この物語にはグロい表現が使われています。
それでも大丈夫という方はどうぞこの扉をお入りくださいませ。
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢」
「何かしら紫?」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の右手がほしいわ」
「それは無理な相談ね」
「どうしてかしら。悲しいわ」
「だって私の右手は紫と手を繋ぐ為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の左手がほしいわ」
「それも無理な相談ね」
「どうしてかしら。切ないわ」
「だって私の左手は紫を抱きしめる為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の口がほしいわ」
「それは最も無理な相談ね」
「どうしてかしら。寂しいわ」
「だって私の口は紫とキスをする為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の心臓がほしいわ」
「それはどうしても無理な相談ね」
「どうしてかしら。眠たいわ」
「だって私の心はもう紫のものだから」
―― 暗転 ――
――今のは夢?
ぴちゃ……ぴちゅ……
――水音? どこから?
くちゃ……くちゅ……
――あぁこれは、私の中からだ
ぴちゅ……ぐちょっ……
――!!? 今の衝撃は、何? 胸、いやそれよりももっと下の……
ぐしゃ……ぐちゅ……
――聞いたことがある音。私が一番嫌いな……音。
ぶしゅっ……くちゃ……くちゃ……ぉ…ぃ…
――あぁ、そうか、そうなのね。
ざしゅっ……ずるずる……くちゃ……くちゃ……
――今日からこの音がもっと嫌いになりそうだわ。
◇ ◇ ◇ ◇
「紫が行方不明?」
「あぁ。いつもなら冬眠からお目覚めになられる時期なのに、起きれこられなかったので様子を見に行ったら」
「布団だけ残して消えちゃったと」
夜桜が咲き誇る博麗神社。
その境内の真ん中に神社の巫女である博麗 霊夢と、九尾の狐の八雲 藍が対峙していた。
霊夢は基本的にこの時間になると寝ているか、お風呂に入っているかだが、
今日に限ってはすでにお風呂に入り、昼寝で睡眠をとり、夜に行動できるように万全の体制を整えていた。
そうしなければならないと、霊夢の勘が告げていたのだ。
なにかあった時の為に何時でも動ける状態であれと。
「藍。心当たりとかある?」
「……過去に一度だけ、同じようなことがあった」
「詳しく話して。この幻想郷に対しても大切な事のような気がする」
「実は紫様が"食べられている"のを見たことがあるんだ」
「もちろん物理的な意味でよね?」
藍は一度大きく頷くと、続きを話始めた。
「ルーミアという妖怪は知っていると思うが、今から3000年前に彼女に骨一つ残さずに……私の目の前で紫様は食べられたんだ」
「でも紫はこの前までピンピンしてたじゃない」
「あぁ。だから私もアレは夢だったと思っている。目が覚めたら布団の上だったしな。むしろ夢であってほしいのだ」
夢であってほしいと願う藍だが、分かっているのだろう。アレが本当にあった事であると。
そして、霊夢も感じている。おそらく紫は"食べられたことがある"と。
「でもいくら闇を操る程度の能力を持っていても、紫に勝てるとは思え無い……まさかあの封印?」
「私もルーミアに関しては詳しいことは良く分からない。ただあの時のルーミアは今とは全然違う容姿をしていた。そしてなにより……」
そこまで話して、藍は尻尾をちぢこませ少し震える。
彼女ほどの大妖怪をそのようにさせる感情。それは恐怖。
「恐ろしいほどに、幸せそうな顔だった」
◆ ◆ ◆ ◆
隙間空間。
ここは多数の「目」ばかりの世界。
全ての狭間ゆえに何でもあり、そしてなにも無い世界だ。
そこに金色のロングヘアを、血に染めた女性が座っていた。
スレンダーな体を包み込んでいる服は黒く、明るいのにそこだけぽっかりと無があるように見える。
「ふぅ、お腹一杯ね」
彼女は血のルージュを腕でふき取り、おもむろにスカートを捲りあげた。
そして、嬉々とした目と口調で高らかに叫ぶ。
「さぁ生まれていらっしゃい。八雲 紫」
バギバギビュシャぐちゃブチずりゅずりゅ!!
人間が聞けばほとんどの人は嘔吐するであろう、ひどく生臭い音が響き渡る。
そしてそこには、音の本体であろう先ほどの女性と、頭から紅色のペンキを被ったかのように血を滴らせる女性がいた。。
「……体がべとべとしますわ」
「毎回思うけれど、わざわざ其処から出てくる意味は? というかすごく痛い。猛烈に痛い」
ルーミアの下腹部を押し広げ、両手が伸びてきたかと思うと、足を掴み無理やり広げ関節を外す。
骨盤が砕け、腹が割け、右足がちぎれ、秘部の肉がはじける音を出しながら、紫は生まれた。
大人の体から大人が生まれるスタクタクルショーは、まさに一瞬の出来事であった。
そして、体が再生するのもまた、一瞬だった。くっ付いたのではなく、新しく作られたのだ。
周りにはまだ彼女の体の一部だった肉、内蔵や骨が散らばっている。
「あら、私は貴女に食べられたのよ? 食べられる事の恐怖は妖怪といえど、本能で一番つらいと感じることですわ」
「私の処女幕がー」
「何回も再生できるとか、安っぽい処女ですのね」
「しかも3000年周期で私は処女懐妊しているわけね」
「お母さんお腹すいたー母乳頂戴?」
「なに、それはつるぺたの私に対する宣戦布告と取っていいのね?」
「生まれ出でる時、頭じゃなくて胸がつっかえて大変だったわぁ」
「死符「寿命」」
「きゃ~~~~~♪」
隙間空間を破壊せしめるほどの弾幕バトル。
それは今までみたどの弾幕よりも光り輝く。
まるで弾幕そのものが生きているかのように。
刹那の人生を謳歌した弾幕は、暗く、隙間の底へと消えていく。
そんな戦いを半刻ほど続けただろうか。
彼女は振り上げていた手をゆっくりと下ろした。
「ふぅ、久しぶりの世界……堪能したわ」
「あら、幻想郷にはもっと楽しいことがあるのですのよ」
「紫が作った理想の世界、ね」
隙間に穴を開け、彼女は外の世界を覗く。
ただそれだけ。決してそこから出ようとはしない。
「一日くらいなら大丈夫と思うわ。そんな柔は世界には作っておりませんもの」
「だめ。私はそこに居るだけで周りに影響を与えすぎる。現にこの隙間空間まで軋みを上げているわ」
「そう。残念ね」
紫は本当に残念そうに呟いた。
心に含みも無い、純粋に残念と思っている。
「次に会えるのは3000年後ね」
「待ち遠しいわ」
「食べられるのは嫌いじゃなかったの?」
「食べられるのは嫌いよ。けれど、貴女の中に居ると安心できるのよ」
「母親としては嬉しい言葉ね」
「親は子を食べませんわ」
「そうね……」
二人の間にわずかな静寂がおとづれる。
聞こえるのは隙間の悲鳴。今にも「死ぬ」という悲鳴だけだった。
「時々、私は私の中で考えることがあるのよ」
「あら偶然ね。私もこの時期が近づくと、冬眠前に考えることがあるわ」
「「もし貴女と本当の親子の関係だったら幸せだったかしら?」」
どちらからもなく、二人は笑う。
彼女は手で口を隠し、紫は扇子で口を隠す。
似たような仕草の中に、彼女達の繋がりが見えたような気がする。
一頻り笑い終えると、彼女の手には一つのリボンのような符が握られていた。
それを紫へと差し出す。
紫は何も言わずじっとリボンを見つめ、ゆっくりと手を伸ばす。
そして彼女の手に自分の手を重ね、彼女の後ろに回った。
彼女の掌にはリボンは無く、いつのまにか紫の口に咥えられている。
「相変わらずサラサラヘアね。櫛を通さなくてもいいんじゃないかしら」
「貴女に髪を梳いてもらう時が、私は一番幸せなのよ~」
「安い幸せ。こんなのでよかったら何時でもしてあげるわ」
「じゃぁ時々会いに行く。体は小さいし、意識も私であって私ではないけれど。会いに行くわ」
「なら博麗神社に来なさいな。出涸らしのお茶で御もてなししてもらえるわ」
「なにそれ」
「幻想郷の名産品よ?」
ずっとずっと続くかと思っていた時間。
ずっとずっと続けたい時間。
けれど終わりはやってくる。
別れの時間がやってくる。
「リボン、結ぶわ」
「だからそれは符だってば……解けないようにしっかりとね」
「ええ……これで次ぎ会えるのは3000年後なのね」
「また長いこと家を留守にするけれど、お留守番おねがいね紫ちゃん」
「任せて頂戴……お母様」
「ん~~~新しい体は軽くていいわね。まるで健康ダイエットですわ」
紫は幻想郷の空を飛んでいた。
人と妖怪達が共存する理想郷。
紫の幸せの形だ。
「今度は博麗神社の方へ飛んで……あら、あれは霊夢じゃないかしら。それと藍?」
博麗神社の方から飛んでくる人影が二つ。
それも猛烈な速度でまっすぐこちらへと突っ込んで来るようだ。
あの速度だと、紫の前で止まれないのではないだろうか。
そして何か叫んでいる。まだ距離があるのでよくは聞き取れないが、きっと久しぶりに会えて嬉しいのだろうか。
紫も飛び込んでくるであろう、霊夢と藍を抱きしめるべく二人に向かって進んだ。
「……こぉぉぉぉらぁぁぁゆぅぅぅかぁぁぁりぃぃぃぃ!!」
「紫様ぁぁぁぁぁ!!」
……回れ右
やばいやばい、霊夢怒ってる。本気で怒ってる。理由は分からないけれど怒っている。
藍はあの正確だから心配してくれているのだろう。
とりあえず逃げようと、紫は二人に背を向け全力で飛び出した。
「あ、待ちなさい紫! 全部説明してもらうからね! というか神社を壊したのあんたでしょう!?」
「そういえば弾幕の何個かは隙間空間を破って外に出てたわね」
これは2ヶ月ほど隠れておこうかしら、と思った矢先、霊夢は紫の目の前に居た。
サラシの上からも分かる、まだ発展途上であろう胸に顔面から突撃してしまった。
まさか自分が突っ込む側になるとは思わなかったという動揺を隠す為に紫は霊夢の胸に顔を埋めている。
というよりも、紫を逃がさないようにと、霊夢は胸に頭をしっかりホールドしていた。
「捕まえたわ紫。もう離さないから」
「霊夢ごきげんよう。そういえば零時間移動できたのね貴女」
「はぐらかし、言い訳は無用。真実のみを語りなさい」
「愛しているわ霊夢」
「なっ!?」
「隙あり!」
紫はススっと霊夢から抜け出し、また捕まらないように逃げ出した。
霊夢の零時間移動に対応しようと、隙間で逃げようとした時、なみだ目の霊夢が叫んだ。
「ゆ、ゆ、紫の馬鹿ーーーーー!!」
「誰がババァよ!」
「ババァじゃない、馬鹿と言ったのよこの馬鹿!」
「大賢者に向かって馬鹿とは……そんな口きけない用に、たまには私が直接教育してあげますわ!」
「望むところよ!」
幻想郷に咲く多数の花。
その花の人生は短く、咲いてはすぐ舞い散る。
それは桜のように。
それは空に輝く太陽のように。
それは黄色から赤へと変わる山のように。
それは降り積もる雪の結晶のように。
それこそが、幻想郷が幸せであることの証明だった。
幻想郷。楽園。
楽園といえど、生と死は等しく訪れる。
今光り輝いている彼女達もいずれ死ぬだろう。
幻想郷の母の悲しみの一つとなるだろう。
その悲しみは積み重なり、いずれ母の体をも蝕む。
悲しみの多い尽くされた母も、いずれは……
――そんなことは私がさせない
母にも母はいる。
子の悲しみを背負うは、母の役目。
――貴女が背負った悲しみを私に教えて?
母の中で消化されし楽園の悲しみは昇華され、楽園の幸せの唱歌となるだろう。
――私の唯一の願い。笑っていて。ずっと。そうしたら……
――この閉鎖された場所で、私は安心して眠り続けることができるから。
『――――』
――えぇ幸せよ、愛しの我が娘。私はとっても幸せ。今も、そしてこれからもずっと。
それでも大丈夫という方はどうぞこの扉をお入りくださいませ。
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢」
「何かしら紫?」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の右手がほしいわ」
「それは無理な相談ね」
「どうしてかしら。悲しいわ」
「だって私の右手は紫と手を繋ぐ為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の左手がほしいわ」
「それも無理な相談ね」
「どうしてかしら。切ないわ」
「だって私の左手は紫を抱きしめる為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の口がほしいわ」
「それは最も無理な相談ね」
「どうしてかしら。寂しいわ」
「だって私の口は紫とキスをする為にあるのだから」
「霊夢、霊夢、愛しの霊夢。貴女の心臓がほしいわ」
「それはどうしても無理な相談ね」
「どうしてかしら。眠たいわ」
「だって私の心はもう紫のものだから」
―― 暗転 ――
――今のは夢?
ぴちゃ……ぴちゅ……
――水音? どこから?
くちゃ……くちゅ……
――あぁこれは、私の中からだ
ぴちゅ……ぐちょっ……
――!!? 今の衝撃は、何? 胸、いやそれよりももっと下の……
ぐしゃ……ぐちゅ……
――聞いたことがある音。私が一番嫌いな……音。
ぶしゅっ……くちゃ……くちゃ……ぉ…ぃ…
――あぁ、そうか、そうなのね。
ざしゅっ……ずるずる……くちゃ……くちゃ……
――今日からこの音がもっと嫌いになりそうだわ。
◇ ◇ ◇ ◇
「紫が行方不明?」
「あぁ。いつもなら冬眠からお目覚めになられる時期なのに、起きれこられなかったので様子を見に行ったら」
「布団だけ残して消えちゃったと」
夜桜が咲き誇る博麗神社。
その境内の真ん中に神社の巫女である博麗 霊夢と、九尾の狐の八雲 藍が対峙していた。
霊夢は基本的にこの時間になると寝ているか、お風呂に入っているかだが、
今日に限ってはすでにお風呂に入り、昼寝で睡眠をとり、夜に行動できるように万全の体制を整えていた。
そうしなければならないと、霊夢の勘が告げていたのだ。
なにかあった時の為に何時でも動ける状態であれと。
「藍。心当たりとかある?」
「……過去に一度だけ、同じようなことがあった」
「詳しく話して。この幻想郷に対しても大切な事のような気がする」
「実は紫様が"食べられている"のを見たことがあるんだ」
「もちろん物理的な意味でよね?」
藍は一度大きく頷くと、続きを話始めた。
「ルーミアという妖怪は知っていると思うが、今から3000年前に彼女に骨一つ残さずに……私の目の前で紫様は食べられたんだ」
「でも紫はこの前までピンピンしてたじゃない」
「あぁ。だから私もアレは夢だったと思っている。目が覚めたら布団の上だったしな。むしろ夢であってほしいのだ」
夢であってほしいと願う藍だが、分かっているのだろう。アレが本当にあった事であると。
そして、霊夢も感じている。おそらく紫は"食べられたことがある"と。
「でもいくら闇を操る程度の能力を持っていても、紫に勝てるとは思え無い……まさかあの封印?」
「私もルーミアに関しては詳しいことは良く分からない。ただあの時のルーミアは今とは全然違う容姿をしていた。そしてなにより……」
そこまで話して、藍は尻尾をちぢこませ少し震える。
彼女ほどの大妖怪をそのようにさせる感情。それは恐怖。
「恐ろしいほどに、幸せそうな顔だった」
◆ ◆ ◆ ◆
隙間空間。
ここは多数の「目」ばかりの世界。
全ての狭間ゆえに何でもあり、そしてなにも無い世界だ。
そこに金色のロングヘアを、血に染めた女性が座っていた。
スレンダーな体を包み込んでいる服は黒く、明るいのにそこだけぽっかりと無があるように見える。
「ふぅ、お腹一杯ね」
彼女は血のルージュを腕でふき取り、おもむろにスカートを捲りあげた。
そして、嬉々とした目と口調で高らかに叫ぶ。
「さぁ生まれていらっしゃい。八雲 紫」
バギバギビュシャぐちゃブチずりゅずりゅ!!
人間が聞けばほとんどの人は嘔吐するであろう、ひどく生臭い音が響き渡る。
そしてそこには、音の本体であろう先ほどの女性と、頭から紅色のペンキを被ったかのように血を滴らせる女性がいた。。
「……体がべとべとしますわ」
「毎回思うけれど、わざわざ其処から出てくる意味は? というかすごく痛い。猛烈に痛い」
ルーミアの下腹部を押し広げ、両手が伸びてきたかと思うと、足を掴み無理やり広げ関節を外す。
骨盤が砕け、腹が割け、右足がちぎれ、秘部の肉がはじける音を出しながら、紫は生まれた。
大人の体から大人が生まれるスタクタクルショーは、まさに一瞬の出来事であった。
そして、体が再生するのもまた、一瞬だった。くっ付いたのではなく、新しく作られたのだ。
周りにはまだ彼女の体の一部だった肉、内蔵や骨が散らばっている。
「あら、私は貴女に食べられたのよ? 食べられる事の恐怖は妖怪といえど、本能で一番つらいと感じることですわ」
「私の処女幕がー」
「何回も再生できるとか、安っぽい処女ですのね」
「しかも3000年周期で私は処女懐妊しているわけね」
「お母さんお腹すいたー母乳頂戴?」
「なに、それはつるぺたの私に対する宣戦布告と取っていいのね?」
「生まれ出でる時、頭じゃなくて胸がつっかえて大変だったわぁ」
「死符「寿命」」
「きゃ~~~~~♪」
隙間空間を破壊せしめるほどの弾幕バトル。
それは今までみたどの弾幕よりも光り輝く。
まるで弾幕そのものが生きているかのように。
刹那の人生を謳歌した弾幕は、暗く、隙間の底へと消えていく。
そんな戦いを半刻ほど続けただろうか。
彼女は振り上げていた手をゆっくりと下ろした。
「ふぅ、久しぶりの世界……堪能したわ」
「あら、幻想郷にはもっと楽しいことがあるのですのよ」
「紫が作った理想の世界、ね」
隙間に穴を開け、彼女は外の世界を覗く。
ただそれだけ。決してそこから出ようとはしない。
「一日くらいなら大丈夫と思うわ。そんな柔は世界には作っておりませんもの」
「だめ。私はそこに居るだけで周りに影響を与えすぎる。現にこの隙間空間まで軋みを上げているわ」
「そう。残念ね」
紫は本当に残念そうに呟いた。
心に含みも無い、純粋に残念と思っている。
「次に会えるのは3000年後ね」
「待ち遠しいわ」
「食べられるのは嫌いじゃなかったの?」
「食べられるのは嫌いよ。けれど、貴女の中に居ると安心できるのよ」
「母親としては嬉しい言葉ね」
「親は子を食べませんわ」
「そうね……」
二人の間にわずかな静寂がおとづれる。
聞こえるのは隙間の悲鳴。今にも「死ぬ」という悲鳴だけだった。
「時々、私は私の中で考えることがあるのよ」
「あら偶然ね。私もこの時期が近づくと、冬眠前に考えることがあるわ」
「「もし貴女と本当の親子の関係だったら幸せだったかしら?」」
どちらからもなく、二人は笑う。
彼女は手で口を隠し、紫は扇子で口を隠す。
似たような仕草の中に、彼女達の繋がりが見えたような気がする。
一頻り笑い終えると、彼女の手には一つのリボンのような符が握られていた。
それを紫へと差し出す。
紫は何も言わずじっとリボンを見つめ、ゆっくりと手を伸ばす。
そして彼女の手に自分の手を重ね、彼女の後ろに回った。
彼女の掌にはリボンは無く、いつのまにか紫の口に咥えられている。
「相変わらずサラサラヘアね。櫛を通さなくてもいいんじゃないかしら」
「貴女に髪を梳いてもらう時が、私は一番幸せなのよ~」
「安い幸せ。こんなのでよかったら何時でもしてあげるわ」
「じゃぁ時々会いに行く。体は小さいし、意識も私であって私ではないけれど。会いに行くわ」
「なら博麗神社に来なさいな。出涸らしのお茶で御もてなししてもらえるわ」
「なにそれ」
「幻想郷の名産品よ?」
ずっとずっと続くかと思っていた時間。
ずっとずっと続けたい時間。
けれど終わりはやってくる。
別れの時間がやってくる。
「リボン、結ぶわ」
「だからそれは符だってば……解けないようにしっかりとね」
「ええ……これで次ぎ会えるのは3000年後なのね」
「また長いこと家を留守にするけれど、お留守番おねがいね紫ちゃん」
「任せて頂戴……お母様」
「ん~~~新しい体は軽くていいわね。まるで健康ダイエットですわ」
紫は幻想郷の空を飛んでいた。
人と妖怪達が共存する理想郷。
紫の幸せの形だ。
「今度は博麗神社の方へ飛んで……あら、あれは霊夢じゃないかしら。それと藍?」
博麗神社の方から飛んでくる人影が二つ。
それも猛烈な速度でまっすぐこちらへと突っ込んで来るようだ。
あの速度だと、紫の前で止まれないのではないだろうか。
そして何か叫んでいる。まだ距離があるのでよくは聞き取れないが、きっと久しぶりに会えて嬉しいのだろうか。
紫も飛び込んでくるであろう、霊夢と藍を抱きしめるべく二人に向かって進んだ。
「……こぉぉぉぉらぁぁぁゆぅぅぅかぁぁぁりぃぃぃぃ!!」
「紫様ぁぁぁぁぁ!!」
……回れ右
やばいやばい、霊夢怒ってる。本気で怒ってる。理由は分からないけれど怒っている。
藍はあの正確だから心配してくれているのだろう。
とりあえず逃げようと、紫は二人に背を向け全力で飛び出した。
「あ、待ちなさい紫! 全部説明してもらうからね! というか神社を壊したのあんたでしょう!?」
「そういえば弾幕の何個かは隙間空間を破って外に出てたわね」
これは2ヶ月ほど隠れておこうかしら、と思った矢先、霊夢は紫の目の前に居た。
サラシの上からも分かる、まだ発展途上であろう胸に顔面から突撃してしまった。
まさか自分が突っ込む側になるとは思わなかったという動揺を隠す為に紫は霊夢の胸に顔を埋めている。
というよりも、紫を逃がさないようにと、霊夢は胸に頭をしっかりホールドしていた。
「捕まえたわ紫。もう離さないから」
「霊夢ごきげんよう。そういえば零時間移動できたのね貴女」
「はぐらかし、言い訳は無用。真実のみを語りなさい」
「愛しているわ霊夢」
「なっ!?」
「隙あり!」
紫はススっと霊夢から抜け出し、また捕まらないように逃げ出した。
霊夢の零時間移動に対応しようと、隙間で逃げようとした時、なみだ目の霊夢が叫んだ。
「ゆ、ゆ、紫の馬鹿ーーーーー!!」
「誰がババァよ!」
「ババァじゃない、馬鹿と言ったのよこの馬鹿!」
「大賢者に向かって馬鹿とは……そんな口きけない用に、たまには私が直接教育してあげますわ!」
「望むところよ!」
幻想郷に咲く多数の花。
その花の人生は短く、咲いてはすぐ舞い散る。
それは桜のように。
それは空に輝く太陽のように。
それは黄色から赤へと変わる山のように。
それは降り積もる雪の結晶のように。
それこそが、幻想郷が幸せであることの証明だった。
幻想郷。楽園。
楽園といえど、生と死は等しく訪れる。
今光り輝いている彼女達もいずれ死ぬだろう。
幻想郷の母の悲しみの一つとなるだろう。
その悲しみは積み重なり、いずれ母の体をも蝕む。
悲しみの多い尽くされた母も、いずれは……
――そんなことは私がさせない
母にも母はいる。
子の悲しみを背負うは、母の役目。
――貴女が背負った悲しみを私に教えて?
母の中で消化されし楽園の悲しみは昇華され、楽園の幸せの唱歌となるだろう。
――私の唯一の願い。笑っていて。ずっと。そうしたら……
――この閉鎖された場所で、私は安心して眠り続けることができるから。
『――――』
――えぇ幸せよ、愛しの我が娘。私はとっても幸せ。今も、そしてこれからもずっと。
ちなみに異論はありません!
幻想郷が誕生してからの歴史の長さとか考えたら辻褄が合わないが気にしたら負けなんですね分かりますw私の中の幻想郷も5000年くらいは余裕で続いてるんでw
るみゃとゆかりんの会話と、冒頭の夢の中のゆかれいむな会話が独特で好きです。
ちなみにゆかりんは妖々夢スタイルが一番だ、だがグラが貧乳なのは絶対認めない。
乙女は秘密がいっぱい。ゆかりんは秘密がいっぱい。つまりゆかりん=乙女なんですよ!
だからもこたんも乙女なんですよ! もうみんな乙女で
>ちなみにゆかりんは妖々夢スタイルが一番だ、だがグラが貧乳なのは絶対認めない。
ゆかりんはその時代の需要に合わせているのかもしれない
今の時代はロリ巨乳と唱えればゆかりんは……ちょっと10万遍唱えてくる!