夕方。
「ふあ……」
レミリアは、欠伸をして起き上がった。
うにゅ、と目をこすろうとして、ふと気づく。
「……」
なんだろうか。
指が長い。
視界も、何やら不自然だった。
目の位置が不自然に高い。
(ははあ……こいつは)
レミリアは慌てなかった。
ちりりん、と枕元の鈴を鳴らす。
咲夜は、すぐにやってきた。
「お呼びでしょうか……」
と、急にレミリアの姿を見て、驚いたようだ。
目を丸くしている。
レミリアはちょっと得意げになりつつも、平然とした様子を装った。
「やあ……おはよう、咲夜。お茶を入れてくれ」
「はい。かしこまりました」
咲夜はすっと姿を消した。
五秒ほどして戻ってくる。
手に、紅茶のカップを乗せたトレイを持っている。
「ありがとう」
レミリアは、ほほえんで礼を言った。
紅茶のカップを受け取って、口をつける。
芳醇な薫りである。今日はヘンな物は入れていないようだ。
「あの、お嬢様、その姿は……」
咲夜が言った。
レミリアは、内心で笑いつつ、わざと曖昧に言った。
「ん? ん、ああ。まあ、いいじゃないか。たいしたことじゃないよ、それより、お前は先に行って食事の準備をしておいてくれ。召し換えは自分でやっておくからいい」
咲夜は、頭を下げた。
「はい、かしこまりました」
言うと姿を消す。
レミリアは、一人でくすりと笑った。
かちゃ、と紅茶のカップを置く。
それから、シーツをはいで、すらりとのびた白い足を絨毯に下ろした。
普段着には、母のお下がりである空色のドレスが残っていたので、それを着る。
ほどなくして、レミリアは着替えを終えた。
部屋を出て、廊下を歩く。
途中、妖精メイドたちと顔を合わせると、何人かは驚いた顔をするやつがいた。
そうか、まだ知らないやつもいるか。
レミリアは、思いつつ、やあ、とかるくほほえみかけてやった。
何人かは恐縮して、中にはなんのつもりか、かあっと頬を染めるやつもいる。
レミリアは、反応を愉しみながら、食堂に入った。
レミリアが入ってくると、すでにひかえていた咲夜が礼をした。
レミリアは、目線を返して、席に着いた。
卓を見やると、席には、きっちりとサイズにあわせたナプキンが用意されている。
ふむ、とレミリアは満足して、ナプキンを着けた。
スプーンを取って、スープの皿にそっと差し入れる。
食事を終える頃になると、咲夜が、お茶の用意をした。
レミリアは、口元を静かに拭って、カップを手に取った。
口をつけながら、咲夜を横目に見やる。
どれ、そろそろ話してやるか。
「お嬢様、そろそろお聞きしても宜しいでしょうか」
「うん? ああ、いいよ」
と、思っていると、ちょうど咲夜が言ってきた。
レミリアはうなずいて、許しをやった。
咲夜はようやく、といった様子で言った。
「あの、そのお姿は……?」
「うん。そういえば、お前は見るのが初めてだったね。すっかり失念していたよ」
レミリアは言って、かるく笑った。
「実はな咲夜、今まで隠していたんだが、これが私の真の姿なんだよ。いつものあのちんちくりんな姿はな、あれは仮初めに過ぎないんだよ」
「はあ……そう、なんですか?」
「ああ。かつて、偉大なる父ツェペシュの末裔として血を受けた私は、生まれて数年で、すでにこの姿に至っていたんだ。そして、夜の始祖に連なる姉妹の一人、ツェペシュの姉として、外の世界にその名を轟かせていたのだよ。まあ、当然だが、絢爛なる夜の花として、社交界でも注目の的だった」
「たしかに……たいそうお美しゅうございますわ」
咲夜は、恐縮して頭を下げた。
レミリアは、満足して、得意げに続けた。
「ありがとう。ただまあ、知っての通り、この幻想郷じゃ色々あって、私らはむやみやたらと力を使えない。だものだから、私はいつもは力を押さえるよう、パチェに言って、身体に封印をかけて貰っているんだ。だが私の力というのは、もともとたいそう強大だし、そもそも吸血鬼というやつ自体が魔法というものから見れば、すごく扱いづらい生き物らしくてね。完全に押さえるのは無理なんだそうで、ときどきこうして戻ってしまう。ま、二十年に一度かそこらってところなんだが」
「そうだったんですか……あ、デザート今日はプリンにしましたよ」
「ああ、ありがとう」
レミリアは言った。
そして言った途端に、ふしゅるるると身体が縮んで、いつもの姿になった。
「……」
「……」
レミリアは、自分の体を見下ろした。
だぼっと余った服。
ちんちくりんの胸。
レミリアは沈黙した。
ちょっと間を置いてから、咳払いをする。
「……。というようにだな。気が緩むとすぐに戻ってしまうんだけど」
「はあ。お召し物をお持ちいたします」
「うん」
咲夜はすっと姿を消した。
レミリアは、みじろいで、椅子に深く背を預けた。
じっとりと、目の前のプリンを見下ろす。
「……うぅ」
バツが悪そうに、顔をしかめてうなる。
「ふあ……」
レミリアは、欠伸をして起き上がった。
うにゅ、と目をこすろうとして、ふと気づく。
「……」
なんだろうか。
指が長い。
視界も、何やら不自然だった。
目の位置が不自然に高い。
(ははあ……こいつは)
レミリアは慌てなかった。
ちりりん、と枕元の鈴を鳴らす。
咲夜は、すぐにやってきた。
「お呼びでしょうか……」
と、急にレミリアの姿を見て、驚いたようだ。
目を丸くしている。
レミリアはちょっと得意げになりつつも、平然とした様子を装った。
「やあ……おはよう、咲夜。お茶を入れてくれ」
「はい。かしこまりました」
咲夜はすっと姿を消した。
五秒ほどして戻ってくる。
手に、紅茶のカップを乗せたトレイを持っている。
「ありがとう」
レミリアは、ほほえんで礼を言った。
紅茶のカップを受け取って、口をつける。
芳醇な薫りである。今日はヘンな物は入れていないようだ。
「あの、お嬢様、その姿は……」
咲夜が言った。
レミリアは、内心で笑いつつ、わざと曖昧に言った。
「ん? ん、ああ。まあ、いいじゃないか。たいしたことじゃないよ、それより、お前は先に行って食事の準備をしておいてくれ。召し換えは自分でやっておくからいい」
咲夜は、頭を下げた。
「はい、かしこまりました」
言うと姿を消す。
レミリアは、一人でくすりと笑った。
かちゃ、と紅茶のカップを置く。
それから、シーツをはいで、すらりとのびた白い足を絨毯に下ろした。
普段着には、母のお下がりである空色のドレスが残っていたので、それを着る。
ほどなくして、レミリアは着替えを終えた。
部屋を出て、廊下を歩く。
途中、妖精メイドたちと顔を合わせると、何人かは驚いた顔をするやつがいた。
そうか、まだ知らないやつもいるか。
レミリアは、思いつつ、やあ、とかるくほほえみかけてやった。
何人かは恐縮して、中にはなんのつもりか、かあっと頬を染めるやつもいる。
レミリアは、反応を愉しみながら、食堂に入った。
レミリアが入ってくると、すでにひかえていた咲夜が礼をした。
レミリアは、目線を返して、席に着いた。
卓を見やると、席には、きっちりとサイズにあわせたナプキンが用意されている。
ふむ、とレミリアは満足して、ナプキンを着けた。
スプーンを取って、スープの皿にそっと差し入れる。
食事を終える頃になると、咲夜が、お茶の用意をした。
レミリアは、口元を静かに拭って、カップを手に取った。
口をつけながら、咲夜を横目に見やる。
どれ、そろそろ話してやるか。
「お嬢様、そろそろお聞きしても宜しいでしょうか」
「うん? ああ、いいよ」
と、思っていると、ちょうど咲夜が言ってきた。
レミリアはうなずいて、許しをやった。
咲夜はようやく、といった様子で言った。
「あの、そのお姿は……?」
「うん。そういえば、お前は見るのが初めてだったね。すっかり失念していたよ」
レミリアは言って、かるく笑った。
「実はな咲夜、今まで隠していたんだが、これが私の真の姿なんだよ。いつものあのちんちくりんな姿はな、あれは仮初めに過ぎないんだよ」
「はあ……そう、なんですか?」
「ああ。かつて、偉大なる父ツェペシュの末裔として血を受けた私は、生まれて数年で、すでにこの姿に至っていたんだ。そして、夜の始祖に連なる姉妹の一人、ツェペシュの姉として、外の世界にその名を轟かせていたのだよ。まあ、当然だが、絢爛なる夜の花として、社交界でも注目の的だった」
「たしかに……たいそうお美しゅうございますわ」
咲夜は、恐縮して頭を下げた。
レミリアは、満足して、得意げに続けた。
「ありがとう。ただまあ、知っての通り、この幻想郷じゃ色々あって、私らはむやみやたらと力を使えない。だものだから、私はいつもは力を押さえるよう、パチェに言って、身体に封印をかけて貰っているんだ。だが私の力というのは、もともとたいそう強大だし、そもそも吸血鬼というやつ自体が魔法というものから見れば、すごく扱いづらい生き物らしくてね。完全に押さえるのは無理なんだそうで、ときどきこうして戻ってしまう。ま、二十年に一度かそこらってところなんだが」
「そうだったんですか……あ、デザート今日はプリンにしましたよ」
「ああ、ありがとう」
レミリアは言った。
そして言った途端に、ふしゅるるると身体が縮んで、いつもの姿になった。
「……」
「……」
レミリアは、自分の体を見下ろした。
だぼっと余った服。
ちんちくりんの胸。
レミリアは沈黙した。
ちょっと間を置いてから、咳払いをする。
「……。というようにだな。気が緩むとすぐに戻ってしまうんだけど」
「はあ。お召し物をお持ちいたします」
「うん」
咲夜はすっと姿を消した。
レミリアは、みじろいで、椅子に深く背を預けた。
じっとりと、目の前のプリンを見下ろす。
「……うぅ」
バツが悪そうに、顔をしかめてうなる。
やっぱそっちが本来の姿なんじゃねーかww