夢の中でね、と言いながらこいしは付け合わせしか残っていない皿の上でフォークを遊ばせた。
銀の歯に押されてプチトマトがころころと転がる様子を、さとりは伏した目で追った。
「お姉ちゃんを殺してるんだ」
「それはまた楽しそうね」
あなただけ、と付け加えてさとりは紅茶の入ったカップを口に運んだ。
プチトマトを皿の縁に押し付け、こいしはぶすりと根元まで突き刺さったフォークの歯を見て満足げに笑う。
すぐにフォークを口に運ぼうとはせず、テーブル越しに真正面に座るさとりの目玉を見てから胸元の第三の目を見た。
第三の目だけがこいしを正面から射抜くように見る。さとり本人は人の目を正面から見ることを好まなかった。
さとり曰く、目には感情が詰まっているらしく、そんなグロテスクなものわざわざ見たくもないそうだ。
つまらないと思う。馬鹿げているとも思う。少なくとも今だけは。
「で、それはいつ頃現実にする気なのかしら」
「うーん、いつでもいいんだけど」
テーブルを乗り越えようとしたが、以前行儀が悪いと怒られた事を思い出してこいしは席を立った。
さとりの傍まで寄り、手から邪魔なカップを取り上げて一気に飲み干した後テーブルに置く。
それから振り向いて、目の前の膝の上にまたがれば、そこはこいしの為だけに用意された席になり、腰に回された両腕も第三の目も姉の困ったような笑い顔もすべてがこいしだけの物だった。
「今はまだ勿体ないから、我慢しててあげる」
「いつも怖いことばかり言うわね、こいしは」
薄く笑ってさとりはこいしの頭を撫でた。
ふふ、とくすぐったそうに身をよじってから、ふと下を見ればさとりの第三の目が、こいしをまだ見ていた。
開けたままの瞼が気になって無理矢理閉じようとしてみたが、すぐにぱちりと開いてしまう。
「あまり触らないでちょうだい」
「この目?」
「それなりに気に入ってはいるのよ、これでも」
「ふうん」
ならば代わりにと、こいしは背筋を伸ばしてさとりの瞼に唇を落とした。
ざらつく睫毛の感触としっかりと詰まっている中身の存在感が、舌の先を押し返す。それでもこの目玉の中に詰まっているであろう感情は、きっと自分には到底理解出来ない。
本当に欲しいものは、みんな何かで覆われていて届かない。だからこうして誤魔化す事しか出来ないでいる。
どうかしている、と思った。こんなぬるま湯のような行為で堪えるだなんて、今日の自分はきっとどうかしている。
「だめだ、調子悪いみたい私」
「その方が平和で助かるのだけどね」
さとりの心臓は服の上からでもゆるやかに上下しているのがわかるようで、脈打つ様子を確かめようとしてこいしは手を払われた。
「まったく困ったものね」
「なにが?」
「あなたの、その癖」
「だって好きなんだから」
「どっちが?」
質問に答えずに喉の奥で笑って、こいしはさとりの胸にもたれかかった。どくどくと脈を打つ様子を頬で感じる。
胸の奥に埋まっている心の臓に、この手で触れたい。全ての行為も言動もそれを遠回しにしているだけなのだ。
銀の歯に押されてプチトマトがころころと転がる様子を、さとりは伏した目で追った。
「お姉ちゃんを殺してるんだ」
「それはまた楽しそうね」
あなただけ、と付け加えてさとりは紅茶の入ったカップを口に運んだ。
プチトマトを皿の縁に押し付け、こいしはぶすりと根元まで突き刺さったフォークの歯を見て満足げに笑う。
すぐにフォークを口に運ぼうとはせず、テーブル越しに真正面に座るさとりの目玉を見てから胸元の第三の目を見た。
第三の目だけがこいしを正面から射抜くように見る。さとり本人は人の目を正面から見ることを好まなかった。
さとり曰く、目には感情が詰まっているらしく、そんなグロテスクなものわざわざ見たくもないそうだ。
つまらないと思う。馬鹿げているとも思う。少なくとも今だけは。
「で、それはいつ頃現実にする気なのかしら」
「うーん、いつでもいいんだけど」
テーブルを乗り越えようとしたが、以前行儀が悪いと怒られた事を思い出してこいしは席を立った。
さとりの傍まで寄り、手から邪魔なカップを取り上げて一気に飲み干した後テーブルに置く。
それから振り向いて、目の前の膝の上にまたがれば、そこはこいしの為だけに用意された席になり、腰に回された両腕も第三の目も姉の困ったような笑い顔もすべてがこいしだけの物だった。
「今はまだ勿体ないから、我慢しててあげる」
「いつも怖いことばかり言うわね、こいしは」
薄く笑ってさとりはこいしの頭を撫でた。
ふふ、とくすぐったそうに身をよじってから、ふと下を見ればさとりの第三の目が、こいしをまだ見ていた。
開けたままの瞼が気になって無理矢理閉じようとしてみたが、すぐにぱちりと開いてしまう。
「あまり触らないでちょうだい」
「この目?」
「それなりに気に入ってはいるのよ、これでも」
「ふうん」
ならば代わりにと、こいしは背筋を伸ばしてさとりの瞼に唇を落とした。
ざらつく睫毛の感触としっかりと詰まっている中身の存在感が、舌の先を押し返す。それでもこの目玉の中に詰まっているであろう感情は、きっと自分には到底理解出来ない。
本当に欲しいものは、みんな何かで覆われていて届かない。だからこうして誤魔化す事しか出来ないでいる。
どうかしている、と思った。こんなぬるま湯のような行為で堪えるだなんて、今日の自分はきっとどうかしている。
「だめだ、調子悪いみたい私」
「その方が平和で助かるのだけどね」
さとりの心臓は服の上からでもゆるやかに上下しているのがわかるようで、脈打つ様子を確かめようとしてこいしは手を払われた。
「まったく困ったものね」
「なにが?」
「あなたの、その癖」
「だって好きなんだから」
「どっちが?」
質問に答えずに喉の奥で笑って、こいしはさとりの胸にもたれかかった。どくどくと脈を打つ様子を頬で感じる。
胸の奥に埋まっている心の臓に、この手で触れたい。全ての行為も言動もそれを遠回しにしているだけなのだ。
スカーレット姉妹とか、古明地姉妹とかはこれくらいが丁度いいと思っている。
じゃあ次は是非、ハートフルでお願いします。
何でもいい、好きだわ