片づけをしてお開き――誰もが思った、その時。
「はぁい、こんばんは」
妖力が集う。
風景が揺らぐ。
空間が、割れる。
「美味しそうなことをしている……って、聞いてきたん、だけど……」
生じた隙間から現れたのは、その力を持つ唯一の存在‘結界の大妖‘八雲紫だった。
「えぇふ……」
「……ぅん」
「みょ……ん」
「うさー……」
「……んぷ」
五者五様のお出迎え。
「ひどい! 皆酷いわねぇ霊夢!?」
「揺らすな。げっぷ」
「あぁん!?」
霊夢の名誉のために記しておくと、流石に今のはわざとである。
けれど、致し方なかろう。
皆は既に己の限界を超えている。
でなければ、挨拶の一つも返さない彼女たちではない。
解っていたから、紫はふざけた態度を取り、現れた時そのまま隙間に身を投じる。
その直前。
握られる袖口。
かけられる言葉。
動いたのは、巫女と風祝。
「……待ちなさいよ。別に見ているくらいなら、えぇぷ!」
「そうですよ、折角来ていただいたんですし、んぷっ」
「うんまぁ、その、ありがとう」
鼻へと届く様々な匂いがブレンドされた呼気に、紫は苦笑しながら、隙間を閉じた。
「そもそも持ってくる食材を間違えた。
大勢でわいわい食べる時にするもんじゃないもの。
隙間に戻っててきとーに茹でて、のんびり食べるわ。じゃあね」
開いた。
否。開けられた。
誰によってか。無論、巫女祝。
「え、え、え」
「『茹でる』……ですって?」
「え、あ、そうよ霊夢」
「つまり、甲殻類の憎いヤツ?」
「さ、早苗? 早苗さん?」
ギンっ。
眼光に、紫は息を飲む。
霊夢と早苗からだけではない。
「あ、はい、応えます答えます!」
その場の全員が、ゆらりと立ち上がっている。
「持ってきたのは、蟹よ」
隙間から引きずり出された紫は、見た。
「アリス……ここは私に任せておけ。お前は、次の奴を頼む」
「……らしくないわよ、魔理沙。食べ終わったら、ねぇ、私、貴女に言うことがあるの」
「ご自愛を、うどんげさん」
「妖夢が一緒だから。頑張る」
「早苗。あんたは、止めておきなさい。限界よ」
「舐めないで、ください。リミッタァァァ、解除!!」
「帯を解いた!? あんた、そこまで……。――いいわ、行きましょう」
各々に浮かぶ、決意の色を。
「一緒に!」
「ええ、共に!」
「や、あの、何も蟹だけでそこまで……」
ギィィィィィィンっっ。
「ごめんなさいごめんなさい!?」
平身低頭の紫は、けれど、勘違いをしている。
蟹だけではない。
霊夢も早苗も、無論、他の皆も。
その先を見据え、手に箸と小皿を持っている。
「私としたことが、忘れていたぜ」
「そうね、このままじゃ竜頭蛇尾」
「覚悟は――」
「――とうに」
十二の瞳は、一切のぶれもなく、意志を滾らせていた。
「さぁ、終わりの始まりよ!」
「私たちの終焉!」
「それは!!」
そして、六つの声は、重ねられたのだった。
「――雑炊!!」
その先に残るのは何か。
ちょっと想像したくないと思う紫。
だけどまぁ、予想以上に喜んでもらえたし、いっか、とも思った。
ともかくとにかくかのように、霊夢たちは、わいわいと鍋をつつくのであった――。
<了>
ちょっと一緒に鍋つついてくる
ああ、なんて素晴らしいのだろう、あの喧騒が今でも昨日のことのように蘇ってくる
さあ、戻ろうか、あの懐かしの戦場へ、あの懐かしの戦争へ
万願成就の夜が来た、戦争の夜へようこそ
……って、え?あれ?
ガタガタ≪;"口"≫ガタガタ
通夜は命蓮寺明日午後7時から
告別式は明後日同場所において午後1時からとなっております。
「さぁ、終わりの始まりよ!」
このフレーズ気に入ったwwww
ふっ、そうか。ZOSUIの始まりか。また灼熱の溶岩のような地獄の夜がやって来るのか……
明後日は友引なので
告別式は中止となりました
>「ご自愛を、うどんげさん」
>「妖夢が一緒だから。頑張る」
この二人の関係が気になるw
鍋のだしになる方が来てるとは……
みんな仲良くてほのぼのしたぜ
オーマイガーwwwwww貴方のことは忘れないwww
チーズ鍋美味しいよ!!!
同じことを思った方がww
びびる紫がかわいいと思ったw
というか隙間を無理やり開いて引きずり出す巫女二人つええ
それなんて死亡フラグwきちんと殻まで料理するから、成仏してね?
味噌鍋とキムチ鍋は至高だと思うよっ!!
ただし、低脂肪と無脂肪はちょっと。
ただ普通のトマト以上に食感が独特になりますけどね。
最後にうどんが入るのが我が家のルール!