香霖堂。
ある日のことだった。
その日、店に尋ねてきた咲夜の様子を見て、わずかながら、霖之助は機嫌が良さそうである、というふうに見た。
話すときに、口元に浮かぶ控えめな笑みの比率が、いつもよりも多いようなのだ。
自分の用事をすませるついでに古本を物色している最中も、なにやらそういう仕草が目立つようだ。
そう呼べるかどうかはかなり怪しい霖之助ではあったが、一応、道具屋という商売に携わる人間として、客の機微や観察には、わりと敏感なところがある。
職業病の一種のようなものだったが。
(なにかいいことでもあったのかね)
霖之助は尋ねてみた。
「なにかいいことでもあったんですか?」
「え?」
口ずさんでいた鼻歌を止めて、咲夜は目をこちらに向けてくる。
霖之助は言った。
「なんだか上機嫌そうですよ」
「そうですか? ……ふふ」
そう言って微笑むだけで、とくにどうとも述べてこない。
内緒ですよ、と言った具合にも見える。
そのまま、本棚の方に目を戻すので、特に言うつもりもないらしいことを霖之助はうすうすと感じとって、目線を本に戻した。
職業柄なのか、それとも本人の地なのかはわからないがこの娘は、あまりぺらぺらと自分のことについて、言及しないことが多い。
それから数分ほども経っただろうか。
本棚の前でなにやら立ち止まって、沈黙する気配を見せていた咲夜が、カウンターにやってきて、ことり、と商品を置いた。
霖之助は、目を上げて咲夜を見た。
そして、ふと疑問符を浮かべた。
「……」
それは、カウンターの前に立つ咲夜の様子が、なにやら、さきほどとは、異なっていたからである。
一口で言えば、不機嫌そうだった。
というか、明らかにこちらにたいして好意的でない視線を向けているようだった。
霖之助は、不可解そうに、眼差しを若干細めたが、やはり咲夜は不愉快そうな面持ちである。
妙である。
そうは思ったが、聞こうとした矢先に遮られる。
「おいくらですか?」
「ああ……」
霖之助は怪訝に思いつつも、商品の値定めをした。
咲夜が持ってきたのはなにやらの古い本が二冊である。
一冊は、外の世界の料理関係、もう一冊は、たしか霖之助の記憶によると、昔の大衆向け娯楽小説である。
霖之助は値段を告げて、咲夜から勘定を受け取った。
商品を受け取るときに、咲夜はちょっと眉をひそめ、冷たい視線で見た。
「あの。いったい、どなたがああいうのを買っていくのか知りませんけど。ここに置いておくのは、あまり感心しませんよ」
言う。
「は?」
霖之助は聞きかえした。
「そりゃあ、あなたも商売柄仕方ないのかも知れませんけど、せめてわけて置いておいて欲しいわ」
咲夜は言って、きびすを返して店を出ていった。
霖之助は、いぶかしんだ顔を浮かべた。
数日後。
同じく香霖堂。
この日は妖夢が立ち寄っていた。
面白い本がないか探しに来たらしい。
この娘は人を苦手そうにしているわりに、どこかすり寄ってくるようなところがあり、それが若干鬱陶しい。
霖之助は、本を片手に番台に頬杖をついていた。
咲夜と違い、この娘は商品を壊しそうで危なっかしい。横目で見やりつつページをめくる。
「わっ」
と、妖夢が言った。
霖之助はそちらを見た。
妖夢がなにやら気まずげに本を元に戻そうとしているのが見える。
「どうかしたのかい?」
霖之助は眉をひそめて聞いた。
うっかり破いたりしたのかと思ったのだ。
「あ、は、い、いえ。なんでもないです!」
「傷つけないようにしてくれよ。それと、なにかあったらちゃんと言うようにね」
「は、はい」
妖夢はどぎまぎと答えた。
霖之助は本に目を落とした。
騒がしい娘である。霖之助も気むずかしいたちなので、騒がしいのは好きでない。
しばしして、妖夢が商品を番台に持ってきた。
「あの、これおいくらでしょう」
霖之助は商品を見定めた。
妖夢が持ってきたのは、二冊の本である。
一冊は古い造園関係の本、もう一つは、外の世界で言う、時代小説という奴だ。
霖之助は値段を告げて、勘定を取った。
「あの……」
「ん」
「ああいう本は、普通のとわけておいて欲しいんですけど」
霖之助は妖夢の顔を見た。
なにか、眉をつり上げている。
怒っているようだ。
この娘は、感情がもろに顔に出る質である。
霖之助は聞きかえした。
「ああいう本? ああいう本ていうと」
「いえ、だから……」
妖夢は言いかけた。
が、霖之助の顔をうかがうと、なぜか止めてしまったらしい。
「いえ、なんでもないです。それじゃ」
言うと、帰って行った。
霖之助は、またいぶかしんだ顔を浮かべた。
今度は、それから一週間後である。
霖之助は、いつものように店番をしていた。
店には珍しく、里の上白沢という娘が来ている。
里で寺子屋をやっているという話で、そのための教材を探しに来たのだそうだ。
ここの噂は、人里で聞き及んだらしい。
(ふむ、僥倖だな)
霖之助は、人知れずほくそ笑んでいた。
どうやら評判がなかなか知れているようではないか。
霊夢たちの話を聞くに、この娘はけっこう里では人格者で通っているらしい。
彼女のような好人物の口からこの店のことが知れれば、また、里での評価も少なからず上がるに違いない。
(まあ、ものの真価というのは、いつか人知れず伝わってしまうものだからね。もともとこの店にはそれだけの値打ちがあるのだから、当然だが)
心中思っていると、その上白沢が番台の前に立った。
霖之助は柔らかい顔で応対しようとした。
その鼻先で、ばん!! と、白い腕が音を立てた。
霖之助は番台を見下ろした。
上白沢の腕が、番台に本を叩きつけている。
霖之助は上白沢、―――そういえば、慧音、でいいとか言っていた―――その慧音の顔を見た。
顔の全体は、よく見ると、少女然とした柔らかい輪郭である。
やや強気がちな眉をひそめ、触れたら冷たそうな頬を向け、じっとこっちを見下ろしている。
背は高めだが肩は細く、遠目に見たら繊細そうに見えるかも知れない。
なにかひどく怒っているようだ。
霖之助は聞いた。
「ええと、……どうかしましたか? 先生」
「慧音でいいですよ、店主さん。ところでこれはなんですか?」
怒った顔のまま言ってくる。
異様に迫力がある。
この間の妖夢も怒ってはいたが、どうしてあの剣の達人よりも、こっちの女先生の方が、数倍、油断ならない気がするのだろうか。
霖之助は少し言葉を選んだ。
(彼女は何を怒っているんだ?)
霖之助は尋ねた。
「といいますと?」
「これは、この店で扱っている商品でしょう?」
台に置いた本を示して言う。
霖之助は、本を手にとって、表紙を確認した。
中身をパラパラとめくる。状態はとくに問題ない。
「ええ。もちろんそうですが。間違いありませんよ」
本を閉じて、霖之助は言った。
「そうですが、なにか問題がありましたか?」
表紙を慧音に向けて、示してみせる。
「なにか問題が、とおっしゃいましたか」
慧音は言った。
きつい顔で、腰に両手を当てている。
霖之助は言い返した。
「失礼だが、質問に詰問で返すのはあんまり感心しないね」
「失礼。つい言葉が過ぎました。しかし、店主さん。あなたにもあんまり常識というものがないようですが」
「常識って……その、すまないが、君がなんのことをいっているんだかいまいち分からないんだが……」
霖之助は言った。
そのとたん、慧音は、だん! と両手で机を叩いた。
頑丈な机が、ちょっとみしりと言った。
慧音が言う。
「なんのことですって? もちろん、これのことですよ。この本のことです。決まってるでしょう!?」
「……いえ、ですから、これに何か問題が?」
「いえ、ですから、これに何か問題が?」
ずい、と慧音が番台越しに迫ってきたので、霖之助は一歩引いた。
慧音は、あいかわらず怒りの眼差しを向けてきている。
(なにか問題でもあるのか?)
霖之助は眉をひそめた。
慧音は霖之助が引いたのを見ると、いったん手をどけて引き下がった。
息を吐く。
「とにかく、あなたの店では、こういったものを商品として取り扱っていると言うことでよろしいんですね」
「ええ、もちろんそうですが」
「どういった方々がこういうものを買い求めるかについては興味もありませんけどね。正直、感心はしません。大いにですけれど」
細い眉をいっぱいにつり上げて、慧音は言う。
霖之助は言った。
「しかし、こちらとしても、需要があるからこれを置いているんだが」
「ええ、それは私も分かりますよ。でもまあ、実は、それはどうでもいいんですよ。あなたのところも商売でしょうから」
慧音は言った。
手を腰に当てて、長い髪を揺らす。
「それじゃあ、違うことをお聞きしますけど、どうしてこれが、歴史や文化関係の欄に混じって置いてあるんです?」
「……。おや、先生は、そういう歴史関係がご専門とお聞きしましたが」
「ええ、実はそうだから、ここまで怒っているんですけどね。ようやく分かっていただけましたか」
慧音が言う。
霖之助は、落ちついて眼鏡を押しあげた。
椅子を鳴らして言う。
「ええ、まあ。しかし、だとしたら、おかしな話ですよ。いいですか。人類というやつの歴史や文化というものにはね、こういった、いわゆる性風俗と呼ばれるものがつねに大きく関わり合いをもってきたんです。古来より、古今東西の歴史に於いて性欲の処理というのは重要な問題でしてね。こういった本というのは」
霖之助は、言いながら、扇情的なポーズでこちらを見つめ、シャツを大胆かつ絶妙な具合にはだけさせて胸を晒した、たまらないボディラインの女性がプリントされた雑誌の表紙を、慧音によく見えるようにかざした。
「その歴史の一端をになう、貴重な資料というわけです。こういったものなくしては、今日のような外界の発展は無かったと言っても良い。たとえばこれに絞って語るのでも実に興味深い。これが生存権を獲得しているのは、だいぶ文明の進んだ近代に於いてです。個個人が閉塞的になりがちな高度文明化社会に於いては、男女間の性的交渉もまた希薄になりがちであるという事実が、避けて通れない厳然としたものとしてあるわけです。その緩和策の一端として存在するのがこういったものなんですよ。この本を見るだけでも、どういった方法や手段でそれが行われているのかがわかり、簡明に読み取れます。僕自身が何度も読んで確かめているからいいますが、これは非常に価値のある歴史的資料ですよ。
里の方々の中にも実際にそう言った観点からこれに価値を見いだした方はおられるようでしてね。ひいきにして貰っています。こういった点からも、この本があの分類に置いてある必然性というのは明白だと思いますが?」
霖之助は得意げに言った。
慧音を見ると、ものすごくしらっとした眼差しをこちらに向けていた。
どうやらぐうの音も出ないほど感銘を受けてしまったらしい。
霖之助は思った。
慧音が口を開く。
「では、お聞きしますけど、いままでどういった方々がこれをお求めになったんです」
「それは、顧客の信用という点からお教えできませんが、大体は里の男の方ですよ。これは男性向けのものですから。なんなら女性向けのものも置いてありますが、ご覧になりますか?」
「いえ。結構。よく分かりました」
慧音は言った。
台の上の本を取り上げる。
「では、とりあえず、この本は私がお預かりします」
「おいおい、ちょっと待ってくれ。なんだいそれは」
「このようなものをあんまり里に流されては教育者として困りますから。持ち帰って処分させていただきます。お代ははらいますので、ご心配なさらずに。それでおいくらでしょうか」
「だからちょっと待てと言ってるんだ。僕は仮にも道具屋だ。必要な用途で使われるんでなければ易易と売ることはできないよ。君がそう言う嗜好を持っていると言うんなら別だが――」
「それで! お・い・く・らですか!?」
霖之助は、結局押し切られた。
慧音は、購入した本を持って帰って行った。
霖之助は憮然とした。
ぶつぶつとぼやく。
(なんだってんだ?)
その後ろで、がらりと襖が開いた。
煎餅を手にした魔理沙が顔を出していた。
霖之助を見て、言う。
「おい、香霖。どうかしたのか?」
「ふむ、いや。別に。それとその茶菓子は僕のだぞ」
「今の慧音か? 何騒いでたんだ? あいつ」
魔理沙は言った。
ぱり、と煎餅をかじる。
霖之助は首をふった。
「よくわからないんだ。なんだかずいぶんと商品に文句を垂れていったんだが……」
そして、霖之助はことのあらましを説明した。
説明しているうちに、霊夢がやってきた 。
自然と話に加わる。
そして数十分後。
「ま、そりゃあお前が悪いぜ」
魔理沙が言った。
霖之助は眉をしかめて言い返した。
「僕が悪いとはまた心外だぞ。言っておくけど、僕の接客態度に問題はなかったよ。あの子が急に怒り出したんだ」
「そりゃあ怒るわよ。真面目そうだしね、あの人」
霊夢が横から言う。
魔理沙はそれに口を挟んだ。
「あれ? お前あいつのこと知ってたっけ」
「ああ。うん。あのあと、祭りで何度か会ったし。ちょっと話してみたけど、いい人よ。ちょっと頭固いけどね」
「お前のいい人は当てにならんけどな。だってちょっと顔が気に入ったりすると、いい人って言うだろ」
「いいじゃない。優しいし。私の勘は当たるのよ」
「結局勘なのか」
いつのまにか、会話がどこかにずれていく。
霖之助はそれを放っておいて、ブツブツとうめいた。
「まったく、あれは出来がいいから気に入っていたんだが……あんなに迫られなければ、売るつもりもなかったんだけどな」
「え? お前、ああいうの読むのか?」
「……え? あんた、あれ読んだことあるの?」
霊夢が横から、魔理沙に言った。
魔理沙は澄まして答えた。
「この店にある商品で、私が知らないものっていうのはないな。香霖が奥に隠してるやつは別だけど。なんでか見せてくれないんだよな~」
魔理沙はちらり、ちらりとわざとらしく見てくる。
霖之助は、はぐらかして答えた。
「そりゃあ読むよ。彼女にもちらりと言ったが、ああいったものは、非常に興味深いしね。外の世界を具体的に考察する上で、ああいう資料は欠かせないんだよ」
「やっぱりなにも感じないのかしらね」
霊夢が言った。
魔理沙が言う。
「まあ、香霖はあれだしな。見た目はアレでも頭が死んでるからな。仕方ない」
霖之助は眉をひそめた。
「人を廃人か何かみたいに言うんじゃないよ。心外だな、まったく。言っておくが、たしかに僕はだいぶ年をいっているが、まだ人並みの性欲というやつはあるんだぞ」
霖之助は言った。
魔理沙は、わざとらしく眉をしかめて、指でこすった。
「嘘だろ? 無理すんなよ、香霖。なにか聞いてて悪くなってくるだろ」
「そりゃあ、君たちといたらそんなに気がつかないのは無理ないだろうな。だが、僕にも、一個の人格としての性的嗜好というものは、たしかにある」
霖之助は言った。
魔理沙が言う。
「もしかして、とてつもなく太ってて口もとに髭が生えてる女とかが好きなのか? お前のことは何年も見てるけど、そういうそぶりとか全然見たことないんだが」
「霖之助さんて、どういう女の人が好きなの?」
霊夢が横から言った。
霖之助は少し考えた。
それから言う。
「そうだな。とくにこれといったこだわりはないけど、まず君たちくらいの子供は駄目だな。たしかに少し幼い感じの残る容姿というのは、見目でひかれるものはあるけど、やはり体つきは豊満であって、なおかつ均整がとれている方が良いと思う。あまり箇所箇所が大きすぎるのもいけないんだな。また、そういったものは、あくまで理想であったほうがいいとも思う。どうしてかというと、そのほうが思いがけず大きなものを拝んだときに、つねに新鮮な感覚でいられるし、興奮がしやすいというのもある」
「つまり、胸のでかい女が好きって事か? 早苗あたりみたいな?」
魔理沙が言ってくる。
霖之助は頷き返しつつも、しかし、口では否定した。
「たしかに、あの子も、なかなかに見事なものだと思うが、あくまで年の割には、という範囲内だと思う。それにあの子はそういう出るところは出ているが、なんというかまだ子供だろう。色気っていうものがないんだな。やはり、色気がないと女性は駄目だよ。たとえばそういう話をするなら、あの風見幽香当たりなんかは、胸の大きさやなんかはまあまあといったところだけど、ちょっとした仕草に独特の色気というものが感じられて、実に良い。
僕なんかは、半分妖怪だから、人間の女性よりも、ああいう妖怪の女にどうも魅力を感じてしまうようでね。人間の視点でのことを言うと、さっきの慧音という子も、けっこう魅力的に映るんじゃないかな? 清楚な見た目だけど、里で生活しているせいか、人の目に晒される仕草というのが、よく洗練されていると思うんだ。あのちょっと神秘的な外見の中で、そういうものが、なにげなく節々にのぞくのがたまらない、と感じる男は多いんじゃないかと思う」
「まあ、たしかにそういうところはあるかもね」
霊夢が同意した。
霖之助は、うなずいた。
続けて言う。
「豊満なことというのは、確かに美点だけど、女性の魅力はそもそもそれだけというわけではないから、あくまで大きいに越したことはないぐらいに思っていてさしつかえないんじゃないだろうか。君たちなんかはたしかに人よりいろいろとぺったんこな気があるけど、それも洗練次第だと思う。健脚美や、腰の美しいくびれといったものも、また大きな評価点となるものだからね。僕の見たかぎり、君たちの身近では、ちょうどあの文なんかが、実にもっとも美しい足腰の周りをしていると思うよ。彼女の引き締まってほどよく肉づきのした、しなやかな脚線は、まさにカモシカと称していい見事さだと思う。実のところ、僕の眼力によると、あの小股の切れ上がり具合というのも、実にすばらしいと思うよ。彼女は僕のことなどなんとも思っていないからこう無防備に尻なんか向けていることがあるんだが、僕は時たまそれに見入ってしまうことがあるほどだ。多少僕の好みに合っているというのもあるけど、あれほど見目、形ともにいい尻というのは、なかなか見かけるものじゃないと思うよ。彼女はきっと鍛えているせいだろうね。締まるところが、これ以上ないくらいに締まっているんだな。外の世界では、そうそう、なんていったかな。すれんだーだったかな。鍛えていると言えば、白玉楼の庭師や紅魔館のメイドの子なんかは……」
霖之助は、調子に乗って喋り続けた。
「ふうん」
霊夢は半眼で言う。
「なるほど」
ニマニマした顔で、魔理沙が言った。
翌々日。
こんな記事が、文々。新聞の紙面を飾った。
『森近霖之助氏、大いに性癖を語ル』。
香霖堂。
ぎいい、とノックも無しに、扉が開かれた。
入ってきたのは、風見幽香である。
いつものチェックの入ったベストに黄色いリボンを揺らし、無表情で歩いてくる
いつもの、人好きのする、あのうわべばかりの笑顔がない。
「……」
幽香は番台に近づくと、立ち止まった。
霖之助は、幽香を見上げた。
「……」
いらっしゃい、とは言いづらい無言の雰囲気が発せられている。
ちょうど、あの忌まわしい新聞が、二人を挟んだ番台の上に置かれている。
幽香は、おもむろにそれを手に取った。
新聞の紙面に黙って目を通す。
「……」
やがて、幽香は新聞を置いた。
無言できびすを返す。
何も言わない。
てっきり何か言うかと思っていたのだが。
霖之助は、やや拍子抜けした顔をした。
幽香はそのまま店の入り口へ歩いていく。
そして、扉の前まで来ると、いきなりだん! と手近な壁に拳をついた。
霖之助は、少しびびってそちらを見た。
幽香は顔をうつむけ、ぷるぷると肩を震わせている。
そのまま、声を震わせ出す。
「く、くっくっくっく……」
何事か、と霖之助は見守った。
見ていると、幽香は肩をふるわせて、腹に手を当てている。身体をよじっているし、どうも笑っているように見えるが。
というか、明らかに笑い転げていた。
壁に拳をついて、腹を抱えて笑っている。
「……く、くっくく、あ、あはははは、あ、だ、ダメ。も、もう駄目。あ、あっはっはっはっは……ば、馬鹿じゃないの……ば、ば、く、く」
どうも、笑いすぎて苦しいらしく、背がちょっとくの字に曲がっている。
だん、だん、と、時折、拳で壁を叩く。
「あっはっはっはっは……」
「……」
「あー、も、もう、もうだめ。も、もう、馬鹿すぎる……はっはっは……」
霖之助が黙ってみていると、幽香は笑って笑って、やがて笑いやんだ。
「……はー、はー。あー、もう、もう、おかしい。あー、もう、もうやめて、私死んじゃう。あーもー」
目のはしを拭って、どうにか持ち直す。
そのまま店の扉を開ける。
扉が閉まる。
しん、と店内が一気に静まりかえった。
店の外から、また笑い声が聞こえてくる。
霖之助は、皮肉を返すヒマもなく、憮然と腕組みしていた。
どうやら、完全に笑いに来ただけらしい。
翌日には、慧音がやってきた。
「あなたは当分里への立ち入りは禁じます」
ぴしりと言って帰って行った。
言いに来ただけだったらしい。
同日の夕刻には、吸血鬼がやってきた。
「いや。面白い記事が載っていたものだからね」
にまにまと幼い顔を笑わせて言う。
もちろん、かたわらに咲夜をともなってである。
どうやら、これも完全に笑いに来ただけらしい。
翌日の昼過ぎには、所用で早苗がやってきた。
入って来るなり無言で「きっ」とこちらをにらみつけ、無言で買い物を済ませて、帰っていった。
さらに、その日の夕刻近くには妖夢がやってきた。
「あの……いえ、その、私は別に」
と、なにかごにょごにょと言うと帰って行った。
彼女の主人である、人の悪いという亡霊姫の差し金だろう。
「あっはっは! いや、なるほどなるほど、店主さんは、そう言う目で私を見ていてくださったんですね! いやいや知らなかった! これはこれはどうも、ありがとうございます! いや、まったく嬉しい限りだわ!」
三日目にようやく店にやってきた鴉天狗は、ばんばんと肩を叩き、盛大に笑い転げてくれた。
どうやらこれも、完全に笑いに来ただけらしい。
霖之助は、眉をひそめてにらんだが、効果はないようだ。
天狗の快活な笑い声を聞きながら、霖之助は思った。
(どうしてこうなった)
答える者は、どこにもなかったという。
霖之助に対する少女達の応対は、その後二週間ばかり続いてから、また元のように戻ったらしい。
A.ちょうしこくからだww
面白かったですw
香霖に心からのご冥福をお祈りします。
あ、
冥界も塞がってるの忘れてたww
もうあなた自身のことが何者なのかわからない……
とりあえずこの霖之助=無言坂さんの地なのだということが判明した。
例えの最初にゆうかりんが一番に上がってくるところが実にいい。あと、笑い死ぬゆうかりん可愛いww
女性には理解されないんだろうなあ
せめて男性客が増えたことを祈る
が、面白い。
普通だったらドン引きされても仕方ないが笑われたり二週間程度で態度が戻るあたり結構好かれてるんだな。
そして巧妙なSM放置プレイを楽しんでおられる…!
でもそれを表に出しちゃったのはアレだねえ……
かくいう私も意中の女性がいることに気がつかずこういった話をぶちまけてしまい、非常に気まずい雰囲気を味わったことがあります。皆さんもお気をつけください。
いやマジで。
こいつ実は俺の分身なんじゃないか、と思ってしまうくらい
魔理沙とか霊夢とか咲夜とか困ればいいんだ・・・
霖之助は男として何も悪くは無い!!!
応対がまた元のように戻っている辺り、若干愛されてる気もする。
勝手に記事にした文だと思う
そしてこんな事態になっても二週間でもとに戻るのもまた良いと思う
幽香りんエロ可愛すぎる天使か
>違う、これは霖之助という名の無言坂さんだ。
そして巧妙なSM放置プレイを楽しんでおられる…!
そういう趣味はないです。あと文が巨乳とか邪道ですね。文は美脚と尻です
さあさ霖之助さんや、私ともお話してくれんかね?
こんなに
“乏しい体が、豊満になる過程を望める”、と。
それはまるで葉の上を這うしか出来ない幼虫が、蛹から蝶となって大空へ羽ばたくかの様でもある。未だ少女としてのあどけなさを残す霊夢と魔理沙が、女性としての美しさを手に入れるまでの過程を、楽しむ事が出来るわけだ。
初めから美しい女性は、“美しい女性”としての歴史しか持ち合わせていない。それは流し読み、あるいは遠目で見る分には楽かもしれないが、ストーリー性がない。それに引き換え、美しさを後から身に付けた女性の歴史はストーリー性に満ちていて、素晴らしい。時には面白くなるような事もあり、時には涙で視界を覆う時もあるだろう。しかし、そういった変化が有るからこそ、その女性を真に愛する事が出来るのだ。
綺麗な蝶が見たければ、図鑑を開けば良い。けれど抱いてしまいたいと思える魅力を持つ蝶は、まず孵化する所から始まるのだ。欲望に忠実であれ、愛情に素直であれ。きっと作者様はそう仰りたかったのでしょう。
おっぱいって、いいですね。
男の子はおっぱいについて妥協しないのだ。
その気があるのは分かったから幻想入り(笑)でもやってろ
楽しく読むことができました。
ただ、仮に事実をありのままに話していたとしても、
それはセクハラまがいのエロおやじの発言となんら変わりないと思います。
エロおやじな霖之助もネタならありかと思いますが、
できれば言ってほしくない台詞でした。
しかし実際に質問者が魔理沙と霊夢だったなら、彼はもう少し配慮しそうな気もする……
……ってか逆に、女性内での猥談を聞いてしまったときの気まずさは異常だよね
※ただしイケメンに限る
いじらしい妖夢かあいよぉ妖夢
確かに後半部は少々くどく感じましたが
後日訪れた少女達の反応も合わせて面白かったです
誉めるとこは霖之助ハーレムにしなかった事くらいだな
しらねーよ