人里。
この間は、妙な連中に邪魔されたおかげで、台無しになってしまった。
まあ過ぎたことだし、今さらどうでもいいが。
ルイズは、人里の道をてくてくと歩いていた。
大きめの旅行鞄が、その足もとをついてくる。
からころと、キャスターのついた鞄でルイズが軽く押しただけでも勝手に走る辺り、どうもただの鞄ではないらしかった。
ルイズは、物珍しげに、あたりを見回してきょろきょろと歩いている。
ちょっと危なっかしい。
「ふうん」「へーえ」などと、一人で連発していて、落ち着きもあまりない。
彼女が住んでいるところからしたら、ここはまったく生態系すら違う異郷であるから、無理もないが。
そこへ、物売りが一人歩み寄った。
「やあ、お嬢さん。こんにちは。どこから来たの?」
ルイズは急に声をかけられ、笑って答えた。
「え? ええ。ちょっと魔界から」
「へえ、魔界? ああ、最近増えてるもんねえ。ところでこれお一ついかが? お嬢さん美人だからね、こういうの似合うと思うよー」
「へーえ……」
と、ルイズは気楽に物売りが差し出す品物をのぞきこんだ。
その後ろから、すっと腕が伸びる。
がららっ。
「ん?」
ルイズはふり返った。
そして、走って逃げていく男の姿を見た。
手に、自分の旅行鞄を持っている。
「あっ!! ――ちょっと!!」
ルイズは、目を丸くして叫んだ。
あわてて走り出す。
男は逃げ足が速く、あの大仰な鞄を持っているというのに、すでにだいぶ距離を離していた。
(あ、足、はやっ!)
ルイズは、焦って叫んだ。
「の、ええい、待ちなさい! ――泥棒! 誰か! 捕まえて!」
道にいる人々は、何人かふりかえるが、当てにはならなかった。
すいすいと男は快調に逃げていく。
(まずいわ、もう)
ルイズは思った。
まずい。
実にまずい。
あの鞄の中身は――。
「うぎゃっ」
と、前方で、悲鳴が上がった。
ルイズは耳が良い。
悲鳴が上がったのは、自分が追いかけている男の物だと、すぐに聞き分けた。
一瞬見失いかけた男の姿が、前方で、すっころばされて転がっているのがわかる。
ルイズは、少しほっとしつつ、追いついた。
追いついたときには、すでにすっころんだ男を、若い青年が取り押さえているところだった。
ルイズはとりあえず先に鞄を押さえた。
乱暴に放り出されたようだが、傷はついていないようだ。
(ほ)
あとで中身を改めなければならない。
化粧品の類なんかは、半分諦めた方がいいのだろうが。
ルイズは立ち上がって、男を取り押さえた青年のほうへ近寄った。
「ありがとうございます。助かりました」
礼を言う。
「ああ。いや。気にするな」
青年は、襟を正しながら言った。
長い髪を後ろで結い上げた、いわゆる「侍」の恰好をしている青年だ。
この里では珍しくないのかも知れないが、ルイズにとってはものめずらしい。
細身で長身の体つきは、あまり屈強そうに見えないが、男をあっという間に押さえ、動きを封じてしまったところから、実はかなりの腕前なのだろう。
青年は、こちらの恰好を見下ろした。
合点して言う。
「ふむ。旅行者か」
一人で言うと、頷く。
そして、手でかるく辺りを示した。
「お回りを呼ぶんなら、適当に周りの者に言うといい。この里で警察なんて言っているのは一人しかいないから、すぐに分かる。少々面倒だろうが、後始末なんかは、そいつに任せた方が確実で良いぞ。では、御免」
言うと、そのままきびすを返した。
行ってしまう。
「あ、ちょっと……」
ルイズは呼び止めようとしたが、青年は素早い足どりで、あっという間に向こうへ歩いていってしまった。
青い髪が人ごみにまぎれて見えなくなる。
(もう、お礼くらい言わせてくれてもいいのに)
ルイズは、不満げに思った。
こちらの気が済まないではないか。
それに、ちょっと恰好いい人だったし。
(なんてね……)
ルイズは、冗談めかして思った。
いや、ちょっとではない。
あんな綺麗な人は女でもなかなかいそうにない。思わず丁寧語になってしまった。
「おうい、あんた。大丈夫かね」
「え? ええ」
ルイズは、ちょっとうわの空で答えた。
「今、お回りが来るって言うからさ。そこでまっときなよ」
「え? ああ。はい」
ルイズはぼんやりしつつも答えた。
どうも足止めを食ってしまうようだ。
それより、さっさとさっきの青年を捜してきたいのだが。
(なんか変わった人だったし……探せば見つかりそうよねえ。見つからなかったら、また今度来ても……)
一度会ったきりの青年を捜して、異郷の地へと。
それもなんだかロマンチックである。
ふふ、とルイズは、一人で考えて、暢気に笑った。
なかなかに夢見がちである。
「――はいはい。ご協力有り難うございます。ちょっとごめんなさいね」
やがて、どこかのんびりした声が人ごみの中から聞こえた。
てくてくと着物姿の女が歩いてくる。
辺りの状況を見て、まずルイズと鞄に目を止めた。
「えーと。泥棒って言うのはあなたかしら?」
言う。
ルイズは言った。
「私じゃないわよ。向こうの奴よ」
「あらごめんなさい。すると、あなたが被害者の人かしら? どうも、このたびはご愁傷様です。それで何を盗られたんですか?」
「いえ。べつになにも盗られてないわ」
「すると、盗られてからすぐ取り返したのね?」
「ええ」
ルイズは言った。
女が眉をよせて、言う。
「ふん。だとすると、あなたにも少し話を聞かないといけないわね。あっちの人も怪我してるようだし」
「なにそれ? 盗みなんかやったんだから、自業自得じゃないの?」
ルイズは言った。
女は、のんびりと言う。
「悪いコトをやった人が、なにされてもいいっていうんなら、警察はいらないでしょ? 警察は悪いコトした人のことを守ってあげるのも仕事のウチなのよ。そうしないと、だれが悪いコトしても勝手じゃないってことになっちゃうでしょ?」
ね? と、女はにこにこ笑って言う。
ルイズは困ったように眉根を寄せた。
「怪我させたのは、私じゃないんだけど……」
「あら、そうなの? じゃあ誰か他の人がやったの? それとも実は自分で転んだとか」
「転んでないわ。他の人がやったのよ」
「うん。まあそうでしょうね。あなたの知ってる人? どんな人だか覚えてる?」
女は手帳を取りだした。
古くて上品な装丁だ。
それに、ウサギのマスコットがついたペンでさらさらと書き込んでいる。
ルイズはちょっと思いだして言った。
「知らない人よ。ええと、なんだったかな、男の人よ。背が高くて、髪が長くて、後ろで髪をくくってたわ。こう、馬の尻尾みたいに。ポニーテールって言うのかしらね、あれも。それで、着物を着てて、――そうだわ、腰に刀を差してたわね。あとは……」
「あとは?」
女が聞いてくる。
ルイズはちょっと首をすくめた。
「すごく男前だったわ」
「そう。ありがとう。じゃあ、最後に住所とお名前を。そういえば、うっかり聞き忘れてたわ」
ルイズは、自分の住所と名前を告げた。
「あら、観光の人だったの? 災難だったわね。あとで被害か何かあったら、私の所に来てちょうだい。いろいろ補償してあげられることもあるから。ああ、自己紹介もまだだったわね。私は小兎。小兎姫で通っているから、里の人に聞けば大体分かるわ」
「わかったわ。ありがとう」
ルイズは言った。
小兎姫は、ひらひらと手をふった。
「それじゃ、さようなら。今度は気をつけてね」
言いつつ、すたすたと去って行く。
ルイズはふうとため息を吐いた。
気疲れしたのだ。
(ここも案外物騒なのねえ。注意しないと)
ルイズは鞄をからころと転がした。
ふと、目を落として、鞄の脇にかがみこむ。
ルイズは手をのばすと、急に鞄を優しく撫でた。
さらに話しかける。
「大丈夫? 怪我無かった? ――うん、そう。よかった。ごめんね。さっきはよく、人間食べるの我慢してくれたわね。えらいわよ」
ルイズは、鞄の留め口にそっとキスをしてやった。
鞄は甘えるように、ごとごとと鳴った。
旧作キャラがこんなに出てくるなんて珍しい、男前侍は明羅さんですかね?
これは続きものなのでしょうか? だとしたら楽しみにしています
二次では放浪癖のある魔界ファミリーの次女として書かれることの多いルイズさんじゃないか!
それに、一般人に変装しているが、その正体はなんと幻想郷の警察官
人が興味を持たないものばかり集める真性マニアのコレクターでもある小兎姫さん!
男性に間違われるほどのイケメンで、博霊の力を求めて霊夢に決闘を挑むが告白と勘違いされ
まんざらでもない様子の霊夢に焦ったあげく、負けたら埋められそうになった
剣術よりスーパーボールに定評のある明羅さんまで!
こいつは面白くなりそうだぜ!
次は誰か楽しみですね
旧作作品もっと増えないかなぁ
明羅さんマジイケウーメン
続き気になるな
楽しみにしています