Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

2010/02/17 18:45:07
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ついうっかりと。
人間を殺してしまった。





ついうっかり。
ほんのすこしだ。
そう、ほんのすこし「ふざけすぎた」だけだった。
ちょっと力を入れすぎただけ。
まさかあんなことで。
(あんなことで)
まさか、あんなことで首の骨がぽっきりといってしまうなんて。
(畜生、もろすぎるだろ……)
どうする。
そうしよう。
まずいよ。
そう、まずい。
(そう、まずいんだ。そう、まずいんだよ。まずい……)
何かは分からないが、まずい。
なんだっけ。
まずい。
まずい。
思考がすかすかと空回りしている。
混乱しているのだ。
(そう……まずいんだ。人間を無闇に殺したら、罰を受けるんだ。そうだよ、八雲の賢人様が、そう決めてる)
そこまで考えて、歯が鳴っているのに気がついた。
顔色は、たぶん真っ白だろう。
謝って済むことではない。
その上、取り返しもつかない。
どうしようどうしよう。
そうだ。
隠そう。
「そうだ、か、隠しちゃえばいいんだ……だ、だっ誰にも見つからないように! そう、全部、全部食べちゃえば……」
「あら、駄目よ」
「ひっひゃあ゙っ!!」
どがっ、がらがら、がったん!
でかい音が上がった。
そのぶん、ただでさえ静かだった廃屋が、さらに静まりかえる。
「だっだっだっ誰だっ!! だれだっ!?」
「あら、ご免なさい。でもあんまり騒がしくしない方が良いですよ。人が来るかも知れないでしょう?」
ぴたりと息をひそめる。
そう、だれかこられるのは困る。
はあ、はあ、と荒い息がもれる。
裸の尻が、ぴたりと冷たい。
鼓動が押さえきれない。
「どうも。ええ、たしかに全部食べてしまうというのは良い案ですけどね。56点というところかしら。人間というのは意外と鼻が利きますし、それに誰であれ、里に暮らす身である以上は、身元も保証されていますし……そう。それだけでは、あなたが逃げきれる確率は低い。むしろ、食べてしまったら露骨に妖怪の仕業とされるんじゃないの? 思うに、あなたが人間の捜索から逃げるよりは、天狗の手から逃げることの方が、だいぶ難しいように思えるのだけどね。いえ、はっきりと不可能ね。一晩ほどで白狼天狗の手にかかり、裁定の場に連れていかれると断言できますわ」
ごくりと唾を飲んだ。
こいつは、こいつは見ていた。
見ていたんだ。
(いや、まだ見ていたかどうかはわからない)
そうだ、見ていたかどうかはわからない。
そんなことを一瞬思う。
しらばくれれば、大丈夫か。
「さて、あなたは今こう考えるかも知れない。ここでしらばくれれば大丈夫だと。私にはどうせ、自分が殺したところは見られていないから。うふふ。冷静になって、馬鹿な考えをお捨てなさい。頭が熱した生き物というのは合理的な考えができないものなの。妖怪であってもね。ほら、やくたいもないことを考えているから、私にそこをつかれて動揺してしまった。あなたでは、しらばくれるのもとうてい無理ですね。私にこう断言されて、もう少し信じ込んでしまっているでしょう? あなたは、ちょっとわかりやすすぎるわね。ああ、そう。そして、あなたのような輩が次に考えるのは、もうやぶれかぶれで私を殺してしまおうということ。本当に単調ですね。全然面白くないわ、あなた。もうここで、スキマに送っちゃおうかしら」
はあ、はあ、と荒い息を吐く。
身体が動かなかった。
目だけがやけにぎょろぎょろと動く。
なんなんだこいつ。
なんにもできない。
畜生。
「畜生……、畜生……、」
ぼろぼろと涙がこぼれた。
手をついて、泣きくずれる。
身体に力が入らない。
もうなにもかも終わりだ。
「なあ、やめてくれよ……ばらさないで……私、わたし……」
「あらあら、今度は泣き落としですか。まったくしようのない……」
目の前の妖怪は、扇子をそよがせた。
眉をひそめて言う。
「そんなんじゃ、ただでさえはしたない恰好が、余計みすぼらしく見えますわね。せめて、前を隠していただけませんか? 私、これでもけっこう慎み深いほうなので」
「ねえ……やめてよ……やめてください……お願い……お願いだから……」
なかばやけになって哀れっぽく言うが、目の前の妖怪は容赦してくれない。
「そんなこと言ったって仕方が無いじゃないの。人間と戯れに交わろうなんて思うから、こうなるのよ。それで、あんまり夢中になるあまり、力の入れすぎで相手を殺しちゃった、なんて、呆れてものも言えませんわ」
「違う……ちがうよ……遊びじゃない……遊びじゃなかったの……私、わたし、あいつのことが、好きで、好きで……」
ひっく、ぐし、と、情けないしゃっくりの音が漏れる。
口にしてしまうと、もう止まらなかった。
涙が、次々と溢れてくる。
「好きで、好きで好きで……すきで、だ、だいすきで、だがら、だがら、う、してもいいよって、あんたとなら、いいよって言ったの! していいよって言ったのよ! こんな、こんなつもりじゃなかった、してる途中で、でも、た、食べたくなって……」
ぐじっ。
ひっく。
息が詰まる。
呼吸ができない。
「た、食べたくなって……こいつのこと、食べたくなって……!! 途中で……食べたいって思ったのよ!! 我慢しようって、が、がまんしようっで思ったのに、私、私、どうしても……食べたくって、こいつのこと、たべたくっで、う、ふ、う゛う、う」
目の前の妖怪は、ふーと息を吐いた。
「らちがあきませんわね、まったく。思うに、諦めてからぐちぐち泣きだす輩って、とってもタチが悪いと思うのですけど……」
「ねえ、お願い……みのがしてよ……ばらさないで……お願い……お願い……」
「ほら、舌が回ってきたじゃないの。だだをこねる子供と同じですわね。まあ、いいでしょう。そんなに言うんなら見逃してあげてもいいですよ」
「……う、ひぐ、え?」
「ほら、顔を上げる元気はあるじゃないの。現金な子供。でも、まあ、あなた安心しても良いわよ。今のは本気だから。どうやら、私の気まぐれが起きてしまったようだし、本気と言うことにしといてあげる。今夜は月もあんなに輝いているしね。実はわたくし、とっても気分が良いんですの」
妖怪は、不気味な笑みを浮かべた。
思わず、ぼけっとして見上げてしまう。
妖怪は、ちょっと指先を振った。
ふっと布が一枚片手に現れる。
何かと思ったら、ハンカチだ。
それでこちらにかがむと、顔を拭いてくれる。
「あなたのことを、みのがしてあげましょう。ただし、あなたが私の言うことを、今からやってくれれば、だけど」
黙って見上げる。
妖怪の顔はあいかわらず怖い。
その怖い顔で、妖怪は言った。
「なに、簡単なことですよ。あなた、今すぐそこの男を食べなさい」
「え……?」
聞きかえす。
妖怪は笑った。
「ええ、食べてくださいな。食べたかったんでしょう? 頭のてっぺんからつま先まで、その男の身体を、全部、残さずに平らげてくださいな。それをやってくれれば、私はあなたを見逃してあげる」
妖怪は笑った。
私は、ゆっくりと目を彷徨わせた。
隣に倒れたあいつを見る。
ただの肉の塊になった、あいつを。
「……」
私は、ごくりと唾を飲んだ。ふらふらと歩いていく。妖怪は、私が立ち上がるのに合わせて、後ろに退いている。
私は、ゆっくりと歩み寄った。
あいつの身体は動かない。
首がヘンな方向に曲がっていた。
べろんと舌を出して、白目を剥いている。
あかんべえみたいだ。
(ごめん)
私は、あいつの身体に手をついて、ゆっくりと口を近づけた。手が震える。





「えぐい事を……」
事情を聞いて、文は言った。
細い眉が、気分悪そうにしかめられている。
紫はとぼけて言った。
「あら、そう?」
「あなたのそういう趣味の悪いところは、私、吐き気がするほど嫌いですね」
「ええ、嫌いで結構ですよ。あなたには、今回のことに口を合わせてもらえれば、それでいいのでね」
「別に。他ならぬあなたの頼みですからね。ちゃんと聞いてあげますよ。ええ、聞いてあげますとも。羽根が抜け落ちそうなほど胸くそ悪いですけどね。貸しにもしておいてあげます」
文は言う。
いつになく胸くそ悪そうにして、紫の前に立っている。
「あなたの羽根が抜けたら、勿体ないから、ペンにして、私の友達に送ってあげるわ。せっかく綺麗なんですもの」
「ご免だわ。今後こういうことはないようにしていただきたいですね」
「心に留めておきますわ」
ばさっと鴉の羽根が鳴った。
ひらひらと、散った羽根が落ちてくる。
紫は、それをひとつつまみ取った。
ふむ、とためつすがめつする。
やがて、ぽい、と投げ捨ててしまった。
扇子を開いて、焦げた匂いを散らす。
紫はすっとスキマを開いた。
後ろの廃屋は、すっかり焼け落ちていた。

朝になったら、小屋の中からは、こんがり焼けこげた男の死体と、自分で喉をかきむしって死んだ妖怪の死体が発見されるはずだ。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
最後の状況がひぐらしっぽいなぁ、と思いました。
2.名前が無い程度の能力削除
フリーのカメラマンが死んだ話?
状況がよくわからなかった
3.名前が無い程度の能力削除
話の内容についての感想でなくて申し訳ないんだけど、一人称視点なのにカッコ表記で当人の思っていることを書くのっておかしいね。
4.名前が無い程度の能力削除
紫は厳しいね
5.名前が無い程度の能力削除
早く殺してあげればよかったのに……
6.名前が無い程度の能力削除
7.名前が無い程度の能力削除
なんちゃらの境界の様なひぐらしのような…
私には、理解力が、足りない
8.名前が無い程度の能力削除
見る目の毒?そういうこと?
9.名前が無い程度の能力削除
恋という毒…でしょうか?
10.名前が無い程度の能力削除
罪の意識に負けて火葬してあげたのかな? 本人は自殺
話としては好きです。
好きだからこそ言うと、この紫の性格は嫌いです。
でも話は好きです。
11.名前が無い程度の能力削除
妖怪にとっての毒という事ですか。
12.奇声を発する程度の能力削除
話に着いて行けない…orz
13.名前が無い程度の能力削除
妖怪さんは精神的なダメージが致命傷に
なるってあきゅんがいってた。つまり…
14.名前が無い程度の能力削除
まず、この現場がどこか教えてくれ
里の中なのか外なのか
小屋が焼けてても他の人が来ないとこからして外(しかもけっこう離れてる)みたいですが
外だとしたら
>人間を無闇に殺したら、罰を受けるんだ。そうだよ、八雲の賢人様が、そう決めてる
ねえよw
里の中はともかく、外では襲われる事ありの世界だよwww
その後退治されるかもしれんけど
15.名前が無い程度の能力削除
死体に毒が仕込んであって、紫は妖怪の愛を試したんでしょ
死体でも食べなかったら愛は本物だって
燃やしたのは事故として処理しやすくするため
そしてに物騒な記事にしないよう依頼
16.名前が無い程度の能力削除
毒入ってたの死体か
その発想は無かった……哀しいな、結局この妖怪は食べてしまったっつーことか
17.名前が無い程度の能力削除
喉を掻き毟ってるってことはやはり…
18.名前が無い程度の能力削除
人間だったら毒が仕込んであったって事で一択だけど、好みで言えば >>13 の解釈に賛同するかな……
そして >>3 の意見を見てカッコに別の解釈を当てはめて見れば世界がまた広がる事にビックリ。狙ってやってたらすげぇ……
19.名前が無い程度の能力削除
胡散臭くて、人間味の無い紫がいいね
どうも最近の紫は、美化された人間臭いものが多いから、こういうのも逆に新鮮で面白い
話についても、一応自分なりの解釈は得られたし、やや暗くて楽しめました
20.名前が無い程度の能力削除
妖怪は心の生き物だから
食べた時にこの妖怪は死んでしまったんですね