Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

暇を持て余した河童たちの遊び -TV編-

2010/02/18 22:41:49
最終更新
サイズ
8.53KB
ページ数
1

分類タグ

 フレームの右半分、その中央くらいに椛の姿がきちんと納まる。
「ぴーす」
 カメラの位置を合わせていると、椛がには、と笑って指でチョキを作ってみせた。まだ録画しているわけでもないのにと思い苦笑しつつも、でもカメラを向けられると自分もなんとなくやってしまうだろうな、とにとりも認める。
「このあたりかな」
 場所、角度、高さを定めて、三脚を固定する。
 ピントと露光も合わせて、最後にもう一度見栄えをチェックする。今度は少し緊張気味の椛の表情が、小さな枠の中でもはっきりと確認できた。
 簡易的に作ったスタジオも、フレームの中だけを見れば悪くない。
「よし。上出来でしょ」
「さすがにとりちゃん、何でもできる子」
「ふふん。褒めてもきゅうりしか出ないよ」
「それはいらない」
「……うん……だよね……」
 確認作業は全て終了。もちろん、ちゃんと録画できるとか、テープが入っているとか、基本的なことは予めチェック済みだ。
 にとりは、もう一度、よし、と気持ちを入れ替えるように言う。
「始めるよ。準備はいい?」
「いつでも!」
「青いランプがついたら収録開始だからね。じゃ――」
 カメラのボタンを押す。
 にとりはテーブルまで移動して、椛の隣に座る。
 簡単に髪を整えたら、カメラのほうをしっかりと見る。
 隣で椛がゆっくりと息を吐く音が聞こえる。
 青いランプが点灯した。


「みなさん、こんにちはー」
「こんにちはー!」
「はい、今日から映像つきでお届けすることになりました『にとショ』! 心機一転、でも今まで通りのノリでやっていきたいと思います。司会はお馴染み河城にとりと――」
「椛でお届けいたしますー」
「ついに映像つきになってしまいましたよ椛さん。感慨深いですねー」
「今までは音声だけだったもんね。どうなのかな? 初めて顔を見てがっかりしちゃった皆様にはごめんなさい」
「いやいや。椛さんなら大丈夫でしょ。みんな大喜びですって」
「そうかなー。ありがとう、にとりちゃん」
「いやいやー……今のはありがとうの場面じゃなくてもっと違う答えを期待する場面だったと思うんですけどねー」
「それにしてもびっくりだよね。皆様が応援してくれたからこそこの放送は成り立ってるんだよー」
「応援本当にありがとうございます」
「最初は仕事中に暇を持て余して適当に遊んでただけだったのにね」
「ええ、まあ、編集さん今のところカットでお願いしますねー」
「さあさあにとりちゃん、テレビ放送開始記念にお便りも届いてますよ」
「この人は本当にマイペースですねー。皆様おはがきありがとうございます」
「今日はまずはお便りコーナーからいきたいところだけど……その前に今までをちょっと振り返ってみましょう」
「第1回から面白い商品たくさん紹介して参りました。どれも概ね好評で嬉しいもんですよ」
「にとりちゃんのお風呂用自転車は1個も売れなかったよね」
「カットでお願いしますねー。もう、喜びの声もたくさん聞こえてきてて技術者冥利に尽きるってものです」
「あ、私ね、あれが好きだったよ。あの、すごい吸水力のスポンジたわしの実験に使ったお醤油」
「商品を褒める気がないことだけはよく伝わってくる素敵なコメントですねー」
「というわけで、おはがきコーナーいきましょう」
「まだ全然振り返ってませんがー?」
「私たちは常に前向きに進まなければならないのです。そう、技術の進展がそうであるように」
「なんでうまいこと言ったかのような」

「では最初のお便り紹介です。私が読んでいいんですよね?」
「どうぞ椛さん」
「はーい。ではでは。えっと、『にとりさんは、きゅうりしか食べないんですか?』」
「しょっぱなからテレビ化記念も商品もまったく関係ないですねー」
「そんな瑣末なことはどうでもよかったのであった」
「パクるな。……えーとあれだ。君たちは米しか食べないのかね? 以上です」
「なるほど、つまりにとりちゃんにとってきゅうりはお米なのですね」
「例えるなら、ね」
「お正月にはきゅうりを潰してこねて焼くのですね!」
「そうですね。次のお便りどうぞ」
「くすん。ええと……『ずばり、にとりさんの好きな人のタイプを教えてください!』」
「読むはがきはちゃんと選んだほうがいいと思うんだ椛さん」
「選んだ結果なんだにとりちゃん」
「人選ミスだったね椛さん。……えー、そうだね、一応答えておくけど……優しくて気遣いができる人ってことで」
「無難な回答ありがとうございます」
「無難言うな」
「次いくよー。『にとりさんの好きな色は何色ですか?』」
「いつからこの番組は私のプロファイル分析番組になったのかな椛さん」
「さっきです」
「肯定かよ。好きな色は青だけど」
「はい、ありがとうございます。では次、『にとりさんの好きな――』」
「いい加減にしなさいっ」

「……なんだかんだありましたが、ようやく今回の商品紹介コーナーです」
「わーぱちぱち」
「本日ご紹介いたしますのはこちら! どどーん。全自動だるま落としー」
「わあすごーい。でもお高いんでしょう~?」
「早いよ! 早すぎるよそのノリ!」
「ご注文はいますぐ、こちらまでー」
「だから早いよ! 終わらせないで!」
「あ! 大丈夫、にとりちゃんも可愛いからテレビの前の皆様もテンション上がってますよきっと!」
「遅いよ!!」




*********




 フレームの右半分、その中央くらいに椛の姿がきちんと納まる。
「にとりちゃん、これ新開発のぐーちょきぱー。これ一つで全部に勝つの」
 カメラの前で椛はよくわからない手を作っていた。
 が、とりあえずにとりは見なかったことにして冷静にカメラの位置調整を行う。
 2回目ということもあって、前回よりは順調に設置作業も進む。
 前回、第1回の映像は十分に満足のいく仕上がりだった。いいカメラを借りてきた甲斐があった、とにとりは思う。
 今日の収録もうまくいきますようにと祈りながら、カメラのボタンを押した。



「山のみなさーん、こんにちはー」
「こんにちはー」
「さあ『にとショ』テレビ版も今日が2回目。これからもこんな感じでよろしくなのですよ。司会は河城にとりと」
「椛でお送りいたしますー!」

「うっふふー。今日はにとりちゃんを驚かせようと思って、収録前まで内緒にしていたことがあるのです」
「うお?」
「なんとー。前回番組を見てくださったファンの方から、にとりちゃんにプレゼントが届いてましたー!」
「えっ………………え?」
「あ、あ、いいですね、驚いてますよ。編集さんいまのところスロー再生でお願いしますね」
「いやそんな衝撃の瞬間扱いにしなくても」
「ふっふーん。さあさあ。開けてくださいな」
「うー? うん、まあ」
「わくわく」
「おー……これは、リボン?」
「の、ブローチだねー」
「へえ」
「お便り読むね。『はじめまして、にとりさん。いつも番組楽しく聞かせていただいています。テレビ化おめでとうございました! 初めて見たにとりさんは想像以上に可愛くてドキがムネムネしてしまいました』」
「つっこまない方針でいくのでよろしく」
「『青が好きということだったので、青を選びました。もしご迷惑でなければ、このリボンを、にとりさんの帽子につけてみてください。とても似合うと思いますよ!』」
「それは……ありがとうございます。うん、驚いた」
「ささ、つけてください、つけてください、つけてください」
「なんで3回。つけるけど」
「……わあ。いいですねー」
「……似合う、かな?」
「うんうん。素敵だよにとりちゃん」
「あ、ありがとう」
「編集さん、今のところカットで」
「なんで!?」

「今日の商品紹介に参りましょうー」
「はーい。今日の商品はこちらだよ。真実の愛発見器ー」
「わあ、すごそう。どんなものなのかな?」
「これはね、人は生死と恐怖の極限状態に追い込まれてなお自己犠牲の愛を貫けるか実験するための設備一式で――」




 ぷち。
 ボタンを押して、録画を終了する。
「おつかれさまでした、にとりちゃん」
「……」
 にとりは、カメラの前で、椛に背中を向けて、ボタンを押した姿勢のままじっと佇む。
「にとりちゃん?」
「……このリボン、似合ってるかな?」
「ん? うん、似合ってると思うよ。にとりちゃんにはファンがいていいなあ」
「ファンねえ。どこにいるんだろうねえ」
「それはもちろん、山のどこかに。ううん、きっともっといっぱい」
「椛、ごめんね。2つほど連絡しないといけないことがあるんだ」
「うん?」
「1つ目。今日の収録はほとんど使えないかもしれない。……少なくとも、もうしばらくは」
「えっ? どうして? 商品がグロテスクだったから?」
「いやアレは前振りの単なるジョークだってば。……たまにはボケないといけない気がして、つい」
「普通にやっていればいいのに~」
「普通にやって面白い椛がちょっとうらやましいわ」
「で、それならどうして使えないのかな?」
「あー……うん。前回から、音声だけじゃなくて、映像つきになったでしょ」
「うん」
「思ったより編集が大変なんだよね、これ」
「結局にとりちゃんがやってるもんね」
「で、実は前回収録分、まだ放送してないんだよね。これ、2つ目の連絡」
「……ふえっ」
「あ」
 くるり。
 にとりは軽快に体を捻って、椛のほうを向いた。
「今の椛の驚きの声、貴重だった。顔も見ておけばよかった」
「……ふえ……え、え? だっていつもなら3日後くらいに放送してる……よね」
「だから、映像つきで大変だったんだ。ごめんね」
「え……えー……えー」
「リボン、帽子によく似合うね。好きな青色で嬉しいね」
「……」
「ファンね。どこにいるんだろうね?」
 にとりは微笑んで、また椛に背中を向ける。
 腕を頭の後ろに組む。
「困っちゃったなあ。来るはずのないお便りが届いちゃった。今回の収録、ちょっとした不思議現象になっちゃう」
「……うー……うー……! にとりちゃんの、意地悪……」
「あ、ごめん。あと2つ、連絡することが増えたみたい」
「……う?」
「――ありがとう。嬉しいな」
「……! う……あう……えー。……お礼は、私に言われても困るんだもん。……ファンの子に言ってあげないと」
「ああそう。じゃあ、ファンの子に伝えてほしいことが、最後の1つ」
 にとりは、リボンに手を伸ばす。
 それをそっと摘んで、言った。
「スポンジたわしをこんな細かいリボンに加工するのは、頑張りすぎだよ……」
いきなり何の説明もなくにとりと椛が通販番組やっていたりしますが、暇を持て余した結果なので許してあげてください。
そしてどんだけリボン好きなんだ自分。
村人。
http://murabito.sakura.ne.jp/scm/
コメント



1.ぺ・四潤削除
っっくはぁぁぁぁぁああああ!!!! 甘すぎて吐きそうだ!!

たまにギャグかと思ったらやっぱり甘々か!!
「全自動だるま落とし」って本当に何に使うんだwww
2.名前が無い程度の能力削除
このSS、本当に大好きです。

続編も期待しちゃったり…(チラッ
3.名前が無い程度の能力削除
もみにと!もみにとじゃないか!
ごちそうさまでした
4.奇声を発する程度の能力削除
>全自動だるま落とし
お正月に役に立ちそうw

続編期待してます!
5.ずわいがに削除
閃いた。この二人結婚すれば良いんだ!
6.名前が無い程度の能力削除
最後の一文ちょっと待った w
どうやって加工を…
7.名前が無い程度の能力削除
村人。さんの描く人物ではもちろん魔女っ娘倶楽部が好きだけど、
これはまた甘々しい……椛の天然ぷりがたまんねー
8.名前が無い程度の能力削除
これは良いにともみ
9.名前が無い程度の能力削除
村上。さんの作品で2月も乗り切れそうです。
テンポ〇
10.謳魚削除
むぉむぃぬぃとぅおぉぉぉぉぉでゅわいしゅきぃぃぃぃぃ!!!!!!(何言ってんのかわかんねぇよ)

あ、椛っちゃんは手先のスキルが(にとりんが絡むと)幻想郷一なんですね分かります。
11.名前が無い程度の能力削除
ボケボケのフリして実はにとり大好きな椛だと・・・
最高すぎる

是非続編が読みたいです!
12.うり坊削除
素晴らしい!素晴らしい百合だ!