人里で花屋を構える男が無名の丘に鈴蘭の採集に言った日のことです。
男が花を採っていると、丘の中ほどで一匹の妖怪がえーん、えーんと泣いているのが見えました。
その妖怪の名は、メディスン・メランコリー。
彼女は相手が誰だろうと所構わずに毒を振りまく恐ろしい妖怪です。
しかし、泣きじゃくる彼女の姿からはそんな恐ろしい様子はちっとも感じられませんでした。
「どうしたの?」と男は尋ねました。
「脚が痛いの」とメディスンは答えました。
彼女の脚にはたくさんの穴が空き、そこから血がいっぱい流れていました。
足元を見ると、赤色になった大きな針が落ちていました。
「あぁ、彼女は何か悪さをして巫女に退治されたんだな」と男は思いました。
メディスンの泣き声はどんどん大きくなっていきました。
男は自分の娘を思い出しました。
先月、三歳という幼さで他界した彼の娘も今のメディスンの様にとてもよく泣く女の子でした。
「やれやれ」と呟いて男はメディスンをおんぶしました。
男はそのまま永遠亭に向かって歩いていきました。
永遠亭の薬師に彼女を預けると、薬師は男にたくさんの薬を渡しました。
そして「彼女は私が預かるから、あなたはこの薬を服用して今日はもう家に帰りなさい」と言いました。
メディスンの身体からはたくさんの毒が出ていて、なんとそれは近づいただけでも死んでしまう程のものらしいのです。
気がつけば男の背中はひどく爛れていました。
「あなたが死ななかったのは、ただのラッキーよ」と薬師は言いました。
男は笑って薬を呑み、言われた通りすぐに家へ帰りました。
一週間後、男が再び無名の丘に行くと、メディスンが飛んできました。
メディスンの怪我は治っていて、彼女はニコニコと笑っていました。
「人間にもあなたみたいなのがいるのね」と言って彼女は男の頬にキスをしました。
びっくりしている男を見て彼女はえへへと笑い、どこかに飛んでいってしまいました。
翌朝、男の顔はどろどろに爛れていました。
薬師ががんばって治そうとしましたが、男はそのまま死んでしまいました。
一週間後、風見幽香が無名の丘にやってきてメディスンに男の死を伝えました。
メディスンはえーん、えーんと泣きました。
幽香は、男の死因を教えませんでした。
更に一週間後、男の妻が無名の丘にやってきました。
男の妻はメディスンに男の死に際の様子を語ると、大出刃の包丁でメディスンを刺しました。
たくさん、たくさん刺されました。
とても痛いですが、巫女の針と違い退魔の力は無かったので死にそうになることはありませんでした。
十七回目の刺突を試みた男の妻はいきなりぱたりと倒れてしまいました。
口や鼻から血がいっぱい出ていました。
身体中の皮膚が爛れていました。
メディスンの返り血を浴び過ぎてしまったのです。
その様を見てメディスンはえーん、えーんと泣きました。
一年後、メディスンは人里の花屋にやってきました。
夫婦の両親に謝りにきたのです。
メディスンが「ごめんなさい」と言うと、夫婦の両親は「この化け物め」と言ってメディスンを殴りました。
たくさん、たくさん殴りました。
けれど、夫婦の両親の肌は爛れませんでした。
夫婦の死から一年間メディスンが励んでいた毒をコントロールする修行の成果が出たのです。
メディスンはニコニコと笑いました。
夫婦の両親は「ふざけやがって」と言ってもっともっと殴りました。
店の奥で一歳程の赤ちゃんがえーん、えーんと泣きだしました。
近所の人が止めに入ってきました。
メディスンはずっとずっと笑っていました。
十分後、メディスンが人里から出ると、幽香がいました。
幽香はメディスンをぎゅうっと抱き締めました。
メディスンは、笑って、笑って、そして泣きました。
えーん、えーんと泣きました。
少しだけ、幽香の肌が爛れました。
けれど、メディスンは泣きやむことができませんでした。
えーん、えーんと泣き続けました。
ずっと、ずっと、泣き続けましたとさ。
「どうだったかしら?」
目の前の少女は顔をグシャグシャにしながら頷いていた。
「グスッ……、ぅん……、とっても、良い話だった……。ありがと、幽香さん……ヒック……」
「あーもう、可愛い顔が台無しじゃない。涙もろいわねぇ。そんなんじゃ、この話の一番大事なポイントにも気付かなかったんじゃなくて?」
「一番大事な、……ポイント?」
「幻想郷縁起は当てにならない、ということよ。人間友好度が悪のメディと人間友好度極悪の私でこんなにハートフルな物語が出来上がるんだから。あんなの、燃えるゴミ以下ね」
「幽香さん……、ヒック、それは色々と……、台無しだよぉ……」
「うるさいわね。……それじゃ、今週の分は渡したから。お爺ちゃんとお婆ちゃんによろしく伝えておいて」
「うん……、分かった。……グスッ」
「いい加減泣きやみなさいよ。あぁ、それと、今渡したものの内、鈴蘭だけは売り物とするには向いてないから、あなたのお部屋にでも飾っておきなさい。お代は結構だから。それじゃあね」
「うん。それじゃ、ご苦労様でした」
馴染みの花屋への納入を終えて私は里の大通りに出て、一人呟いた。
「十年後、メディスンは夫婦の忘れ形見にお花を贈ったのでした。めでたしめでたし」
男が花を採っていると、丘の中ほどで一匹の妖怪がえーん、えーんと泣いているのが見えました。
その妖怪の名は、メディスン・メランコリー。
彼女は相手が誰だろうと所構わずに毒を振りまく恐ろしい妖怪です。
しかし、泣きじゃくる彼女の姿からはそんな恐ろしい様子はちっとも感じられませんでした。
「どうしたの?」と男は尋ねました。
「脚が痛いの」とメディスンは答えました。
彼女の脚にはたくさんの穴が空き、そこから血がいっぱい流れていました。
足元を見ると、赤色になった大きな針が落ちていました。
「あぁ、彼女は何か悪さをして巫女に退治されたんだな」と男は思いました。
メディスンの泣き声はどんどん大きくなっていきました。
男は自分の娘を思い出しました。
先月、三歳という幼さで他界した彼の娘も今のメディスンの様にとてもよく泣く女の子でした。
「やれやれ」と呟いて男はメディスンをおんぶしました。
男はそのまま永遠亭に向かって歩いていきました。
永遠亭の薬師に彼女を預けると、薬師は男にたくさんの薬を渡しました。
そして「彼女は私が預かるから、あなたはこの薬を服用して今日はもう家に帰りなさい」と言いました。
メディスンの身体からはたくさんの毒が出ていて、なんとそれは近づいただけでも死んでしまう程のものらしいのです。
気がつけば男の背中はひどく爛れていました。
「あなたが死ななかったのは、ただのラッキーよ」と薬師は言いました。
男は笑って薬を呑み、言われた通りすぐに家へ帰りました。
一週間後、男が再び無名の丘に行くと、メディスンが飛んできました。
メディスンの怪我は治っていて、彼女はニコニコと笑っていました。
「人間にもあなたみたいなのがいるのね」と言って彼女は男の頬にキスをしました。
びっくりしている男を見て彼女はえへへと笑い、どこかに飛んでいってしまいました。
翌朝、男の顔はどろどろに爛れていました。
薬師ががんばって治そうとしましたが、男はそのまま死んでしまいました。
一週間後、風見幽香が無名の丘にやってきてメディスンに男の死を伝えました。
メディスンはえーん、えーんと泣きました。
幽香は、男の死因を教えませんでした。
更に一週間後、男の妻が無名の丘にやってきました。
男の妻はメディスンに男の死に際の様子を語ると、大出刃の包丁でメディスンを刺しました。
たくさん、たくさん刺されました。
とても痛いですが、巫女の針と違い退魔の力は無かったので死にそうになることはありませんでした。
十七回目の刺突を試みた男の妻はいきなりぱたりと倒れてしまいました。
口や鼻から血がいっぱい出ていました。
身体中の皮膚が爛れていました。
メディスンの返り血を浴び過ぎてしまったのです。
その様を見てメディスンはえーん、えーんと泣きました。
一年後、メディスンは人里の花屋にやってきました。
夫婦の両親に謝りにきたのです。
メディスンが「ごめんなさい」と言うと、夫婦の両親は「この化け物め」と言ってメディスンを殴りました。
たくさん、たくさん殴りました。
けれど、夫婦の両親の肌は爛れませんでした。
夫婦の死から一年間メディスンが励んでいた毒をコントロールする修行の成果が出たのです。
メディスンはニコニコと笑いました。
夫婦の両親は「ふざけやがって」と言ってもっともっと殴りました。
店の奥で一歳程の赤ちゃんがえーん、えーんと泣きだしました。
近所の人が止めに入ってきました。
メディスンはずっとずっと笑っていました。
十分後、メディスンが人里から出ると、幽香がいました。
幽香はメディスンをぎゅうっと抱き締めました。
メディスンは、笑って、笑って、そして泣きました。
えーん、えーんと泣きました。
少しだけ、幽香の肌が爛れました。
けれど、メディスンは泣きやむことができませんでした。
えーん、えーんと泣き続けました。
ずっと、ずっと、泣き続けましたとさ。
「どうだったかしら?」
目の前の少女は顔をグシャグシャにしながら頷いていた。
「グスッ……、ぅん……、とっても、良い話だった……。ありがと、幽香さん……ヒック……」
「あーもう、可愛い顔が台無しじゃない。涙もろいわねぇ。そんなんじゃ、この話の一番大事なポイントにも気付かなかったんじゃなくて?」
「一番大事な、……ポイント?」
「幻想郷縁起は当てにならない、ということよ。人間友好度が悪のメディと人間友好度極悪の私でこんなにハートフルな物語が出来上がるんだから。あんなの、燃えるゴミ以下ね」
「幽香さん……、ヒック、それは色々と……、台無しだよぉ……」
「うるさいわね。……それじゃ、今週の分は渡したから。お爺ちゃんとお婆ちゃんによろしく伝えておいて」
「うん……、分かった。……グスッ」
「いい加減泣きやみなさいよ。あぁ、それと、今渡したものの内、鈴蘭だけは売り物とするには向いてないから、あなたのお部屋にでも飾っておきなさい。お代は結構だから。それじゃあね」
「うん。それじゃ、ご苦労様でした」
馴染みの花屋への納入を終えて私は里の大通りに出て、一人呟いた。
「十年後、メディスンは夫婦の忘れ形見にお花を贈ったのでした。めでたしめでたし」
でも実際こんなもんかもなぁ
重要なのは能力そのものよりその持ち主、ですかね
なぜ両親が死んだか知らされていない女の子とメディがいつか出会って友達になってくれることを祈ります。
これからもがんばってください!
単なる悲劇でもなく、単なるハートフルでもなく、単なるお涙頂戴でもない。
このような奥行きのある味わいの作品は大好きです。