Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある昼下がり another

2010/02/09 01:03:45
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その日、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜は悩んでいた。しかも、その悩みが誰にでも相談出来る内容ではなかったため、ただ一人で門門と…いや悶悶と悩んでいた。その姿には「完全で瀟洒」成分は残念ながら含まれていなかった。

事の原因は少し前になる。

吸血鬼姉妹の住む館であるため、紅魔館には来客が非常に少ない。少ないといっても皆無ではなく、白黒の魔法使い兼強盗モドキと七色の人形使いの二人に限れば、けっこうな頻度で紅魔館内の図書館にやって来ている。それこそ数日に一度はどちらかが図書館の主であるパチュリーとその使い魔と談話をしているのを目にするし、紅茶を淹れるついでにその会話に参加する時もある。そんななかでの事である。七色の人形使いことアリスが彼女にしては珍しい人物を談話の中で話題に挙げた。それは紅魔館の門番である紅美鈴であった。彼女曰く、入館の手続きをする際に言葉を交わして、親しくなった美鈴に「作り過ぎた」お土産をあげたところ大変喜んでくれて、自分も妙に嬉しかった。というほのぼのとした日常のエピソードであった。しかし、咲夜としてはどうも面白くなかった。後日、美鈴との会話中にそれとなく誘導を掛けてみたら嬉々として「とても美味しかったんですよ~」と何とも間の抜けた、しかしとろけそうな満面の笑みで、ケーキの種類や大きさ、味等などについて詳細に報告してくるものだから、更に面白くなくなってきた。あぁ、きっとこの笑顔はかつてアリスに向けられたものと同じものなのだろう…。確かにアリスの作るケーキは美味しい、それは素直に認める。しかし、自分とてそれなりに自信はあるし、毎食とはいわないでもメイド業務に支障が出ない限り、美鈴の食事は自分が作るようにしている。おそらく自分の作った料理は毎日食べてくれているはず、それなのに…といった具合である。


「よし出来た」咲夜は一人呟いた。あの日、美鈴から聞いたアリス作のケーキを模倣した自分作のケーキが完成したのだ。アリスには酷い事をしているという自覚はあった。しかし、この行為は美鈴のあの満面の笑みを自分にも向けて欲しいという願いからくる純粋なもので、彼女を卑下しているわけではないと悩みに悩んだ末に辿りついたある種の覚悟の下に作った渾身の作品であった。あとは美鈴に渡すだけなのだが、なかなかタイミングが掴めないまま、昼下がりになってしまった。

※※※※※
「美鈴、ちゃんと仕事している?」
なんとか決心したものの、声が上ずってないか心配だった。

「もっ、もちろん、起きていますよ?!」
時間を止めて近づいたためか、美鈴は酷く慌てた様子で私に返答してきた。
ちょうどサボろうとしたところだったのでしょうね…と呆れてしまう。

「…まぁ、いいわ。一応は起きているようだし」

「さっ、咲夜さんこそ、お仕事は大丈夫なんですか?」
これでも反撃のつもりなのだろうか?苦し紛れにしか聞こえないわよ?

「ええ、大丈夫よ。当たり前じゃない。それに、貴方がサボっていないかを監s…確かめるのも私の仕事の内よ」
いけない、いけない秘密の習慣がバレるところだった。いつの日からか、私には手のあいた時間に美鈴を屋敷内から眺めるといった少し危ない習慣が出来ていた。最初は大型犬の観察程度に思っていたこの習慣は今では…これ以上は今考えたくないわね。

「むぅ、私だっていつもサボっているわけじゃありませんよ…」
どうやら不貞腐れたようだ、うん、まんま子供みたいね。
美鈴は私なんかよりもずっと年上の筈なのだが、たまに疑わしくなる。

「まるで子供みたいね。ふふっ、今日は働き者の貴方にご褒美をあげようかと…」

「ナイフは止めて下さい!!」
美鈴の顔は泣きそうだった。しかも必死の懇願というおまけもついてきた。
自然に怒りという感情が湧いた。本当にナイフをプレゼントしてやろうかと本気で思った。
しかし、怒り以上になんともいえない悲しさが、そして恐怖が胸中に溢れてきた。

美鈴、私の事を嫌っていたり、恐がっていたりなんかしてないわよね…?

元々、美鈴は人当たりがいい性格のため本心を測り難いところがある。
私が柄にもなく逡巡するのも彼女の性格が原因の一つになっている。

もし彼女が私に向けてくれる笑顔が本心からではなく、保身的な偽りのものであったとしたら…

これ以上の恐怖はこの世にもあの世にもないだろう。

「何でそうなるのよ?貴方、私を何だと思っているの?」
言葉以上に意味の含んだ質問をしてみた。

「冗談ですよ…いや本当にゴメンなさい。だからナイフは出さないでっ!!」
この言葉は彼女の本心からなのだろうか?
それとも彼女の恐怖心が言わせている虚言?

私には分からない。

ケーキを渡すだけなのになんでこんなに混乱しなくちゃいけないの…?

「ふんっ、お嬢様や妹様用にケーキを作ったのだけど、『作り過ぎた』のよ、いらないのならいいわ」
本心を知りたい相手に対して、自分は嘘をつき素直になれないあたり私は「末期」なのかもしれない。
かといってこの状況下で正直な言葉を選べる程に私は賢くもなく強くもなかった。

そんな惨めな私に対して美鈴は…満面の太陽の様な笑みを私に向けて

「是非、頂きます!咲夜さんの作るモノは何でも美味しいですし」

私はこの言葉に嘘偽りはないと直感的に感じた。
それと同時に恐怖も混乱も消え去った。
だって、こんなにも清々しい笑顔を向けられたのだから。
私は「末期」であっても「手遅れ」ではなかったらしい。
この笑顔すら信じられなければ、私の心は完全に止まってしまっていることになる。
今まで凍りついて止まっていた心に火が点いたのだろうか、顔が凄く熱く感じる。

「褒めてもこれ以上は何も無いわよ?」
それでも私は素直にはなれないようだ。ごめんなさい美鈴。

「お世辞なんかじゃありませんよ?咲夜さんの料理は天下一品です」

私にとって完全に殺し文句だった、本当に死んでしまうと思った。
死因が極度の喜びなんて、喜んでいるのに笑えないわ。

「ふふ、少し言い過ぎのような気もするけど悪い気はしないわ、あとで容器は取りに来るわ。気を抜かずにお仕事頑張ってね」
これ以上この場にいてはいけない。
このままだと感情を抑えきれない。
笑いたくもあり、泣きたくもある。
相反するものが同時にやってきた。
根源は言いようのない喜びである。

私は逃げるように時間を止めて屋敷の中へ戻った。

逃げた筈なのに私の心は喜びで一杯だった。
内面描写は難しいですね。

他の投稿サイトで活躍されているめーさく作者様に内面描写が凄い人がいます。
彼・彼女みたいな文章を書いてみたいですね。

めーさくのつもりが、め←さく風味になってしまいました。
設定では両想いにしています。
砥石
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
咲夜さんサイドのお話キタ!!!
両思い良いよ!両思い!もう、付き合っちゃえばいいのに…
2.名前が無い程度の能力削除
ああもうじれったいなぁww
3.ぺ・四潤削除
ああ、もうじれったいなwww
時を止めたまま喜び死には止めてくださいね咲夜さん。

秘密の習慣で「貴方がサボっていないかを監s…」
ついうっかり「視かn」って言いそうだなww
4.ずわいがに削除
咲夜さんの心情、しっかり伝わってきました。
また続きとか期待しちゃいます。
5.名前が無い程度の能力削除
ニヤニヤが止まりませぬ
6.名前が無い程度の能力削除
続けて言いますが美咲(名作)が産み出される予感ッ!
これからも期待してます。