地底。
――ねえ、ヤマメちゃん。
「うん?」
――それなに?
「風呂桶」
ヤマメの答えは端的だった。
キスメの前に、風呂桶がどでんと置かれている。水は張られていない。
――それは解るけど。
「キスメ、新しい家よ!」
――ちょっと待って!
そんなの聞いていない。
キスメが抗議の声をあげると、ヤマメは悲しげな顔をした。
「実はキスメに悲しいお知らせがあるの」
――な、なに?
「旧地獄街道の拡張工事があって」
――工事?
「その拡張範囲にキスメの住んでる井戸が引っかかってるの」
――え、ちょ、なにそれ聞いてないよ!
「担当が井戸を見落としたのね……不幸な行き違いなのよ、キスメ」
――そんなこと言われても!
「もう遅い……遅すぎたわ」
ドドドドド。
勇儀がキスメの井戸のあたりを整地していた。
ロードローラーで。
――わ、わたしの井戸が……。
「というわけで、はい、仮設住宅」
――風呂桶だよ!
「井戸も風呂桶も大して変わらないわよ」
――全然違うよ!
キスメの抗議に、ヤマメは肩を竦める。
「何が違うのさ」
――だ、だって……ふ、風呂桶じゃ、その……広すぎて、こわいの……。
キスメは狭いところが好きだ。
だからいつも井戸の中、桶の中に引きこもっている。
それに慣れすぎて、広いところが駄目になってしまった。
桶に入ったままでないと、外も出歩けないのだ。
「別にその桶はそのままでいいから」
――でも風呂桶に暮らすのはちょっと……。
「水は自分の桶で汲んでね」
――ひどい!?
「その桶、なんのためにあるのよ?」
――こ、これはわたしの……ふ、服みたいなものなの。
キスメはぎゅっと桶の縁に掴まった。
ヤマメは「ほほう」と目を細めた。
「キスメ」
――な、なに?
「何事も第一歩は慣れからよ」
――な、慣れって……。
「いつまでも引きこもってないで、外の世界に出歩くの! 風呂桶はその一歩目!」
――や、ヤマメちゃん……。
ああ、やっぱりヤマメは親友だった。
自分のことを想って、言ってくれているのだ。
キスメは感動して、風呂桶を覗きこんだ。
カビてひび割れて穴が開いていた。
――これ廃品だよ!
「気にしない気にしない」
――ヤマメちゃんちの風呂桶の処分!?
「そういう細かいことにこだわってるから」
――細かくないってば!
頬を膨らませて、キスメはヤマメを見上げる。
――ヤマメちゃんの意地悪。
そう口を尖らせて言ってみるけれど。
目の前にいるヤマメの苦笑に、怒れない自分がいるのだ。
結局キスメは、ヤマメの事が好きなのである。
――ヤマメちゃんが。
「ん?」
ヤマメちゃんが、風呂桶の中で、ぎゅってしてくれれば、平気。
恥ずかしくて言えるはずもなかった。
――いえ、何でもないです。
「何さ、言いかけて止めるとか」
――何でもないもん。
真っ赤になって目を伏せると、ヤマメは微笑んで頭を撫でてくれた。
その手の感触がくすぐったくて、キスメは笑って大好きなヤマメを見上げた。
いいぞもっとやってください
タイトルで遊ぶなwww
ヤマメとキスメも
浅木原さんと無言坂さんも
浅木原さんと無言坂さん結婚して一緒にSS書けばいいと思うよ!
合同作品を書こうよ
こういうときは家に帰って謝って仲直りすると普段より燃えるんですよね。今夜頑張ってくださいね。ウフフ
ガツンと言ってやれよ
連歌師か!