Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

寄りかかる肩

2010/02/07 17:56:58
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ある日。
アリスの家。

「ちわーす。郵便配達でーす」
「嘘つきは閻魔に舌を焼かれろ」
アリスが言った。
魔理沙は、家に上がりこみつつ言った。
「なんだいきなり、顔見るなり物騒なこと言うなよ」
「あんたのその、中華どんぶりもどきよりは下品で物騒で野蛮じゃないわ」
「私のこいつが下品で野蛮だって言うんなら、お前の人形は愚鈍で間抜けだな。水をお湯に変えることが出来るってのが、どれだけ偉大なことか知らないのか? お前は人類の叡智って奴を」
魔理沙は言葉を止めた。
「……」
ゆっくりと部屋の中を見る。
なにか違和感があった。
いつもの椅子を見る。
そこに、いつもの知人の姿はない。
(ん?)
ふと床のほうをを見る。
見れば、アリスは、床にぺたんと尻をつき、座り込んでいる。
膝を抱えて、こっちに背を向けて、じっと座り込んでいる。
顔はじっとうつむいて動かない。
その前では、なぜか上海人形が縄跳びをしている。
跳ねる縄が、ぱし、ぱし、と、規則的に床を叩いている。
魔理沙は怪訝な顔をした。
「……おい、アリス? なにしてるんだ?」
聞くと、アリスは言った。
「見て分からないの? 人形の体力向上のためにトレーニングをしているのよ」
「……。おい? 冗談か?」
「当たり前でしょ」
アリスは言った。
言ったが、人形に縄跳びさせるのはやめていない。
たん、とん、たん、とん。
音は規則的に響いている。
魔理沙は見下ろして、考えた。
なにかおかしい。
何かあったのだろうか。
「研究がね」
「うん?」
魔理沙は聞きかえした。
アリスは続ける。
「研究が。全然駄目なの。なにやってもだめなの。上手くいかないの。駄目なの。次のステップは見えてるっていうのに、そこに行く手がかりがどうしても見つからないのよ。今までどんなに行き詰まったって、ここまで行き詰まることなかったのに。はあ」
アリスはぶつぶつと言って、ため息をついた。
魔理沙は、珍獣を眺める目で知人の背中を見た。
「もう駄目なのかしらねー。はあ、どうしよ。全然駄目なのよ。本当に、全然、何もかも。はあ。ああ、駄目だわ。もう全然駄目。もう嫌。もうしにたい。全然駄目じゃん、私」
どうも、相当に参っているようだ。
魔理沙はちょっと身を乗りだしてみた。
アリスの様子をのぞきこむ。
なにか尋常ではない。
目は虚ろで、髪も跳ねている。
うすい蕾のようなふっくらした唇からは、恨み辛みに似た細い声が、ぽつぽつと洩れている。
魔理沙は眉をひそめた。
なんだろうか。
なにか様子がおかしい。
魔理沙は思った。
顔を引っ込めて、またアリスの背中をじっと見下ろす。
次に考えたのは、我が身の危険である。
アリスはこちらに意識を向けている様子がない。
しかし、魔理沙の経験上、精神がアレな人間というのは、どんな突飛な行動に及ぶかは予想しがたいものだ。
もし幻覚に囚われていたりすると、いきなりわめきちらしたり、本人にも意味の分からないことをやり始めたりすることがある。
それは自分で実験済みだからわかるのだが。
(逃げるが勝ちって奴だな)
魔理沙はあっさりと思った。
アリスは変わらず、うなだれてぶつぶつとやっている。
まあ、もともと飲み食いしなくても死なないような奴だ。
戻るまで放っておけばいいだろう。
魔理沙は、こっそり帰ることにした。
と。
「ねえ」
アリスが言った。
魔理沙はぴくりと立ち止まった。
「う、うん?」
「あんたお酒持ってない? お酒」
アリスはこちらを見ずに言ってくる。
魔理沙は言った。
「酒なんて持ってくるわけないだろ。他人の家に行ったら酒はいただくものだぜ?」
「じゃあお金渡すから買ってきてくれない?」
「なんで。嫌だよ。自分で行けばいいじゃないか」
「嫌。家から出たくないの。誰とも話したくないのよ」
「なんだよそれ。だいたい人と話したくないってね、お前、今私と話してるだろ」
「あんたはいいのよ。いつも話してるんだから。ねえ、お願いよ。お酒買ってきて。あんたも飲んで良いから」
アリスは言った。
顔は陰うつなままだ。
魔理沙は辟易した。
断ってやろうかとも思ったが、しつこく粘ってくるアリスを見ると、言い出しかねた。
仕方なく言う。
「仕方ないな。わかったよ。じゃあついでにつまみも買ってくるから余分によこせよ」
「ありがとう。そこの引き出しにお金入ってるから、持っていって」
「いや、それくらい自分で――」
「嫌。動きたくない」
「……」
魔理沙は、完全に調子を狂わした。
いぶかしみつつも、引き出しからアリスの財布を取ると、人里へと飛んでいった。
ほどなくして、魔理沙はアリスの家に戻ってきた。
扉を開けて、中に入る。
アリスは元の位置から動いていなかった。
目の前の人形の動作は変わっていた。
なわとびをやめて、今度は腹筋をやっている。
魔理沙は話しかけた。
「おい。買ってきたぜ」
「ありがとう。袋こっちにちょうだい。おつりはあげるから」
「おつりって、この財布丸ごとか?」
「別にそれでもいいわよ。はあ」
アリスはなげやりに言って、袋を漁りだした。
のろのろとした動作で、酒瓶を一本取りだす。
ぽんと蓋を開けて、口の当たりを持つと、そのまま、一気にラッパ飲みしはじめた。
〈おいおい〉
魔理沙は心の中で言った。
こきゅ、こきゅ、とアリスの白い喉が滑らかに鳴る。
ぷはっと口をはなすと、また、はあ。と息を吐く。
「いいわよ。あんたも飲んでも」
「あーいや……」
「なによ、私の酒が飲めないって言うの? いいから付き合ってよ。飲んでいってよ。一人にしないでよ。せっかく来たのに」
アリスは急に迫ってくる。
〈うう……〉
魔理沙は断り切れずに、アリスの横に座った。
座らされた、と言ったほうが正しい。
魔理沙が自分で用意したコップに口をつけ始めると、アリスはだんだんと饒舌になった。
洩れてくる言葉の大半は愚痴である。
聞かされている方としてはたまらない。
「でねえ。……なのよ。だから。聞いてる?」
〈うう〉
魔理沙は心の中で唸った。
コップに口はつけるが、まるで飲んだ気がしない。
心の中で思う。
いったい、こいつはどうしたというのだろうか。
たしかにちょっと根暗なところはある奴だが、少なくとも、これまでの付き合いでここまでからまれたことはない。
「はあ。もう無理なのかしらね。そうよね。きっと無理なのよ。前からなんだか無理って感じはしてたもの。そうよ、どうせ私なんかじゃ駄目だったのよ。はじめから無理だったんだわ……はあ。あの馬鹿天人も言ってたものね。そうよね。私ってさ、自分のやりたいことになると、全然現実見ていないところがあってさ。わかってたのよ。わかってたわ。昔からそうだもの。そうよね、駄目だったのよね、昔からなのよ、私。昔から駄目なのよ、あのときだってあのときだって……」
アリスは一人でぐちぐちと喋り続けている。
ときおり喋るのをやめては、酒瓶にぐい、と口をつける。
そしてため息をつく。
そしてまた喋り出す。
その繰り返しである。
さっきから何度やったかわからないが、何度やっても止める気はないらしい。
魔理沙はだんだんとたまらなくなってきた。
とはいえ、こうして弱っているところにきついことを言える柄でもない。
「ねえ、聞いてる?」
アリスが言ってくる。
魔理沙は言った。
「いや、聞いてない」
「聞きなさいよ。なによ。まったく。どうせ私の話なんか聞きたくないんだろうけどさ。はあ。そうよね。あんたはきっとわたしのことなんか嫌いだろうしね。どうせ暗い女だと思ってるんでしょう。部屋にこもってばっかりの愛想のない根暗な奴だって思ってるんでしょう? いいわよ、別に。本当のことだし。どうせ私なんか。どうせ陰気よ。愛想なしよ。どうせちょっと便利なだけの、ろくに友達がいもないやつよ。そうよ。どうせ私なんか駄目なのよ。全然駄目なのよ……」
アリスは急に目元に手を当てて、小さく鼻をすすり始めた。
(あーあー)
魔理沙はなんてこったと思いつつ見た。
アリスは突然泣きはじめた。
しきりに鼻をすすって、目を指で拭っている。
魔理沙はふたたび辟易とした。
どうしようこいつ。
ちょっとうんざりとした思いを抱きつつ、魔理沙はアリスを見た。
アリスは涙をこぼしながら、なおも愚痴を続けてくる。
魔理沙はたまらず、遮って言った。
「あのなあ、アリス。ほら、とにかくさ。そんなにぐじぐじすんなよ。ほら。泣くなって」
間を見て割り込んで言う。
「お前がそんなに駄目な奴なわけないだろ? あんまり自分のことを悪く言うなよ。お前がそんなだと、私の方が自信なくしちまうよ。な」
アリスは、黙ってしゃくりあげながら涙をこぼした。
ガラス玉のような目から、次々と水滴がこぼれだす。
「ありがとう魔理沙、あんたは優しい子ね……」
魔理沙は、アリスの背中を叩いて、しばらくゆっくりとさすってやった。





数日後。
永遠亭の窓口。
「今すぐに出しなさい! 今すぐよ!」
「ちょ、ちょっと待って。落ちついてよ! 話が――」
何やら騒がしい。
永琳はひょこりと、部屋から顔を出した。
見ると、森の人形遣いと鈴仙がなにやらもめている。
(うん……?)
怪訝に思う。
ちょうど、そのとき、人形遣いの怒声が聞こえた。
「だっかっら! 忘れる薬よ! 忘れさせる薬! あんたんところの不手際でしょうが!? 責任とってただでよこしなさい! さあ早く! 今すぐに!」
人形遣いは言う。
必死さと怒りと羞恥が混じった表情で、どうもいつもの余裕が見受けられない。
どうも、だいぶ興奮しているようだ。
まくし立てられている鈴仙が、たじたじとなっている。
けっこう臆病なところがあるから、ああやって怒鳴られると弱いのだろう。
永琳は一考した。
やがて、顔を引っ込めて、扉を閉める。
扉に遮られると、音は少し小さくなった。
永琳は暢気な足どりで、もとのとおり、椅子に腰掛けた。
読んでいた翻訳本を開いて、知らん顔をする。
まあ、これも修行のウチだ。
(厄介払いは弟子の仕事。古今東西の決まり事よね)
永琳はページをめくった。
閉めた扉の向こうから、人形遣いの声が響いてくる。
「だから! あれ、あんたんところの不手際でしょう!? このあいだもらった胡蝶夢丸、飲んだらえらい鬱状態になったわよ!? おかげでこっちは――」
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
バッドトリップですね、わかります
2.名前が無い程度の能力削除
新作キター
3.ずわいがに削除
ナイトメアにそんな使い道ががが……っ!
4.名前が無い程度の能力削除
まさかのwww
5.名前が無い程度の能力削除
雨降って地固まる……
6.奇声を発する程度の能力削除
うをいwwwww
7.名前が無い程度の能力削除
そんなアリスもかわいい
8.名前が無い程度の能力削除
売ってくれ
9.名前が無い程度の能力削除
作者名見てクリック余裕でした
アリスかわいい
10.名前が無い程度の能力削除
これは鈴仙が悪いww
効力が明らかに別のナニかじゃないか
11.名前が無い程度の能力削除
アリスと魔理沙のやりとりの一方、上海人形は黙々と運動し続けてたわけだw
12.名前が無い程度の能力削除
永琳はいい仕事するなあ
13.名前が無い程度の能力削除
アリスかわいいよ