Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

夕暮れ

2010/02/21 22:07:17
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今思えば、あの子をあのような辺境の神社へ連れて行ったことが、いけなかったのかも知れない。
 同い年くらいの巫女と気が合って、遊んでいた、とそれだけであったなら、塵のように積もる日常で済んでいた筈であった。
 噫違う、帰り道での僕の一言がいけなかったのだ。
 その時、あの子の、また、あの子と遊べるかな、と云う問いに。
 僕は、魔法でも使えたならまた、遊べるだろうねと云ってしまった。
 それ以来、何処に仕舞ってあったのか、魔道書を持ち出し、自室で読み耽るようになった。
 当然、隠し通せる訳などなく、親子喧嘩が始まった。
 長い悶着の末、あの子は勘当されてしまった。その事を伝えに、彼女は此処へ来たのだ。
 自分の愚かな発言がこのような事態を招いてしまったのだと、僕は深く悔んだ。
 

「香霖なに、考えてるんだよう」


 魔理沙、君のことだよ、と咽喉まで込み上げて来たが、ぐっと飲み込んだ。胃液が咽喉を流れたようで実に後味が悪かった。


「昔の苦くも酸い想い出だろうね」


 魔理沙は、辛気臭いなあ、とだけ返し、僕の膝の上に座った。僕は魔理沙の髪を、人形を愛でるように優しく手で梳かしてやる。
 すると魔理沙はくすぐったそうに身を捩り、仕草で強請るのだ。


「へへっ、くすぐったいぜ」


 髪を梳かす手を止めた。途端に魔理沙は不機嫌そうに顔を顰めた。


「なんで止めるんだよ」
「くすぐったいのだろう?」
「だからって止めちゃ駄目だぜ。続けて続けて」


 仕方ないな、誰に云うのでもなく、言葉は空しく宙を舞った。
 再び髪を撫でると、魔理沙は嬉しそうに顔を綻ばせる。


「おや、眠ってしまったか」


 あどけない寝顔は本当に人形のようである。然し、これでは動けない、と思った。
 不意にドアに取り付けたカウベルが来客を知らせる音を鳴らした。余程疲れているのか、その音で魔理沙が起きることはなかった。


「霖之助さん、いるかしら」
「やあいらっしゃい、霊夢」


 僕は、人差し指を口に当て、静かにするよう霊夢に促した。
 霊夢は、解ったわとだけ云って台所で勝手にお茶を淹れた。


「霖之助さんも、要る?」


 やんわりと断った。霊夢はあっそう、と素っ気無い返事を返した。


「僕が、初めて魔理沙を神社に連れて行ったことを、君は憶えているかな」
「憶えてる。初めての友達だもの、忘れる訳ないじゃない」
「後悔しているんだよ。魔理沙を、君の処に連れて行ったことをね。僕があんなことしなけりゃこの子は商家の一人娘だったろうに」


 魔理沙のやや癖の付いた髪をそっと撫でた。心地好さそうに微笑み、身を捩った。


「幸せそうね、見てて羨ましいな」
「君は強運の持ち主だろう」
「強運であることと、幸福であることは全く違うものだわ」


 霊夢は心が満たされないもの、と云って茶を啜った。魔理沙は、僕の胸に擦り寄るように眠っていて起きる気配はない。
 確かに、そうかもしれない、そう思ってしまった。


「じゃあね、霖之助さん。帰るわ」


 霊夢は、カウベルを鳴らさないようにゆっくりとドアを開けて出た。
 カウンターに置かれた湯呑からは、少し湯気が立っている。手に届く処に置かれていたそれを手に取り、飲み干した。
 丁度喉が渇いていたから、霊夢に感謝した。


「ん、ぁあ、あれ?」
「起きたかい」
「うん、お腹空いた」


 魔理沙はお腹を摩ると、膝の上から飛び降りて


「夕飯は私が作るぜ。香霖はそこで待ってな」


 台所へバタバタと走って行った。僕は窓を見て漸く、現在が夕方であることに気付いた。
 何年も永く生きたことが、時間に対して呆けを生じさせたのだろうか。
 有り得ないことではないかもしれない、と思う。
 読みかけの本があったが、読むのは明日にしても遅いと云うことはない、今夜は寝ようと思った。

 台所から聞こえる食材を刻む音や、燃える薪の微かに爆ぜる音を聞きながら、僕は船を漕ぎ始めた。
東方SS初投稿です。最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
夢先案内猫
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
良いです。今度はもう少し長いのが読めたら嬉しいです。
2.名前が無い程度の能力削除
短いけど、スッと話の流れに乗りやすい書き方で、良い。

この話はこれぐらいの長さが丁度良いかな、自分には。
3.奇声を発する程度の能力削除
スッキリとした良いお話でした。
4.読む程度削除
心が穏やかになりました
こういう雰囲気すきですよ