この話は、下の方にある『それは天狗と祀られる少女の話』の後編みたいな話です。
読んでいた方が良いと思います。
私ってどうやら、独占欲とか強い女みたいなんですよ。
あの日から、幻想郷で一番気になっていて、一番の好意を抱いていた他人。
射命丸文さんと、そういうお付き合いを始める事になりました。
えぇと、恋人同士、というものです。
やだっ、何か、改めて言うと照れますね。
って、いえ、べ、別に惚気てなんていませんよ……! こほん。まあそれは置いておくとしてですね?
やっぱり私も女の子な訳ですし、付き合い始めて最初の頃は、未来の事に思いを馳せて、子供は二人がいいなぁとか、やっぱり文さんに婿入りして貰わなくちゃ、ってドキドキしたり、今日はするのかな? しないのかな? もう、焦れったいです! なんて毎晩期待したり、あまつさえ、思春期ゆえの衝動で、もっと触りたいなぁ、手加減なんていらないのに優しくてもう! とか、そういう恥かしい事を一杯に考えたりしちゃうんですよ。
は? いやだから惚気てなんか、ってうざいって何ですかうざいって?!
もう! お茶をそんな大きな音を立てて飲まないで下さい! そ、そんな冷たい目を向けないで!
んんっ!
つ、続けますよ?
で、でも、ある日、ふと気づいたんです。
心臓を破壊せんとする鼓動よりも。
脳を染める恋愛衝動よりも。
私の身体を焦がすものがあるって。
……そう、なんです。
私は、無意識にですけど、ずっとずっと
彼女が、文さんが他の誰かに笑いかけたり、取材をしたりする事が、嫌で嫌で、我慢できないんだって。
私を見てくれない事が、いつの間にか寂しいから、ただの『恐怖』へと変わってきていたんです。
……ずっと、私だけを見ていればいいのに、私が死んでも……なんて、酷い事を考えていたんです。
……最低ですよね。
それに気づいた時。
正直、自分自身に呆れました。
私って、かなり強欲で、他人を思い遣らなくて、そして自分勝手で……
それが分かっているのに抑えられないぐらい、文さんの事を愛してるんだなぁって。
……いえちょっと?
だから惚気てないですって!
いま、けっこう重い話をしているのに、どうして惚気だなんて思うんですか?!
もうっ、貴方のそういう所がいまだによく分かりません!
こほん。
とにかく、
それでですね。私ってば外の世界では、恋愛小説とか漫画とかよく読んでいたから、ああ、この思考は危ないって分かるんですよ。
このまま放っておくと、惨劇が繰り広げられちゃうんですよ。血で血を洗うような残虐なのが。
主に犯人は私で。
って。
……あの、そうまで露骨に距離を取られると、傷つきますよ? 泣いちゃいますよ?
ですからぁ、それをしない為に、私は協力して欲しいってお願いをしているんです!
それは――――
キュッ。
大型の犬を繋ぐ、革張りの首輪を、そのほっそりとした首に奇跡の速さを持ってかけると、文さんは何ともいえない顔で、とても怪訝そうに「何してるんですか?」と聞きました。
その表情だけで、私は今日も幸せになれると根拠なく思えます。
「勿論! 文さんに首輪をかけました!」
「いえ、そんなキリッとした顔はしなくていいです。つーか、理由の方をお聞きしているんです」
ずずずずっ。
文さんの隣で、霊夢さんがお茶をまずそうに飲み干します。
そのまま、ドンッと湯飲みを置いて、すっと立ち上がります。
「じゃ」
「はい!」
「待て」
しゅぱっと片手をあげて去っていこうとする霊夢さんに、頭を下げる私。待ったをかける文さん。
「いやいやいやいやいや、状況の説明を求めます! 何故に博麗神社に早苗さんがいて、隙をついて私に首輪などかけるのか!? 霊夢さんは何故に涼しげな顔で、しかし隠しきれない軽蔑を瞳にこめて私を見るのか!? どうして自分の神社からあっさりと去っていこうとしているのか!? 私はこれからどうなるのか!?」
息継ぎ無しでそこまで叫ぶと、霊夢さんはちらりと私と文さんを見て、面倒臭そうに溜息をつく。
「文」
「はい……」
「ファイト!」
「はいッ!?」
驚愕する文さんの首輪に鎖をつけて、よしっ! と満足して頷いて、霊夢さんを見る。
ありがとうございます。と、あんまり文さんと話さないで下さいよ。というか呼び捨てってずるいです。と籠めて。
「…………ファイト」
「何でそんな元気なくなるんですか!?」
「……いえ、久しぶりにぞくりとしたわ」
「不吉な発言!?」
霊夢さんとはきちんとお話をして、文さんの家に隠し撮りされて纏められていた八雲紫の写真で買収済みです。
霊夢さん。無表情を装って頬を染めて、さっと懐に写真をしまい、爽やかに神社を一晩明け渡してくれました。
他の写真? 燃やすのは可哀想だけどムッとしたので床下に隠してやりました。
あと、霊夢さん、最初は「いくら何でも…」って渋ってましたけど、その隠し撮りの中に肌の露出が多すぎるものを見つけた瞬間、私を応援してくれました。
今日は紅魔館に泊まるからヤッてしまえ。と。
あぁ、持つべきものは新しいお友達? ですよね!
少し感動していたら、霊夢さんの姿が豆粒ぐらいに小さくなっていました。
文さんが絶望的に顔色を悪くします。
「……本当に行っちゃいましたね」
「はい!」
「……それで、早苗さんは嬉しそうですねぇ」
じゃらりと音がなる鎖に、目を細めながら、文さんは拗ねたみたいに私を睨みます。
「……変態」
「ひ、酷いです!」
「早苗さんにこんな趣味があったなんてショックです」
「うっ」
「でも大好きです!」
「文さーん!」
がばっと抱きつくと、頭を撫でられました。
文さんは本当に男らしい? です。更に惚れてしまいます。
すりすりとしていると、文さんはよしよしとしながらも「んー」と少し考えて、私を引き寄せて、瞳を覗き込みます。
「で、どーいうつもりです?」
「あ、敬語は嫌です」
「いえ、それより」
「それに、今ならちゃんと二人きりです」
「……」
「ちゃんと、二人きりの時みたいに、して下さい」
実は、私達の関係は、皆には内緒にしていました。
だから、普段は文さんはそれは上手く、自然に私をただの知り合いにするみたいに話しかけます。
そしてそれが、私の『恐怖』の発端。
いつか、何でもない様に、彼女は他の誰かに、あの特別に向ける笑顔を、するのかなって、思ったら、堪らなかった。
「……」
むぎぎ。と右頬を摘んで伸ばす。
そんな風にしても可愛いんだから、文さんは始末に悪い。
きっと、文さんにとっては、私の不安なんてつまらないものだろう。
彼女は長生きで、それなりに経験もあるようですし。上手いですし。
だから、こんな風にして、この気持ちを発散するしかなかった。
「……」
はあ、と文さんが軽い溜息。
そして、文さんはひょいっと私を抱き上げると、靴を脱いで神社の中へと入っていく。
そのまま、ぱたんと障子をきちんと閉めて、念のためとばかりに周りをきょろきょろ見渡して、こほんごほんと、照れ臭そうな咳払い。
「―――早苗」
「っ! はい」
久しぶりの呼び捨て。
嬉しくて、椛さんみたいな尻尾があったら、大変な事になっている。
畳の上に降ろされて、正面からすっと鋭くなった瞳に射られる。
「で、どういうつもりなの?」
「っ」
「早苗? 言っておくけど、天狗にこんなモノ付けて、笑って許されるなんて思ってないわよね?」
「くぅ」
「………聞いてる? そこの人間?」
「ふぐっ!」
「……………ぁ、あのー、早苗さん?」
ぺしぺしぺしぺしぺし。
文さんの肩を叩いて呼吸困難ぎみに身を捩る。
駄目! もう文さんかっこいい! その話し方が本当に好き。声が低くて腰にぞくぞくきます!
我慢できずに文さんに抱きついて頬ずりしながら、私は私と同じく赤い顔をしている文さんに詰め寄りました。
「も、もう一回!」
「き、却下!」
「えー!? 何でですか?」
「だって、早苗さんがエロくて話が先に進まないでしょう!」
怒って、おしおきとばかりにぎゅうっと強く抱きしめられる。
首輪と鎖が当たって、少し痛かった。
「さあ、どういうつもりかそろそろ話して下さい。じゃないと、一晩中このままですよ」
「むっ、とてもじゃないけど話す気にならない条件です」
「では、一晩中触りません」
「ッ! こ、困りました。これでは話す以外に道がありません!?」
無念そうに歯を喰いしばると、文さんが「ノリいいですね」と抱きしめたまま耳元でくすくす笑い、その微かな息がくすぐったくて少し身を捩った。
……あったかい。
心臓がきゅっと鳴る。
「……ま、まあ、けっこう単純な動機なんです」
「でしょうね。早苗さんですから」
「あ、酷いですそれ」
「いえ、むしろ褒めているんです。そういうところを気に入ってますしね」
「……なら、いいです」
靴を脱いだら、身長差はほとんど無い彼女をえいっと押し倒して、その上に全体重を乗せる。
でも彼女は軽々と私を乗せたまま「んー?」なんて、甘い声で私の頬を撫でる。
「……はぁ」
私を、人間を、甘やかして堕落させる、大好きな、私の天狗さん。
そんな彼女に少しもやもやして、鎖を引っ張ると、ぴぃんと伸びて彼女の首を絞める。
「苦しいですよ~」
「知ってます」
暫く馬乗りになって二、三度引っ張って、すぐに詰まらなくなって止める。
別に私は、彼女を苛める為に、霊夢さんと話をつけて、ここを借りた訳じゃないのだから。
「……文さん」
「はい」
「私って、こういう人間です」
「ええ、そういう人間ですね」
目を細めて、天狗の顔で、私を静かに面白そうに見上げる姿に、好きです、と思いながら鎖を引っ張る。「ぐえ」と苦しそうな声がした。
ただ。
妖怪の山以外で、貴方とちゃんと話をしたかった。
こういう、嫉妬深い女なんだって、分かって、できれば嫌わないで欲しいと。
それで、
他にもたくさんあったのに、分からなくなってしまう。
目の前に文さんがいて、私に触れているから、そういう大事な事が遠くに行ってしまう。
「…………つまり、や、やきもちです」
とても端的に。
でも正直に白状すると、文さんは「は?」とそれは間の抜けた顔をして、ぽかんと口を開けました。
ちょっと面白くなくて。
でも可愛かったので、つい塞いでしまいました。
人間って……と文さんは呆れました。
私の話を聞いて、何度も重い溜息を吐いて、私に口付けます。
……本当に、貴方たちはずるいですよね? と私を組み敷きながら。
貴方たちは瞬きの間に消えてしまうのに、その一瞬で私たちの心を鎖で絡めて、身動きできなくしてしまう。
こんな風にって、じゃらりと、鎖を私の両腕にくくりながら。
文さんは笑いました。
なら、そんな心配と恐怖がなくなるぐらい、バカップルになりましょうか。
―――――――いつか、貴方がいなくなった世界で。
貴方と添い遂げて、しわくちゃの貴方の手を取り、貴方の人生の終わりに。
悔いはないと、私が笑って生きられるように。
「という訳で、結婚しようと思います!」
ぼぶほっ!!
お茶を噴出する愛する神様二人の前で、私は文さんの腕にしっかりとしがみついて、そう宣言しました。
「な、なななな何がという訳でなんだよ早苗?!」
「ちょ、ちょちょちょ、待って!? 状況を説明して! 何とか受け入れるから!」
慌てる二人の前で、文さんは「あーあ」とばかりに、もうどうにでもなれな態度で、そんな姿も好きで。
ぱさりと、ずっと寒くない様にと、守るみたいな翼が嬉しくて。
「ね、文さん」
「はい?」
「私がおばあちゃんになっても、好きなんですよね?」
「…………」
こちらを、いえ、文さんのみを睨みつける二人の神にじとりとした汗をかきながらも、文さんは笑いました。とてもさっぱりと。
「ええ、しわしわになっても、抱いちゃうから、覚悟して下さい」
これが答え。
私の永遠。
彼女の唇は、緊張の為に冷たくて、愛らしくて、でも惜しみなく私に降り注いでくれた。
こうして、
私の恐怖はなくなって、彼女がどこにいても、誰と話しても前よりも平気になって。
好きだけが残る。
とりあえず。
頑張って二人を説得して、新婚さんになってもっとバカップルになりましょうと。
そう決めた。
文カッコいい!!
所々の詳細をぜひ某所で…!!w
くそっ最近はさなれいとムラ一に入れ込んでたのに……
悔しいっ……でも(ビクンビクン
幻想郷の巫女は、そっち方面でも素質を持っていなければならないのか…。
文(と紫の)明日はどっちだ!!
あと、あやさなはマイナーじゃないよ。
あやさな万歳!!!!!
ふっ、負けたよ、あやさなもまた……ジャスティスだ
続いたんですねぇ、これ。
ベタな展開ですけど、距離感がすごく良いと思いました。
頑張って下さい。
文って大人っぽくていいですよね
おしわわせに
おめでとう!
ここ数日、あやさなでフィーバーすぎます!!
あやさな支援の方↓
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=9278650
俺の中での決着はまだまだ付きそうにない……