「一輪の存在意義って何なの?」
…え、何?よく聞こえない。
「だからぁ、一輪はどうしているのかなって?」
え?
ぬえの発したその言葉に、命蓮寺全体が固まった。
今は夕食の時間なので、一同が食卓に集まっているときである。
平和だったはずの食卓に、ぴゅうと一陣の風が吹いた気がした。
しかし、食卓につくや否や、いきなり何を言い出すのかこの鵺。こんなタイミングでそんな爆弾発言をして。
それを言うくらいならせめて一対一のときに言って欲しかったなぁ…と、思ってるのは言われた私こと雲居一輪本人である。
「私がどうしているのか、と言われても…ねぇ」
「えー、一輪がどうしているのかなと考えていたんだけど、分からなくなっちゃって」
う。それを言われると痛い。
確かに私は姐さん一筋歴1000年とちょっとの大ベテランだが、そんなことを考えたことは一度もなかった。
この間の異変だって、宝物庫と聖輦船の守護をすると言った大義名分はあったのだが…。
「実際には人間が強すぎて意味が無かった…と」
考えてた部分をムラサに先読みされる。…ああそうですよ、あの人間たちは強すぎて歯が立たなかったですよこんちくしょー。
しかも緑の巫女を説得しようとしたけど、喜々とされましたよ。妖怪退治は楽しいですよねって言われましたよ。しかも眩しい笑顔で。
…まあ、その件については百歩か三歩譲っても、だ。宝物庫は地上に移動する際変わったし、私は何のためにここにいるのだろうか?
もしかしたら、世間の皆は私のことを聖を法界まで追っかけ隊の第一号くらいにしか見てないのかもしれない…。
「ダメですよ、ぬえ。一輪は私たちの大事な仲間でしょう?」
と、私が悩んでいたところで姐さんがしっかりとフォローしてくれる。姐さんさすがです。
でも、ぬえはやはりそう簡単には納得してくれないみたいで。
「えー?でも白蓮、一輪は熱心な聖追っかけ以外に何があるっていうのー?」
なんかそれしか取り柄がみたいな言い方された。私本人が目の前にいるというのに、このぬえ中々肝が据わっている。
…いや、もしかしたら空気が読めないだけなのかもしれないけど。
ついでに私の隣にいる雲山も大きく自分を膨らまして自分をアピールしている。
ああ、お願いだからこれ以上大きくならないで。私の存在がますます薄くなっちゃうから。
「でも一輪はずっと前からいるが、どうして聖についていってるか気になるな」
「ええまあ、私も気にはなりますが、今まで気にかけたことはないですよ?」
「だから一輪は熱狂的な白蓮信者でー…ふぎゅ!」
「ああもうぬえは喋らない。あんたが話すとろくでもないことにしかならないんだから」
いつの間にやら、皆の話題は私のことについてになっていた。
普段あまりこういった話に加わらない星やナズーリンまで、私のことを話しているとは。
…普段目立たない私だけど、話題になるのはちょっとだけ嬉しかったりする。いや、話題にされるだけでも素直に嬉しい。えへへ。
「まあ聖を慕うのにもそれぞれ理由があるし、深くまで聞いちゃいけないな」
「そうですね。それでは一輪の魅力とは一体何があるのでしょう…」
「むぐぐ…ムラサぁ!私にも喋らせてよー!」
「ダメ。あの二人は私たちとは考えがまた違うの。ぬえが入っても多分全面的にスルーよ?」
「…ムラサのカレー飽ーきたー」
「あぁ!?私のカレーが食えないと申すかこらー!?」
でも、こうして見ていると…。
なんか、如何にも私のことを話してるように見える…まあムラサとぬえはいつものように脱線コース一直線だけど。
結局私、はぶられてない?この場にいる意味ないんじゃない私?
…ダメだダメだ!何故私は自分が存在しちゃいけないみたいなこと言ってるんだ!
私は姐さんのため、いや、寺の皆のためにここにいるはずなんだ!何にも疾しいことは考えてない!
………。
…でも、こう言われてるとやっぱり少しは不安にもなる。いい機会だし、自分の特徴でも考えてみようかな。
相変わらず大きいままの雲山の頭の上に乗っかりながら、私はちょっと考えてみた。
まず、スペルカード。
名前だけなら誰にも負けないインパクトがあるはず!
雲山と二人で協力して作ったスペル。これなら…と、思った。が。
考えてみると、ムラサはアンカーと耐久弾幕、星は絶対正義と独鈷杵、ナズーリンはペンデュラムとロッド、姐さんはエア巻物と超人化、ぬえはUFOにスネークにキメラ。
…あれ、私霞んでない?しかも、私のスペルの特徴である拳骨と眼力フラッシュは全部雲山がやっている。
私、雲山が放つ拳骨を必死で避けてるくらい。後は普通の弾を撃つくらい。
…。…うん、次だ。まだ次がある。私はこの考えを早々に切ることにした。
次に考えついたのは、宝物庫警備や門番。
この寺が船だったときは自主的にやっていた仕事でもある。これはどうだろう。
…しかし、今現在宝物庫は場所を移され皆の目につくとこに保管されてるし、人里には門番をするほど危険な輩はいない。
しかも、人間の案内役とかはムラサや星が基本やっているので、私は基本読経をしているくらいだ。
…。…まだだ。まだ諦めない。他にもあるはず。
他にも考えたのは、この頭巾。
まあこれは尼さんとして着けなければいけないものだから、そんなに気にかからなかったけど。
でも、髪がほとんど見えないのはどうも幻想郷では生き抜けられないらしい。需要はあるとは思ってたけれど、そう簡単には上手くいかないみたい。
…。もしかして、本当に何もないわけじゃないよね…?
段々と不安になっていく一輪。必死になって考えてみる。
性格は真面目すぎる、固すぎると言われがち。自覚はちょっとあるけれど。
服装も地味なほうだし、そんなに目立った派手さもない。あるのは雲山を使役するための金の輪っか。
次第に焦りが浮かんでくる。…本当に、本当に何もなかったらまずい。
そして、一番最後にふっと考えついた考え。それは…。
雲山を出すためだけに付け加えられたそんz…。
…うん。これはない。絶対にないな。ないと信じたい。いや信じさせて。そうでないと私耐えられない。
自分の存在がそんな安っぽいわけがない。そう、私はここにいたっていいんだ。…いいんだよね?
何故か物凄く息苦しさを覚えた一輪は、雲山の上から力なく下を見下ろしてみる。
相変わらず星とナズーリンの論議は続いてるし、ムラサもぬえと子供っぽい言いあいしてるし…。
はあ、と溜息をはく一輪。どうしてこうなっちゃったんだろ。
そのまま一輪が下を見下ろしていると、あることにすぐ気がついた。それは一輪にとってももっとも大事な存在だから、すぐに気付けた。
白蓮が、姐さんが困っていたのだ。
頭が覚め、はっとする。私の姐さんが困っているということじゃなくて、もっと別なところに。
今この場が何のときなのか、姐さんの表情を見てようやく思い出した。
この事態を長引かせたら取り返しのつかないことになる、と思った一輪は急いで金の輪を構え、雲山を使役する。
雲山の方も気付いたようで、自分の力を見せてやろうと張り切ってるようだ。…よし、これならいける。
そして私は思いっきり息を吸い込み、皆に気づいてもらえるように力一杯に叫んだ。
「皆私の話を聞け―――――っ!!」
叫んだと同時に、雲山が拳骨を振るう。勿論、皆に当たらないように。
当然皆驚き、何事かと思って私を見上げてくる。雲山、フォローありがとう。やっぱり私の相棒はあなただけよ。
雲山のお膳立てもあって、今の私は注目の的。いわば主役だ。これならちゃんと、私の言いたいことが分かるはずだ。
「もー一輪、そんなに大きな声を出してなによー?」
「何じゃないっ!皆大事なことを忘れていやしないかしら!?」
えっ?とお互いがお互いを見合う。
…まだ気づいていないのか。それならちゃんと言わなくてはならないだろう。
気付かせるように、「それ」にびしぃっと指を指す。
そして、私は力強く言い放った。
「姐さんの作った夕食が、冷めちゃうじゃない!」
私が指さしたものは、食卓に置かれていた夕食。
そう。今は夕食、食事の時間だ。駄弁る時間ではないのだ。
あ、と一斉に皆が姐さんを見る。
姐さんは目にちょっと涙を溜めていて、すぐにでも泣きだしそうだった。
しーんと辺りが静まり返る。
姐さんは俯き加減にしたままで、小さい声でほそぼそと呟いた。
「…お食事、冷めちゃう…」
姐さんの言葉を聞いたその瞬間、皆が弾かれたかのように反応し、次々に姐さんを慰め始めたのだった。
「…す、すまない聖…つい熱くなってしまって…」
「あああ聖、大丈夫ですかっ?だ、大丈夫ですって!夕食は今から食べればまだあったかいですから、ねっ?」
「そそ、そうですよ!ですから聖、どうか気を落とさずに…」
「…あー、うん。夕食時なのにこの話はまずかったかな…。ごめん、白蓮」
…結局、皆姐さんのことが大好きなのだ。
私と雲山もそうだが、ナズーリンもムラサも星もぬえも、皆姐さんが好き。
夕食は温かいうちに食べないと、姐さんは悲しんでしまう。なんでも温かいうちに皆で食べてこそ、美味しいのだとか。
私もそう思うし、考えていたら自然におなかが減っていた。だから一番最初に気づけたのだ。
「…やれやれ」
すとん、と雲山から降りる。
こうして考えてみると、私の立場はこんなものが向いているかもしれない。
簡単に言うと、皆が熱くなったときのストッパー役。
ナズーリンも冷静な方なのだが、本人の力が少し弱くいまいち押しが弱い。
ムラサはアンカーを常に持ってる分力が強いのだが、ぬえと口喧嘩する辺りまだまだ。
星は真面目なのだが、真面目すぎるところが影響してるのか見る幅が少々狭く、細かいところまで目が行かない。
ぬえはお調子者だから度々トラブルを起こしがちだし、止めるどころか火に油を注いでしまうだろう。
となれば、このメンツを止められるのは私くらいしかいないわけで。
姐さんの場合一言言えば済むのだが、もし姐さんがいなければどうしようもない。
そんな時は私の出番というわけだ。多少強引でも、雲山の力を使えば丸く収まる。
そして何より、真面目で頭が固い私だからこそ出来ることだ。それくらいの方が、この人たちにとってはちょうどいい。
今必死で皆が姐さんを慰めてるのを見ると、尚更それが強調されるのだった。
「…さ。そんなことしてたら夕食がますます冷めちゃうわよ。早く皆席について」
ぱんぱんと手を鳴らし、皆を席につかせる。
皆も分かってくれてるようで、ちゃんと席についてくれた。
後は、姐さんを席につかせるだけ。…念のため、一応私も慰めておこう。
「ほら、姐さんも席について。ご飯は皆で食べたほうが楽しい、そうでしょ?」
「ん…そうね。ありがとう、一輪…」
「い、いえいえそんな。私はただ、自分が出来ることをしただけですからっ」
こうして面に向かって感謝されると、やっぱり私でも照れてしまう。
…そしてたった今気付いたことだが、私と姐さんの様子を見て皆にやにやしていた。あろうことか星やナズーリンまで。
自分が関わってないと分かれば、これ見よがしに見物にするとは。
ちょっといらっとするけど、姐さんが近くにいるだけで、その怒りも消えてしまうのだった。
ああ、私もまだまだ甘いな。と自分で思う。雲山も、そう思うわいと頷いていた。…こういうときは同調するのね。まあいいんだけど、さ。
「さ、ここに…」
「ええ。…その前に…」
「?」
そのまま姐さんをエスコートし、席に着く間際、姐さんは私にしか聞こえない声で私に言うのだった。
「…一輪。あなたの為すべきこと、分かりましたね?」
そして、私に向かってにっこりと笑いかけてきた。瞬時に、その笑顔の意味が理解できた。
…なーんだ。そっか。
姐さんは私がこうすると分かってて、敢えて黙っていたんだ。
私の立場を、姐さんは教えてくれたんだ。私がいないときは、あなたがこの子たちを止めてやってくださいね、と。
違ったとしても、なんだかそんな気がした。
…姐さん。私はやっぱり、まだまだあなたには敵いませんよ。
小さく笑った後、私も姐さんも席に座り、全員が席に座った。
誰とも言わず、皆が手を合わせる。そして、いつものように皆で元気よく、あのお決まりの言葉を言うのだった。
『いただきます』
あなたは、誰のために存在していますか?
END
…え、何?よく聞こえない。
「だからぁ、一輪はどうしているのかなって?」
え?
ぬえの発したその言葉に、命蓮寺全体が固まった。
今は夕食の時間なので、一同が食卓に集まっているときである。
平和だったはずの食卓に、ぴゅうと一陣の風が吹いた気がした。
しかし、食卓につくや否や、いきなり何を言い出すのかこの鵺。こんなタイミングでそんな爆弾発言をして。
それを言うくらいならせめて一対一のときに言って欲しかったなぁ…と、思ってるのは言われた私こと雲居一輪本人である。
「私がどうしているのか、と言われても…ねぇ」
「えー、一輪がどうしているのかなと考えていたんだけど、分からなくなっちゃって」
う。それを言われると痛い。
確かに私は姐さん一筋歴1000年とちょっとの大ベテランだが、そんなことを考えたことは一度もなかった。
この間の異変だって、宝物庫と聖輦船の守護をすると言った大義名分はあったのだが…。
「実際には人間が強すぎて意味が無かった…と」
考えてた部分をムラサに先読みされる。…ああそうですよ、あの人間たちは強すぎて歯が立たなかったですよこんちくしょー。
しかも緑の巫女を説得しようとしたけど、喜々とされましたよ。妖怪退治は楽しいですよねって言われましたよ。しかも眩しい笑顔で。
…まあ、その件については百歩か三歩譲っても、だ。宝物庫は地上に移動する際変わったし、私は何のためにここにいるのだろうか?
もしかしたら、世間の皆は私のことを聖を法界まで追っかけ隊の第一号くらいにしか見てないのかもしれない…。
「ダメですよ、ぬえ。一輪は私たちの大事な仲間でしょう?」
と、私が悩んでいたところで姐さんがしっかりとフォローしてくれる。姐さんさすがです。
でも、ぬえはやはりそう簡単には納得してくれないみたいで。
「えー?でも白蓮、一輪は熱心な聖追っかけ以外に何があるっていうのー?」
なんかそれしか取り柄がみたいな言い方された。私本人が目の前にいるというのに、このぬえ中々肝が据わっている。
…いや、もしかしたら空気が読めないだけなのかもしれないけど。
ついでに私の隣にいる雲山も大きく自分を膨らまして自分をアピールしている。
ああ、お願いだからこれ以上大きくならないで。私の存在がますます薄くなっちゃうから。
「でも一輪はずっと前からいるが、どうして聖についていってるか気になるな」
「ええまあ、私も気にはなりますが、今まで気にかけたことはないですよ?」
「だから一輪は熱狂的な白蓮信者でー…ふぎゅ!」
「ああもうぬえは喋らない。あんたが話すとろくでもないことにしかならないんだから」
いつの間にやら、皆の話題は私のことについてになっていた。
普段あまりこういった話に加わらない星やナズーリンまで、私のことを話しているとは。
…普段目立たない私だけど、話題になるのはちょっとだけ嬉しかったりする。いや、話題にされるだけでも素直に嬉しい。えへへ。
「まあ聖を慕うのにもそれぞれ理由があるし、深くまで聞いちゃいけないな」
「そうですね。それでは一輪の魅力とは一体何があるのでしょう…」
「むぐぐ…ムラサぁ!私にも喋らせてよー!」
「ダメ。あの二人は私たちとは考えがまた違うの。ぬえが入っても多分全面的にスルーよ?」
「…ムラサのカレー飽ーきたー」
「あぁ!?私のカレーが食えないと申すかこらー!?」
でも、こうして見ていると…。
なんか、如何にも私のことを話してるように見える…まあムラサとぬえはいつものように脱線コース一直線だけど。
結局私、はぶられてない?この場にいる意味ないんじゃない私?
…ダメだダメだ!何故私は自分が存在しちゃいけないみたいなこと言ってるんだ!
私は姐さんのため、いや、寺の皆のためにここにいるはずなんだ!何にも疾しいことは考えてない!
………。
…でも、こう言われてるとやっぱり少しは不安にもなる。いい機会だし、自分の特徴でも考えてみようかな。
相変わらず大きいままの雲山の頭の上に乗っかりながら、私はちょっと考えてみた。
まず、スペルカード。
名前だけなら誰にも負けないインパクトがあるはず!
雲山と二人で協力して作ったスペル。これなら…と、思った。が。
考えてみると、ムラサはアンカーと耐久弾幕、星は絶対正義と独鈷杵、ナズーリンはペンデュラムとロッド、姐さんはエア巻物と超人化、ぬえはUFOにスネークにキメラ。
…あれ、私霞んでない?しかも、私のスペルの特徴である拳骨と眼力フラッシュは全部雲山がやっている。
私、雲山が放つ拳骨を必死で避けてるくらい。後は普通の弾を撃つくらい。
…。…うん、次だ。まだ次がある。私はこの考えを早々に切ることにした。
次に考えついたのは、宝物庫警備や門番。
この寺が船だったときは自主的にやっていた仕事でもある。これはどうだろう。
…しかし、今現在宝物庫は場所を移され皆の目につくとこに保管されてるし、人里には門番をするほど危険な輩はいない。
しかも、人間の案内役とかはムラサや星が基本やっているので、私は基本読経をしているくらいだ。
…。…まだだ。まだ諦めない。他にもあるはず。
他にも考えたのは、この頭巾。
まあこれは尼さんとして着けなければいけないものだから、そんなに気にかからなかったけど。
でも、髪がほとんど見えないのはどうも幻想郷では生き抜けられないらしい。需要はあるとは思ってたけれど、そう簡単には上手くいかないみたい。
…。もしかして、本当に何もないわけじゃないよね…?
段々と不安になっていく一輪。必死になって考えてみる。
性格は真面目すぎる、固すぎると言われがち。自覚はちょっとあるけれど。
服装も地味なほうだし、そんなに目立った派手さもない。あるのは雲山を使役するための金の輪っか。
次第に焦りが浮かんでくる。…本当に、本当に何もなかったらまずい。
そして、一番最後にふっと考えついた考え。それは…。
雲山を出すためだけに付け加えられたそんz…。
…うん。これはない。絶対にないな。ないと信じたい。いや信じさせて。そうでないと私耐えられない。
自分の存在がそんな安っぽいわけがない。そう、私はここにいたっていいんだ。…いいんだよね?
何故か物凄く息苦しさを覚えた一輪は、雲山の上から力なく下を見下ろしてみる。
相変わらず星とナズーリンの論議は続いてるし、ムラサもぬえと子供っぽい言いあいしてるし…。
はあ、と溜息をはく一輪。どうしてこうなっちゃったんだろ。
そのまま一輪が下を見下ろしていると、あることにすぐ気がついた。それは一輪にとってももっとも大事な存在だから、すぐに気付けた。
白蓮が、姐さんが困っていたのだ。
頭が覚め、はっとする。私の姐さんが困っているということじゃなくて、もっと別なところに。
今この場が何のときなのか、姐さんの表情を見てようやく思い出した。
この事態を長引かせたら取り返しのつかないことになる、と思った一輪は急いで金の輪を構え、雲山を使役する。
雲山の方も気付いたようで、自分の力を見せてやろうと張り切ってるようだ。…よし、これならいける。
そして私は思いっきり息を吸い込み、皆に気づいてもらえるように力一杯に叫んだ。
「皆私の話を聞け―――――っ!!」
叫んだと同時に、雲山が拳骨を振るう。勿論、皆に当たらないように。
当然皆驚き、何事かと思って私を見上げてくる。雲山、フォローありがとう。やっぱり私の相棒はあなただけよ。
雲山のお膳立てもあって、今の私は注目の的。いわば主役だ。これならちゃんと、私の言いたいことが分かるはずだ。
「もー一輪、そんなに大きな声を出してなによー?」
「何じゃないっ!皆大事なことを忘れていやしないかしら!?」
えっ?とお互いがお互いを見合う。
…まだ気づいていないのか。それならちゃんと言わなくてはならないだろう。
気付かせるように、「それ」にびしぃっと指を指す。
そして、私は力強く言い放った。
「姐さんの作った夕食が、冷めちゃうじゃない!」
私が指さしたものは、食卓に置かれていた夕食。
そう。今は夕食、食事の時間だ。駄弁る時間ではないのだ。
あ、と一斉に皆が姐さんを見る。
姐さんは目にちょっと涙を溜めていて、すぐにでも泣きだしそうだった。
しーんと辺りが静まり返る。
姐さんは俯き加減にしたままで、小さい声でほそぼそと呟いた。
「…お食事、冷めちゃう…」
姐さんの言葉を聞いたその瞬間、皆が弾かれたかのように反応し、次々に姐さんを慰め始めたのだった。
「…す、すまない聖…つい熱くなってしまって…」
「あああ聖、大丈夫ですかっ?だ、大丈夫ですって!夕食は今から食べればまだあったかいですから、ねっ?」
「そそ、そうですよ!ですから聖、どうか気を落とさずに…」
「…あー、うん。夕食時なのにこの話はまずかったかな…。ごめん、白蓮」
…結局、皆姐さんのことが大好きなのだ。
私と雲山もそうだが、ナズーリンもムラサも星もぬえも、皆姐さんが好き。
夕食は温かいうちに食べないと、姐さんは悲しんでしまう。なんでも温かいうちに皆で食べてこそ、美味しいのだとか。
私もそう思うし、考えていたら自然におなかが減っていた。だから一番最初に気づけたのだ。
「…やれやれ」
すとん、と雲山から降りる。
こうして考えてみると、私の立場はこんなものが向いているかもしれない。
簡単に言うと、皆が熱くなったときのストッパー役。
ナズーリンも冷静な方なのだが、本人の力が少し弱くいまいち押しが弱い。
ムラサはアンカーを常に持ってる分力が強いのだが、ぬえと口喧嘩する辺りまだまだ。
星は真面目なのだが、真面目すぎるところが影響してるのか見る幅が少々狭く、細かいところまで目が行かない。
ぬえはお調子者だから度々トラブルを起こしがちだし、止めるどころか火に油を注いでしまうだろう。
となれば、このメンツを止められるのは私くらいしかいないわけで。
姐さんの場合一言言えば済むのだが、もし姐さんがいなければどうしようもない。
そんな時は私の出番というわけだ。多少強引でも、雲山の力を使えば丸く収まる。
そして何より、真面目で頭が固い私だからこそ出来ることだ。それくらいの方が、この人たちにとってはちょうどいい。
今必死で皆が姐さんを慰めてるのを見ると、尚更それが強調されるのだった。
「…さ。そんなことしてたら夕食がますます冷めちゃうわよ。早く皆席について」
ぱんぱんと手を鳴らし、皆を席につかせる。
皆も分かってくれてるようで、ちゃんと席についてくれた。
後は、姐さんを席につかせるだけ。…念のため、一応私も慰めておこう。
「ほら、姐さんも席について。ご飯は皆で食べたほうが楽しい、そうでしょ?」
「ん…そうね。ありがとう、一輪…」
「い、いえいえそんな。私はただ、自分が出来ることをしただけですからっ」
こうして面に向かって感謝されると、やっぱり私でも照れてしまう。
…そしてたった今気付いたことだが、私と姐さんの様子を見て皆にやにやしていた。あろうことか星やナズーリンまで。
自分が関わってないと分かれば、これ見よがしに見物にするとは。
ちょっといらっとするけど、姐さんが近くにいるだけで、その怒りも消えてしまうのだった。
ああ、私もまだまだ甘いな。と自分で思う。雲山も、そう思うわいと頷いていた。…こういうときは同調するのね。まあいいんだけど、さ。
「さ、ここに…」
「ええ。…その前に…」
「?」
そのまま姐さんをエスコートし、席に着く間際、姐さんは私にしか聞こえない声で私に言うのだった。
「…一輪。あなたの為すべきこと、分かりましたね?」
そして、私に向かってにっこりと笑いかけてきた。瞬時に、その笑顔の意味が理解できた。
…なーんだ。そっか。
姐さんは私がこうすると分かってて、敢えて黙っていたんだ。
私の立場を、姐さんは教えてくれたんだ。私がいないときは、あなたがこの子たちを止めてやってくださいね、と。
違ったとしても、なんだかそんな気がした。
…姐さん。私はやっぱり、まだまだあなたには敵いませんよ。
小さく笑った後、私も姐さんも席に座り、全員が席に座った。
誰とも言わず、皆が手を合わせる。そして、いつものように皆で元気よく、あのお決まりの言葉を言うのだった。
『いただきます』
あなたは、誰のために存在していますか?
END
それはともかく、いっちゃん可愛いよ!
みんなの姐さんという存在意義でいいじゃない
まあ、戯言は置いといて、
放っておくと悪い人に騙され易いおっとりお母さん、見た目はしっかり者。だけど中身はおとぼけな長女、やんちゃな三女とトラブルメイカーな遊び友達、冷静だけど我関せずな末っ子。このメンバーには家計を切り盛りするしっかり者の次女が居ないと駄目だろう。
なんかの4コマのキャラ構成みたいだなwww
三幹部の中では一番まともではなかろうか
きっと縁の下を支える存在なのだよ、地味な役割だけど
星とナズーリンは全力で攻めに突っ込む
いっちゃんは全力で守りに突っ込むいめーじ
ともあれ聖姐さんの優しさに感服いたしました。命蓮寺は仲が良いのが一番ですね。
一勢力に一人は必要だと思うんだ、「真面目で堅苦しい」の人
カオスになりがちな他の勢力の事を思えば一輪はいい存在だと思うw
…全員「~りん」かよ
流石は……あの、えーと、何だっけ?あのー、雲山遣いの人だ。
いい挟まれ役。
超がんばれ
参謀兼副官的な存在といえるかも。
なかなか美味しいポジションじゃないか!
>>1の無休さん
各勢力にはストッパーが必ず一人は必要だと思います。
一輪さんがしっかり者していないと大変なはずです。
>>2の奇声を発する程度の能力さん
最後のは入れるべきか少しだけ迷いました。ですが敢えて入れるという形で。
一輪さんにはまだまだ魅力があると思います。
>>3さん
白蓮が動かない代わりに一輪さんが動く。そういう考え方もあるのか!
>>4のぺ・四潤さん
命蓮寺は個々の性格がはっきりしている気がしますね。
もっと皆も一輪さんの魅力に気づいてほしいと思います。
>>5さん
地味な役割が、実は大元を支えていることもあるのです。
星やムラサではそこまで手が回らないので、代わりに…という感じでしょうか。
>>6さん
ここだけの話、始め見たときサッカーの布陣かと思いました。上の作品がちょうどサッカーでしたので。
その場合ですと白蓮はどこのポジションになるのでしょうか。
>>7さん
白蓮は時々やらかしてしまいますが、それ以外は割としっかりとしています。
見えないカリスマが存在しているのです。
>>8さん
常識にとらわれては云々より、真面目な人の方が少ない今日この頃。
いつか真面目な人だけの談合の様子を書いてみたいものですね。
>>9さん
最下位でも、いなければ困る人達です。
そして誕生した新たな法則、「りん」の法則…。その発想はさすがになかった。
>>10のずわいがにさん
某インタビューの話を聞いたら逆に応援したくなりました。
雲山さんにも負けず劣らず、頑張れ雲居さん。
>>11さん
どこがデリケートだったのか分かりませんでしたが、少々申し訳ないなぁ…。
うっかりこういうこともあるから、こういったネタは気をつけた方が良かったのかも…。
>>12さん
僧兵一輪さん。
その場合一輪さんはがんがん突撃していくんでしょうね。
飛んでくる弓矢等は雲山さんが叩き落としてくれたり。…あれ、もしかして相当強いのでは?
>>13さん
逆に非常に使いやすいのでは、と思っております。
何の繋がりがないよりも、何かと挟まれ役の方が出番は相対的に多くなりますからね。
>>14のちゃいなさん
好きな作家さん来た!これで勝つ…失礼しました。
一輪さんは命蓮寺の溢れる個性の中で埋もれることなく、どうにか頑張ってほしいものです。
>>15さん
なんだかんだ言って一輪さんは命蓮寺の中では頭が切れる方だと思います。
これからの一輪さんに期待。