Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ぷりん

2010/02/02 04:23:03
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人里。


「ふわぁーん!!」
と。
慧音が、聞こえてきた声に、そちらをふり返ると、ちょうど水色っぽい短髪頭の少女が、「うわあん!」とむせび泣きつつ、里の子供らに追っかけ回されているところだ。
少女、とは言ったが、その外見は、いかにもこの里にありがちな妖怪少女のものである。両手でしがみつくように持った傘には、大きな一つ目と、真っ赤な口と長い舌がついている。
ハの字になった眉の下、ちょっと涙目になった両目は左右色違いだし、着ている服もどことなく珍妙だ。
どうやら様子を見るに、里の子供らにいじめられているようである。
「……」
『こらこら、子供達。か弱い妖怪をいじっては駄目だ』と、教育者のはしくれとしては、たしなめるべきだったのかもしれないが、まあ相手は妖怪である。
慧音としても、里の警護に当たる立場上、あまり妖怪に寛容なのは、どうかと思われるところだった。
(……にしても……)
細い眉をひそめて、慧音はその場を通りすぎた。
「きゃはははは」「やーい、おばけーおばけー」と、子供特有の無邪気きわまりない嗤い声に、「やあん、やめろお!」という妖怪の切ない悲鳴が、入り交じって聞こえてくる。



外れを離れて、通りのほうに出る。
少し店のある広場のほうへ近づくと、見覚えのある日傘姿が、向こうから歩いてくるのが見える。
緑の髪に、胸元の黄色いリボンがよく映えている。
神社の近くに棲みつく、何某とかいう花好き妖怪である。
けっこう目立つ容姿をしている妖怪少女であるが、この娘の正体を知らない人々の中では、けっこう上手いこと埋没している。
「あら、こんにちは」
慧音としてはあまり話したくないのだが、この妖怪は、そういう時にかぎって、向こうから声をかけてくる。
しかたなく慧音は応じた。
「こんにちは。買い物ですか?」
「ええ。見てのとおりですよ」
妖怪は片手の包みを示して言ってくる。
本と小物と、おおかたまた花の種と言ったところだろうか。
慧音も一応、年頃の娘ではあるので、そういう目端は利く方だった。
「何処の店をどう回ったか、いちいち言ったほうがいいですか?」
「言わないとまずいことでもしてきたんなら、後で話を聞かないといけませんけど」
慧音は言った。
妖怪は、笑顔で言ってきた。
「心配しなくても、人間なんていじめませんよ。今のところ、退屈はしていないし」
「できれば、あなたにはあと数百年ほど、退屈しないでいてもらいたいですけど」
「なんなら巫女にでも言っておいたらどうかしら? 最近あんまり構ってくれないのよね」
「彼女は人気者ですから、忙しいんでしょう」
「あら、あの巫女に人気はないですよ。どっちかっていうと妖気がありそうね。呑気かしら?」
「それは知ってますけど」
「あら、そうでした? ああ、それでは、失礼」
妖怪は、言って歩きだした。
慧音は、抱えていた風呂敷包みを胸の前で持ち直した。
歩きだそうとすると、ちょうど道の向こうから、妙な二人連れが歩いてくるのが見える。
「――やれやれ。意外とどこも檀家持ってるからって家ばっかりね。こんな辺鄙な里だから、もっといい加減かと思ってたわ」
「たしかに、こんなに大変だとはねえ……」
ぼそぼそと、そんな会話をやりながら、通りすがる二人組は向こうを歩いていく。
信仰を集めるためと言って、ちかごろ人里によく出没するようになったので、慧音も、彼女らの顔は見知っていた。
というよりか、そもそも、あの尼僧姿の妖怪にいたっては、わざわざ挨拶のために、菓子折を持ってきたほどの縁だった。
「どうぞ、一つ宜しく。申しわけありません。けしてご迷惑は致しませんので」
「はあ」
慧音は冴えない返事を返した。
これから、自分らはこうこうこういうことをするから、どうか宜しく頼みたいとのことである。
慧音としては、正直に調子が狂うので、そういうのは勘弁願いたかった。
(なんだかな)
慧音は、心の中で言って、歩きだした。
まあ、平穏なのはいいことだ。
あんまり平和すぎるのもどうなのか、と、正直には思うところだったが。
(ねえ)
そりゃ、妖怪なんかとは争わないに越したことはないのだし、どこかの感覚のずれた巫女や魔法使いなどと違い、慧音は平穏を尊ぶ心を人並みに持っていた。
もっとも、ここ最近の一連の異変に関しては、また別な観点を持ってもいるところではある。
しょせんはこの里の平和も、まがい物である。
妖怪は人を襲うもの。
人はそれを退治するもの。
あれらは、まったく無用な人騒がせではあっても、どうやら、まったく無駄な人騒がせとは言い難いものらしい。
「妖怪が――もしくは、それに準じて人が、ともいえますが、平和とそれに付随する錯覚とを通じて、本分まで忘れ去ってしまうようなことは、あんまりいい傾向とは言えないことなんですけどね」
とは、以前、ふとしたときに、知り合いから聞いた話だった。
しかし今の状況というのは、そもそも、里の賢人等が考案して形作られたもののはずではある。
「……しかし、今の状況というのは、そもそも賢人方が均衡を保とうとして生まれたものではないのですか? それが望まれた形ではないと?」
慧音は尋ねた。
変わり者の知り合いは言った。
「生き物の本分というのは、意外とそう簡単なものではないんですよ。外から力を加えようとすれば、必ず、なんらかの形で予期しない歪みなんかが起きてしまう。――柔らかいところてんみたいなものですかね。もしくはあの――そう、ぷりんとかいう」
「はあ?」
「ぷりんですよ。ああ、甘味処にはあまり行かれませんか?」
「いえ……知っていますけど」 
「あれも、すぷうんなんかでつつくと、こうね。ふるふると震えるでしょう。あれみたいなものですよ。あれは、とても危ういバランスの上に、あんな綺麗な形を保っているんです。ちょっと力を入れて掬ったら、とたんにくしゃくしゃに潰せてしまいそうなほどね」
知人は、くすくすと笑って言う。
「あれは、私も一度食べただけですけど、とても美味しいものですよね。賢人の紫様なんかは、『わたくしは、世界を切り取ることができるのですよ』なんてうそぶかれていますけど、この世界も、あんな風にして切り取って、掬って食べたら、あんな甘い味がするものなんでしょうか。なんてね。そんなことを、ときどき考えますけど」
「……はあ」
善人ではあるが、変わり者の知人がそう言って柔らかく笑うのを、慧音は、理解しがたく見つめていた覚えがある。
(プリン?)





(おや)
いつもは里まで出てこない友人の姿を急に発見して、慧音は珍しげに眉を上げた。
が、ちょうどいいな、とは内心思ったことだった。
藤原妹紅はなにをしているのか、なにやら呑気な様子で二,三人の子供らと話し込んでいる。
(さて)
普段、子供らの相手をしている割には、慧音は意外とこう言うところに割り込むのが不得手である。
子供らと接しているのが、個人としてでなく、教師としてだということもあった。
もともと、彼女はあまり子供の扱いが得意ではないが。
どうやら、様子を見るに、妹紅と子供らは仲良く遊んでいるようである。
年の差を考えるなら、遊んであげている、と称するべきだろうが。
「違うちがう。こうだよ、こう。ここをこう……」
「こうー?」
ぽい、ぽい、と、妹紅は、お手本に、粗末な玉を手の平で放る。
(お手玉ね……)
ふむ、と内心で思いつつ、慧音はすたすたと近寄っていった。
「あ。先生」
「こんにちはー」
子供らが挨拶してくる。
慧音は言った。
「こんにちは。あなたたち、ずいぶん早いようだけど、宿題は?」
楽しそうに遊んでいた子供らは、いっせいに言いよどんだ。
慧音は、半眼の目で腕組みして子供らを見た。
こうすると、線の細い見た目に似合わず、迫力が出る。
そのまま慧音は言った。
「あのね。遊ぶのもいいけど、やることをやってからよ。また頭突き喰らいたいのか?」
「はーい」
「あーあー」
子供らが不満そうな声を漏らす。
「ほら、帰った帰った。寄り道するんじゃないぞ」
ばらばらと子供らを散らせて、慧音はふうと息を漏らした。
横手から、友人が声をかけてくる。
暢気な様子で。
「先生も大変ね。ああ、忘れてた。やっほ。こんにちは、慧音」
「その挨拶はなんですか?」
「いつもより軽めにしてみたんだけど?」
ひょいひょいと手元のお手玉(五個を同時に回しているが)を繰りながら、妹紅は言ってきた。
慧音の非難がましい視線は自覚しているらしく、ちょっとやってから、お手玉をぱしぱしと取って、足もとの巾着袋にしまう。
慧音はその様子を見て言った。
「上手いんですね」
「まあね。昔取った杵柄というところかしら」
いつもの人をからかうような横顔ながらも、どことなく上機嫌そうである。
(けっこう単純か……)
慧音はちらりと思った。
「里に下りてくるなんて珍しいですね。でも、用事があったからちょうど善かった。今、時間いいですか?」
「あらあ。ずいぶんとまた直球ね。でも、そういうところは里の男にもてる秘訣なのかしら? けっこう多いらしいわよー。こう、貴女みたいなのに責め口調で言われると、ぞくぞくっとくるっていうのが」
なにか妙なからかい調子を投げてくる。
慧音はやや白い目になった。
「茶化さないでください」
釘を刺して言う。
友人は、悪びれた様子もない。
「はいはい。なによ。私に用事って、また厄介ごとなの? 相変わらず悩み多いわね、あなたも」
「貴女と違ってねとでも言えばいいんですか? まったく」
「あらら。きっつい。どうも、自由人でご免なさいね。まあ、自由っていうのはたいてい貧乏なものでもあるんだけど。いいことばかりではないのよ?」
「知っています」
慧音は半眼を返した。
堪えた様子もなく、友人は笑って言ってくる。
「忙しいのはいいけど、無理はほどほどにしなさいよ。あんまりなんでも背負い込むと、早くに潰れちゃったりしてね」
「ご忠言どうも。さすがに年長の方は言うことが違いますね」
すたすたと、慧音は歩きだした。
「あれ? ちょっと。話があるんじゃないの?」
「いえ、どうやら忙しそうだからやっぱりいいですよ。また今度厄介ごとがあったら宜しくお願いしますから、あなたはどうぞ、遠慮無く楽しい自由を謳歌していらっしゃい」
「おいおい、なによ――ちょっとぉ。理由も無しにつんけんは止めて頂戴よ。ね。悩みがあるんならいつでも言ってくれって言ってるじゃない」
友人は、慌てて後を着いてきた。
慧音は歩みを止めない。
そっけなく言った。
「いいですよ別に。あなたを見ていると、真面目に考えこんでいるのが馬鹿らしくなる」
「何を怒ってんのよ……?」
「別に。私は常ににこにこ笑っているようでないと、怒っていることになるんですか? 別に憤っているわけではないですよ。それより妹紅、さっきの話なんですけど」
「――ああ分かった分かった。聞くわよ……」
歩調を合わせながら、妹紅は辟易気味に言った。
慧音は、まだちょっとつんとしたまま、ちら、と横目に見た。
「ありがとう。まあ、立ち話もなんですから、どこか座りましょう。喉は渇いてます?」
「ん? なに。奢ってくれるの?」
すぐに軽く言ってくる。
慧音はまたちくりと意地悪げになった。
「別に、奢るに否やはありませんけど、私の財布は口が堅いから、そういう傲ったことを言うと出るものも出なくなりますよ」
「ああはいはい。分かったわよ。あーあー喉が渇いたなあ。慧音はとっても優しいなあ」
「――よろしい」
慧音は、ちょっと真面目ぶって言った。
それからくすり、とこっそり口元を緩めて笑った。
せっかくだからプリンでも奢ってやるとしよう。
コメント



1.名前がない程度の能力削除
ふむ。
2.名前が無い程度の能力削除
ぬぅ。
3.名前が無い程度の能力削除
うぬぅ。
4.名前が無い程度の能力削除
うにゅ。
5.名前が無い程度の能力削除
ぷるん。
6.名前が無い程度の能力削除
けどけど多いのが気になる
7.名前が無い程度の能力削除
↑コメの流れにクソ吹いたwww
8.名前が無い程度の能力削除
↑作品よりコメかwww
9.奇声を発する程度の能力削除
ぷるんぷるん。(最近食べてない…
10.名前が無い程度の能力削除
プリンを潰して食うのも良いかも知れない
11.無言坂削除
>ぷるん。

ぷりん。
12.名前が無い程度の能力削除
>ぷりん。

ぷくりん。
13.名前が無い程度の能力削除
>ぷくりん。

ぷぷりん。
14.名前が無い程度の能力削除
○○○○ぷる~んぷるん!
15.名前が無い程度の能力削除
すぷーんでつつけば、ふるえる
16.ずわいがに削除
>ぷぷりん。

ぷるりん。
17.名前が無い程度の能力削除
人妖入り混じる人里の現状を憂いてるようなけーね先生と、人里のあちこちで、馴染んだ姿で顔を出している妖怪たち。
幻想郷の在り方も変わりつつあるのかもしれない、ということを考えさせられました。
小説版準拠っぽい慧音と妹紅の口調や関係が良い。