冬の命蓮寺、ナズーリンはとてつもなく暇だった。
もちろん寅丸星の監視は怠らない。
しかしその星が、だ。
「スゥ、スゥー……」
絶賛お昼寝中なのである。
ここ数日曇り空が続き、今日久しぶりに暖かい日差しを浴びることができたからなのか、昼食の後からずっと呆けていた。
片付けの最中にもお盆をミラクルなドジで粉砕するほどだったため、聖白蓮にも少し眠るように言われたのだが。
「い、いえっ!毘沙門天の弟子にゃ、なるもの昼寝などぐー……」
否定から睡魔に敗退するまで刹那すらなかったのではないか。
あの時周囲にいた人妖全員がおそらくそう思っただろう。
その後、聖がお姫様抱っこで星の寝室まで運んできた。
「神の代理がお姫様抱っこ……これは報告するべきなのかな」
ナズーリンの滑車入りの頭脳がフル回転し、シミュレートが開始される。
「なにっ聖が星を抱っこだと!?」
「はい、さらに乳房がいい枕になったようで幸せそうでした」
「ね、妬ましい!もっと詳細に報告せい!」
シミュレート終了。
(あんな神様滅びた方がいいな)
あの上司は一体どっちが羨ましかったのか。
(って、バカかい私は。何を真面目に考えているんだ。こんな些細なこと報告するに値しないだろう……)
(えへへ、ひじりぃ~……)
聖の腕のなかで幸せそうにしている星の顔がフラッシュバック。
「いや、これはこれで毘沙門天の威厳の問題があるし、報告しなきゃならないな。うん、断じて羨ましくなんかないっ!」
「ん~ナズ~?」
「ご、ご主人?起こしちゃったかい?」
「ぐー……」
(せ、セーフだったみたいだね)
まだこのポエポエ虎は夢の中のようだ。
(ん、虎……?)
寅丸星は虎の妖怪らしい。
らしい、というのは本人の口から正体を確かめたことがなく、星自身、立場の問題もあるのだろうが滅多に神の代理としての姿を崩さないからだ。
(まあ、だいぶ人妖の壁も薄くなってきたとはいえ、毘沙門天の代理が妖怪なんて、大っぴらには宣言できないだろうね)
聖が封じられたときの二の舞になりかねない。
「ふむ」
星の顔をよく観察してみる。
「にゅぅ……」
「うっ」
急に鼻のあたりがツーンとして思わず患部を抑える。
患部で止まってすぐ溶ける、もとい患部で止めてすぐ戻す。
(『にゅぅ』ってなんだい『にゅぅ』って!君は猫科だが一応食物連鎖の上位にいるんじゃないのか!?)
気を取り直して観察続行。
ただし、鼻を抑えながらなので、端から見れば滑稽なことこの上ないが、好奇心に捕らわれたナズーリンは気づかない。
「顔は…ひげはないし鼻も人間と寸分変わらないな」
頭の上に目線が移動させる。
正体を隠している以上当然といえば当然だが耳もない。
「後は…尾か」
星は仰向けに寝転がっている。
(隙間に、入るかな…?)
腰と布団の隙間に手を差し込んでみる。
「ひゃぅ!」
「うお!?」
(ヤバい、今度こそアウト!?)
「もう、毘沙門天様ったら……ぐぅ」
(ちょっと待って。毘沙門天様ちょっと待ってください)
セクハラ反対。
(いや、私も同罪だろうか……同性だからセーフだろう)
※同性でも犯罪です。
隙間の中の手を動かしてみる。
「ん……」
段々星の顔と声が艶っぽくなってきたので手早く確認を終えて、隙間から手を抜く。
「尻尾もなし…」
星の変化は完璧なようだ。
大抵の人形の妖怪は集中が切れたり疲労がたまったりすると正体の欠片が飛び出たりする。
例えば耳や尻尾などだが、ナズーリンのように正体を隠す必要がなければ普段からそういった欠片を出しているものもいる。
(ぬえのイタズラに驚いたりしてもこのまま……見習うべきなのかもしれないな)
少し報告するドジの数を減らしてあげてもいいかもしれないな、と思っていると、星の手が目に止まる。
「……」
爪も全く伸びていない。
特徴的な縞柄の毛も当然ない。
それどころかすべすべで柔らかくて、触っていて気持ちいいくらいだ。
「……ゴクリ」
(なんだか、すごく美味しそうに見えるんだが……これは、アレか。妖怪の性なのか。)
ナズーリンに今すぐこの指をくわえなければならない、という奇妙な義務感が芽生えた。
「あ、あー……」
「な、ナズーリン?」
「あー……」
星の目が開いていた。
ナズーリンの頭脳が再び厄神も驚きの高速回転をはじめる。
「えーと、何やってるんですか?」
「……あ、あーあははははは」
冷静に自分の状況を確認する。
星の手を持ち上げて、口を開ける自分。
こういうときはどうするべきなのか。
(……とりあえず)
「はむっ」
「きゃん!?な、ナズーリン何を……あ、や、チュパチュパしないで……」
廊下から新たな気配が出現する。
「あら?寅丸様、起きた、の……?」
聖白蓮だ。
滑車が急ブレーキをかける。
「い、いや聖白蓮……これには理由があってだね。いや、本当にご主人が虎なのか確認をだね……」
「ナズちゃん、話をそれだけかしら?」
「うん」
次の瞬間、ナズーリンが見たのは。
「日中から動けない上司に不埒な行為、断じて許しがたい!」
聖の身のこなしと。
「いざぁっ!」
(ああ、ご主人の正体は、こうすれば見られるのか……)
怯える星の虎耳と。
「南無さぁん!!」
冬の冷たくも温かい太陽だった。
もちろん寅丸星の監視は怠らない。
しかしその星が、だ。
「スゥ、スゥー……」
絶賛お昼寝中なのである。
ここ数日曇り空が続き、今日久しぶりに暖かい日差しを浴びることができたからなのか、昼食の後からずっと呆けていた。
片付けの最中にもお盆をミラクルなドジで粉砕するほどだったため、聖白蓮にも少し眠るように言われたのだが。
「い、いえっ!毘沙門天の弟子にゃ、なるもの昼寝などぐー……」
否定から睡魔に敗退するまで刹那すらなかったのではないか。
あの時周囲にいた人妖全員がおそらくそう思っただろう。
その後、聖がお姫様抱っこで星の寝室まで運んできた。
「神の代理がお姫様抱っこ……これは報告するべきなのかな」
ナズーリンの滑車入りの頭脳がフル回転し、シミュレートが開始される。
「なにっ聖が星を抱っこだと!?」
「はい、さらに乳房がいい枕になったようで幸せそうでした」
「ね、妬ましい!もっと詳細に報告せい!」
シミュレート終了。
(あんな神様滅びた方がいいな)
あの上司は一体どっちが羨ましかったのか。
(って、バカかい私は。何を真面目に考えているんだ。こんな些細なこと報告するに値しないだろう……)
(えへへ、ひじりぃ~……)
聖の腕のなかで幸せそうにしている星の顔がフラッシュバック。
「いや、これはこれで毘沙門天の威厳の問題があるし、報告しなきゃならないな。うん、断じて羨ましくなんかないっ!」
「ん~ナズ~?」
「ご、ご主人?起こしちゃったかい?」
「ぐー……」
(せ、セーフだったみたいだね)
まだこのポエポエ虎は夢の中のようだ。
(ん、虎……?)
寅丸星は虎の妖怪らしい。
らしい、というのは本人の口から正体を確かめたことがなく、星自身、立場の問題もあるのだろうが滅多に神の代理としての姿を崩さないからだ。
(まあ、だいぶ人妖の壁も薄くなってきたとはいえ、毘沙門天の代理が妖怪なんて、大っぴらには宣言できないだろうね)
聖が封じられたときの二の舞になりかねない。
「ふむ」
星の顔をよく観察してみる。
「にゅぅ……」
「うっ」
急に鼻のあたりがツーンとして思わず患部を抑える。
患部で止まってすぐ溶ける、もとい患部で止めてすぐ戻す。
(『にゅぅ』ってなんだい『にゅぅ』って!君は猫科だが一応食物連鎖の上位にいるんじゃないのか!?)
気を取り直して観察続行。
ただし、鼻を抑えながらなので、端から見れば滑稽なことこの上ないが、好奇心に捕らわれたナズーリンは気づかない。
「顔は…ひげはないし鼻も人間と寸分変わらないな」
頭の上に目線が移動させる。
正体を隠している以上当然といえば当然だが耳もない。
「後は…尾か」
星は仰向けに寝転がっている。
(隙間に、入るかな…?)
腰と布団の隙間に手を差し込んでみる。
「ひゃぅ!」
「うお!?」
(ヤバい、今度こそアウト!?)
「もう、毘沙門天様ったら……ぐぅ」
(ちょっと待って。毘沙門天様ちょっと待ってください)
セクハラ反対。
(いや、私も同罪だろうか……同性だからセーフだろう)
※同性でも犯罪です。
隙間の中の手を動かしてみる。
「ん……」
段々星の顔と声が艶っぽくなってきたので手早く確認を終えて、隙間から手を抜く。
「尻尾もなし…」
星の変化は完璧なようだ。
大抵の人形の妖怪は集中が切れたり疲労がたまったりすると正体の欠片が飛び出たりする。
例えば耳や尻尾などだが、ナズーリンのように正体を隠す必要がなければ普段からそういった欠片を出しているものもいる。
(ぬえのイタズラに驚いたりしてもこのまま……見習うべきなのかもしれないな)
少し報告するドジの数を減らしてあげてもいいかもしれないな、と思っていると、星の手が目に止まる。
「……」
爪も全く伸びていない。
特徴的な縞柄の毛も当然ない。
それどころかすべすべで柔らかくて、触っていて気持ちいいくらいだ。
「……ゴクリ」
(なんだか、すごく美味しそうに見えるんだが……これは、アレか。妖怪の性なのか。)
ナズーリンに今すぐこの指をくわえなければならない、という奇妙な義務感が芽生えた。
「あ、あー……」
「な、ナズーリン?」
「あー……」
星の目が開いていた。
ナズーリンの頭脳が再び厄神も驚きの高速回転をはじめる。
「えーと、何やってるんですか?」
「……あ、あーあははははは」
冷静に自分の状況を確認する。
星の手を持ち上げて、口を開ける自分。
こういうときはどうするべきなのか。
(……とりあえず)
「はむっ」
「きゃん!?な、ナズーリン何を……あ、や、チュパチュパしないで……」
廊下から新たな気配が出現する。
「あら?寅丸様、起きた、の……?」
聖白蓮だ。
滑車が急ブレーキをかける。
「い、いや聖白蓮……これには理由があってだね。いや、本当にご主人が虎なのか確認をだね……」
「ナズちゃん、話をそれだけかしら?」
「うん」
次の瞬間、ナズーリンが見たのは。
「日中から動けない上司に不埒な行為、断じて許しがたい!」
聖の身のこなしと。
「いざぁっ!」
(ああ、ご主人の正体は、こうすれば見られるのか……)
怯える星の虎耳と。
「南無さぁん!!」
冬の冷たくも温かい太陽だった。
しかしこの寅、可愛すぎだろ……
「もう、毘沙門天様ったら……ぐぅ」
おいちょっとそこに座れ毘沙門天。違う!正座に決まってんだろォ!!
でも可愛いのはナゼダwww
今更常識人を気取ってんのが腹立つwwww