今日も今日とてネタ探し。
西へ東へ舞い降りて、精力的に情報収集に励んでも、最近はまったくといって手ごたえを感じない日々。
あまり芳しくない成果に、幻想郷は平和ですねーとかボヤキ気味に呟いて、肩を落として帰路に着く。
このまま新しいネタが無い様だと、ストックしていたネタをかき集めて、鮮度には劣るけれどスカーレット姉妹と古明地姉妹と秋姉妹の妹自慢と姉自慢の話でも乗せようか、などと考える。
しかし、あまり需要も無さそうだしなぁと、大きく溜息をついてバサリと家の前に下りる。
自慢っていうか、全体的に惚気で、姉妹で何してんですかって、全年齢とは言えない内容ですし、やっぱり健全的にお付き合いしている咲夜さんと美鈴さんとか、アリスさんと魔理沙さんとかがいいですかねー……
ガラッ。
「ただいまー……」
「あ、お帰りなさい」
気疲れして家に入ると、ぱたぱたと奥から駆けて来る早苗さんに「あ、疲れた顔してますね」とからかわれる。
そりゃあ疲れましたから、と低い声で答えて、今日は寒かったからと巻いていたマフラーと着ていたコートを手渡して、こきこきと肩を鳴らす。
「ふふ、お疲れ様です。今日は少し遅かったですね?」
「……ええ、全くというほど収穫がなくて、締め切りも近いのにこれじゃあ駄目ですね」
「あ、弱気な発言。もう大丈夫ですよ。文さんならきっといいネタが見つかりますって」
「……それはどうも。まあ、お言葉だけありがたく受け取ります」
「わあ、感じ悪いですよー」
適当に答えると、えいっとでこピンされた。
ちょっと怒った顔をしていたけど、早苗さんはすぐに苦笑して「つーかーれーたー」と早速畳の上でだらける私に「はいはい」と、そっちの方が適当に返事をする。
マフラーとコートをハンガーにかけながら、早速寝転がろうとした私に「お風呂沸いていますよ」と首を片手で押さえて、にこりと笑いながら言ってきた。
「……ふむ」
その自然な笑顔に、疲れがじわりと癒されて、一日中飛び回って汗もかいたしと、急にお風呂が恋しくなってくる。
「ん。じゃあ、お先に頂いちゃいますね」
「はい、私もその後に入りますから、あんまりお湯を使わないで下さいよ?」
「ええ、善処します」
「……」
ちょっと信用されない目で見られる。
私は用意されていた下着とパジャマを持って、いそいそと鼻歌交じりに彼女の横を通り過ぎるが、そのじとっとした目に負けて、確かに私はお湯を使いすぎますが、今日は本当に善処しますかね、とこっそり笑った。
「夕飯、出来てますよー」
「おお! おいしそうです!」
「はい、腕を振るいました。じゃあ、私は先にお風呂に入ってから食べちゃいますから、先に食べていて下さい」
ぱたぱたと心地よい足音を立てながら、私の前に白米と味噌汁、茄子と豚肉の味噌炒めと、自家製の漬物を並べてくれる。
食欲をそそる良い香りに、ごくりと喉を鳴らしながらも、こほんごほん! と下手に咳き込んでみる。
「……むっむむ。えーと、ですね。せっかくだし一緒に食べましょうよ」
「え?」
「待ってますから、お風呂に入っちゃって下さい。私は今日の細かいネタを纏めておきますから」
「でも、それじゃあ冷めちゃいますよ?」
ちょっと嬉しそうな、でも申し訳なさそうな早苗さんに、今すぐ食事にありつきたいという欲求を押し込めて、いいんですと手帳を開く。
「どうせ、暖かくても早苗さんがいないんじゃ、味は落ちてしまいます。……勿論、料理がまずいって意味ではないですよ?」
「……」
おちゃらけてみせると、早苗さんは少しだけ考えて、すぐに笑う。
「……じゃあ、すぐに上がりますから、待っていて下さいね」
「ええ、ゆっくりと温まってきて下さい」
「文さん」
「はい」
「―――私も、文さんがいないと、料理がおいしくないんですよ?」
ぱたぱた。
さっきよりも、ちょっと急かしい足音に、私はぽりぽりと頬を掻いて、人間ってのはまったく、と意味もなく呟いた。
意味なく頬が熱い気がする。
そして、集めた小さなネタを、一つ一つ確認し、思考していたらあっという間に時間が過ぎていて、ほかほかと湯気をまとった早苗さんが、気づいたら覗き込んでいた。
私と同じで、空色のパジャマ。
髪はタオルでまとめて、赤く染まったうなじまで良く見えた。
「……お早いですね」
「いいえ、たっぷり温まってきましたよ」
つん、と頬を突かれて、熱中していたのを見られたのが何とも据わりが悪く、声音が低くなってしまう。
「……まあ、あったまった様で何よりです」
「ええ、とても良い湯加減でした。今日は、ちゃんとお湯を残してくれたんですね」
そんな私をからかうでもなく、早苗さんはさっぱりと笑って、ありがとうございます、なんてお礼を言ってくる。
むっ、と調子がくるって、嬉しそうに歯を見せる姿が、存外、子供っぽいと、咄嗟にぱたん! と手帳を閉じて思いを打ち消した。
「さて、御飯にしましょう」
「そーですね」
「暖めなおしますから、もう少し待っていて下さいね」
「……はあ」
思い出した様にお腹が鳴って、特に意味もなく、片手間にタオルで纏めていた髪をほどく様に、彼女のタオルに手を伸ばす。
すると、濡れた髪がふわりと広がって、甘い香りが鼻腔に届いた。
ふむ、と頷く。
「……何ですか?」
「いえ、早苗さんの髪は、長いなと感心しまして」
「……今更ですよそれ?」
ぷうっとむくれて、もういいですと、纏めるのをやめて、さらさらした髪を惜しげなく晒したまま、手入れしなくていいのかなと私の方が気になって、でも、濡れた髪は綺麗だとずっと見惚れる。
背中を向けて作業する彼女の耳は、ちょっと赤くなっていた。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
ぱんっと、一緒に手を鳴らして、笑いながら食べ終える。
いや、予想以上においしくて、暖めなおしてもらった味噌汁も絶品で、私は最大級の賛辞を贈って、二人で楽しく夕食を頂いた。
さて。
私は後片付けをする彼女の背中をぼんやりと見つめ、かちゃかちゃと食器を鳴らす音に、手帳を開く気にもなれずに、ぼんやりと目で追ってしまう。
細い背中に、ちゃんと食べているのだろうかと心配になり、てきぱきと動く動作の一つ一つが面白くて、全然飽きない光景だった。
まあ、あれですね。
鼻歌交じりに、二人分の食器を手際よく片付け終わり、すとんと私の向かいに座り、熱くて濃いお茶を出してくれる早苗さん。
……。
私はずずっとお茶を一口、おいしいと言い、微笑む彼女と見つめ合ってから。ようやくはて? と首を傾げた。
なんか幸せで、いままで突っ込まなかったけど、そろそろ限界かな? と思ったのだ。
「それで、早苗さんは何故に私の家にいるのですか?」
――――。
ずずっ。
と早苗さんがお茶を啜る音が響く。
そして、彼女はにこりと、どこか困った様に笑った。
「……突っ込むのが遅いです」
駄目だしされた。
なんだか、その顔は『とほほ』という奴らしかった。
ぽかり、ぽかり、と。
私は早苗さんに、やわく握った拳で、頭を小突かれていた。
「普通、最初に先ほどの台詞がくると思うんですよね」
「はあ、あまりに自然だったもので」
「思わず、そのままのノリで夕飯を作ってお風呂まで頂いてしまったじゃないですか」
「いや、ですからあんまりに違和感が無かったもので」
以前から、彼女の神社にたびたびお邪魔して、御飯もお風呂も貰ってしまう身としては、場所が変わったぐらいでは普段と変わらなかった。
というか、だからちょっと幸せだったので、崩すのが勿体無くて突っ込めなかったというか、
そういう本音は胸の奥にひっそりと閉じて、誤魔化しながら早苗さんの拳を受け入れる。
「妖怪って、皆が文さんみたいに大雑把なんですか?」
「むっ、それは少し酷いですね」
「だって、もっと驚いてくれてもいいじゃないですか」
軽いジャブ。
早苗さんは相当ご立腹らしい。
最初は、ただ驚かしたかっただけらしい。
なのに、私があまりに普段と変わらずに接するから、彼女自身、ついついそのまま流されて、まあいいかと、私の世話をしてくれて。
「……神様お二人はよろしいので?」
「……多分、心配しているかなぁ」
困った顔で、アッパー。
優しすぎてむしろ困る攻撃である。
「文さんのせいですよ?」
「いやいや、それは横暴ですよ」
「だって、文さんと居ると、落ち着くんですもの」
「…………」
ん、んん。
本当、人間とは、いつもいきなりだと。
どういう意味なのか聞き返したくて、でも、聞いたところで、はぐらかされそうで。
私は、いつの間にかこつんこつんが、ちょいちょいに変わり、人差し指でつつかれて頭を揺らしながらつらつらと考える。
「ねえ早苗さん」
「はい?」
「じゃあ、今日はそのままのノリで、お泊りとかどうでしょう?」
「…………」
今度は早苗さんが沈黙。
でも、その顔は嬉しそうな困っているようなどっちつかずな表情で。
「でも、文さんの家にはお布団は一枚しかないですよね?」
……何で知ってるんだろう?
じぃ、と早苗さんの目が私を覗き込む。
「……ええ、そうですよ」
「じゃあ、私と一緒のお布団で眠るんですよ?」
「……そうなりますね」
早苗さんのちょいちょいが、またこつんこつんに変わった。
頭が揺れる揺れる。
「……そのノリって、お友達の家に行って、そのままぐっすりお休みのパターンでしょうか?」
うわ。
この子、けっこう大胆ですね。
聞かないで下さいよ。というか、空気をそっと読んでほしいものです。
ぅあ、と思わず顔が熱くなってくる。
早苗さんの顔も、赤くなっていて。
「……それとも」
こつんこつん。
ごつんごつん。
「気になる人の家に、御飯を作りに行って、そのまま食べられちゃうパターンでしょうか?」
ごつごつごつ。
半端ない、照れ隠しのその拳は。
しかし、私にちっとも効いてくれなかった。
「文さんって、ネタとか言ってよく遊びに来るじゃないですか」
「はあ」
「ほぼ毎日来たかと思えば、急にぱったりと来なくなって、心配になっていたら、ある日ひょっこりと何でもない様に顔を出してきて」
「……まあ」
「来るたびにお茶を要求して、御飯を食べると嬉しそうに褒めてくれますし、お風呂のお湯はつかいまくりで、私が最後に入って寒い思いをしますし」
「……ええと」
「ずるいですよね、本当」
「…………」
「気になるなって方が、無理ですよね」
「最初は、凄く何様な感じの、態度の大きな人間で、でも霊夢さんに負けてボロボロになって悔し泣きしてて」
「……うっ」
「あんまりに落差が激しくて、これだから人間は、って呆れつつも気になって、ネタ的にもおいしいので通いつめてみたら、それはそれは冷たい瞳と出くわして」
「……いえ、それは」
「でも、毎日通っていくと、少しずつ目元が柔らかくなって、お茶も出してくれる様になるし、御飯も作ってくれるし、それがまたおいしいし、お風呂もどうぞ、なんて準備してくれますし」
「…………」
「ちょっと他のネタを探して、暫く通えなかった時がありまして。……そんな時に、ようやく顔を出したら、その誰かさんは、とっても泣きそうな顔をして、次に怒った顔をしたかと思えば、何でもない振りを装って、べったりしてきましてね」
「……ぐ」
「気になるなってのが、無理ですよねー。いや本当、ずるいのはどっちでしょ?」
布団の中で、思い切り頬を伸ばされて、ぽかぽかぽかぽか、と何とも可愛く怒られながら。
とりあえず、風邪を引かない様にと、布団を被って、その中でくすくすと向かい合って笑いあう。
お揃いのパジャマはとっくに、しわしわになって布団の外に投げ出されていた。
ここにいるぞ!
>同士
私もです!そして最後の状況を徹底的に詳(ry
イィヤッフゥゥゥゥゥ
とりあえずしわしわパジャマは頂いていこう
>軽いジョブ。
>早苗さんは相当ご立腹らしい。
「ジャブ」ですかね
風祝は軽い職業じゃないのですよ
本当にあんたは節操ないな! いいぞもっとやれ。
「軽いジョブ。」ってwww「ジャブ」
もっと増えるといい
私の中において、まんこつんつん及び股こつんこつんという誤読が発生しましたが、
一切間違いはございませんでしたな?
参上いたしました、作者様!
あやさなに栄光あれ!
是非とももっと増やしていきましょうぞ
実は文のパジャマを借りた、とかでも悪く無いけど
それとも、既にお互いの家に着替え等を置いてある程
一人じゃないって素晴らしいですよね!