その日、紅魔館の門番である紅美鈴は暇であった。元々、紅魔館に好き好んでやって来る者が少なく、訪問者と言えば数日に一度程度の頻度でやって来る白黒の魔法使いか、七色の人形使いくらいである。
二人とも目的のモノは同じであるのにも関わらず、美鈴の対応は全くの逆といっても過言ではないくらいに差がある。白黒の魔法使い、魔理沙の場合は「訪問」というよりは「強襲」と呼ぶに相応しい強引さで門を突破しようとする。そのため顔見知り(?)であるにも関わらず、毎度毎度迎え撃たなければならず、形式的なものとはいえ骨が折れるのである。その一方で、七色の人形使いことアリスは正規の手続きしてくれるので美鈴としては助かっている。最初の頃は必要最低限の事務的な言葉しか交さなかったが、訪問の度に少しずつ打ち解けていけたためか、今では門の前で少々の談話を楽しむ程度の仲になっているし、お土産として手作りの洋菓子を頂いている。元々は彼女の訪問目的である紅魔館の図書館の主であるパチュリーと、その使い魔のために作っていたのだが、数か月前に「作り過ぎ」を食べさせて貰って以降は毎回ご賞味に預かっている。今となっては仕事の合間の楽しみになっている。この事をメイド長である咲夜に嬉々として話したところ「餌づけでもされているのかしら?」と涼しい顔で言われてしまった。当初は「むぅ」と思い反論しようと試みたものの、かといって否定も出来ないので喉の奥に押し込めたこともある。
「暇ですね~」と今日だけでいったい何度口にしたのであろう定型文を口から発した。声の主はもちろん美鈴である。屋敷の主人からお借りしたマンガはあらかた読み終えてしまったし、既に時間も昼下がりに差し掛かり常連の二人も来る気配がない。
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「ここはシエスタと…」
気を緩めて門の壁に体を預けようとした瞬間に、私は突然横から何者かに声を掛けられた。
本当はこの時点で声の主の大方の目星はついている、というか一人しかない。
「美鈴、ちゃんと仕事している?」
「もっ、もちろん、起きていますよ!?」
慌てて振り向いて、声の主に返事をしてみたのだが怪訝な目で見られた。
「…まぁ、いいわ。一応は起きているようだし。」
非常に含みのある言葉が返ってきた。
「さっ、咲夜さんこそ、お仕事は大丈夫なんですか?」
結果は見えているのに、声の主である咲夜さんに反撃を試みた。
「ええ、大丈夫よ。当たり前じゃない。それに、貴方がサボっていないかを監s…確かめるのも私の仕事の内よ」
一部気になるところはあったが、ほぼ予想どうりの応えがきた。
「むぅ、私だっていつもサボっているわけじゃありませんよ…」
少し不貞腐れてみた。
「まるで子供みたいね。ふふっ、今日は働き者の貴方にご褒美をあげようかと…」
「ナイフは止めて下さい!!」
咲夜さんが完全に言い終わる前に、冗談半分で泣きそうな顔で懇願してみた。
「何でそうなるのよ?貴方、私を何だと思っているの?」
「冗談ですよ…いや本当にゴメンなさい。だからナイフは出さないでっ!!」
怒りのあまり本当にナイフを使おうとする咲夜さんを必死に止めた。
…だけど思いのほか面白い反応が見えた。ここまで取り乱す咲夜さんはそうそう見えない。
「ふんっ、お嬢様や妹様用にケーキを作ったのだけど、『作り過ぎた』のよ、いらないのならいいわ」
「是非、頂きます!咲夜さんの作るモノは何でも美味しいですし」
慌てて返事をする。この言葉に嘘偽りはない。本当に咲夜さんの料理は美味しいのだから。
…あれ?でもこの言葉は前にも聞いた事のある気がする。デジャブというやつでしょうか。
「褒めてもこれ以上は何も無いわよ?」
そう言いながら咲夜さんはケーキの入ったバスケットを渡してくれた。
「お世辞なんかじゃありませんよ?咲夜さんの料理は天下一品です」
これもまた本心からの言葉である。咲夜さんの料理なら毎日でも食べたい。
…実際に毎食とはいわないでも毎日食べているのですが。
「ふふ、少し言い過ぎのような気もするけど悪い気はしないわ、あとで容器は取りに来るわ。気を抜かずにお仕事頑張ってね」
と言い終わるや否や一瞬にして咲夜さんは視界から消えた。
やはり忙しかったのだろう。わざわざ時間を止めてまでして屋敷内に帰って行ったみたいだ。
「さて、早速頂きますか」
バスケットの蓋を開けて中を覗いてみると…
「ああっ、あの時の事か」
私は自分の鈍さというものを再認識した。それと同時に私の顔から笑みがこぼれた。
めーさくはやっぱり良いものだなぁ。
あと、めーりん仕事中にマンガ読んでてサボってないって言い張るなwww
個人的にはめーさくよりもさくめー希望ですが、これならめーさくでもよろしくてよ