ある朝、僕が不安な夢からふと目覚めてみると、自分が異変に巻き込まれてしまっているのに気がついた。何しろ視界全てに霞が立ち込めていて自分の店の中さえ見渡す事が出来ないのだ。これでは異変と気付かない方がどうかしている。さて、どうしたものか……
僕は起き抜けでは頭が上手く回らない質だ。目覚めて暫くは頭に霞が掛かったようになる。今日のように視界にさえ霞が掛かっていれば尚更だ。ともあれ何をするにしろ寝間着のままでは動きようがない。まずは着替えるとしよう。
手探りで何とか身支度を整えた辺りで、漸く頭の霞は少しずつ晴れてきたように思える。それに伴い僕は改めて自らの置かれた境遇を整理する事にした。ちなみに視界の方は相変わらずだ。
僕はまず昨日起きてから床に着くまで、外で一体何があったかを思い返す事にした。何か異変の切っ掛けとなる出来事があったかどうかを見つける為だ。……昨日は昼頃に起床、それから深夜に掛けて読書に没頭し、流石に目に疲れを感じて湯を浴びる事もせずに眠りについたのだったかな……外には一歩も出ていないので外の様子など全く判らない。フムン、これでは異変の原因なぞ知りようがないではないか。せめていつものように客が訪れていれば、その時に客から何かが聞けたかもしれないが。そう、いつもであれば客が大勢……それなりに……一人や二人……。うん、まぁ、それは今かかずらう事柄では無いからこの際無視しておくとしよう。考えるべきは異変についてだ。
しかし、詳しく考えるにしてもこの視界の悪さは如何ともし難い。視界が鈍ればそれに伴い思考も鈍る。ならば判らない事は大人しく考えないでいるべきではないだろうか。どうせ僕があれこれ考えた所で異変解決には至らないのだ。ならば解決されるまでは大人しく本を読んで過ごすのも選択肢として大いにあり得る。こんな状況でも手元にある本の文字ぐらいならば何とか読み取れるのが幸いだ。
僕がしばらく蟄居して書を親しむことも考えていたそんな折、香霖堂へと来店するものの姿があった。薄靄に包まれた世界の中に鮮やかに浮かび上がる紅白。この霞の中でも容易に判別できる巫女装束に身を包んだその姿。紛れもなく博麗の巫女、霊夢だ。全くここまで迅速に解決へと動いてくれるとは。博麗の巫女様々だ。今度神社に行く機会があれば賽銭を入れるのも良いかもしれない。
「やぁ霊夢、丁度良い所に来てくれた」
「……霖之助さんが喜んで迎えてくれると何だか気味が悪いわね。異変でも起こるんじゃないの」
人が精一杯の笑顔で迎えればこれだ。しかしそんな事よりも大事なのは彼女の言葉だ。今霊夢は何と言った? 『異変でも起こるんじゃないの』? この言葉は今現在異変が『起こっていない』状況でなければ到底発し得ない言葉だろう。つまり彼女にとって今の幻想郷は、何もない平穏無事な状態……と言う事だろうか。
「なぁ霊夢、最近何か変わった事は起きなかったかい? 例えば幻想郷が霞に包まれたり……」
僕は自らの立ち位置を確かめるように彼女に疑問を投げかける。
「霞だか霧だかで包まれるのなんて何時の話よ。幻想郷はおかげさまでここの所平穏。異変なんて全く起こってないわ」
さも当然の事をと言わんばかりにきっぱりと言い切る霊夢。その姿に僕は思わず目眩を覚える。なんて事だ……この異変の犯人は博麗の巫女さえも欺く力の持ち主だというのか? いや、そのような力を持った妖怪が今まで全くその存在を悟られずに潜伏していたとは考えにくい。ならば残された可能性は……『僕だけを狙った』異変が起きているというものだ。
僕が狙われる理由……それはさほど考えずともすぐに思い当たる。十中八九『草薙の剣』に関することだろう。一体どこから神器の事を嗅ぎつけたかは判らないが、始終隠匿してある筈の剣を見つけ出すとは犯人は中々の眼力を持っているらしい。僕だけを狙う手口の見事さと良い、この犯人を相手にするのは非常に骨が折れそうだ。最悪の場合、草薙の剣の存在が明るみに出るのを覚悟した上で誰かの手を借りる事も考えなければ……そうなると候補としては……
「ねぇねぇ霖之助さん」
思考の回廊に入り込んだ僕に霊夢が話しかけてくる。一体何だって言うんだ。僕はかつて無い危機に立たされているというのに。
「今日はどうしたの? いつもの眼鏡を掛けてないみたいだけど」
後書きもひどいw
酔っ払って座椅子で眠りこけて目が覚めたときに、この世界に何が起きたのか理解できなかった。
尻の下の違和感に気づいて無残な状態の眼鏡を発見し全てを理解したときの絶望感と言ったらもう……
これぞショートショートって感じですね。
このタイトルってもしかしてジョニーのアレ?
やべぇ、じわじわくるwww
>19様
鋭い! 今回のタイトルですが、確かにジョニーの技名より拝借しています。「霧 払う」という意味であるミストファイナー。今作においてその名が一体何の事を指すのか、最後まで読んで下さった皆様ならばご存じの事と思われます。