題名通り、永琳と慧音がキャッキャウフフしています。
つまり百合ん百合んです。苦手な方はここでUターンお願いします。
「……」
……何でこんな状況になっているんだ。
口はピッタリと閉ざしながら、心の中で慧音は悪態をついた。
ここまで嬉しい状況が今まであっただろうか……駄目だ、永琳と恋人になってから嬉しいことだらけで反語にならん。
「慧音?」
どうしたの?と言わんばかりの表情で振り向く。
「なんでもない……」
「そう?」
この笑顔は確実に確信犯だ。
そして、確信犯だと私が気付いてるということも分かっているのだろう。
今までの経験で、そのくらいは予想がつく。
最近の永琳は、私を刺激してくるようなことばかりする。
楽しんでいるのだろう。ああ、大いに楽しんでくれ。私が慌てふためくさまを。
自棄になりかけて、慧音は雑念を払うように首を振る。
落ち着け、冷静を欠いたら相手の思うつぼだ。
一度たりとて、その“つぼ”から自力で抜け出せたことがないような気がする。
というか抜け出せていない。じゃあ今日こそは、
「慧音、これでいいのかしら?」
台所から呼ぶ永琳の姿はここからでも見える。顔は現在格闘中であろう料理と向き合ったまま、手招きしていた。
料理はあまりしたことがないらしいから、不安になったのか。指示を仰いでくるのは、無理されるよりずっと良い。
だが、しかし、but、台所から数メートル離れている現時点で胸の高鳴りは三十二ビートだ。
今近づいたら、きっとドラムロールになる。
ドゥルルルルルルルル シャーン
最後のシンバルはなんだ?心臓が爆発する音か?それとも理性が爆発する音か?
「慧音?」
「う、ちょ、ちょっと待ってくれ」
まずは落ち着こう。話はそれからだ。
順を追って整理しよう。
まず最初に、永琳が来た。
まあ、たまに何も言わずにくるから、これはまだ普通だ。
そして、夕食の準備はしたかと聞かれ、否と答えると、今度は台所を貸してほしいと言った。
こんなことは初めてだ。首を傾げると、練習してきたのよ、と宣う。
それは、私の為だろうか?
きっとそうだからここに来て、そう言っているのだろう。
永琳の手料理は、以前もらった弁当以来になる。彼女の好意を無駄に出来る筈がないと、私は即承諾した。
そして、永琳が持ってきた手提げから取り出したものは……
「慧音!早くしないと煮過ぎちゃうかもしれないわ」
「あ、すまない」
慧音は慌てて思考を止めて、台所に急いだ。
どうやら、煮魚を作っているらしい。
味付けはシンプルな和風らしく、醤油と砂糖の甘く香ばしい匂いが漂っている。
慧音は永琳から端とおたまを受け取り、味と煮具合を確認した。
「うん、美味しい」
ちょっと甘さが足りないような気がするが、個人の味覚の範囲だろう。
これが永琳が作った煮魚の味だと思うと、妙に嬉しかった。
「良かったわ」
やはり不安だったのだろう。小さく息を吐いたのが聞こえた。
いつもとのギャップに慧音は微笑ましく思いながら、永琳の姿に視線を移した。
そして、固まる。
まるで上司が入ってきて慌てて仕事を始める部下のように、心臓が波打ち始めた。
いつもの彼女とは、一線を画して違う風貌。
「慧音……?」
そう、料理をするときに身につける定番、エプロン。
これを着けるだけで、何故か家庭的で柔和なイメージを想起させる。
コスプレ趣味なんて決してない、はずなのだが。
好きな人が自分の為に着けてくれていると思うと、夫婦になったばかりのような妙な恥ずかしさというか、何だかむず痒い気持ちになる。
見慣れない姿に、きっと一種の憧憬を持つのだろうか?
思考は同じ場所を全速力で駆け回る。
「慧音。顔、真っ赤よ?」
プイッと顔を背ける。見られたくないのと、見たくないのと。
いや、どちらかといえば勿論見たい。鑑賞したい。眺めつくしたい。
ここまで思って、自分は意外に変態なのかもしれないと嫌に冷静に気付いた。
「夕食に、しよう」
頭の隅に顔を覗かせた冷静な自分が言った。
若干上擦っていたのはご愛敬だ。
「……ええ」
そう応えた彼女を横目で見ると、エプロンに手をかけていた。
やっとこの変な緊張から解放される。
慧音が大きくため息を吐き、台所から一歩踏み出す。
途端、
柔らかいものが自分に触れた。
否、触れたというより包み込まれたという方が正しい。
慧音は珍しくすぐにそれが何なのか気付いた。
「え、永琳!?」
「慧音は……本当に……」
声のトーンが低い。
何か悪いことをしたのかと、慧音は慌てた。
「永琳!あの、その、すごく似合ってるぞ!」
そのまま口走ったのはそんな言葉だった。
我ながら、馬鹿だ。この状況で出てくる言葉がこれだ。
でも、一度口を閉じてしまったので、機会は失われてしまっている。
分からないことづくしでどうしようもなくて、慧音は後ろから抱き締められながら、直立不動のまま永琳の動きを待った。
重い沈黙。というより、重くしてしまった沈黙か、あるいは、自分だけ重い沈黙。
後者だったらいいなぁ、と慧音はやはりその場で止まったまま思う。
そんな心持ちでいると、背中がかすかに震えた。
自分が揺れたわけではない。となると、
「永琳……?」
心配そうに伺う。
「面白いわね」
「……へ?」
「慧音は本当に面白いわ」
顔だけ振り返ると、堪え切れないというように破顔して声を漏らす永琳。
抱きしめられていた身体が離れた。
なんだ、泣いてる訳じゃなかったのか。
ひとまず安心して。
「ここまで効果が出るとは思わなかったわ」
その言葉に、疑惑が確証に変わった。
ほとんど分かっていたことだが。
「……やっぱりからかっていたのか」
「二割くらいは、ね」
二割?
「結構少ないんだな」
もうほとんどからかいに来たようなものだと思っていたのだが。
「五割は慧音にご飯を作ってあげたかったから」
いつも作ってもらってばかりだから、と付け足す。
「残りは……」
言葉を切る。
永琳は一歩慧音から下がると、エプロンの両端を摘まんで軽く持ち上げた。
「さっきあなたが言ったことを、言ってもらいたかったから」
どうやら、咄嗟に出た言葉は永琳が求めていたものだったらしい。
「ねぇ、慧音」
一歩下がった分、永琳はもう一度慧音に近づく。
永琳の方が背が高い。よって見上げる形になる。
いつもは照れて俯きがちになってしまうが、今は直視できる。
何故なら、
「永琳。顔が赤いが」
絶好のチャンスだからだ。
彼女も言ってから恥ずかしくなったのだろう。しかし、一度言ってしまったことは取り消せない。
珍しく彼女が顔を背ける。その気持ちはよく分かる、情けないことに。
「もう一度……言って欲しいわ……」
小さく、そう聞こえる。
その表情に、声色に、胸が高鳴った。
ここで狼狽えないで返事を出来れば完璧だったのだが、如何せんそんな余裕はない。
可愛いなぁ……。
素直にそう思った。
返答のないことを訝しげに感じて、永琳が口を開く。だが、その口から言葉が発せられる前に、慧音は応えた。
「よく、似合ってる」
もうちょっとましな言葉は無いかと探したのに、全く出てこなかった。
肝心な時に出てこなければ、いくら知識を持っていたとしても仕方ないのに。
でも、
「ありがとう」
そう笑顔で言われたら、これで良かったんだなと思えてしまった。
「さあ、夕食にしましょう」
あれ……?
違和感を感じる。
身を翻した彼女の声は、普段と同じ抑揚だった。
エプロンは既に彼女の身体から離れて、腕の中に小さく折りたたまれている。
「永琳?」
「何?」
振り返った普段と同じ永琳は、不敵に微笑んでいる。
何で呼び止められたか分かっているようだ。
慧音はあからさまにため息をついた。
「また一本取られたか」
「そんなことないわ。あなたは図らずも予想外の行動しているのよ」
永琳は楽しそうに笑って、釜から飯櫃にご飯を入れてちゃぶ台の方へ運んで行く。
「その割には、焦っていない気がするが」
「常軌を逸してはいないからかしらね」
慧音は話しながら煮魚を皿に盛り、戻ってきた永琳に手渡す。
味噌汁、箸、お椀、飲み物も持って行く。二人分なので食事の準備はすぐに整った。
「つまり、私が常識に囚われない行動をすれば、永琳を驚かせられる訳か」
どこぞの巫女のように。
「そんなことないって言ってるじゃない。私は十分驚かされているわ」
「そうか?私ばかりが慌てているような気がするが」
「それは慧音の性格よ。あと、年季かしら」
慧音は苦笑した。
それでは勝てる筈もない。まあ、分かっていたことだが。
二人はちゃぶ台の前に向かい合って座った。
「それじゃ、いただくとしよう」
「ええ」
いただきます。
特に揃えた訳でもないのに、同じタイミングでそう言ってしまい、二人は顔を見合わせる。
小さめのちゃぶ台一つなので、互いの顔は意外と近い。
見つめあうこと数秒、慧音は意を決して永琳に近づいた。
そのまま、触れるだけのキス。
「……もうお腹いっぱいだな」
「あら、残念ね。まだ前菜にもなっていないのに」
わざとらしく言う慧音に、永琳が艶やかに笑って返す。
慧音は顔を赤くして、やっぱりこういう冗談は言うものじゃなかったと、目の前の食事に集中することにした。
終わって
包丁でトントンやってるときに後ろから(略
メインディッシュはこのあとですか?!
えーてる至上主義のはずなのに……目覚めそうだ……ッ!
慧音なんかは髪長いからエプロン無しで裸ヘアーげふんげふん!
しかしこれはけねえりだと言わざるをえない
できれば続いてほしいです!!